2人のミツと、1人のパニック(4)
あれから数日後。
深月と白沢が暮らす自宅ラボには、ようやく落ち着いた空気が戻りつつあった。
とはいえ、あの「ものまね騒動」のダメージは、白沢にとって深刻だったらしい。
リビングでは、深月がソファに座りながら資料をめくり、
白沢は、その隣でやたらとソワソワしていた。
「……なぁ、ミツ」
白沢が控えめに声をかける。
「ん?」
深月は顔を上げた。
白沢は、じっと深月を見つめたかと思うと――
勢いよく立ち上がった。
「俺、ちゃんとミツ本人やて確認してからしか、もう甘えへんからな!!」
と、なぜか宣言した。
「……え、なにその謎ルール」
深月はあきれた顔で、ペラッと資料をめくる。
白沢は真剣な顔だ。
「前みたいに、別人にベタベタしたら、俺もう立ち直られへん……!」
「いや、それ来人もだいぶダメージ受けてるから」
深月が突っ込んだ直後――
ピンポーン。
「……あっ」
玄関チャイムが鳴った。
白沢がビクッと肩を揺らす。
「だ、だだだ、誰やっ……」
深月はのんびり立ち上がり、インターホンを確認する。
「来人だってよ」
その瞬間、白沢の顔から血の気が引いた。
「ら、ら、来人……っ」
「……おまえ、顔合わせられないんだろ?」
「無理や!!無理!!顔見たら土下座してまう!!」
パニックになりながら、白沢はラボの奥の部屋へ逃げ込もうとする。
だが、深月はすかさず白沢の腕をつかんだ。
「だーめ。ちゃんと謝れ」
「むりぃぃぃ……!」
白沢はじたばたと抵抗したが、
そこへ玄関ドアが開いて、来人がひょっこり顔を出した。
「おーい。兄貴、大知さん、生きてるか?」
「ひゃあっ!!」
白沢は情けない悲鳴をあげて、ソファの影に隠れた。
ちらりと覗く耳がぴんと立っている。
「……いや、普通にバレてるけど」
来人は呆れた顔で近づいてくる。
「別に俺、怒ってないから。てか、もうトラウマだから。逆に触れたくないから」
「ご、ごめん……ホンマごめん……!」
白沢は土下座モードに入りそうになりながら、ひたすらぺこぺこする。
来人は溜め息をつきながら、
「兄貴、あんま変なモン作るなよな」とだけ言って、早々に用件を済ませることにした。
その背中を見送りながら、白沢は安堵のため息をつく。
「……生き延びた……」
「大げさだな」
深月は呆れながらも、白沢の臙脂色の髪をくしゃりと撫でた。
白沢は、しばらく黙った後、小さく言った。
「……ホンマのミツには、ちゃんと、甘えてええんやんな?」
「もちろんだろ」
深月は小さく笑いながら、白沢を引き寄せた。
「俺以外に甘えたら、許さねぇけどな」
「……っ!」
耳まで真っ赤にしながら、白沢は深月の胸に顔を埋めた。
リビングには、甘い空気と、わずかに香るサガリバナの匂い。
2人だけの静かな時間が、そっと流れていった。




