2人のミツと、1人のパニック(2)
深月が沖縄に旅立ってから、数時間後――。
リビングでは、白沢がソファにぐでっと寝転びながら、テレビをぼんやり眺めていた。
そのすぐ向かいには、深月になりきった来人が、ぎこちなく座っている。
(くそ……この状況、無理ゲーすぎる……!)
内心で悲鳴をあげながら、来人は努めて平静を装う。
白沢にバレたら終わりだ。いや、バレたら深月に何されるかわかったもんじゃない。
「ミツー。喉乾いたー」
ぐでぇっとしたまま、白沢が甘えるように声を上げた。
(な、なんだこの距離感!!)
来人は軽くパニックになりながらも、精一杯"深月っぽい"無愛想な声を作る。
「……水、そこにあんだろ」
「えー、取ってよ~」
(無理だろッ!!)
来人は叫び出したい衝動を必死に押さえ、ロボットのような動きで冷蔵庫からペットボトルを持ってくる。
白沢はそれを受け取ると、にこにこと笑った。
「おおきに。……ミツ、最近やさしいな」
「………そうか?」
(あああああああああああああああ!!!)
心の中で頭を抱えながら、来人は汗をだらだら流していた。
***
数十分後。
「ミツ、一緒にゲームやろー」
「い、いや、俺、忙しいし……」
「ちょっとだけでええやん~」
白沢は甘ったれた声でぐいぐい迫ってくる。
ついには、ソファの隣にぴとっと体をくっつけてきた。
(ちょ……近い近い近い!!)
耳まで真っ赤になりながら、来人は震えた声を絞り出す。
「わ、わかったから、離れろ……!」
「なんやねん、照れてんの?」
(無理です無理です無理です!!!)
白沢は悪びれもせず、来人(深月Ver.)にぺたっと寄りかかった。
来人は頭から湯気が出そうになりながら、ゲームのコントローラーを無理やり渡して、誤魔化そうとする。
だが、運命は容赦なかった。
ふと、白沢がじっと来人の顔を見つめたのだ。
「なぁ、ミツ……なんか、今日、ちょっと違う気ぃすんねんけど」
――――終わった。
来人は、心の中で崩れ落ちた。
(バレた……ッッッ!!!)
絶望のどん底に叩き落とされながら、来人は必死に言い訳を捻り出す。
「……気のせいだろ、今日、ちょっと寝不足なだけだ」
「うーん……」
白沢は首をかしげたまま、なおもじっと見てくる。
来人は、これ以上は無理だと悟った。
だがその時――
「……まぁ、ミツならええか」
と、白沢はふにゃりと笑って、またぴとっと来人に寄りかかった。
(え、そこ信じるの!?)
心臓が止まりかけた来人をよそに、白沢は幸せそうな顔でくっつき続ける。
こうして、ギリギリのバレ未遂劇は、なんとか幕を閉じたのだった。
……少なくとも、この夜は。




