ふたりとふたり、そしてこれから(5)
ぴたりと額を合わせたまま、しばらく沈黙が落ちた。
白沢の心臓の音がうるさいほど響いている。
深月も、それを聞いているかのように、静かに白沢を見つめていた。
「……大知」
もう一度、深月が低く名前を呼ぶ。
その声音は、さっきまでとは違って、どこか真剣だった。
「最初はさ、おまえがうさ耳になったのも、面白がってたとこあった。……からかったり、いじったりして、楽しんでた」
白沢は、身動きひとつできずに聞いていた。
「でも、今は……もう違う」
そっと、白沢の頬に指が触れる。
その優しさに、白沢はびくりと震えた。
「おまえのこと、ただの実験相手だなんて思えねぇ」
深月の手が、迷うように、でもしっかりと白沢の頬を包む。
「……大知の全部が、俺にとって、大事になっちまった」
白沢の目が、驚きに見開かれた。
胸がぎゅうっと締め付けられる。
「……ミツ」
かすれた声で名前を呼ぶと、深月は少しだけ困ったように笑った。
「俺、こういうの慣れてねぇから……ちゃんと伝わってるかわかんねぇけど」
「……伝わっとるわ」
白沢が絞り出すようにそう言った。
そして、そっと、自分から深月の胸に顔をうずめた。
深月は驚いたが、すぐに白沢の背中に腕を回して、そっと抱きしめ返す。
「……ほんま、しゃあないなぁ、おまえは」
白沢は照れ隠しみたいにそう呟くと、深月のシャツをぎゅっと掴んだ。
深月は、白沢の髪を優しく撫でながら、静かに言った。
「……もう絶対、ひとりになんてさせねぇから」
その言葉に、白沢の胸の奥が、じんわりと温かくなる。
静かな夜、ラボの隅っこでふたりきり。
世界で一番、居心地のいい場所だった。
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白沢は、顔を深月の胸元に押し付けたまま、ぼそぼそと何かを呟いていた。
けれど、その声はシャツ越しに吸い込まれて、よく聞こえない。
「ん? 聞こえねぇ」
わざと耳を寄せる深月に、白沢はたまらず顔を上げた。
うさ耳までほんのりピンクに染まっている。
「……その、ミツと……もっと、ちゃんと……」
「もっと、ちゃんと?」
深月は意地悪く聞き返した。
にやりと、ほんのわずか口の端を上げる。
「……っ、だからっ……こ、恋人らしいこと、したい、っちゅー話や!」
白沢は叫ぶように言って、すぐさま目を逸らした。
恥ずかしさに耳まで熱くなっているのが、丸わかりだった。
深月はそんな白沢を見下ろして、ゆっくりと笑った。
「……かわいすぎかよ」
「か、かわ……っ、誰が……!」
「いや、間違いなく、かわいい。抵抗すんな」
深月はさらりと言いながら、白沢の顎を指で持ち上げた。
無理やり目を合わせさせる。
「なぁ、大知。俺に、まかせとけよ」
囁く声は低く、甘くて、逃げ場を塞ぐみたいだった。
白沢は情けないくらい一瞬で目を泳がせ、それでもなんとか強がろうと口を開いた。
「……ほ、ほんま、おまえ、ずるい……」
「ん? 聞こえねぇ」
「っ、ずるい言うとるやろ!」
深月は笑いながら、白沢の後頭部に手を回し、軽く引き寄せた。
唇が、もうすぐ触れそうな距離。
「うるせぇ。しゃべんな。キスすんぞ」
「っ……!」
白沢は声も出せず、ただ目を見開く。
心臓がうるさすぎて、耳までガンガン響いている。
そして——
ふっと、優しく触れるくらいのキス。
深月の手が、逃げないように白沢を支えていた。
「……な?」
唇が離れると、深月はいたずらっぽく微笑んだ。
「もう、俺ら、ちゃんとしたよな?」
白沢は真っ赤な顔で、小さく小さく頷いた。
「……おう」
情けないくらい震える声で。
それでも、深月はそんな白沢を、何より愛おしそうに見つめていた。




