――そして、うさぎ男が爆誕した。(3)
夜――。
深月の家のリビングは、ソファとテーブルの上に置かれた食べかけのピザ、それにビール缶が散らばるという、完全なダメ人間空間と化していた。
「……やっぱビールはうまいな」
深月はソファにだらんと座り、缶を軽く振る。
「せやな。けど、こんなダラダラした夜、久しぶりやわ……」
白沢も隣に座って、同じくビールを煽る。
耳は、なんとか引っ込んでる。
今んとこ、落ち着いてる。
――ただ、だ。
(……妙に、心細い……)
普段、仕事場ではどっしりしてる白沢だが、なぜか今、胸の奥が妙にざわついていた。
気づけば、ちら、と隣の深月を見てしまう。
「……」
深月は無防備に眠そうな目をして、缶を手でくるくる回している。
――なんやろ。
こいつ、昔からこんな奴やったっけ?
白沢はふいに、そっと深月に寄りかかりたくなった。
(……俺、どうかしてるわ)
頭ではそう思っても、気持ちは逆らえない。
ふらりと体が傾き、気づけば、深月の肩に頭を預けていた。
「……おい、大知?」
「……ちょっと、だけや。……ほっといてくれ」
低くくぐもった声で言う。
耳が、ぴょこっと一瞬出たけど、もう気にしてられへん。
深月は一瞬驚いた顔をしたあと、ふっと笑った。
「……しょうがねぇな」
ぽんぽん、と白沢の頭を軽く叩く。
それだけで、妙に安心する。
心臓のバクバクが、少し落ち着いた。
(……なんでやろ。……こいつの匂い、落ち着く)
白沢は目を閉じて、小さく息をついた。
そのまま、ウトウトと意識が遠のく。
「……やれやれ。まさか大知がこんな甘えん坊だったとはな」
深月のぼやきも、もう聞こえなかった。
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翌朝。
「――おい、大知、起きろ。朝だぞ」
「ん、んぁ……」
寝ぼけた白沢が顔を上げると、深月の顔がすぐ目の前にあった。
「うおっ……!?」
思わず飛び退き、ソファからずり落ちる。
「おま……! なんで顔近いねん!」
「お前が俺に抱きついてきたんだろーが。重かったわ」
深月はゲラゲラ笑いながら言った。
「し、知らんわっ!」
真っ赤になって怒鳴る白沢。
耳がぴょこぴょこ揺れている。
「ほら、朝飯作ってやるからさっさと顔洗ってこい」
「……わ、わかったわ!」
言われるまま、白沢はばたばたと洗面所に駆け込んでいった。
深月は、その背中を見送りながら、缶コーヒーを一口飲む。
「……まぁ。これはこれで、悪くねぇか」
ぽつりと、誰にも聞こえない声で呟いた。
そして今日もまた、二人のにぎやかな一日が始まる――。




