――そして、うさぎ男が爆誕した。(2)
白沢大知は、ソファに沈みながら頭を抱えていた。
「……信じられへん……」
頭の上では、ぴょこん、ぴょこんと勝手に白いうさ耳が跳ねている。
さっきからずっとだ。
目の前のダイニングテーブルでは、深月が優雅にコーヒーをすすっていた。
「まぁまぁ、慣れればどうってことないって」
「いやどう考えても異常事態やろが!」
白沢はテーブルをバンッと叩く。
「お前な、精神科医として言わせてもらうけどな、これ普通にアウトやぞ!? いろんな意味で!」
「だーいじょーぶだって。大知、心身ともに健康体だし?」
「耳生えてんねんぞ!」
「個性だろ、個性」
深月は肩をすくめて笑う。
その余裕っぷりが腹立たしくて、白沢はぎりぎりと歯を食いしばった。
「……もうええ。帰る」
スッと立ち上がり、バッグを掴む。
しかし、その瞬間――
「行ってもいいけど、帰った先で耳ぴょこぴょこ出してたら即通報案件じゃね?」
深月が、コーヒーカップ片手にさらりと言った。
白沢の足が止まる。
「…………ッ!」
ぐっと拳を握るが、事実、何の対策もない今の状態では外に出るわけにもいかない。
耳が出たら終わりだ。
しかもこの耳、やたらと気分に左右される。
今だって、イライラしてるせいで妙にピクピク動きまくっている。
「……せやからってな……」
しゅんと肩を落とす白沢に、深月は悪びれもなく言った。
「まあまあ。焦んなって、大知。しばらくここに住めよ。ほら、来人の部屋も空いてるしな」
「勝手に決めんなや!」
怒鳴る白沢。だが、その耳はぴょこぴょこと激しく揺れて、まるで怒っている小動物のようだ。
深月は、コーヒーを置きながら立ち上がると、ふらっと白沢に近づき――
「ま、これも何かの縁ってやつだ」
ポン、と頭に手を乗せた。
「……!!」
白沢はびくりと体を震わせた。
耳が、ぴょこんとさらに跳ねた。
(ヤバい……この触られ方……なんか、変なスイッチ入る……!)
思わず耳を押さえながら、白沢はジリジリと後ずさる。
「触んな!! このアホ!!」
「はいはい、かわいいかわいい」
「誰がや!!!!!」
ソファのクッションを投げつけたが、深月はすいっと身をかわして、にやりと笑った。
――こうして、天才科学者(自称)×うさぎ耳精神科医の、妙に騒がしい新たな同居生活が始まったのだった。




