心に灯るもの(4)
窓の外が、うっすら明るくなってた。
秦の腕に抱き込まれたまま、俺はぬくぬく丸まってた。
無意識に耳がぴくぴく動いて、喉の奥で小さく音が鳴る。
「……ふぁ……」
気の抜けた声が漏れる。
寝返りを打とうとしたら、シーツの中で秦の腕がぎゅっと締まった。
「……朝だぞ、来人」
低く甘い声が、耳元に落ちる。
それだけで、また体がじわっと熱くなる。
「んー……もうちょい……」
秦の胸に顔を押し付けて、もぞもぞ。
その時、秦が俺の頭を撫でて――ふっと手を止めた。
「……猫耳、戻ってねぇぞ」
「……へ?」
半分寝ぼけたまま、自分の頭を探った。
――ぴこ。
指先に、やたらリアルな感触。
「うわあああああッッ!!」
ベッドの上で飛び上がった。
「や、やっべ、今日仕事だろ……っ!」
「落ち着けって」
秦が笑いながら、裸の俺を引き戻してくる。
「まず服着ろ。な?」
「服どころじゃねーよ、薬だ薬!!」
真っ赤な顔で、シーツ巻いたまま部屋中をバタバタ。
マジで、シリアスに焦ってた。
「これか?」
秦がベッド脇の床から、小瓶を拾い上げた。
「それそれそれーーっ!!」
すがるように瓶を受け取って、ガチャガチャ震える手で薬を取り出して、一気に飲み込む。
「……ごく、ごく、ごく……っ」
頼む、間に合え――
必死で祈りながら、耳に意識を集中させた。
数秒後、ぴこっと立ってた耳が、すっと消える。
「……っ、ふぅぅうううう……セーフ……」
力が抜けて、その場にぺたんと座り込んだ。
秦が、くしゃっと頭を撫でてきた。
「よし、がんばった」
「頑張ったどころじゃねーよ……」
情けない声出しながら、慌ててスーツに手を伸ばす。
時間ねぇ。ヤバい。焦る。
シャツ着る途中でボタンかけ間違えるし、ネクタイ結ぼうとして、うまくいかなくて、パニック寸前。
「貸せ」
秦がスッと近づいてきて、俺のネクタイを奪った。
慣れた手つきで、きゅっと結んでくれる。
「ほら、できた」
至近距離で目が合う。
首元を整えてくれた指先の温度。
さっきまで抱き合ってた感触が、フラッシュバックしてきて――
顔が、また熱くなる。
秦は、こういうとこが、ずるい。
「……先行ってろ。すぐ追っかける」
「おう」
秦はコートを羽織って、玄関へ向かう。
ドアを開ける直前、ちらっと俺を振り返った。
「遅れんなよ。会社で待ってる」
それだけ言い残して、颯爽と出てった。
ドアの向こうに消えた背中を見送りながら、胸の奥が、じんわり熱くなる。
(……待ってる、って)
たった一言なのに。
こんなに嬉しいとか、ズルいだろ。
(……帰ったら、またぎゅってしてもらいてぇな)
そんなこと考えながら、真っ赤な顔のまま、支度を整えた。
カバンをひっかけて、バタバタと玄関を飛び出す。
まだ耳の奥が、じんわり熱いまま。
あいつに会うだけで、また耳がぴょこっと出そうな、そんな感覚抱えながら――




