第2節 6章 争乱編Ⅶ
ゲンジ達一同は応急手当ての為、その場に留まり、兵士たちの手当てをして回るエレーナを手伝いながら、シャルロットやアンリエッタと共に次の作戦を考えていた。
「第一陣は打ったけれど、思った以上にこちらの損耗が激しいわ。
山脈一帯を取れたのは大きいし、ひとまずはここまでで本国に引き返しても良いんじゃないの?」
ペトラがそう伝えると、シャルロットはひとまず頷く
しかし、その返答は予想とは違った形で返ってきた。
「ええ、私もそう思ったけれど、今回はここまでよ。」
その言葉にペトラや芽亜利だけでなく、エイレーネ陣営の貴族達からどよめきが生まれる。
「気付いたかしら。そこの貴方、軍刀を出して。」
「え?は、はい。」
シャルロットは警備に当たっていたシザーベントの兵士の軍刀を机の上に置かせるとそれを引き抜く。
「これが、シザーベントで支給している剣よ。さっき私たちが相手にしていたのはもっと厚みがあって重かった。要は全くの別物ね。」
そして再びどよめきが起きる。
「どういう訳か、彼らは最前線となりうるだけの戦力になる武装された拠点を捨て、彼らは前に出た。事もあろうに、我々パラトスを攻略しようとした時と同じように、魔物を使って...」
再びどよめきが起こる
「この戦いは、世界に覗き見られていたということですね。」
多くの兵達を救護する間に、日はすっかり暮れ、一行はカルマッタの丘にて野営をすることになった。
すでに多くの時を経て、最初はエイレーネとウェインフリートの兵士たちもいがみ合いがなかったわけではないが、同じ死線をくぐり抜けた仲間として、火を囲むように円になり談笑に没頭していた。
その楽しげな会話の裏側、豪華なテントの中ではシャルロットが深妙な顔で椅子に座っていた。
「ウェインフリートとエイレーネが合い見えるなんてあり得ないのに...」
シャルロットが考えたいのは、先程までの戦いのことだった。
違う国の支援を得た兵士たちが立ちはだかり、事もあろうに新たに魔物を操る魔法使いを手に入れていた。
その後ろ盾たるや、並大抵の戦力ではない。
しかし、その思惑をシャルロットは掴むことができずにいた。
「だから!龍やんの魔法でもミノタウロスくらいだったら一発だって!」
「お前、本当にちゃんと見てたのか?あんなの無理だって。」
「いやー、でも魔法って凄いよな...シャルロットさん完全にヒロイン枠筆頭のクソ強姫騎士って感じで!!」
龍弥と正吾一行はミーシャのはからいで近くにある街に一旦身を置いていた。
これ以上シャルロットに負担をかけたくないという思惑だったのもあるが、ミーシャなりにゲンジという禁忌の魔法使いをできる限り隠蔽しようという計らいでもあった。
「でもさ!この酒場スッゲー異世界感あるよな!かー!ゲンジのやつ羨ましいぜ。」
「まぁ異世界だからな。でも、エイレーネ帝国に比べて、亜人種?が多い気がする.... 」
「ご注文はなんにするにゃ?」
「にゃ、ケモミミキタァ!!」
「え?」
「すまない、これで適当に見繕ってくれ。
葡萄酒じゃなくて水はいくらだ?」
「えっと、お客さんエイレーネの人なのかにゃ?」
「そうだ。」
注文を聞きにきた制服姿の獣人の女性はミーシャの雅な甲冑を見て嫌な顔を見せながら畏まった素振りをみせる。
「5人で銀貨45枚にゃ。」
ミーシャは一瞬、動きを止めるものの懐から一枚の黄金を取り出す。
「そうか、じゃあこれで。釣りはいらないぞ。」
獣人の女は机に乱雑に置かれたそのコインを取ると、厨房の方へと引っ込んでいった。
「正吾さん、ここではあまりその手の話をしない方がいいですよ。」
「ミーシャちゃん、もしかして。」
「足元を見られていますね。」
「なんでそんなこと...」
「まぁ、色々あるんですよ。仕方のないことです。」
鏡花は思った以上に理不尽に割り切っているミーシャを不可解に思うもののその落ち切った気持ちの前では、その理不尽さえも止まることはなかった。
それだけ、鏡花達の心には先程まで行われていた戦争が目に焼き付いていた。
魔法というものを使った凄まじい破壊。
普段は優しく接してくれている良き友人が生きていることは嬉しい。しかしそれ以上にあれだけ友人が豹変してしまう戦場への恐怖がそれぞれを支配していた。
やがて料理が運ばれてくるものの、一同はあまり手をつけることもなく、会話もあまり多くはなかった。
その中でも正吾は気に求めていないのか、龍弥と先程までの戦いを分析していた。
分析といっても、感想を述べていただけではあったが、自分たちの持つ戦力でどれだけ対抗できるのかを事細かに話していた。
「二人とも、やめにしないか。ここはシザーベント領民の地なのだぞ。国土の中で行われてる戦いの話題を耳に入れたいものなどいないであろう。
少しは場を弁えろ。命は、言葉にして語るほど安いものではない。」
二人は反省したのか、机に並べられたスープを黙って口にした。
「でもずるいっすよ、ゲンジはこんな生活を何日もしてきたなんて。あー、俺も冒険とかしたかったなー。」
「おい。」
龍弥は正吾を諭すものの、彼の口が閉じられることはない。
「でも覚えてるか?あのゲンジの隣にいた時の女の人たち。赤毛のショートの子と白髪の女の子!ムッチャクチャ可愛かったよな!」
「おいちょっと、正吾!」
龍弥の制止も躱し、正吾は言葉を紡ぐ
「あれ、俺ゲンゲンとどこであったんだっけ、そっか!パラトスだ!」
「いい加減にしろ!!!」
ミーシャは机を叩き上がる。
その右手は鞘を掴み、今にも正吾に斬りかかりそうな相貌で望んでいた。
「あんたは!自分のエゴでゲンゲンを殺したいかもしれない!でも、あいつは俺らの大事な友達だ!!
なんなんだよ!他人行儀で!
お前らが俺らのダチを殺そうとしてるくせに!!!」
「そうか。ならばお前はここで!」
しかし次の刹那、ミーシャの動きは完全に固まる。
その首元までに伸びた鞘の先端が引き抜こうとしていた腕の可動域を完全押し殺していたのだった。
雷紋が刻まれたその刻印が重厚感を露わにする。
「先に宿に戻ります。正吾、行こうぜ。」
龍弥は立ち尽くす正吾の腕を引っ張り階段を登っていくと、その静寂に包まれた酒場に少しずつ活気が戻ってき始める。
それでもミーシャだけはその静寂の世界が保たれたまま、少しずつ時間だけが過ぎていった。
「どうしたんだよ急に、わざわざあんな挑発すること。」
「龍やん、俺、俺悔しいよ。」
正吾の視界が歪み、声に波が生まれる
「俺は、本気でゲンゲンが羨ましかった。異世界だとか、ケモミミとか、ずるいって。
でもそんなんじゃない。
あいつはずっと今日みたいな地獄を生きてきたんだって...
でも、でも俺らは何にも助けてやれねぇ。あいつのために、なんもしてやれねぇ。」
途端、正吾の肩に勢いよく腕を回すと、驚きに大粒の涙が関止まる
「だから、俺が強くなるんだろ。
お前が技を考えて、和が教える。俺が戦う。それで俺らは最強!だろ?」
夜、アヴィルトツカでは数人の男達が向かい合っていた。
「いやぁ、痛快痛快。あのウェインフリートとエイレーネの軍を退けるとは。我ら連合小王国軍の力を思い知ったか!!」
「流石は猛将、ルーディア殿です。此度は助太刀感謝いたします。」
「何を言いますか、オクレイマン殿我らとて同じ連合小王国軍が一。
突然ですよ。」
二人は高らかに笑う最中、その鉄や石で囲まれた塀の外からは、3人の黒がその相貌を光らせていた。
さて、争乱編も終わりましたがこの回は戦闘戦闘でしたね。
龍弥君たちもとうとう免れなくなってきました。




