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悪夢の夜に  作者: 赤さん
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第2節 5章 争乱の序編Ⅵ

ある日、篠原は聞いてしまった闇の魔法使いを殺すために剣聖という存在が召集されたと。

闇の魔法使い。そう聞くだけで篠原の脳裏に浮かぶのは1人の生徒の姿だった。

あの日、彼が連れ出されてから変わってしまった少年の面影。

その姿は左腕のみという言葉にもならない悲痛で残酷な姿で帰還を果たした。


しかし、そんな絶望の中少しの光が差し込んだ。

あくる日、生徒達もいない宮殿の中、1人魔法についての理解を深めようとしている中、1人の女性が声をかけてくる。


「ゲンジ様は生きているかもしれません。」


その格好はただのメイドだったが、見覚えがあった。

「貴方は...」


「レイラ。

さぁ早く、まもなく会談が始まります。近くのものは私が遠ざけておきますゆえ。」


そうして盗み聞き取ったゲンジの情報、

どんなに惨めでも構わない。自分の教え子を、保護者代理でも死なせるわけには行かない。


その信念だけが今の篠原を動かしていた。






この二人を追いかければ、ゲンジに辿り着けるかもしれない。


篠原は切れた口の端から流れる血を拭き取ると、駆け出した。








穏やかな昼下がり、鏡花と凛はミーシャのベットの横に座っていた。



「ごめんなさいね、何から何まで。」


「全然、いつもミーシャさん達にはお世話になってるから。」


頭に包帯を巻き、動きやすい格好でベットに腰掛けるミーシャの身の回りのことをこなしていた2人は、いつになく深妙な顔つきでベットの端に座っていた。



「ミーシャちゃん、源二君のこと、知ってるんでしょ?」


「だからその件は何度も、」


「誤魔化さないで。」


「ねぇミーシャちゃん、本当のことを教えて?」


しばらくの沈黙が訪れる。


突然ミーシャに問い詰めた2人は、長い葛藤の末の行動だった。


片翼のヴァンシー、そう呼ばれる存在が突然シャルロットの口から飛び出した時、それが源二でなかったとしても、それが何か関係していることを察した2人はずっとそのことについて考えていた。


それでも、突然の如く答えは出てこない。

しかし、だからこそ鏡花と凛は自然と1人の人物にたどり着いた。

これまでずっとシャルロットの側で外の世界を見てきた人物。

シャルロットという、宮廷の中でも中枢を担う人物の側近とならばゲンジのことについて知ってるはずと思うのはむしろ当然のことだった。


鏡花と凛の視線がミーシャと交差する。


当然、ミーシャはこの手の類を一切伝えてはならないことをシャルロットに固く言われていた。

生まれてから、ミーシャはずっとシャルロットの側近として育ってきた。

彼女が母を亡くし、自分の心に影を閉し、固く閉じこもったままでも、寄り添った。


それ故に忠誠心は強い。彼女のためならば命なんて安いものだった。

しかし、彼女の心の奥底にある熱が生まれ始めていた。


なぜ、あの男がシャルロット様と肩を並べることを許される。

私は何十年と寄り添ってきた、彼女のことを1番に考えたのに、なぜやつが感謝されている。なぜシャルロット様はあんな男のために自らの立場を危険に晒してまで庇っているのか...



「まるで、恋する乙女のようだ。」


「え?」


「片翼のヴァンシーとはよく言ったものだ。ただの死に損ないの男女が。」


「ミーシャ...ちゃん?」


「忌まわしいことに奴は生きている。

だが、貴方達の望むような男はもういない。

私は忘れない。

教会派の人間をわずか1人残らず一掃し、一国を傾国に導いた悪魔...

今度、私にその背を見せたら貴方達との関係に関わらず、シャルロット様の意見を耳に入れることなく、私が殺す。」


「じゃあやっぱり...」


「ええ、奴は生きている。

でも、真の意味での志乃源二さんはもうこの世には存在しません。」


鏡花はその言葉を受け止めると、立ちあがる


「やっぱり、生きてるんだ...」


「いいえ、生きてないんでいない。彼はまた、いえ、何度でも私が殺す。」


その言葉と、相貌に宿る激情の前に鏡花と凛は凍りつく


「ダメだよ!きっと何か誤解してるんだよ!」


「貴方達には申し訳ないとは思っています。

でも、これは我々のケジメ。」


「意味わかんない、あんたらが勝手に読んでおいて、ケジメ?ケチつけて殺すなんて、あんたらの方がおかしいんだけど、意味わかんない。」


「凛、お前はこの苦しみがわからないのか、祖国の盟友を殺された屈辱を....

教会派とて、同じ国を守るものだった。

なのに彼は、それさえも葬り去った。

今やエイレーネは神に守られた国ではない。」


「神?ウケる。あんたらがいつまでも源二を追いかけ回してるから、仕返しされんのよ。

しつこいんだよ。」


「なっ...」


想像以上に靡かず、高圧的だったのかミーシャがたじろぐ。


しかし、佐伯が指摘したかったことはまとを得ていた。

突然召喚され、闇の魔法使いというだけで追いかけ回された少年はある日を境に自分を守る術を手に入れた。

当然、そこに襲い掛かれば抵抗されるのは想像に容易い。


「あんたらが源二を殺そうとするなら、源二だっけあんたらを殺すのは当然なんですけど。」


「貴方一体...」



「うちらの世界はそういう世界でもあるんだよ。

いまからみれば馬鹿ばっかみたいな戦いだけど、今ならわかる。

あんたに、源二君の何がわかる。」


その瞬間、ミーシャの思考が凍りつく。

今この少女は、憎むべき宿敵を庇ったのか。想像の端にもう庇わなかった根底が音を立てて崩れていくごとに、その矛先が次第に自分の心のうちへと向いていく。


「ならば、確かめるか。あの男が、善か、悪か。」


「いいよ。ね、鏡花。」


「え...でも、喧嘩は良くないよ!源二君ももちろんそんなことしないけど、私たちが喧嘩しちゃダメだよ!」


「そっか、じゃあ決まりだね。」


凛は軽く笑みを浮かべると、龍弥達を呼びにいくのか、部屋を後にする


鏡花はその姿を見送ると、布地を強く握り込み、歯が割れる勢いで噛み締めるミーシャの肩をさする。


「ミーシャちゃん、その、ごめんね。凛ちゃんも本心であんなこと言いたいわけじゃ...」


「わかってます。でも、私は彼を許せない...」


「でも、ミーシャちゃん。源二君とミーシャちゃんはきっとすれ違ってるだけだよ。お互いに話し合えば、ね?」


「とりあえず、約束はしました。彼は今シザーベントにいます。」


さて、いよいよ剣聖達に目を付けられてしまったゲンジでしたが、この章ではなにかゲンジ君の悲しさが伝わってきたような気がします。他人事のようですが、日々何かを失いながら生きているという感覚が人一倍強いからこそ、どことなくそう感じさせるのか。あるいは優しくできるのかもしれないですね。

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