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悪夢の夜に  作者: 赤さん
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第2節 5章 争乱の序編Ⅴ

源二がテントの外へ出るとそこには一面の星が広がっていた。

あたりは暗く静まり返り、夜の底の世界にいた。


ゲンジが芽亜利を一緒に湯浴みをしようなんて誘うことはない。

ゲンジの心境はそれだけ衰弱していたのだった。


今手の首のあたりが苦しいようなそんな錯覚に陥る。

一度目覚めてしまえば闇の魔法が自分を包み込み、深い黒のベールに自分が包まれる。

だからこそ平静を保っていたが、あの名状し難い怪物は今もゲンジの心の中に潜んでいることの証明だった。


「ゲンジ様?やっとその気になってくれたんですね、嬉しいですわ!」


しかしゲンジはこれっぽっちも反応することはなく、芽亜利に腕を組まれるがままだった。

この姿をペトラが見たらなんと思うだろうか、そんな他人を思いやる余裕さえ源二にはなかったのかもしれない。




芽亜利にいいように体を触られ、二人で広い浴槽に身を置く。

この施設はキャンプの中でも特に拘られており、入浴文化のある両国がシザーベントの人間も利用できるよう細かく建物が作り込まれており最近できたこともあって内装も華やかだった。

時間が深夜ということもあり特権的に個人での入浴をすることができた。


こんな細部に至る部分にまでこだわって造形された施設も全体として復興した時、その手柄は代表である自分が受け取ってしまうのだ、自分はこんな人を魅了するような美しいものは作ることができないと言うのに。

そんな自暴自棄な気持ちをお湯に流していると、芽亜利が正面に回り込む


「ゲンジ様、今日は辞めにいたしましょう。」


「芽亜利、遠慮しなくていいんだよ。俺と子供を作るのが夢なんでしょ。」



「ええ、ですが私は殿方を強姦する趣味はないですの。」


「やっぱ芽亜利は優しいよ。

みんな俺のことを気遣ってくれるのに、俺はそれに報えてるんだろうか。」


「ええ、少なくとも私は...」


「芽亜利は俺とペトラが一緒にいて辛くないの?」


「辛い?いいえ、懐の深いお方にはそれに相応しい女の数と相場が決まっておりますわ。」


「そっか...」


「ゲンジ様、先程のエレーナのことが気にかかっておいでですか?」


「まぁ、それもあるかな。」


「まだ、自分が死ねばいいと、そうお思いですか?」


「少しね...」


「貴方様を見ていると、昔の私をそのまま見ているように思いますわ。

今それを少しずつ、貴方を通して思い出せています。」


「ごめん、辛いことなのに。」


「いいえ、私にとっては幸せですわ。それがどんなに辛い過去であっても私の歩んだ時間が、記憶が少しずつでも蘇ってくる。私は魔法によって忘れる呪いではありませんが、それでも私とってはかけがえのない過去。

いつかきっと、貴方様の選んだ道筋が貴方様の糧になりますわ。」


ゲンジはその言葉に世界中の全ての時が止まったようなそんな錯覚を覚える。


そして、微かに笑みを浮かべると浴槽から立ち上がる。


「ではその時が来るまで、楽しみに。」


「ええ。」


芽亜利はゲンジの顔を見て満面の笑みを浮かべながら見つめていた。


「なんでそんな笑顔に。」


「貴方様の笑顔、久々にに見たんですもの。」












白を基調とした宮殿の中、エイレーネに召集された剣聖ライオネル・ヴィルヘルムはあるものの呼び出しで、月夜輝く夜に一人佇んでいた。

そのものの横から何者かが歩いてくると、ライオネルは鋭い眼光をその男に向ける。


「随分血眼になってゲンジという少年を探しているようじゃないか、ヴィルヘルム。」


「まさかテメェが声をかけてくるとはな。なんのようだ。」


月夜に照らされた美しく整えられた髪は風の煽りを受けずにただ静かに男の視線を受け止めていた。



「面白いことがあってね、でも僕は行きたくないんだ。」


「あ?」


「わかるだろ、僕は危険な橋は渡りたくない。先代たちが束になってやっと追い詰めたかの狂戦士を身に宿した少年と戦うなんて、僕にはまっぴらごめんだ。

だから、協力してあげよう。私が、君に。」


「なんだと?」


「もう時期、シザーベントで王女アンリエッタと、反乱貴族達が戦う。

場所はシザーベント領、カルマッタの丘。


そこに面白い仕掛けをしておいた。」


「そこに、源二がいなかったらどうする。」


「そうだね、エイレーネ貨幣で金貨100枚でどうだろう。」



ヴィルヘルムは烈士が月に照らされるほどの不気味な笑みを浮かべる


「おもしれぇ、宮殿にいる雑魚どもと組むより、テメェと組んだ方が面白そうだ。

乗ってやるよ。」


「手筈は整えてある。」


赤髪を揺らし、二人の姿が交差する寸前、動きが止まる。


「100枚じゃ足りねぇ、お前を殺してやる。」


水の剣聖バンマーク・オキアスは鋭く冷たい冷笑を浮かべながらも、その相貌は力強い光を宿していた


「ああ、構わないとも。」



二人が歩く影の中、ひとりの姿がその行く末を塞ぐ。


「待ってくれ。」


「あ?んだお前。」


「私も、連れていってほしい。」


「貴方は確か、シノハラとかいう、召喚者達のまとめ役。」


「ええ、私もゲンジについて追っているの、お願い。」


篠原は心臓の鼓動が飛び出してしまいそうになるのを必死に押し殺しながら声を絞り出す。

今自分の目の前に立つ二人は自分の教え子を殺そうとしている人間、それも自分では手も足も出ないであろう人間で、その中でも最も恐れ多い火の剣聖だった。


「おい、女。」

ヴィルヘルムは目にも止まらぬ速さで篠原の首を掴み取ると自分の前まで引き寄せる。


「おもしれぇ、こいつ、雑魚のくせに俺に楯突きやがる。」

  

突然首から手を解かれ、止まっていた空気が一気に流れ込む勢いに思わずむせかえる篠原は地面に倒れ込む。


その無防備になった背中を男は思いっきり踏みつける


「いいぜ、そのゲンジって奴のツラをお前の目の前で八つ裂きにしてやるよ。」


足が退けられ、その拘束が解かれると、二人は歩き去っていく。

篠原は、滝のように溢れ出る冷や汗を拭いながらも起き上がったのだった。


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