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悪夢の夜に  作者: 赤さん
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第2節 5章 争乱の序編Ⅳ

しかしその軌道は体に刺さる前に激しい火花を散らせて虚空の中へ消失していく


その視線の先には黒く鈍い光を放つ鱗のようなものが現れていた


「龍...」


「人は我を闇の龍と呼ぶ。」


「闇の龍だと。」


「名誉なことだ。我のような者が闇を統べる龍とはな。」


「何が言いたい。」


「時期にわかるさ、小僧。

お前が極みの領域に至る頃、我はお前の前に立ちはだかるであろう。

まずはその前に、自分を顧みることだ。」


その言葉だけを残すと自らを龍と名乗るその姿は闇の中へと溶けていってしまった。


次の瞬間、ゲンジの足を何者かが掴む

予想だにしなかった出来事に足元を見るとゲンジは驚愕する

肉の塊、名状し難い肌色と赤色の山

至る所から顔が生え、腕が生え、足が生えていた。

源二はそれを自分が殺した者たちの姿なのだと本能的に悟った。

肉が蠢き、末端が軋む音。


足からふくらはぎ、膝を押さえられ、曲がらなくなる。


手が手を掴み、その手がまた別の手を掴みながら少しずつ体の上に向かって上がってくる。

その不気味な光景に思わず源二はそれから逃れようともがくものの、その力はゲンジの遥か上を言っていた。


「離せ!!」


ギギギギギ...

不気味な軋みだけが耳に、ゲンジの骨を軋ませる


「やめろ...やめろ!!!」


「お前を...許さない!!」


初めて発した不気味な声にゲンジの心が竦み上がる

いつのまにかゲンジは源二そのもののような心を持ったのか、ただ恐怖するほかなかった。


「嫌だ、嫌だ!!」


「ゲンジーー!!!!」



肉ダルマの手が胸を覆い、今にも張り裂けそうな心臓の鼓動が耳を内側から押し上げていた。


剣で抵抗するどころか、完全に呑み込まれてしまったゲンジはただもがくほかない。


手が首を掴み上げ、頬を掴み、口の中にまで指を押し込まれると、肉ダルマの中へ一気に連れ去られようとしたその時、声にならない悲鳴を上げながら、意識が一気に元の世界へと覚醒していく


一気に開ける視界は柔らかなベットが目に飛び込んでくる。

思わず首の辺りに手を当て、上がり切った息の鼓動を感じる。

全身は汗だらけで、熱い血の激りを感じる。


「大丈夫...?」


横から思わず届けられた声の主に目を向けると、柔らかな甘い香りが初めて意識を現実に引き戻した。


「エレーナさん...」


「ごめんなさい、私。そんなつもりなくて...」


源二は横に座る女性の手元に目をやると細かく震えていた。

これだけをみて、源二は全てを察した。


「その魔法...」


「ごめんなさい。でも私、いつまでもゲンジ君に負担をかけるなんて...私...私...」


「どうしたの!?」

テントのカーテンを勢いよく開け、ペトラが飛び込んでくる。

エレーナは冷や汗に包まれながら震え、源二は荒い息を吐き出している異様な光景にペトラも思わずたじろぐ


「大丈夫よ、ペトラ。ちょっと魔法を失敗しちゃっただけ。」


「そ、そう?本当に大丈夫?」



源二はベットの端に座ると、エレーナの手を握る


「エレーナさん、無理はしなくていい。無理しないでくれ。」


「無理なんて、してないわ。」


「じゃあなんでこんなこと。」


「いつもそうやって背負い込んで、貴方それでも私達と仲間のつもりなの!?」


源二は突然発せられる言葉に狼狽える


「エレーナさん...」


「エレーナ、アンタ...」


「いつも、いつもゲンジ君はなんでこんなにボロボロで、生きていられるの...これじゃ前と同じ!

あなたの中身は冷え切ってて、ボロボロで、怖いわ...」



「エレーナ、ほら、いこ?その言葉も全部、闇の魔法のせいなのよ。ね?いきましょ?」


ペトラはエレーナを無理やりに外に連れ出そうとする。

彼女の言っていたことはほとんど的を得ていた。

恐怖の世界に鎮座するゲンジの精神に干渉すること。それは闇の世界、恐怖そのものに直接晒されるに等しかった。

特に、ゲンジは自分の心の中に巣食っている良心からくる恐怖の割合が通常の戦士より多い。

壊れてしまった存在だからこそ、それ以前にあった過去の幻想をそのまま引きずっているのである。



「ごめんなさい、私今おかしいかも。」


「ね、だから行きましょ。少し外の風にでも当たって。」


ペトラがエレーナを連れ出すと、源二は暗い寝室の中一人で再び首のあたりを抑え始めた。


「過去に殺した奴らが俺を殺しにきた...それに、あれがエレーナさんが見せた幻想なら、紛れもない事実...

あの魔物、自分のことを龍って言ってたな...」


「龍が、どうかしましたか。」


源二は再び突然に声をかけられた少女に目をやると、白い髪を綺麗に整え、後ろで一つに結んだ芽亜利が立っていた。


寝やすそうな白を基調とした柔らかな生地でできた洋服にナイトガウンのようなものを羽織った格好は、裸で寝ようとしていたペトラに無理やり買われ着せられたものだった。


「聞いてたのか。」


「諜報もまた、戦士の務めですわ。」


「龍について、知ってるの?」


「ええ、龍族。大戦時代の魔族の筆頭で獣、今でいう森を派閥とする魔物たちを束ねていた化け物ですわ。

今で言えば、剣聖に当たりますわね」


「剣聖、龍と剣聖ってなんの関係が。」


「剣聖は大戦時代、その龍の中でも最も強敵とされた四大属性龍、豪の火龍、孤の水流、蓄の地龍、欝の風龍とその特徴ごとに名前がつけられそれらを殺したものに剣聖の称号が与えられる。」


「それは、闇と光はいるのか。」


「います。」


「そいつらは今どこに。一つはあなたのその左腕を奪ったものの中に。」


「もう一つは...」


「わかりません。ですが、貴方様でないことは確かでございます。

もう少し、私の記憶が鮮明でしたら思い出せたかもしれませんのに...」


「そっか、ならいいんだ。ありがとう。」


「ただ、源二様...」


ゲンジは芽亜利の顔を覗き込むと、見たこともないような鬼の形相を浮かべる少女がただ地面だけを見つめていた。


「私はずっと気掛かりでした。何故、私が貴方様に出会えたのか。

何故私は、貴方様と遭い目見えることができたのか。」


「何が...」


「私を貴方の元へと導いたものがいる。

源二様、今は可笑しな娘と思われください。

あなたは深淵に覗き見られている。」


「芽亜利...」


「闇に飲み込まれてはなりません。貴方様は魔法を操るものであって闇そのものではない。」


「ありがとう、そう言ってくれて嬉しい。」


「ええ。」


「芽亜利って意外と優しいよね。」


「ひどいことをおっしゃいますね、ですが、貴方様がそう思ってくださることで、私はとくをしまくね。」


「そういうこと言うなよ、そうやって自分を卑下するの、よくないぞ。」


源二はベットの端から立ち上がると、虚空から黒いローブが現れ、隆起した筋肉を覆い隠す


「水浴びをなさってはいかがですか?寝汗が酷いですよ。」


「そうするよ。」


「芽亜利は行かないのか?」


「え?」


「お前も汗がひどい。今日だけは何も言わないから、一緒に行こう。」


「まぁ...ええ、構いませんわ。」


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