第2節 5章 争乱の序編Ⅱ
厳かな橙色の白の中、ゲンジとペトラ。シャルロット、ヒューノ、アンリエッタはいつものごとく進捗を話しながら食事をとっていた。
ゲンジはふと、隣に視線を送ると、同じ食事を食べながらゲンジの視線に気づき、微笑むアンリエッタの姿が目に飛び込んでくる。
ゲンジはその姿を捉えるや頭の端に鈍痛が走る
席順なんて関係ない、アンリエッタは天真爛漫な笑みを浮かべながら今日も源二の横に居座っていた
「アンリエッタ様、この際ですから申し上げますが、あなたは女王なのですからこの机の中央で座って食べるべきでは。」
「嫌。わたし、女王様だから主賓の人が食べずらいかなって思ってお手伝いしているだけですもの!」
ゲンジは大きくため息をついてる最中、ペトラはアンリエッタの方に目を向ける
「ねぇ、アンリエッタちゃん。今日はどこに行きたい?」
「うーん...お城は探検したし、街も歩き回ったし小山にも登ったし、お家も見たから...ウェインフリート帝国に行ってみたい!!」
その途端、ヒューノがブッとスープを吐き出したような音が食卓を襲う
ペトラはその光景に苦笑を浮かべる
「ちょっとそれは難しいかな、うーん...じゃあ私たちのキャンプに来てみる?
ね、シャル?それなら良いでしょ?」
「あのね、遊びをしに来てるんじゃありません私達は。この国を再生させに来ているのですよ。」
ゲンジは内心その意見に首を縦に振りたいものの、それを表に出すことはなかった。
「じゃあ、お兄ちゃんの方に言ったら、今度はシャルロットさんの方に行く!」
「良いじゃない!それなら良いでしょ?」
「だから!」
「い、良いんじゃないでしょうか!ゲゲゲ....ゲンジさんはどう思いますでしょうか?。」
ヒューノが突然話に割り込んでくると、突然の投げかけにゲンジは嫌そうな顔を浮かべる
「好きにすれば良い、最後はこの国を復活させればいい。それが今の目標だからな。」
源二は席を立ち上がると、その背中を誰もが視線で追った
「ちょっと待ちなさい、話はまだあるわ。」
「なんだ。」
「シザーベントの辺境にいる貴族達が王都の再建を聞きつけて活発化しつつあるらしいの、近々出兵になるはずよ。その準備をしておいて。」
「ああ。」
ゲンジはその場を後にすると、一人で城から出て行った。
「何か、変じゃありませんか?ゲンジさん。」
ヒューノが締められた戸を見つめながら問いかける
「あぁ、よくあることよ。」
「何がですか?」
「多分だけど、眠いのね。」
「眠い...いつも怖いイメージなのに、かわいい...かわいいです!シャルロット様!!」
「もうヒューノはお黙りなさい。ペトラ、眠いっていつも彼は休息をとっていないの?」
「さぁ、わたしも寝ちゃうからわからないけど、あいつは朝でも昼でも夜でもいつも起きてるわね、最近だと朝方から昼までに会議を済ませたり連絡とかを済ませて、この会合に出た後、また作業をしながら偵察に出ていた者たちの話を聞いて使えそうな情報をまとめたり、それを別の貴族に渡したり色々ね。
夜は...」
「夜は?」
「私たちがまだこき使ってるだけかも...」
「こき使ってる...ひ、ひ、姫様ぁ!」
「うるさい!!」
「え?ち、違うわよ!そういう意味じゃなくて!魔法の練習に付き合わせてるってこと!!」
ゲンジはペトラの目論み通り早くキャンプにつきたくて仕方なかった。
物質的にも闇を好むゲンジにとっては夜は自分の活動時間で昼は影の中に潜む。
そしてこの国についてからというもの、日中は働き、夜間はエレーナと共に魔法を使い、尚且つ寝ることのできない生活を送っているが故に、今ゲンジはとてつもない睡魔に襲われていたのだった。
数少ない自分を人間だと思わせてくれる3大欲求だけが自分が自分たらしめると言っても良いかもしれない重要な時間だったからこそ、ゲンジは今何よりも先に床につきたくて仕方なかった
自陣に戻るとその日の夕食の準備に取り掛かっている者や各関係貴族達に挨拶をされながら自分のテントへと入る
テントといっても簡易ではなく、しっかりとした骨組みのある構造で今では他の人たちに使われながらではあるが一人にしては有り余りすぎるほどおおきなふかふかのベットももちろんある。
ゲンジはそのベットに腰掛けると、次の瞬間には上半身が剥き出しになった。
魔法によってローブは虚空の中へ消え、仮面だけが残った。
仮面を近くの机に置き、ベットに横たわると、おもむろに左の腕口、切断面を触り始める
この傷を触るたびに自分の歩んできた記憶がまだ鮮明に甦る。
フカフカで心地の良い感覚とは裏腹にゲンジの心の中にはずっと醜い黒が蠢いていた。
「これも、闇の魔法のせいだった方がよっぽど嬉しいな...」
何気ない一言が今の源二の全てを体現していた。
アンリエッタ王女が自分に心を許してくれたことは嬉しい反面、複雑な気持ちはあった。
彼女は今、自分が親の仇であることを知らずにあまつさえ自分のことをいい人間、信頼できる人間としている。
しかし、自分はそうではない。彼女に今の立場を、境遇を押し付けたのは自分自身。
だがこれもまた命を奪い取ったものの代償として仕方ないと割り切ってはいたものの、やはり心の中にある何かがゴリゴリと音を立てて押しつぶされていく感覚を覚えていた。
「強い王にするか、人格者としての王を立てるか...それさえも決めなきゃいけないのか...」
シャルロットとの間に交わされた会話、山賊を一斉に廃したように抵抗してくるものを真っ向から潰していく強い王のイメージの名の下に王への忠誠心と国土回復に努める動きを見せるか、あるいは反乱を鎮めるという体裁を整えつつ、少しずつ領土を獲得しつつ国土の発展に努めることで、なるべく平和的にことを進めていくことで人格者としての立場を確立させる。
このどちらを選択させるかも今後この地を共同で治めていくエイレーネ、ウェインフリート、シザーベントの山国間で決めなければならない。
まして、シザーベント女王はあの状態、ほとんど二人で決めるようなものだ。
そして、新たに立ちはだかる反乱した貴族達が収める領地の問題。
彼らもまた貧困に喘ぐ民を救いたい一心で反乱しているが故に無下に殺すことも許されぬ。
次の一戦で、女王がどの立場を築き上げるか決まるといっても過言ではない。
過去の貴族達を殺し、新たな国を創設するか、あるいは再び和解し国土回復に努めるか...
どちらにせよ、まだ道のりは長い。
唯一少しだけ肩の荷が降りることといえば、進捗の確認と、新たな女王と隣国の時期皇帝への顔合わせも併せてヴィットーリア女王が訪れて短い間、源二の任が解かれることだった。
それでも、源二の顔はあまり浮かれることはなかった。
正直いって、ヴィットーリアはあまり得意ではなかった。
たしかに美しい見た目と、凛とした雰囲気は男性からの人気は高いことだろう。
おまけに頭も働けば、気遣いもできる。
今もこうして自分が何事もなくいれるのもまた、彼女のおかげであることに間違いはない。
それでも彼女があまり好きではない理由、それは自分という存在を別の意味で使おうとしているからだ。
ツバキさんは割り切って自分を道具のように扱う。それがかえって自分にとっては悪いことではなかった。
意味のない退廃的なマゾヒズムによるものではなく、ツバキさんは自分を道具として割り切ることで、この世界が綺麗事だけではないことを教えてくれた反面教師的存在で、闇の魔法使いの見る世界にそれ以外の人間が、苦しみという主観の世界には取り入れないことを知っているが故に、余計な気を使うことはなかった。
だが彼女は失礼ではあるものの、何とかして自分を手に入れてやろうという野望のようなものが見える。そんな気がしてならなかった。
アルレイド・センに言われたあの言葉、自分の娘に言うことなのか、などもあろうに自分の娘に注意しろなんて余程のことがなければ言わないはずだった。
寝ようとすると有る事無い事考えてしまうものだが、流石にこの国に来てからまだ寝ていなかったからか、自分の意識さえ気付くこともなく夢の世界へと落ちて行った。




