第2節 5章 争乱の序編Ⅰ
さて、今回から争乱の序編になります。
「それでは、始めようか。」
鮮やかなステンドグラスを抜けた色とりどりの光に彩られた部屋の中、大きな机を囲むようにして座る人々の中、青い髪を整えた紳士的な印象を受ける青年がそう言い放つと、一同は頷く
「では、バンマーク商会の定例会を執り行います。」
一際置いた老人がそう言い放つと、一同は手元に置かれた名簿のようなものを開き始めた
「それより、風の噂に耳にしたのですが、オキアス様、ラインハルト公にお呼び出しされたとか。
定例会とて、毎度そう大変な話し合いをするわけでは...」
「何を言っている、定例会も大事な会議だ。剣聖なんて憑き物みたいなものだ。今は会議に集中したい。」
「失礼しました。
ちなみに、差し支えなければどんなことを...」
流石に皇帝陛下直接の呼び出しという異例の出来事に、誰もが好奇心をそそられるような目で見られると、オキアスは深いため息のあと口を開いた。
「最近、生活用品がやたらと品質が向上したと思わないか。」
「ええ、それはまぁ驚くほどに、そのおかげで取引の数もウェインフリートに追いつく勢いです。」
「どうやら、それを作っているのが召喚者と言われる異世界からの徒によるものらしい。」
「ええ、話に聞いたことあります。まさか本当だったとは...
しかし、それと何か関係が?」
「その召喚者の中に、裏切り者がいるらしい。他国への情報の流出を防ぐために見つけたら殺してくれと、またくだらない私利私欲に塗れた頼みだったよ。」
「ラインハルト公も老いましたなぁ、幼少は猛将として名を馳せましたのに、自分の立場を案じるようになってしまったとは。」
「他所は他所、ウチはウチだ。
くだらない話はここまでだ、定例会議を続けよう。」
会議の内容は商会の取引する街の拡大や、今後何を仕入れ、何を売るかなど季節に合わせて様々な仕入れ物を変えたりその方針を決めると定例と言った内容で進んでいった。
「さて、大体は終わりましたな。」
「オキアス様、折角皇帝陛下より召喚者について聞かされたのです。
私達の思うところ、その異世界から来た者たちが作るものは質が高く、今のところ安定している。
もっと強気に出てもいいと思うのですが。」
オキアスは少しだけ考えている素振りを見せると、あっさりと首を縦に振る。特に否定する要素がないからだ。
「いい案だ、ではどこがいいと思う。」
すかさず質問を返すと、他の人間が今度は考える素振りを見せる
あの街は小さい、あの街はすでに商会で埋め尽くされている、安定した供給が届かない地もまだまだある
その中で一つの声が上がった
「ここはエイレーネの中だけでなく少し趣向を変えて、シザーベント王国なんていかがでしょうか。」
その言葉に多くのものが食いつき、面白いと言った表情を見せる
しかしその中で一人、鼻でそれを笑った
「それはありえないですね、確かに、他の国に目を向けるのは面白い判断です。新たな場所を確保するのにすでに整備された別の国を目指すのもわかる。
ですが、シザーベントは長いこと再建できず終いにはエイレーネとウェインフリートの手を借りて再建している最中ではありませんか。
未開の地にマーケットを開けるのはそれはそれで価値がある。
その街が栄えれば金を稼げる。
だが、それが僕たちの掟に反するのはわかっているはずだ。」
オキアスがそう咎めると役員の男は申し訳なさそうに座り込む
「確かに...私達も乗ってしまい申し訳ありません。ですが、意外とシザーベントは適任かもしれません。
一応、シザーベントに駐在している友人の商人の二国間で行われている復興の記録が記されたものがあるので、お手隙の間に拝見いただけると幸いです。」
机の前に紐で丁寧に止められた本が渡されると、オキアスは少し嫌な表情を浮かべながらそれを受け取り、名簿をまとめて立ち上がる
「それでは、また月の跨ぐ頃に。皆、気をつけてな。」
オキアスが退席すると、他の者達も片付けを始めた。
オキアスはエイレーネ領とウェインフリート領を繋ぐ一大都市共有自治区ミサーヴィヤという都市を中心に共有自治区と一部エイレーネ、ウェインフリートに及ぶ地域を範囲として活動する商会だった。
その一室、オキアスのもつ家の書斎では屋敷を後にする商会の重役達が散って行く姿を二階の窓から見下ろしながら、差し出されたファイルに目を通していた
「僕らはリスクは取らない。そこに根城としている商人がいるならそれ以上の金を出す。人間は目先の欲に駆られ先の未来を予見しない。」
再びファイルに目を落とすと、眉を顰める
オケアスは明日に座り直すと、その本を読み漁り始める。
「爺!爺!」
「はっ、オキアス様。いかがされましたか?」
執事のような身なりの整った初老の男がドアを開けると、かしこまった様子でオキアスの言葉に耳を傾ける
「シザーベントの金の動きを調べたい。過去のもの、一年前から1番新しいものまでを見せてくれ。」
「かしこまりました。」
オキアスは書斎にある自分のようの小さな椅子ではなく、はじに追いやっていた大きな机を引っ張り出すと、机の上に並べられていた本を豪快に地面へ薙ぎ倒して行く
「お持ちいたしました。」
執事が持ってきたのは両手いっぱいに持たれた名簿が腰から顎のあたりまで積み重なった姿だった。
「ここに、ここにおいてくれ。」
「かしこまりました。」
大きな音を立ててその束を置くと、オキアスは執事に下がるよう手で合図を行うと、本を開き、ページを貪るように見ては捲る
「ここ数年、いや、彼らは奴隷貿易が主な資金源だった。
それが途絶えたのは一昨年、貴族の反乱に乗じてパラトスを襲ったクロセス・フロストがシャルロット公に討ち取られ失脚、夫妻ともに死亡し、完全にシザーベントが崩壊すると...
女王アンリエッタ...新たに即位したクロセス家の娘...
この子の出世今ではわからないが、雹王は確かそんなに年もたっていない若手の王だったはず、となるとかなり幼い。
奴隷という公にしづらい商いをしている以上あの国は国王の強い権力を持ってしなければ国政の体制を維持できない。」
男は机から離れるととある棚にしまわれた一冊の冊子を取り出す。
「シザーベント失脚後、人口の流入が多かったのはこういう理由か...
国が失脚すれば、人口の流出が多いのは当然でも、そもそもあの国は北方の最奥、移動にも突然コストがかかる。
が故に移動できる人物自体が限られてくる...なのにそれが多いってことは、国政機関の人間か...
だから、新任の女王は国を立て直すのに手間取った...」
「爺!」
「ここに。」
初老の男は呼び出されるのをわかっていたかのように扉を瞬時に開けると、恭しくオキアスに頭を下げながら問いかける
「シザーベントの記録の1番新しいものが欲しい。まだ届かないのか。」
「残念ながら、主人様が欲しておいでのものは、雪が降る頃かと。」
「遠いな...」
「大変申し訳ございません。」
「いい、面白いことになるかもしれん。
本質はまだ掴めていない。だがこの手記に記された高度成長は何かがおかしい。
国政全体が失脚していて、女王は無能なのにも関わらず、国全体の支持が上がり始めている。」
「珍しいこともあるものです。」
「そうではない、爺。」
「失礼いたしました。」
「これは少し、探りを入れても良いかもしれないな...」




