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悪夢の夜に  作者: 赤さん
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第2節 4章復権編Ⅲ-Ⅴ

四人は今、アンリエッタ女王に招かれ、食事会に招かれていた。


少しだけ待っていると、再び戸が開けられ、向こうから、アンリエッタ王女が入ってくる

深い青色の髪に深い青の華やかなドレスを纏った姿は幼い少女ながら、何処か大人びた印象を受ける。


「ご機嫌よう、アンリエッタ様。」

シャルロットが挨拶をすると、アンリエッタはドレスの裾をつままみあげ、丁寧に挨拶を返すものの、言葉はない。


机の1番奥、唯一正面に構える椅子の上に座ると、メイドたちが料理を運んでくる。


食事会はこの5人、それも殆ど会話もなくただ淡々と食べるような正直つまらない食事会だった。

唯一、おかしなことがあるといえば、アンリエッタの杯には深い紫色が注がれてあること。


アンリエッタはそれを眉を顰めながら少しずつ飲んでいた


額は次第に赤くなりながら食べ進めるものの、所々特定の食べ物を避けたりもしていた。


「それで、首尾は?」

当然、シャルロットに声をかけられる。


「冒険者達に協力を仰いだ。

彼らも金が欲しいだろうから、金と引き換えに働いてもらう。これで少しは警備も楽になるだろ。」


「そう、私たちも商人達と話をつけたわ。これで私たち以外の労働力と物流は確保したのですね。」


「ただ、本当に冒険者が来るとは思えないがな。」


「それは?」


「もともと冒険者は自由な生き物だ。人助けがしたくて魔物を狩ってるやつなんてほんの一部。ほとんどは自分の赴くままに生きてる。あんなの説得とはいえないかもしれない。」


「何をしたんですか?」



「いうことを聞いてもらった。拘束して、金をやると言った。」


深いため息


「まぁいいわ。冒険者がいればそれなりに楽になるけど、こちらの魔法の使用量を増やせば補填できるし。」


「まぁこっちも同じような感じね、早速で申し訳ないんだけど、商人たちにお願いしたところ、承諾はしたのだけれど、この国の背後にある山の反対側に山賊がいて街道が塞がれてるらしいの。」


「どこもかしこも問題だらけだな。」


「仕方ないわ。」


シャルロットは密かに視線をアンリエッタに向けている。

源二もそれに釣られ、視線を移すと、アンリエッタは目の端に涙を浮かべながらワインを啜っていた。


おもむろに立ち上がり、自分の杯に注がれた透明を手に持つ


ゆっくりとした足取りで少女の元へ辿り着くと、少女は虚な目でゲンジを見上げる



「その年で酒は毒だ。やめたほうがいい。」


ゲンジはテーブルの前に自分の杯を置くと、少女から杯を取り上げようとする。


しかしアンリエッタはそれを静止する


「嫌だ。」


「その手を退けろ。」


「嫌だ!ママとパパが飲んでたんだもん!私も飲む!!」


思わぬ反撃にゲンジは杯を護る手から指輪はなす


だからこの少女は無理して背丈に合わない食事をしているんだと、合点がいった。


今目の前にいる少女は葬られた両親の面影を追って生きている。



そう考えるだけで、ゲンジと少女の間に重なった手の重さは計り知れない。


「貴方がその杯の重みを知る日が来たら、飲めばいい。


今お前がその美酒を口にする権利はない。」



そう言い放つ頃には空気はすっかり虚空を凍てつかせていた。


「ゲンジ、アンタ。何言ってんの!」


「俺は本気だ。アンリエッタ女王、お前は王女失格だ。長くの時を経てお前はこの国に何を築いた。

瓦礫の山、人々は飢え、堕落している。」



「だって、だって...」


ゲンジは強い口調で叱咤する自分をこの上なく叱咤したかった。

自分がどの立場でこの少女を責められる。この少女から全てを奪っておいて、何が助けられる。自分さえいなければこの少女は今も華やかな人生を歩んでいた。

この少女が愛してやまないであろう親子の幻影を追わせずに済んだろう。


だが、現実はそうじゃない。親は死に、子が生きながらえた。

世界が見ているのは少女としての像ではない。

新たに即位した女王はこの上なく弱いという像だけ。

だとするならばこれに付け要らないほうがおかしい。


この国にとって諸悪の根源たる自分がこの国のために何かできるとすれば、それはこの少女を育ててあげることだけなのかもしれない。

少女という幼気な印象があの獣人の子に重なったのかもしれない。

この世界は穢れ切っている。

終わりきっている。

自分が少女を守るためにできることは、この少女を深い絶望の淵に突き落とすこと。それしかできない。そうとさえ思った。



ゲンジはおもむろに少女の手を掴み取る


バランスを崩しながら、その後に連れられるようにアンリエッタが追従すると、二人は周りの止める声もなく外へ出ていった。



王城の前には数人のメイドと先回りしたシャルロット達が待ち構える。


「止まりなさい。どこに行くつもりですか。」


「商人が裏山の山賊に困ってるんだろ。片付けに行くんだよ。」


「貴方何を言って....」


その瞬間、ゲンジはシャルロットの耳元に口を寄せる


「じゃあこの少女が帰って来なかったら、俺が死んでやる。

お前の前で、ラインハルト皇の前で、お前の慕う召喚者達の前で俺の罪を全て打ち明けてから死んでやる。」



二人の影が再び交差すると、その余韻の風にシャルロットはただ立ち尽くしていた



ゲンジは少女を体の前に跨るのではなく座らせ、それを覆うようにしてゲンジが後ろに乗ると、馬を駆け出させた。



「はぁ、ほんとバカもバカね。」


「貴方は、あれでいいの?ペトラ。」


「シャル、アンタは奴を見縊ってるわ。

あいつはただの人間でもなければ化け物でもない。ただの馬鹿よ、ただの馬鹿。」


「どいつもこいつも...」


「まぁ、あいつがそうしたかったらそれでいいんじゃないの。」


「貴方が心配しなくていいんですか。」


「心配?そうね、でもあいつを心配してたら心臓がいくつあっても足りないかも。」


「でも、あんなこと。」



「そうね、メイドさん達に謝っておかないと。」

ペトラは踵を返し、城の中へと戻っていった。




草原の中、必死に胸元にしがみつくアンリエッタは目を瞑り俯いていた


いつまで経っても身の丈に合わないワインなる気持ちの悪い水を飲んでいる自分を咎めるなんておかしい。そう思う反面、久々に叱咤される感覚に違和感を覚えていた。


「パパ...」

小さく口ずさむその声は切り分ける風に流され馬の蹄鉄に踏み流されていった。



「少しはマシになってきたか?」


頷く。


アンリエッタは食事をするたびに吐き気を覚えたり、目眩を覚えていた。

その原因は分かりきっていたものの、幼い少女にはそれでも飲みやめる理由にはなり得なかった。


「どうして、飲んじゃいけないの。」


「お前はこの国の王女だ。

あの杯はお前の愛する両親が愛したもの。

この国の繁栄と、絶え間ぬ努力の結晶として他者よりも格式高い者として君臨できた。

それはわかるか?」


少女はただ忽然とゲンジの顔を見上げる


ゲンジは少女を見つめ下ろすと、少女はどこか不安そうな顔を浮かべていた。

自分はこれからこの子のことを地獄の底へ突き落とそうというのに。



言葉で理解できれば早かった。だが、それで理解できていたら今頃この国は復権しきってる。

今この国に足りないのは権力者としての統率力。三つに分かれた勢力を淘汰するもより、統合するもよし。いかにして力を束ねるか次第で、如何様にも状況は好転する。





しばらく走る頃には、すでに山の反対の麓あたりにたどり着いていた。


昼時に出て、すでに日は傾き山の影が鬱蒼と紅い影を落としていた


「ここ?」


ゲンジは何も言わず馬を歩かせながら前に進む。

少女はあたりを忙しなく見たわしているが、ゲンジは微動だにしない。


あまりに無計画すぎるとはいえ、彼らもまた山賊。

何も引き連れていない、雅な服を着た少女と手にはタスマナしか握られておらず、服のどこにも武器らしいフォルムを映さないその姿は族からしてみればこの上ないカモだった。



案の定、といった形で道を塞ぐようにして数人の男が道を塞ぐようにして立っている


その姿を視界に捉えるや否やアンリエッタはゲンジの胸元に飛び込むようにして目を塞ぐ。


「おいおいそこの兄ちゃん、いけねぇなこんな時間に出歩いちゃ。」


ゲンジは何一つ表情を変えないまま、アンリエッタの手をほどき、馬を降りる


「お前だな、商人を襲ってる戝は。」


「お、なんだ兄ちゃん知ってる口か?」


ゲンジはゆっくりと男達との距離を詰めていく


「なんだ、お前も入りてぇのか?」


次の瞬間、草の隙間から灰色の閃光が飛んでくる


その軌道はゲンジの背後、首の裏を狙って飛んでいくものの、その鉄はゲンジの額に触れることもなく虚空の中へ溶け落ちていく。


「所詮、戝だよな。」


「悪りぃな、戝をやってるとどうも手癖が悪くってよ!」


立ちはだかっていた正面の男が懐から何かを取り出しながらゲンジに襲いかかる。


「お兄ちゃん!」


その叫び声が轟き、耳に届く頃には交差した二人の動きが完全に静止する


「悪いな、人を殺してばっかいるとどうも手癖が悪い。」


道に立ちはだかっていた二人の男が驚愕の表情を浮かべ、飛び込んできた男は白目を浮かべたまま、僅かな鼓動をゲンジの右腕に伝えていた。


何度見た光景、これが奪うということ。自我を通すという形の究極。


冷静が滴り落ち、激情が手を赤く染め上げる


ゲンジは不敵に微笑んでいた。


「この野郎!」

二人目が激情に駆られ飛び出してくる。


こんな落ちぶれたら蛮族をしていても仲間なのか、あるいはだからこその結束力なのか、男は復讐にかられる


しかしその距離はゲンジとの間を詰め切る前に崩れ落ちる


頭の端から鮮血が流れ出る。その開け口は細く糸のようなものが通ったかのように薄く、激しく切り刻まれた。


3人目の男がようやく腰を落とすと、ゲンジはそのまま歩み寄る。


「お前は戦わないのか?賢明だな。」

そう言いながら男の服で一人目の男の浴びた鮮血を拭い取ると、髪の毛を掴み上げあげる。


「お前のアジトはどこだ。」


男は苦痛の表情を浮かべながらも必死の表情で許しを乞うように仲間のアジトを売った。


その方向に向かって歩き始めると、アンリエッタは何も言わず一定の距離のままそれについてくる。


流石は王女なのか、卒倒もせずただ何も言わずにゲンジの後を追ってくる


歩くにつれ、森は一層深くなるものの、案外アジトは近く、大きな洞穴のようなものが木々に隠された中に現れる


どうりでそう簡単に退治できないわけだ。


さっきから囲まれている。

この街道だけじゃない。この山全体にこいつら賊が息を潜めてるそれを容易に感じ取れた。


しかし今は襲ってこない。先程の戦いを見ていたのだろうか、あえてこの心臓部に誘い込み、挟み撃ちにする。そうすることで数で押し切るのか、あるいはこの洞穴もブラフなのか。

それか、よほどの自信があるのか...



ゲンジはアンリエッタとの距離を確認しながら洞穴の中に進んでいく。


中は意外と明るく、平たく伸びているため松明の光も明るい。


そして1番奥にいる大男、いかにも賊の主人らしいその男がまだ不敵な笑みでこちらを見ている。


どうやら自分の思い過ごしだったようだ。


ゲンジは男から手を離すと、長いこと掴みっぱなしだったから男は力なく地面に落ちる



「随分派手にやってくれたようだな、小僧。」


「お前がボスか。」


「そうだと言ったら。」

「お前に選択肢をやる。今ここでまた後ろにいる奴らも全員死ぬか。それとも、シザーベントの下で働くか。」


男は熱い胸板を大きく揺らしながら高笑いする


「面白いぜ兄ちゃん気に入った。お前、俺様の軍門に降れ。

あんな見張りの一人や二人なんぞくれてやらぁ。」


同じようにして側近の男達が高笑いを上げると、突然大男の表情が深妙になる

「だがな、女はダメだ。

うちじゃ女はマワすもんだ。そこの女は置いてけ。」



「この女は、お前の触っていい女じゃない。」


「あ?」


「ここにいるクロセス・アンリエッタはこの国を治めてきた王の子。この国のためにその身を捧げる者だ。お前らの者じゃない。」



再び高笑いが巻き起こる


「どうりで雅な格好してると思った。お姫様だったのか、感謝しねぇとな。

アンタのおかげで俺らは今や過去最大の勢力だからな。

まさに、やりたい放題だぜ。」



「そうか。」



ゲンジは少し前に踏み込む


「おっと動くなよ。ちょこまか動かれちゃボコれねぇ。」


「そうか。動かれちゃ攻撃も当たらないか。

じゃあ動かねぇから、全力で来い。」


そう言い放つ次の瞬間洞穴の外光が一気に塞がれたように暗くなる


人だかりが流れ込み、瞬時に大男が間合いを詰める


ゲンジはただそれが間合いを詰めてくる時を淡々と待っていた。


しかし、男の動きどころか迫り来る人々の動きはわずか一瞬にして再び硬直の世界に落ち着く


誰一人として声を出さず、ただ口を大きく開け、佇む


それを不気味に思うかのようにアンリエッタが少しずつゲンジとの間を近づくと、ローブの端に捕まって辺りを見回す


少女には一体何が起こったのか分からなかった。



「人は、なんで直接魔法を受けないと思う。」


ゲンジから発せられた突然の問いかけに 困惑しながらも、答えを見出せないアンリエッタはただその顔を覗く


「魔法は、普段使わない分を自分の体に蓄えてる。

その奥、魔法を司る機関によって他者から受ける魔法は直接体の中には流し込まれない。


でもそれは普通ならの話。魔法という万人に分け与えられた力に目覚めなければ、ガーデンもまた生まれることはない。


魔法という力を持つもののみが持つ絶対的な力。

なんて悍ましい存在だとは思わないか、アンリエッタ。


俺は何もせずにこの力を得た。

人を殺し、他人を虐げ今の地位を得た。

護りたいものを護る為にならどんな相手でも殺してみせる。

それが俺にとっての、方法だ。


お前はどうだ。俺が醜いか、怖いか、非道か。

だがこれもまた現実。この山に蔓延る族を殺し尽くせば、商人の街路がつながる。


お前の国が、再生する。


お前がこの国の行く末を決めるんだ。それがいつか、お前の望んだ両親の見た景色と同じものを、同じ世界を与えてくれる。」


「パパと、ママの...」



「そうだ。」


ゲンジは再び視線を元に戻すと大男達を見つめる


俺は最低だ。子供の教育のために人を殺してみせるなんて猟奇的なことを。


だがそれと同時にこの国はそれだけ切羽詰まってる、容赦もできない現実と、原理の世界。


何かを選ばなければ明日は自分が落ちていく。

それを選ばせなければ、国を再建させなければ自分自身もピラーという存在に屈服するに等しい。


最低でも、非道でも、今この少女に悍ましい現実を見せなければこの少女は永遠に両親の幻影に取り憑かれたまま。取り憑かれるが故にもっと離れてしまう。


次の瞬間、男達の間から沸騰したように体から泡沫が溢れ出たと思った次の瞬間、激しい赤の世界に包まれる。


その溢れ出る蒸気と熱の波の中に一際大きな悲鳴が木霊する中、ゲンジはアンリエッタを覆い隠し洞穴の外へと移動した。


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