第2節 4章復権編Ⅲ-Ⅳ
あくる日の朝、ゲンジとペトラは二人で壊れかけの街を歩いていた。
「いよいよ始まったわね。」
街の至る所に木を搬入したり石を積み重ねたり、瓦礫を魔法で片付けていくものたちが目に止まる
そのどれもがゲンジたちに軽く一礼したり、目で挨拶をしたりしている
「それで、別にアンタまで働く必要はないのに。」
「いや、この国の冒険者のことを知っておきたいし、ウェイフリート帝都の冒険者を知りたいってこともあるし、彼らが手伝ってくれれば一石二鳥。
問題はまた別にある。」
「別?」
「彼らがこの国の警備兵やら軍の人間を裏切って情報を流したりしている可能性があるそうだ。」
「とことん腐って行ってるのね。」
「多分だけど、それも仕方ないことだと思う。そのあたり一帯は魔物の気配すら感じなかった。
クロセス・フロストが蜂起した時、その妻クロセス・アン女王はピラーになっていた。」
その言葉にペトラが凍りつく
「どうしてそんなことを」
「それだけ許せなかったんだ、自分たちをこき使う覇権国家の存在が。
俺を殺しに来た人達、最初は篠原の暗殺から始まった。
召喚者を指揮する人間を殺し実権を握ろうとしたが、悉く失敗。
その任を任されたシザーベントは連合小王国内に蔓延する打倒覇権国家の流れから大きく離れ、エイレーネにも見放されたが故に孤立無縁。
その頼りの綱、唯一の列強とのつながりがピラーという非人道的な奴隷のパイプ。
未だその生産ルートが確立していたことを他国に知られてはエイレーネは同時に連合小王国軍、ウェインフリートを相手取って戦う可能性だってある。
だからエイレーネの教会側はウェインフリートとの縁を切ってこの街、この国を焼き尽くした。
この王都は俺が壊したって言われても文句はない。でも他の街を壊したのは教会派だろ。
でも本題はここから、エイレーネに復讐を誓ったクロセス・フロストとその妻アンはその身を犠牲にしてもエイレーネと戦うと、本当の意味で自分を殺して、魔物を引き連れた。
あの魔物たちはきっとこの国から向かった兵、そんなところだろ。だからこの付近の魔物は今殆どいない。
故に冒険者も仕事がない。金もなければ他の地へ渡る力もない。
負の連鎖なんだよ。」
「ふーん、それで?アンタは何しに行く訳?」
「金を渡すから働かせる。奴らもたまに来る襲撃の手伝いをリスクを冒してやるより、継続して安定した収入の方がいいだろ。」
二人はとある建物のまえで止まる
「冒険者ギルド、この国もギルド制なのね。」
「この国は大戦時代の北方拠点だったから当時主流だったギルド制がまだ名残としてあるらしい。」
「アンタ、なんでそんなに詳しいの。」
「教えてもらった。」
「誰に。」
「ヴィットーリアさん。」
「あの女...」
「いいじゃん別に、なんもやましいことはないし、逆にこれから行くところについて全く知らなかったらそれはそれで問題だろ。」
「そうだけど....もう知らない。」
ペトラはそう言ってドアを勢いよく開け放つと、中にはどんよりとした酒の空気と、黒味が溢れ出てくる
「あ?あんだテメェら。」
何者かがそう声を投げると、ペトラとゲンジの影に先程までの柔らかさはかけらも残っていなかった。
「ウェインフリート帝国から、この国を再建しに来た。」
「ウェインフリート?テメェらに手はかさねぇよ。勝手にやってろ。」
「ちょっとアンタ!ここはアンタの国でしょうが!」
「うるせぇな。第一、人様に頼みに来るのにこんなふざけた格好したガキ寄越すんか。舐められたもんだぜ。」
「ガキですって?いい度胸じゃない、表に出なさい。」
ゲンジはその言い合いの最中、酒場とギルドが一体になった施設のカウンターへ行くと、キッチンに乗り出し、ナイフを片手に取る
自分に注がれへ視線はやはり屈強な冒険者たちだけあってそれなりの圧があるものの、いつも行動を共にしている人たちに比べたら全くと言っていいほど怖くなかった。
そのまま人混みをかき分け、吠える男性の向かいに座る。
「おい、ガキてめぇ舐めてんのか。」
男はゲンジに圧をかけ、机を叩く仕草で問い詰める
次の瞬間、ゲンジに向かって叩きつけられた手のひらの隙間に鉄が振り下ろされると、軽やかな木の跳ね返る音が酒場の空気を白に包む
「金は出す。お前らも、しょうもない蛮族からもらうたまの報酬より、金が欲しいだろ。
そうすればお前らも、好きな酒がたらふく飲める。」
男は何も口ずさむことができず、それどころか何処か苦しげな表情を浮かべる
「文句あるか?あるなら言ってみろ。
それとも、その動けない体で俺を殴るか?
俺なら金をくれる人間に印象の悪いことはしない。
酒の飲み過ぎだ。起きたら俺のところに来い、西の端、ウェインフリートの施設に来い。」
その瞬間、筋骨隆々の大男が机に落ちる
「お前らも金が欲しかったら来い。」
ゲンジは指の間に刺さったナイフを抜き取ると、力の抜け切った腕の形に沿って斜めに反り始める
ゲンジは再び人混みをかき分け、また屈強そうな男が控えるカウンターにナイフとコインを数枚置いていく
ゲンジが酒場の戸を潜ると、それに続いてペトラも酒場を後にする
「ねぇ、なんの魔法?あれ。」
「秘密。」
「ちょっと酷くない?教えてよ。」
ゲンジは余計な騒ぎを起こした自覚のない女に呆れ、ため息が出る
「ツバキさんの魔法。」
「ねぇ、なんで聞くたびに次から次へと違う女の名前が出てくるの?」
「俺の周りに女の人が多い、それだけだろ。
別にみんな俺に好意がある訳じゃない。芽亜利は子供欲しいだけ。
エレーナさんは魔法の都合でちょっと親密なだけ、ツバキさんは立場上母親で、ヴィットーリアさんは女王。俺とは違ってちゃんと結婚しなきゃ行けない相手もどうせいる。
それに、俺が本当の意味で心を許せるのはお前だけだ。失った記憶の中で、唯一俺と同じって思える。それだけでいつも救われてる。」
ゲンジは血色を一切変えず、淡々とそう告げると、ペトラは一瞬のうちに沸騰したようにたじろぐものの、ただ淡々と歩いていくゲンジを見て、ジトっとした湿った目線を向ける
「ねぇ、ほんとはそんなこと思ってないでしょ。」
「本当だよ。」
「なんか記憶が失ったりするの、いいように使ってない?」
ゲンジはその足で王城の方へ向かうと、メイドに案内されるままとある一室に通される。
大きく、長く伸びた机の上には何も乗っておらず、奥の席も空席。ゲンジとペトラが一番乗りだったようだ。
続け様に戸が開かれる
「あら、早いわね。」
戸の向こうから現れたのは長いブロンドの髪を下ろした女性シャルロットと栗色の髪を綺麗に整え、短いツインテールにまとめたヒューノが立っていた
「わぁ、ゲンジさんだぁ!ホンモノですよ、シャルロット様!」
深いため息と共に、後ろで目を輝かせる少女に困ったのか、頭の当たりを抑えながらゲンジたちの向かいに座る
こういう席の場合、席順というのは非常に深い意味を持つのだろうが、なぜかゲンジの向かいはヒューノだった。
「あわわわ、忘れてた。私、ヒューノって言いましゅ。」
ペトラがクスッと笑いを溢すと、ヒューノの頭の後ろあたりから湯気が出たように顔が真っ赤になる
「ヒューノ、そのくらいにして頂戴。」
「ごご、ごめんなさぃ。」
ペトラは余程面白かったのか、今にも吹き出しそうになる笑いを腹の底に押し込めながら肩を揺らしていた




