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悪夢の夜に  作者: 赤さん
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第2節 4章復権編Ⅲ-Ⅲ

「ねぇ、アンタ聞いてんの!?」


「ああ、ごめん。」

ペトラの問いかけに虚ろになった思考の世界から引き戻されたゲンジはあたりにいるペトラと芽亜利、エレーナを見渡すと、エレーナからずっと伸びた腕がゲンジの手前、二人の手が握り合わされてる状態だった。


「んでさー、こいつガチガチに緊張しててなんか変な口調になってるの。」

楽しそうに話すペトラは自分のことを話しているのだろうか。やはりゲンジの意識はまだ虚だった。


「ゲンジ様、大丈夫ですか?」

芽亜利がゲンジの顔を覗き込むと、柔らかなベットの上にいつでも寝れるような薄ピンクのネグリジェから伸びた健康的な柔肌が目に飛び込む


「ごめん、なんか慣れない魔法でボーッとしてるかも。」


「シャキッとしなさいよ。一回は出来たんでしょ?」


「そうなのよね、あんなにすんなりいったのにやっぱ手を握るだけじゃダメかしら。」


その言葉にペトラだけだなく、芽亜利までもが僅かに体を震わせる


二人は今エレーナの魔法を使ってガーデンに至るため、こうして毎晩毎晩、練習を重ねていたのだった。

それも、エレーナの魔法の使用量はごくわずかで、源二がそれを補填するようにほぼ自力でガーデンへ至ろうとしていた。


自分が自分から乖離する感覚。死という壁を乗り越えた自分だけが味わった自分が崩壊していく感覚を生身の自分で再現しようとしていたのである。


しかし、自分から乖離すること、ツバキに言われた通り全くもってうまくいかないのが現実だった。

いつしか、二人だけの空間ではまた何が起こるかわからないと、いつのまにか一人の部屋に四人が集まる奇妙な構図が生まれたのである。

もともと芽亜利は虎視眈々と源二の寝込みを襲おうとしては失敗し、ペトラがそれに突っかかる構図が存在したのが余計に仇となったのだ。


 


「だからそんなことするために来たんじゃないって。」


「それより、ガーデンに近づく実感は得られましたか?」


ゲンジは首を横に振る


「でも、少しだけ見えた」


「何が?」


「さっきの光景。

なんか、俺が指揮なんてしていいのかな。」


「何言ってんの、アンタ。あーはいはいそういうことね。

別に指揮する人間がなんでも知ってなきゃいけないわけじゃないわ。

アンタみたいに謙虚に下の人間に意見を聴ける人間は中々いないわ。」


ゲンジの思い浮かべた光景はキャンプへ戻った頃、明日から始める復興の着手の手順を書く分担された貴族達と話し合っていた光景だった。


少しでも皇帝に近づきたい。アピールしたい。そう思う貴族は当然のように多い。むしろそうすることで人の上に立ってきた人たちだからこそ、話し合いは熾烈を極め、最後は喧嘩寸前にもなりかけることも多々ある。


しかし、今回は源二が何も知らなかったことが功を奏し、分け隔てなく、低い腰で意見を集め続けた為、そう言った争いは起こらず比較的穏便かつきっちりとしたプランが組めた


「でもすごいよ。俺は聞いてただけだけど、方向性を決めたり、採決する判断を下したのはペトラだ。」


「あっそ。当然よ。」


ゲンジは軽く微笑むと、目の前に握り込まれた手に意識を向ける



「いいですか、エレーナさん。」


「ええ、いつでも。」


ゲンジは深く息を吸い込むと、身体中に充満する闇の魔素を無に変換するイメージで排出していく


全てがヴォイドに介されると、意識は再び思考の世界へと堕ちていった。



剣聖

炎獸ライオネル・ヴィルヘイム瑞峯バンマーク・オキアス、地核アメイリア・ぜミーナ

妖精帝エラ、勇者ルカ


火、水、地、風、光の剣聖が招集され自分が狙われている。

のち一つ、風の剣聖エラは既に自分の素性を掴んでいる。

強大な魔力を見せつけ、妖精という存在が見えないというアドバンテージを見せてしまった、なんとも手痛い出だしと言えた。





白い帯の下、エイレーネ帝国王都その場内の来賓用の一室のバルコニー。閉じられた相貌の裏では先日遭遇した人間離れした魔法使いの姿が過っていた。


「ゲンジ...闇の魔法使い...」


翠髪を下ろした少女は闇世の中、そう口ずさむ。

剣聖と呼ばれる彼女は今、戸惑っていた。


小さい魔法陣であれだけの破壊力のある魔法を撃つ技術力。闇の魔法使いという絶対数の少ない属性魔法を使えることによる魔力のアドバンテージ、そして、剣聖が束になってかかってやっと追い込まれた狂戦士の実力。


触らぬ神に祟りなしという言葉がこれほどに当てはまる人間もそうそういるまい。


純粋に勝負を挑んで勝てる相手ではない。

突然、闇の魔法について知ってる者は数少ないものの、剣聖はその例外なく真実について知っているが故に、先頭という面において既に圧倒的な差がついてることは皆が理解していた。


しかし、彼女はそれ以前のことでも悩んでいた。自分にゲンジという少年が討てるか。


彼は間違いなく大量殺人鬼だ。

悪魔のような魔法、歴史、穢れを背負っている。

しかし、彼の放った言葉、行動は自分が同じ立場だったとしたら出来たろうか。


もしかしたらその気になれば国ごと滅んでしまうかもしれない。

闇の魔法は光の魔法と対を成すが故に、光の魔法を使うほど、闇も濃くなる故に無地蔵に戦い、因縁を晴らすことも破壊し尽くすこともできたかもしれない。


星の墜落。パラトス上空に現れた隕石群をたった一撃にして破砕した大魔法を使った人間はわからないが、この理論に当てはめてみれば可能性としてはゼロではない。

むしろ、パラトスを守った英雄がこれほどまでに表に出てきていないのも不可解だった。


すると星の墜落に関して考えられれ可能性は限られる。


表に出てこれない裏の人間、他国の人間、そして、ピラー。


第三の候補ピラーの可能性は低い。

ピラーはもともと他人に代償の高い魔法を行使させることで戦果を挙げさせる禁忌の魔法。であるが故にその目的は力のある貴族たちがその力を誇示する、戦果を上げる為に用いられるが故に、星の墜落。一つの魔法で都市、あるいは世界に名だたる厄災を一つ沈めた功績を受け取らないものが居ないはずがない。


故にたどり着く一つの答えが、エラの出会った底知れぬ少年だった。





「そこの雑魚。寝る時までんな気持ち悪りぃツラしてんのか。


まぁいい。」

突然やさぐれた声に動くこともなく、外を見たまま答えるエラ


「ライオネル・ヴィルヘイム。ここは私の部屋。」


「あ?んなの関係ねぇ。

ところでテメェ。」



二つの閃光が弾け、火花が地面に落ちていく


「ゲンジとかいうガキのこと、知ってんだろ。

教えろ。」



「知らない。」



ライオネル、毛皮を纏ったワイルドな見た目の男は不敵に微笑むと、剣を弾く


「腐っても剣聖ってか。

俺はな、オメェらとなんか馴れ合うつもりはねぇ。とっとと教えて、俺がゲンジってやつを殺れば終わるんだろ。」


そう問いかけるライオネルの顔はどこか獣そのもののような風格を表していた。


「知らない。」


「あっそ、じゃあテメェんとこの森をちょーっと燃やしても、怒られねぇよな。」


「下衆。」


「あ?いつまでも森に引きこもってる雑魚が悪りぃんだよ。人様の意思に従え。」



少女は帯の下で苦悶の顔を浮かべるものの、その表情は表に出ることなく皮膚の薄皮の下で堰き止められていた


「ゲンジに、会ったことはある。

でも、闇の魔法使いとは思わなかった。」


「どういうことだ。」


「闇の魔法も、光同様全ての属性を使える。」



「しらねぇ訳ねぇだろ。」


「彼は、火の魔法を使っても有り余る実力。私は、彼が炎の魔法使いかと思ってた。」


「どうやら本当みてぇだな。」


「本当。」


「んで、居場所は?」


「わからない。でも、彼は奴隷都市にいた。

わかったら出て行って。」


それだけ言わせると、ライオネルは礼を言うこともなく出口の方へと歩いていく


「何処に行く。」


「あ?奴隷都市だよ。

おめえは本当のことをいった。俺にはそれが判る。わかるよな?それだけだ。わかったらとっとと森にでも帰れや。」



少女はそれでもただ佇んだまま外を覗いていた。


実に数十年ぶりに出てきた現世は、なんで血生臭いのだろうか。

自分は完全に他の剣聖から舐められきっている。嘲笑われている。

でも構わない。自分が剣聖でいる限り、森にいる妖精たちは何処の国のものになることもなく、何処の支配も受けず、戦うこともないのだ。それに比べればこんな程度、いくらでも耐えられた。


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