第2節 3章復権編Ⅲ‐Ⅱ
「貴方、もちろんだけど闇の魔法を使う気はないわよね。」
「ない。クロセス家を殺したのも、この国を失脚させたのも俺のせいだ。それに、俺がこうしてシャルロットさんと一緒にいることをいいと思われないのは当然だろ。」
「わかってるならいいわ。一応、心配になってね。
でもね、それだけじゃない。貴方に忠告することがあるの。」
「なんだ。」
「剣聖とお父様が貴方を探してるわ。生ける厄災、狂戦士を殺そうとしてるわ。」
「ああ。」
「私ではそれを防げない。遠ざけることはできても、私じゃ貴方を守ってあげることはできないわ。」
「守られる必要はない。向こうがやってくるなら、俺はそいつらと戦う。」
シャルロットは深いため息をつく
「こんなことを押し付けるのはどうかと思うけど、鏡花ちゃん、龍弥くんが私の収める領地にいるわ。」
「また元の世界の奴らの話か。」
「ええ。だって貴方もそうだもの。貴方は忘れても彼らは忘れてない。貴方は忘れて平気でも、彼女達は今でも貴方の姿を追っているわ。
あの子達のためにも、余計な争いはやめてちょうだい。」
「余計な争い?争いに余計もクソもあるのか?お前は争いを選べるほど、お前は強いのか。」
「そういうことが言いたいわけじゃ。」
「剣聖もまた、ピラーの開発に関わったうちの一つなんだろ。」
「え?」
「俺はあんな魔法を許さない。ここにくる前、獣人の女の子を一人殺した。この国の姫、アンリエッタ王女と同じくらいの歳の子だ。」
その言葉にシャルロットはただ立ち尽くすことでしか答えられない
「手足は魔法の酷使で焼け焦げてた。痛かったろうに。
だから殺した。殺してあげることでしか、苦しみの連鎖を断ち切れなかったからだ。
俺らは人間だ。意思ある種族だ。魔法に使われるだけの機械じゃない。」
「それはそうだけど、戦い方ってものが。」
「アレクサンドロ・バルドル・シャルロット。貴方の意見は尊重する。
この国では傾国の悪魔ゲンジとしてではなく一貴族として振る舞う。闇の魔法も使わない。
だが、然るべき時然るべきものを守るためなら、俺はまた本気で戦う。」
シャルロットは体裏に溢れ出る冷や汗のようなものを無理矢理に押し込める
それほどに、今目の前にいる、いたはずのただの人間が豹変したように見えた。
「とりあえず今日は休みましょう。
アンリエッタ王女も虚虚ろでは復興の仕様がありませんから。」
源二はそう言ってフードを着込むと口元から妖しい怪鳥の仮面が浮かび上がる
シャルロットは浅く息を吸ったままその息を胸に留める
「舐めるんじゃないわよ。」
ゲンジは振り返る
「私は私の礼を尽くした。本来殺されるはずのお前を私がかったのだ。
アレクサンドロ・バルドル・シャルロットの治めるパラトスを救ってもらった恩に報いただけだ。
私がいつまでもお前の願いの片棒を担ぐと思うなよ。」
源二はそのまま戸を潜り抜けるとペトラ達の待つキャンプの元へ向かった。
ゲンジとシャルロット達は城を挟んでちょうど向かい側に位置しており、無用ないざこざを防ぐために東西のに分割に分けて復興を進め、代表者を城に集め互いに相互関係を保ちつつ連携しながら左右非対称にならないよう復興を進める計画で進行している。
先遣隊はすでにクロセスフロスト退任時にはすでに派遣されており、地方からすこずつ復興が進んでいた。
しかし、状況は思いの外深刻で、革命を目指す辺境伯軍と山賊達の攻勢のせいで寸断された道を確保したり、それに対処に人員を割いたりと思いの外兵員の疲労が激しかったのだ。
もちろん、この国を復興させることは大切だ。
しかし、ゲンジの脳裏にはツバキからの名を思い出していた。
自分に建国はできない。前はその知識もあったかもしれない。召喚者達のもたらしたエイレーネ帝国での生産力を鑑みればゲンジにもその期待の目は寄せられるものの、
自分の記憶の中に過去の世界のことは残っていない。
ツバキから受けた銘はそれを復活させるかもしれない鍵、自分の中にあるガーデンへと至ること。
剣聖とゲンジが引き合わされないようにする手筈はすでに第一権、皇帝ヴィットーリアの手配したゲンジという名の少年がシザーベント特別監督官ではなく、共有自治区貴族として偽装されてるから余程の探りがない限り露呈すること。
やることはまだ、途方もなくたくさんあった。
シャルロットが自分の陣に戻ると、ヒューノが出迎える
「おかえりなさいませ、シャルロット様。」
「ええ。」
「どうでしたどうでした?」
ヒューノは城でのことを聞いているのだろうか随分と興味津々げに聞いてくる
「城でのこと?」
「もちろんです!久々のゲンジさん、かっこよくなってました??」
「貴方ね...」
深くため息をつくシャルロットはただ頭の端に痛みを覚える
「怪鳥の面に黒のローブ。いかにも悪人みたいな見た目よ。」
「えー、でもかっこいいじゃないですか。ダークヒーロー!って感じで」
「そうかしら。」
「それに意外と幸が薄そうな感じとか、召喚者っていうのもポイント高いし」
思いの外テンションの高まっているヒューノにシャルロットはなんとも言えない苦笑いを浮かべる
今、ゲンジは自分たちの味方と言っていいポジションにいる。
しばらくはシャルロットとゲンジの指揮で復興を執り仕切る為二人の連携は必要不可欠なものの、二人の出だしは最悪どころか殺害予告までしてしまった。
つい頭に血が上ってしまったことは認めるが、それだけゲンジの放った言葉は挑戦的で直視し難い現実的な言葉だった。
シャルロット自身、本物のピラーというものがどういう力を持たされるのかはみたこともない。
ただそう言った史実を聞かされているだけだった。
だからこそ、ゲンジの放った言葉はそれだけ衝撃的だった。
シャルロットはゆったりと自室のベットに腰掛けると虚空の中に手を翳す
「手の端まで焼け切れてた...酷い魔法ね...
そう考えると、ゲンジさんが自分の身を投げ捨てても戦えるのはそういう効果か何かなのかしら。
あーもう、なんであの人のことなんか考えてるの!?
なんかイライラしてきた。
鏡花さんに教えてもらった焼き菓子でも食べましょうか。」




