第2節 4章復権編Ⅲ-Ⅰ
さて、今回からは復権編Ⅲをお届けします。これで復権編はラストです!
白い光が差し込む穏やかな草原の中、ゲンジたち一行は正面に構える大きな城壁を遠く望んでいた。
「シザーベント、ついたわね。」
「ああ、この隊列で来ると一人で来る時とは違って時間がかかる。」
その列の先頭が二つペトラとゲンジはそのまま歩みを続けて行く。
「ここまで1日と半日くらい。かかりすぎよ。」
「でも族も魔物もなし。怪我人は一人もいないんだからまだマシだよきっと。」
「そりゃそうだけど。」
一行が城門の前にたどり着くと、突然轟音を立てて厚い扉が開け放たれる。
ゲンジ達が城の中に足を踏み入れると、見慣れた光景が広がっていた。
崩れ切った瓦礫に焼けた後、前回来た時と違ったのはその瓦礫をかき集めて汚らしい出店ができていたことと市民がいたこと。それだけだった。
「ようこそおいでくださいました。ウェインフリート帝国の方々。ささ、エイレーネ帝国の方々と女王陛下がお待ちです。こちらへ。」
者の入り口で待っていたメイドらしい身なりを整えた人物に出迎えられると、ゲンジとペトラは馬を降りる。
「エレーナさん、芽亜利。荷物とこの馬を頼む。」
「畏まりましたわ。」
芽亜利が笑顔でそう返すと、ゲンジから手綱を渡される。
「いきましょう。」
ゲンジとペトラは先導するメイドの後に続いて歩き始める
怪鳥をかたどった見るからに威圧的な仮面が怪しいのか、それとも隣に立つ雅な女騎士が美しいのか、皆二人に視線を送っていた。
「歓迎もせず大変申し訳ございません。王都でさえこの有座でして、本当にみっともございません。」
「大丈夫よ、その為に私たちが来たんだから。」
「感謝の極みでございます。誠心誠意、ご奉仕させていただきます。何かご不便がございましたら、何なりと。」
メイドは丁寧な口調でペトラと会話を重ねて行くもののゲンジとは一向に目を合わすどころか視界にさえ捉えたがらない様子で、汗が流れていた。
「そ、その。」
「なんですか。」
初めて視線が交差する
「長旅は如何でしたでしょうか。もし救護が必要であれば、直ちに...」
「魔物にも、族にも襲われてはいない。大丈夫です。」
「畏まりました、余計な配慮失礼いたしました。」
メイドは酷く怯えた様子を見せるものの、源二の視界にはそんな様子は全くと言っていいほど入ってこない
壊れた瓦礫達は全て、ゲンジと教会の派閥。キングスクラウン、シャジールが指揮した上で街ごと跡形なく消し去ろうとした証でもある。
町のものはどこか虚で、正気はあるもののハキが感じられない。
自分が過去の自分と決別した場所、そんな場所であるからこそ自分がこの国を再建することに意義がある。
そう思ってここに来たが、やはり現実はそううまくはいかない。
自分で自分のことを責め続けている間、この街はずっと傷だらけのまま自分さえ見つめ直す余裕のない世界を歩んできたのだ。
そう思うだけで、ゲンジの中に影が流れ込んでくるのを止められなかった。
「こちらになります。」
メイドが王城の前で止まるとそこも見慣れた場所。自分が目覚めた城だった。
黄土色が焼けたような石が重なり合った大きな城は破壊し尽くされた街と相反するようにその偉大さを象徴していた。
二人は中に入り、メイドに案内されるまま正面に立つ大きな扉の前に立つ
「シザーベントの女王、どんな人なのかしら。」
「ペトラも知らないんだ。」
「私がなんでも知ってると思わないで頂戴よ。それに、ここは敵の陣地みたいなものよ。気をつけてね。」
「わかってる。」
大きな戸が重みのある音を立てて開かれると、白を基調とした部屋に鮮やかな色彩のかかった色のある光が差し込んでいる。
大きなステンドグラスの下、自然光を浴びるブロンドの女性の姿が目に入る。
「久しぶりですね、ゲンジ。」
二人はその女性の前、空席になった王座の前に向かって歩き始めると、横に控えていたメイド達の間で物々しい雰囲気が醸し出される。
彼女たちがゲンジ達に見惚れているわけでも、この国に男がいないわけでもない。彼女達は等しく、怪鳥の仮面を被った男に恐怖しているのだ。
見た目が恐ろしいものがあるのかもしれないが、その震えの正体はもっと奥底、芯の方からやってくることを彼女達は薄々と感じながらも平静を装っていた。
「久しぶりね、シャル。」
「久しぶりです。シャルロットさん。」
源二が軽やかに、失礼にならないよう挨拶をすると、シャルロットはその姿を足元から髪先まで舐めるように見回す
「何か。」
「なんでもないわ。」
シャルロットはそれだけを返すと空席の王座を見つめながら戦慄する
体から溢れ出るオーラが違いすぎるのだ。
オーラといえばなんとも信じ難い雰囲気のようなもので済まされるが、身体中から有り余る魔力が溢れ出ているのだろうか。濃い闇が体から止めどなく流れ出てまるで嘲笑われているような、心の奥底まで覗き見られているような恐怖を感じる
闇の魔法、最も人間らしいその魔法はその起点は我々人間の知覚に起因しているヤミに起因している。
普段自分たちが怖いと思ってる対象、小さい頃は暗がりや魔物、成長しても死への恐怖や未来のことなど恐怖という僅か一つのヤミに関してもこれだけのことが出てくる。
そう考えると、彼の放つ何もいえない恐怖感そのものは闇の魔法使いと知っていれば、頷ける当然のことだった。
少しばかり待つと、王座の横にあるこれまた大きな戸が開かれる。
「いよいよか。」
源二がそう呟くと、その都から現れたのは深い青い頭を腰のあたりまで伸ばした可愛らしい少女が入場してきた。
その後ろには数人の付き人を従えている。その見た目からは到底女王とは見えないあまりに幼すぎる見た目と体躯にゲンジとペトラはあっけに取られる
しかし、ペトラもゲンジもその瞬間に何かを察知したのであった。
ペトラが母を殺し、ゲンジが父を殺した。そして残ったのは彼女一人、そうであるが故に正当な王位継承権を争っている。
数年も経っているにもかかわらず復興が進まず、あまつさえ侵攻した国によって手痛い信仰を許している。
その理由が今はっきりと分かった。
「よくぞおいでくださいました。ウェインフリート帝国とエイレーネ帝国の皆様。シザーベント王国、女王のクロセス・アンリエッタです。
えっと...えっと...」
言葉に詰まると側に仕える付き人がその補助をするように耳元で台詞を喋るとそれを復唱する。
そういう形で建前上の挨拶を省くと他に何も説明することはないほど、中身の薄い話だった。挨拶を述べ、自己紹介をして、ただ復興を手伝ってほしいと述べる。それだけのことだった。
3人は部屋を後にして、階段を降りながら今後のことについて話し合いをしていた。
「じゃあ、今日はとりあえずお互いに拠点を建てて、明日またここで王女様と一緒に話し合いをしましょう。
あなた達も疲れたでしょ。今日はお互いゆっくり休みましょ。って言いたいところなんだけど、ゲンジ。
貴方に話があるの、ペトラ。悪いんだけど席を外してくれないかしら。
「え、ええ。じゃあゲンジ、先戻ってるから。」
そう言ってペトラが二人の前を後にすると大きな扉を潜って見えなくなっていく。
再び視線を元に戻すと、シャルロットは冷や汗混じりなのか何やら落ち着かない様子でゲンジを直視している。




