第2節 3章復権編Ⅱ‐Ⅵ
その言葉に源二は立ち尽くすことしかできなかった。
「そんな、狂戦士はエイレーネ皇帝、ラインハルトが...」
「そうよ。雷帝、ラインハルト。その雷帝と呼ばれるために取った行動、それが狂戦士の殺害。
でもね、それはただのトドメに過ぎないのよ。
剣聖、大戦から人類を牽引していた存在が最後に残った世界の穢れ、闇の剣聖を葬って王位継承権を得たのよ。」
「剣聖が...」
「確かに、トドメを刺したのはラインハルトよ。でも人間性を全て失っても、体さえも失っても戦い続ける狂気の沙汰を追い詰めたのは、剣聖で間違いない。
ねぇ源二、だから...」
「そっか...」
源二は座り込むペトラの横に座り込む。
すると、少年は隣に座る女性の方に頭を乗せる
「でも、そういうわけには行かない。こんなこと言ってほしくないだろうけど、ツバキさんは壊すのは簡単でも直すのは難しいって言ってた。
俺には大戦も魔法のことも何もわからない。
でも、忌み嫌われてる俺でもできることがあるかも知れない。みんながそれを期待してくれるから、俺にその役目を託してくれるから。だから俺のできることならやってみたいんだ。」
ペトラが大きく息を吐く鼓動も源二も感じとる
「はいはい、そんなにツバキさんとヴィットーリア王女の銘が大事なのね。」
「そういうわけじゃ。」
「うそうそ、わかってるわよ。
アンタがそう言ってくれて、少しだけ嬉しいかも。
酷い目にあってほしくないのはほんと。できればずっとあの屋敷で平和に暮らしててほしい。
でも、アンタが自分の力を他人のために役立てたいって思うなら、私はどこまでもそれについて行くわ。
もちろん、そんな生半可に国を再建できるなんて思ってない。きっとまた多くの血が流れる。
だから誓って、二度と自分で全部背負い込まないって。」
源二は静かに頷くと、2人は再び歩き出す
その距離がだんだんと近くなり二人を阻む木の影は存在しなかった
あくる日の朝、王城の前には長くの列がなされていた。
その遥か上、城の上からその列を見下ろす白髪の女性ヴィットーリアはその列の先、牽引する人物を目に捉え、笑みを溢す
「期待していますよ、ゲンジ。」
列がゆっくりと動き出し、シザーベントへの一歩を歩き始めたゲンジ達一同はいつになく深妙な顔つきをしていた。
特にゲンジ、彼は今怪鳥の顔を象ったような刺々しい仮面を口のあたりに纏っていた。
目元は暗く閉ざされ、ローブを深く着込んでいた。
この任務の間、闇の魔法を使ってはならない。新たな闇の魔法使い、ゲンジの存在をあからさまにバラしてはならない。
ツバキからそう告げられた誓約はそれもそのはず、エイレーネにはゲンジが向かうことは伝えられていない。
普通、共有地区に関する情報は密に情報交換が為される。しかし、ヴィットーリアはその知らせをシャルロットのみに伝え、本国には同共有地区の辺境伯の名を伝えていた。
実際、そのもの達も向かっており復興の大部分を担うものの、それを統括するのはあくまでゲンジだったのだ。
新たな剣聖の出現、これはヴィットーリアが昔、狂戦士が剣聖によって追い詰められたこと。ラインハルトが闇の魔法使いに対して嫌悪していること。それを見越して敢えてウェインフリートという辺境へ向かわせたことをゲンジは知ることもなかった。
灯りが差し込む白を基調とした部屋の中、6人の人物が円を描くようにして座っていた。
どれもただならぬ気配、賢崇、風格を表していた。
その中央にはラインハルト。
ワイルドな印象を覚える何個もの毛皮を纏っている男性
清潔感のあるきっちりとした見た目を思わせる美しい貴族の装いを見せる男性が横に座り、さらにその横には目元、手元、耳を覆い隠す帯に翠の髪を下ろした少女が座り、それを睨むかのように座るブロンドの女性は黒く厚いプレートを纏っていた。
ラインハルトに向かい合うようにして座る好青年は勇者ルカ、そう呼ばれる青年が座っていた。
「皆、ご苦労だった。感謝申し上げる。」
「よく言いますね、呼びつけに応じなければタチの悪い嫌がらせをしてくるでしょうに。」
青い髪をきっちり整えた貴族らしい身なりをした男性がそう答えると、ラインハルトは軽く笑みをこぼす
「こんな雑魚どもなんぞいなくとも、俺だけで十分なんだよ。」
「黙れ吠えるしか脳のない犬如きが。いい加減にしろ。」
ブロンドの女性が赤髪の男を叱咤すると、今にも沸騰しそうな強健な怒りの相貌を向ける
それを冷ややかに受け止めるように女性もまた圧迫するような視線で返している
「まぁいい、しかしラインハルト殿貴方が私たちを呼びあつめて何かをさせる。それがどういう意味を持つのかは、理解しているんですか?」
再びブロンドの女性がラインハルトに視線を向けると、特に怒るそぶりを感じさせることがないながら深みのある視線を向けている
恐らくそこらへんの人間ならばその視線に覗かれただけで腰を抜かしてしまうであろうその深みのある視線にもラインハルトはただ淡々とした目で応える
「わかっているとも。だが、これはお前達にとっても利益のある話だ。」
一同がラインハルトの言葉に耳を傾けるその空間には容易に息を吸うことさえ許されないほど圧迫された世界が流れていた
「新たなる闇の魔法使いの出現と、狂戦士の復活。」
「なんだと...失礼ですが、今狂戦士の復活と仰いましたか?」
青髪の少年が聞き返すと、その場にいた一人が息を呑む
「何か知っているようだな、ルカ。お主とて剣聖の端くれ、闇の魔法使いの前に我らに隠して良いことなどない。」
「ラインハルト皇帝、あれは貴方達の責任でもある。自分がしていることがどういうことか、お分かりなのですか。」
ルカは顔の上に深い影を落としながら、怒気の籠った視線を送りつける。
しかしラインハルトはそれを嘲笑うかのように上から視線を落とす
「ああ、その責任を取るというのだ。キングスクラウン、戦争に意図的に加勢させてはいけない其方たちが唯一その力を合わせることが命じられる宿命は、大戦の穢れの払拭と新たなる厄災を未然に防ぐこと。」
「失礼ながらラインハルト皇帝、なぜ我々の先代が倒した、いえ、貴方が倒した狂戦士が再び復活する羽目に。」
「教皇様の仕業です。」
「あ?」
ルカの一声にワイルドな見た目の男が反応する
「教皇様が狂戦士の遺伝子を持ち出して、新たな闇の魔法使いに植え付けた。僕たちが、竜の意思を植え付けられたように。
彼は戦いなんて望んでない。それを殺そうだなんて、僕にはできません。」
ルカは勢いよく席を立つと、何も言わずにドアの方へと向かう。
青年がドアノブに手をかけようとしたその刹那、戸が焼け落ちる
金属の金具がみるみるうちに誘拐し、床へこぼれ落ちると、小さい火の粉が足元に立ち上っては消えて行く。
「なんのつもりですか。」
「お前がそいつについて知ってるんじゃ逃すわけにはいかねぇ、わかるよな。」
赤髪を振り上げ毛皮が靡くその男は事もあろうに円状に釣らなく机の上に立ちはだかり、ルカを見下ろしていた。
「まぁ良いではないか。我が説明してやろう。」
ラインハルトはその後継にも動じず、余裕に笑う。
「名前は、志乃源二。またの名をゲンジと呼ぶ。ウェインフリート第三権力機関、黒鳥と呼ばれる機関に身を置いている。」
「第三権...」
青髪の紳士がこぼしたその言葉に続くように周りの空気が冷え固まる
「私たちに、第三権。いや、大戦の覇者と戦えと言うのですか。」
「ああそうだ。だが、何も第三権と戦えと言っている訳ではないのだ。ただゲンジという名の少年を殺す。それだけで良い。」
「ですが、そのゲンジという少年もまた第三権なのですよね?」
「ああ、だが彼らには今お主達の天敵はいない。クリス、第一の勇者は死んだのだ。」
その言葉に紳士的な姿勢を見せていた青年が立ち上がって、呆然とする
「まさか、どうやって...」
「アトラスを破壊する。たかがそれだけの為に死んだのだ。哀れな男め、せっかく壊れものが得た命だというのに。」
「言わせておけば...僕の父を馬鹿にするな!!」
その怒号とともに部屋のドアの前に立ち尽くしていた少年がどこからともなく剣を抜き出す
しかし、次の瞬間目にも止まらぬ速さでその剣先がラインハルトから逸らされ、地面へと突き刺さる
「下ろして。」
小さく、淡々と問いかけるその少女の落差にルカは少し息をついたのか、剣を虚空の中に開け放つ
ラインハルトはその光景に軽く鼻を鳴らす
「すまないな、お守りのようなことをさせてしまって、妖精帝」
その言葉に凍りついた空気の中に嘲笑が混じり込む、そんな気がした。
「まさか、あんたまでくるとはね、エラ。」
「剣聖として、帝としての政務を果たすのは当然。」
「あらそう、随分な心掛けね。そんなに頑張ってはその弱っちい体がもたなくてよ?」
翡翠の髪が揺れると、帯の下は苦悶の表情がこぼれ落ちる
「なぁ、ラインハルトさんよ。」
「なんだ。」
「俺もそろそろ後継を考え始めなきゃいけねぇ。めんどくせえけど若いうちから後継を作らなきゃいけねぇ、わかるよね。」
「ああ、いいだろう。もし、ゲンジを殺したらシャルロットをお前にやる。」
復権編Ⅱありがとうございました。次回は復権編Ⅲでお会いしましょう。




