第2節 3章復権編Ⅱ‐Ⅳ
のどかな景色の広がる草原の中、3人の少年達が武器を片手に向かい合っていた。
「龍弥君、その刀って出すだけでも一苦労なんじゃなの?」
そう問いかけられる龍弥は雷紋迸る片刄の剣を片手に刀身を見回す
「一度出すとなんかコツみたいなのがわかるんだよ知らんけど。」
正吾は物珍しそうに刀身を見回している
鈍い黄土色の持ち手から伸びる褐色がかった等身に鈍い光が灯りその奥には雷が走ったような紋様の雷紋が走っていた
「でもそれってどう見ても刀だよな!カッケー!俺もそういうの出んのかな」
「でもこれ、どう考えてもボロボロだろ。見ろよこれ。錆びだろ。こんなに焼け焦げてるし」
「そういうデザインなんだよ!魔法にチャチつけんなって、ファンタジーの醍醐味だぞ!」
「うるせえよ。ゲームじゃねぇんだよこの世界は。」
正吾は図星を突かれたのか異性の良さがどこかに飛んでいく。
その間に西宮和も刀を見つめる。
3人は今龍弥の生み出した固有武器とさらなる技術向上に向けて3人で特訓しにきたのであった。
「でも壊れる心配はない。この世界に、固有武器が壊れるなんて文献は存在しないし、一説によると魔法は僕たちの精神に強く根付いていて、それから具現化された武器、この刀はその精神体そのものだから、龍弥君に余程のことがない限りこれが壊れることはない。まして物理攻撃で壊れることはあり得ないらしい。」
「なんだよそれ、ちょーカッケェじゃん!」
「多分これ、源二も持ってるんだよな。」
「クロセスフロスト。僕たちを殺しにきた彼も持ってたとシャルロットさんが言ってた。固有武器には固有武器しかない。
だから源二君もきっと持ってる。あの黒い剣、きっとあれが源二君の固有武器だよ。」
「剣に刀かぁー、ロマンあるなぁ。」
「だからゲームじゃねぇつの。」
龍弥は刀を納めると、どこからともなく鞘に収まる。
「それで、どんな魔法を使うつもりなんだい?」
「わからない。とにかく、ミノタウロスとかもっと強い魔物を確実に殺せるようなそういうやつ。」
和は考え込むような素振りを見せる
それもそのはず、西宮和は頭はよくとも魔法についてはこれっきしの素人だ。
まして、この世界において紙も筆記も数少ないが故に新たな魔法の知識を十分に蓄えることはできていなかった。
「大事なのは方法論でも、確固たる歴史でもない。魔法が今ある現象を再現したり、人間がそれを真似たりするんだったら、魔法はその手助けをしてるだけだろ?だったら雷のできることは割と少ない。」
正吾は思いついたように一気に明るい顔を見せる
「やっぱ雷つったら居合でしょ!一発でバァン!アニメでもそういうのはお決まりなんだよ!な!それにしよう!な!」
龍弥は呆れた顔を浮かべながらも和は何かを考え込む
「でも面白いと思う。僕たちは戦いに関しては素人だし、戦い方なんて全くわからない。この世界の人たちに僕たちが引けを取るとすればそれは戦う覚悟とか、戦い方そのものだから、一撃で勝敗をつけられる戦い方は理想的だと思う。」
龍弥はどこか複雑な顔を浮かべながらも、西宮が言ったことは理にかなってる。自分自身もそう自覚していたのだった。
「じゃあ、それでいくか!」
「いこいこ!俺がアイデア!西宮が教えて、龍弥が働く!最強だな!!」
「それじゃあまた後でね、ペトラ。」
柔らかな声を目の前に立つ女性に向けると源二は右に立つ女性の手を取る
「バイバイ。また後でね。」
庭の先に立つ源二とエレーナの姿を見送るペトラは2人が忽然といなくなると、後ろを振り向いて歩き始める。
軽く伸びをしたり欠伸をしたりする姿は日頃面で見せている凛々しい印象とは全く似ても似つかないほど崩されきっていた。
源二とエレーナは遊郭の裏手に現れると、迷うことなく歩き始める。
昼の遊郭は夜と違って人通りが少なく、まるで誰も人がいないかのように整えられきっている。
城壁を抜け、小高い丘にたどり着くと、後ろをついてきていたエレーナとの距離が僅かに縮まった。
「あそこよね。」
「そうだよ。その、ごめんね。またこんなことさせるなんて。」
エレーナは首を横に振る。
というのも2人はエレーナの魔法について詳しいことをエマに聞きにきたのであった。
源二は激しい苦痛を味あわされるこの魔法をエレーナに使ってほしくはなかった。拒まれることを望みさえしたがエレーナは首を縦に振った。
彼女曰く、守られるだけではなくて自分も力になりたいと。
それに、自分が味わっている苦痛が少しでも分かち合えるから、1人じゃないと。
源二は大きく息を吸って吐くと、目の前には黒い木で組まれた戸が立ちはだかる。
なんの躊躇もなくそれを潜る
「きたかの、ゲンジ。」
「エマさん。」
2人を出迎えたのは小さい背丈のエルフの少女エマだった。
「人祓い界を通ってくるのは見えてたからの。どうせまたツバキに変な入れ知恵でもされたんじゃろ。」
「入れ知恵というか、エレーナさんの魔法について、何か知ってるかなと思って。」
エマは深くため息をつくと嫌なのか、いつものように宙に浮くことなく本棚に向かう
「妾も全てを知ってるわけではないのだぞ?たしかに大戦時代、そういう巫女とか言われたものは一定のものがいたんじゃが、そもそも絶対数が少なすぎて、まともなものがないんじゃよ。」
そう言いながらも本棚を漁ってはしまってを繰り返す
「それに、ガーデンは魔法の極みみたいなものじゃ。精神から出る魔法がその力ゆえに乖離して自分で自分を見る鏡になる。それが原理なんじゃが、そんなものをポンポンするのは不可能じゃ。
だからこそ、そこらの宗教ではそのガーデンに至る過程を重んじてたり、それを教えとしてるものだってあるから巫女って存在もまるで神の如く扱われてるのも多いんじゃ。だからこそ、どれもこれも言ってることはめちゃくちゃなんじゃよ。」
エマは一冊の分厚い本を取り出すと、ゲンジ達の前に広げる
「ピラーの本、これ、ピラーの本ですよね。」
「そうじゃ。ピラーのプロトタイプ、その原型となった禁呪が記されておる。奴隷魔法に服従、精神攻撃とかまぁ使って褒められれものじゃない魔法ばっかじゃが、これに似ている。
肉体を介して精神へと入り込み、ガーデンという魔法機関にたどり着くその過程は、ピラーにすべく人間に魔物の機関を打ち込む過程とこれ以上なく似ている。
それが確固たる善人か、悪人かの違いだけじゃ。」
「箱庭の巫女の魔法が、ピラーと関係が?」
「関係があるというか、その発想をもとに魔法を作っただけじゃ。関係があるというより、ただのとばっちりじゃ。」
「だから俺は、あんな簡単にガーデンに。」
「ピラーは自分と他者のせめぎあいじゃからな、当然じゃな。」
「なるほど...」
「まぁ、大事なのは肉体的な接触と精神的な融合。あとは本人の魔法が然るべき場所へ到達させてくれる。そのはずじゃ。」
「肉体的な接触...」
「性交でも、キスでもなんでも良い。互いに心を許し合って、2人が交差するときに到達できる。らしいんじゃが。」
「じゃが?」
エレーナが食い気味に返す
「お主ら、それを相談しにきたってことは使ったことがあるのじゃろ?」
頷く
「一度てきたことをすぐ忘れてしまうほどだわけでもあるまい、何故じゃ...
まぁ良い。たまのこともあるということかの。
そういえば、シザーベントの件、妾らも向かうぞ。」
「本当ですか!?」
「おう。じゃが、お主の手伝いも多少するが、目的は別にある。」
そういうと、エマの顔行きが一気に黒味を帯びる
「お主の切り落とされた左腕。ツバキから得た情報によれば、あれはどうやら、皇帝側ではなく勇者を保有していた教会側が保管しているそうじゃ。」
「その、自分で言うのもなんですけど、俺の左腕にどんな価値があるんですか。」
「別に、ただの左腕じゃな。使い方によっては。サイコパスの背中かきくらいにしかならんじゃろ。」
「じゃあなんでそんなものを。」
「お主ら、剣聖に逢ったじゃろ。」
源二は記憶の中を辿るとその姿が容易に映し出される。
白い帯にで目元を覆い、レースの手袋、耳当てのような飾りを纏った翠髪の少女。エラと名乗るその少女は妖精帝であり、風の剣聖でもあった。
「風の剣聖...エラ。」
「そう、そいつじゃ。
奴らは古くから続く決められた役割みたいなものじゃからな。
当然、ピラーのことも。いや、奴らもお主と同じ体に獣を宿した一族の末裔と言っても良い。
必ずしも魔物が入っているわけではないし、人であるというわけでもない。じゃが、奴らは等しく人によって作られたり、何かしらの加護を与えられているのじゃ。
そいつらなら、お主の中に巣食うものをあるいはお主の力を、その身に宿そうとしても不思議ではない。」
その言葉に源二はただ固まる
自分が他人に取り込まれる。
それが一体何を引き起こすのか、考えただけでも気が気でないからだ。
「じゃあ、妖精っていうのはエラさんの中にある存在の仕業なんですか?」
「奴自身の中に居るかどうかは謎じゃな。どうやってその力が継承されてきたかはその一族しか知らない秘術のようなもの。
エラ帝はその中でも特に人間とは関わりの薄い妖精族の末裔。
今は勢力こそ弱いが、人間には認識されにくい特質上、同じでさえも殺されても不思議ではない。
見ることのできない実態を持つ攻撃なんて、これ以上に馬鹿馬鹿しいものはないからの。」
「エマさんは、見えるんですか?」
「見えぬよ。昔は見えたんじゃがな。妾も感受性が乏しくなってきたのぉ。」
「いくつなんですか。」
「今のは、自殺願望か何かかの?
どうやら自分が完全無敵の帝王か何かに見えているようじゃなぁ。お主を殺す方法なぞ、星の数ほどあるのじゃぞ?」
源二は咄嗟にエマを宥めると、フンと鼻を鳴らし座る
こうした突然の出来事になると、ふと自分らしいと思ってしまう自分がいてなんだか笑みが溢れた気がした。
「だいぶ、落ち着いてきたようじゃな。
ついこの間まで、クリスがいなくなってからお主はどこか、抜け殻のようじゃったからな。」
源二はそう言われると、突然に記憶の塊が脳内に流れ込んでくる。
あくる日、星の墜落を阻止した源二はクリスの亡骸とフォールン、エマと共にエルフの森の奥へ来ていた。
アトラス中央霊廟、そう呼ばれるこの大きすぎる霊廟は雄大な自然の中に立つ戒めそのもののような異質な人工感を露わにしていた。
4人はその階段を降りて行き、その1番下にある壁を魔法で誘拐し、青くひかる通りを越え、流れる水の滴りを横目に、なんとも見窄らしい霊室にたどり着く。
しかし、見窄らしいもののそのどれもが虫一つついておらず、植物や苔の一つも部屋の中に存在していない無機質な暗室だけが4人を囲んでいた。
そこの一つ。なんの特別でもない段になった棚の一つにクリスの遺体を横たわらせる。
「人って、こんなに簡単に死ぬんですね。」
「そうだね、彼がこの世界に生まれ落ちてから、どれだけの年月が経ったのか。僕の体が朽ち滅んでもなお、生きていたからね。」
「俺、その...」
「いいんだよ、何も言わなくて。ここにいるみんなが、君を歓迎して、君のことを願っている。」
「ここにいるみんな...」
「ウェインフリート第三権力機関、世界では夜鳥<レイヴン>と言われるようになるまでに、多くもの者たちとともに戦った。人と魔族の大戦、闇の魔法使い狩り、人類から亜人種を守る戦い。そしてウェインフリート建国と、今までに。」
「そんなに長い間...」
「君が来てくれて、僕たちも救われた。君は自分を責めすぎだよ。ゲンジくん。」
「でも俺は...」
「クリスは君に託せたんだ。これからの世界と闇の魔法の未来を。君という存在がこの世界にきて、人類は未だかつてない動きを見せた。
君という小さな存在を起点に大きな世界が動こうとしてる。
だから、君がそんなに自分を責めるというのなら、君がクリスくんの代わりに生きてあげてくれ。」




