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悪夢の夜に  作者: 赤さん
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第2節 2章復権編Ⅴ

源二は幾度となく声をかけるものの、帰ってくる声はいつも同じ。源二に対してなのか、誰に対してかただ淡々と王子様と呼び、助けを求める声だけがただ淡々と返される


源二は大きく息を吸い込み、どこからともなく剣を発現させた次の瞬間、煙をかき分け、一閃の風が二人の前を襲う


咄嗟に斬りかかる鉄塊を弾き、その風が地面に着地すると、源二はその姿を捉える


翠の髪を伸ばし、目には白を基調とし、金と赤の刺繍の入った帯が巻かれ、耳には耳当てのような物、手にはレースのグローブがつけられている


「離して。その子、離して。」


女は片手に持たれた細長く、長い帯のような剣を両手に握る


「音が聞こえない。匂いも...何も...貴方、強い。」


「なんの話だ。」


「何も聞こえないのは、私が未熟だから。」


「随分正直なんだな。」


「私は奢らない。でもその分、皆んなが助けてくれる。」


「皆んな?」


「貴方は?」


「ゲンジ。」


「ゲンジ...初めて聞く。やっぱり、現世から離れすぎた...」


「現世?」


「私は妖精帝、貴方の後ろにいる子のような苦しむ魂を救いにきた。」



「だとしたら、お前の相手は俺じゃない。」


「悪党は、皆んなそう言う!!」


少女は目にも止まらぬ速さで源二に窮迫する。

薄く、軽い金属が跳ねる音が何十にも奏でられる


少女はその小さな体躯から繰り出される連撃を新たに現れたゲンジという見知らぬ男に簡単に跳ね返されると、大きく飛び退く


「皆んな、力を貸して!」


次の瞬間、ゲンジめがけて一直線に何かが飛んでくる


薄く色を持ち、単色の光が源二に食いかかる


咄嗟に飛び退き、消失しその行方を晦ますことで、全てを避け切ると、目の前の少女はすっかり体勢を整えていた。


それと同時に、源二の中に何か焦りのような、狐につままれた感覚を覚えていた。


というのも、今避けたのは殆どがまぐれのような物。

他の五感にも感知しにくいものを感じる。それを第6感と言うならば、完全にそれのお陰だと言える。

それほど、今の攻撃は源二にとって初めてと言えた。


足元に目をやると、先程自分がいたところに浅く、六箇所の切れ跡が交差し、一つの点を浮かび上がらせている。


「避けた人、久しぶり。やっぱり、只者じゃない。」


「なぜ俺を襲う。」


そう聞くのもそのはず、源二にとっては初めて会う人間に難癖をつけられて突如斬りかかられているのだ。純粋な疑問と、あまり普通とはいえない見た目に重なり疑問が深く重なっていた


それに、源二は完全に失念していた。自分がすっかり強くなって向かう所敵なしだと本気で思っていた。

殺すことになんの疑問もない。そう思う気持ちが返って源二の足元を暗く照らしていたのだった。


妖精王...全く想像がつかないその名前の前に思いつく攻撃は数少ない。ここは異世界だと、改めて思い知らされると共に、だからこそ知識のかけらも記憶のかけらもない自分には最悪の敵であることを知らせていた。



「目の前でたくさんの人を殺した。」


「奴らは俺の敵だ。」


「命は、尊い。」


「そんな綺麗事...こいつらは俺の敵だ。滅ぼさなければならないんだ!

多くの人を魔法を使うだけの人形に変え、酷使する。

お前が命が尊いと言うのなら、こいつらが死ねば、この後に続く多くの奴隷を絶ったんだ!


ピラー、こいつらがそう呼ぶ魔法に特化した奴隷は、今俺の後ろにいる獣人のように人を廃人にする。

使えないはずの魔法を使わせ、馬車馬の如く戦わせる。

こいつらの中に自分はいない。自分の中に巣食う魔物に心を喰われ、ある種の死に到達してもまだ戦わされる。

そんな技術を、のさばらせておいていい訳がない。


俺はお前のことを知らない。だが、お前が立ちはだかると言うのなら、殺す。」


源二は片手で黒く染まり切った鉄塊を持ち上げると、目の前に立つ翠髪の少女に向ける



息が肺を見たし、呼応が空気を支配する

黒が空を染め、空間のあり方さえも消失する


その気味の悪さ、今少女の目の前に立つ少年が、到底人間とは思えない、今地面にひれ伏し許しを乞いたいような激情にかられるのを喉元で堪えると、平静を装う顔上に汗が伝う



もう、使うしかないか。


少女は目元に被せられた帯に触れながら、体勢を低く、剣を構え直す



少年は足に名いっぱいの力を込めようとした次の瞬間


「ゲンジ君!」



一瞬にも満たない時の間に生まれた力が蒸発すると、二人は横目に一人の女性を捉える。



「どうして剣聖様とゲンジ君が戦ってるの!もうやめてよ!もう、もうこれ以上!やめて!!」


「ここは貴方がくる場所じゃない。逃げて。」


「逃げる?ゲンジ君は敵でも、化け物でもないわ!剣聖様!考え直して!」


「私、正しい。」


「勘違いしてる!ゲンジ君はただ、他の人を守ろうとしてるだけ!」


エレーナは瓦礫を飛び越え、まだ炎が僅かに立つ地を縫って、源二の元へ辿り着くと、大きく手を広げ、少女の前に立つ。


「剣聖様、ここでゲンジ君を討つというのなら、私も殺して。」


その言葉に、少女は固まる


「どうして。」


「ゲンジ君は、カストス教が秘密に作ってた奴隷を救うために、この街にいる奴隷の大元を殺したんです。

貴方が言った通り、命はそう簡単に奪っても奪われてもいいことじゃない。でも、綺麗事では片付かないこともある。貴方なら、それもお分かりでしょう?」



エレーナはそう言って振り返ると、源二の袖を掴み、走り出す


源二の声など耳にも届かず、ただ何かから逃げるように必死に、俯いたまま走っていった。


「ここは危ない。いこ。」

緑髪の少女もまた、横に立つ獣人の少女の手をとると、後を追った。




やがて拠点が近づくにつれ、小高い丘の上に立つ男たちのシルエットが浮かび上がる


勝利に吼えるもの、畏怖するもの様々で、物々しい雰囲気が源二を出迎える



やっと袖を離され、拘束を解かれると少年は振り返る


緑が広がる草原の中に立つ奴隷都市、どこか茶色く、黒い木を組んだ壁に木組の家、石組の建物が並ぶ街の殆どが赤く燃え盛り、黒く深く抉られている


「おい、あいつ。」


誰が言ったのか、男達が新たに現れた少女達に視線が注がれると、息を呑む声が耳に届く



「てめぇぇ!!!」



「よくも俺の仲間を!お前だけは殺してやる!!」


男達は一斉に雄叫びをあげ、現れた翠色の髪の少女目掛けて駆け出す。

しかし、その視線はその隣にある獣人の少女を見つめていた


そうなることは、想像に容易い。今源二達の横にいる男達はそのほとんどを紅蓮の少女。ピラーとなった獣人の少女に傷付けられ、時に仲間を殺された。

その怒りは計り知れない。文字通りの復讐だ。


その刹那、男達の足が止まる


妖精王と名乗る少女は剣を抜く寸分手前。

誰もが息を凍らされるような錯覚を覚えた。


「ゲンジ...君...」


「退け。戦いは終わった。一人残らず、俺が殺した。」


「殺してねぇ。あいつは、俺らの仲間を殺ったんだ!」


「そうだ。でも殺したのはこいつじゃない。こいつはただの抜け殻だ。お前は、人を殺すためだけの剣を恨むか?

みろ、あいつの指を。腕を、足を。


火属性魔法の酷使による炭化...目は虚で正気もない。」



男はグッと俯くと、源二は振り返る


「紅蓮の少女、お前を殺す。残念だが、お前に生きていく術はない。

お前を野に放てば、悪用する奴が出てくるかもしれないし、お前一人では生きていられない。」


「何のために、箱庭の巫女を連れているの。」


「何だと?」


「箱庭の巫女。数多の魔法使いをガーデンへ導く魔法を使う人のこと。

女は巫女、男は巫。どちらも魔法使いがガーデンへ辿り着くのを手助けする。」


「箱庭の巫女...」

源二は再び後ろを振り返るとその視線の先にエレーナを捉える。


「私...?」


僅かに呟くエレーナは男達をかき分け、前に出てくる


翠髪の少女もまた人垣を越え、源二の元にたどり着く


「エレーナさんは、寄生虫型の魔法だって...」


「寄生虫...それはもっと醜い。人の体に直接入り込んで貪るだけ。間違いなく、箱庭の巫女。」


「私が...」


「自覚してない。でも、魔法は使える。使えば、この獣人に会える。」


源二の中で一つの点がつながる

ツバキさんは、ここまで見越していたのだろう。ペトラや芽亜利でもない。戦闘が得意ではないエレーナと一緒に来させた理由。

ツバキさんは、ピラーの技術を完全に消してしまうつもりはない。

エレーナという一人の人間を中心に、ピラーの技術を取り込むつもり...は考えにくいだろうか。

だとすれば、今目の前に剣聖という奇妙な少女がいるのもまた望んだことなのか。


「ともかく、エレーナさんの魔法を使えば、紅蓮の少女に会える...」


「そう。なぜ、ピラーという存在を知っているのかは聞かない。

でも、それでまたこの子が帰ってくるかもしれない。

それが、ゲンジ。貴方の望んだこと。」


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