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悪夢の夜に  作者: 赤さん
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第2節 2章復権編Ⅳ

「多分、源二君が使ったのは記憶を元にした魔法だろうね。

厳密には元の世界の記憶のこと。」


「そんなので魔法使えるのか?」


暗い部屋の中、ポツンと佇む蝋燭の周りを囲むように、3人の男が向かい合っていた

西宮和はいつもの如く興味ありげに、龍弥は自分の体を触り、感触を確かめ、正吾は羨ましがるような目線を向けていた



「もともと魔法はその全てが記憶とか想像力を元に作られてる筈なんだよ。

だって、この世界でメジャーな魔法の習得方法は、魔導者って言う魔法の使い方を書き記した本を読んで実践するか、使いたい現象、自分に見合った現象を自然の中で目で見て、真似しようとしてみる。その二つがほとんどなんだ。

だから、魔導書を読むことも、実際に見た時も、もう一度それを再現しようとするのは、頭の中の記憶を呼び起こしたりしてるのと同じだと、僕は思うんだよね。」


「流石はカズやな。そんなこと考えたこともなかったわ。」

正吾は両肘を突き、足をバタバタさせていた



「その点、僕たちは法外な力を持ってると言っていい。

例えばこれ。」


和は手のひらを二人の前に見せるようにして差し出すと、どこからともなく青く煌めく炎が現れる

「すげぇ!」


これは、LPガス。プロパンガスって言う僕らが毎日使ってたガスを空気に混ぜて燃やしてるんだ。

火の温度は赤い炎よりずっと高い。

この世界の人たちはプロパンガス以前に、ガスが何かを知らない。だから僕らと同じ魔法は使えないし、そもそも気体を観測するなんて、科学が発展した何百年も後の世界にしかありえない。

でも僕らは」


次の瞬間、小さい爆発音と共に炎が拡散すると、虚空の中へ消えていった


「今のは?」


「水素。みて分かった通り、のの世界の魔法は一つの属性に纏わることなら、拡大して呼び出すことができるのかもしれない。

気体はあくまで気体だ。火じゃない。


だから、もし作り方さえ知っていれば、元の世界にあったどんな危険な兵器でも、作ることができる。そう言うことだよ。」




深い闇が支配する廊下に、一人の少女が佇んでいた。

少女は扉の横に体を預け、俯いていた



ゲンジの死が暴かれて以降、この扉の向こうにいる鏡花は完全に塞ぎ込んでしまった。龍弥君は体は動くものの安静に。ミーシャさんの傷も酷く、今は休養。

シャルロットさんとヒューノさんはシザーベントに立ってしまった...


剣聖とか言う意味のわからない奴が出てきて、全てがぐちゃぐちゃになった。

いや、そもそもなんでシャルロット達は源二君の死を隠していたのか...



「それも、殺そうとしてたのが、紛れもないあのシャルロットさんなんて...

益々、意味がわからない。」


佐伯凛は痛み出す頭の中をそのままに、俯き、しゃがみ込む





巻き上がる黒煙を切り分け、風を斬り裂くように少女を目前に捉える


「やはりお前か!志乃源二!!!」

ゲンジは咄嗟に目標を切り替え、声の主に向かう

どこからともなく黒く湿った剣を発現させる


刃が額に届こうとした次の瞬間、その攻撃が阻まれる


「嬉しいわ。また会えるなんて、源二。」


少年は目の前に立つ女の姿を捉えると、目を見開く

「お前は....」


「覚えてるかしら、貴方が殺したと思ってた女は、まだ生きてるわよ?」


ゲンジはその女の正体に見覚えがあった。それもそのはず、初めて恐怖を植え抜けられ、消えることのない因縁を挿入された相手を忘れるわけがない。


「ピラーを作っていただけのお前が、どうやって俺の攻撃を凌いだ。」


「凌いだ?痛かったに決まってるじゃない、まさか適合するなんて思わなかったわ。あれほど強力な因子を入れ込んだのに、それを越すなんて。流石は、教会に悪魔とまで言わせただけあるわね。」


「どうやって生きながらえたのか聞いてんだよ。」


「私は私に適合する魔物くらい知ってるもの。私自身のピラーの技術を移植したのよ。わからないかしら。」


「紅蓮の少女を渡してもらおう。」


「嫌よ、あれは貴方とは違って傑作なの。あれも特別な因子を埋め込んだのよ?」


源二は少女の方に視線を送ると、その先には見るも無残な姿をした獣人の少女が立ちはだかっていた。


毛並みはボサボサで、ストレスからなのか所々地肌が見え、目は僅かにしか焦点を保っていない。

無理をして魔法を行使しているからなのか、威力が高すぎるからなのか、手の末端や足の末端は炭化し、黒く硬い見た目をしている

腕はミミズ腫れのように張り巡らされた炎症が浮かび上がり、これまで潜ってきた戦いを彷彿とさせた。


「でもね、アンタも元はうちの奴隷よ。志乃源二!貴方も私に従ってもらうわ!


マニプレート!!」


女は源二に向かって手を振りかざすと、大きく唱える


深くほくそ笑み、少女の首の手綱を引っ張って源二の元へ歩み寄る


「まったくどいつもこいつも世話が焼ける。傭兵を雇っても使い物にならない。商会はアンタの暴走のせいでボロボロ!お陰で私の魔法も意味がなくなっちまうところだった!

この、グズ!」


女が腹いせに源二の胸元に拳を叩きつけようと振り抜くと、その拳が体と交差する寸前、音もなく、感触もない空気の感触だけが女を襲う


次の瞬間、凄まじい痛みと共に女は声にならない声を上げる


「お前...なんで...」


「舐めるなよ、女。」


女は恐る恐る手を自分の胸元へと持っていくと、硬い指先に触れ、鼓動を感じる。


「あ....あ....ぁ....」


背後には際ほどまでに明確に捉えていた源二の姿が黒い煙の中から立ち上がり、目の前にいたはずの少年はまるで嘲笑うかのように黒い霧の中へ消え、伸ばした手の上を煙の端が這う

女の背中から突き抜けた腕は左の胸の内側を貫通し、一つの球体をとって止まっている


規則正しく脈を打ち、全身に生気をみなぎらせるその球体が強く握りしめられると、視界が黒く歪む


「この野郎...どうやって。」


「これが俺の魔法だ。ゴミのような世界でたった一つ正しいと思える俺の、魔法だよ。」


一気に握りしめると、鼓動の悲鳴が手を跳ね返すそれを押し切り、蹂躙し、握り込むと、それは弾ける。


中からは温かみのある赤が流れ出し、伸びた指の先に熱が伝わってくる


一気に腕を引き抜くと、先程までの威勢は嘘のように地面に墜落する


源二は滴る赤色をそのままに、視線を再び少女の元へ戻す

あたりからは木材が焼け切れた匂いが立ち上り、黒煙や白煙が舞い上がる

足元はこの上なく熱い筈なのに、その少女はただ裸足で立つだけだった。


抜け殻のように立ち尽くし、目の前で起こった惨事にも動じることなくただ淡々と立っていた


「おい。」

「王子...様...」


「は?」


「たす...けて...」


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