第2節 2章復権編Ⅲ
源二は自分の発言に疑問を抱いていた。陰鬱で危険。本当にそう思うなら逃げて仕舞えばいい。自分がやらなくとも、ピラーは自滅する運命だし、自分がやらなくともフォールンさんやエマ、ツバキさんにお願いすればやってくれるかもしれない。
それでも、自分がここにいるのにはやはり理由があった。
周りに託すのではない、自分自身でケリをつけろとツバキさんに言われているそんな気がしていた。
過去の因縁、ピラーという突然降りかかってきた厄災を絶てば、あとはこの世界を元の姿に戻すだけ。そう考えるだけで、あと少し。本当に少しな気がした。
そのためなら自分の力を振おうと、強くあろうと、心を凍りつかせ、冷酷になろうとも構わない。
自分の手はもうあまりに多くの人を殺め過ぎている。自分を責めるだけで、失われた自分の形がどれだけ整い、美しかったかを容易に考え出せる。
「容赦はしない。」
小さく声を漏らすと、再びウェルマーたちいるの部屋に入る。
「それで、話は決まりましたか?」
「ああ。向こうがその気なら、こっちも本気で行く。俺がやる。」
その覇気なのか名状し難い恐怖そのもののような剣幕を浮かべていた。
誰もが竦み、芯が震え、音を立てて崩れ落ちるのを堪えるので必死だった。
大きな城の中に同じ長椅子の横に座り合い何かを話し合っているペトラと芽亜利は何か片や深妙な顔とただ虚無の表情を浮かべていた。
「芽亜利、アンタはいいの?源二と一緒にいなくて。」
「ええ。平気です。すぐに戻りますから。」
「なんか、最近のあいつ変じゃない?一緒に寝てても全く寝てる気配すらないし...」
「闇の魔法はそういうものです。闇を好み暗きに棲む。」
「平気なの?」
「疲れたら勝手に休みますわ。それか、よっぽど貴方の隣が嫌なのか。私の腕の中ではあんなに安らかな顔をしてお休みになっておりましたのに。」
芽亜利はうっとりとした表情で空を見上げるとペトラはあからさまな苛立ち顔を見せる
「でも、相手だってピラーなんでしょ?そう簡単に行くはずが...」
「ピラーはピラー、ゲンジ様はゲンジ様ですわ。貴方の言っていた最近のゲンジ様、あれは時が経つにつれ、狂戦士という存在がどんどんと定着してきた証。それと、先日の星の墜落の件、行使した魔法は当然ゲンジ様の心を蝕む。二つのことが同時に進めば、少しくらいは変わります。最も、少し命を疎かにしようとも、私は一向に構わない。いや、むしろ私と共に狩りにでも行ってくださらないかしら...そこらへんの雑魚じゃなくて、もっと手応えのあるの!あぁなんで先人は魔族を殺し尽くしてしまったのかしら。いや、もしかしたら生き残りがいたりして!それをまた殺し尽くして、その血のを浴びながら愛を誓い合うの!!」
「はいはい、くだらない妄想はその辺にして。はぁ...」
「まだ心配してるのですか?」
ペトラは俯き頷くと、芽亜利は大きく息を吐く
「ゲンジ様だけじゃない。エレーナさんも大丈夫です。あのお方がお守りになられる。
幾度となくこの世を離れ、再臨し、心を失ってまで戦う。狂気そのもの。私とて、その狂気の深淵を覗くことも許されない。私という人間がそれを許さない。
あのお方はそういう存在です。
大海の如き慈愛と、触れることさえ厭う優しさ。それを証明するような絶対的な深み。闇。深淵。
あの方は全てを穿ちますわ。自分を殺してでも。」
暗い夜道を踏み分け、二つの足音が瓦礫の間を進んでいく
女性のような二つのシルエットはまるで親子を連想させるかのような見た目で、気づけばその周りをオタクの人間が取り囲むようにして、瓦礫をかき分けていく
「さて、時間だけど。彼らは何をしてくるのかしら...」
女が虚空に声を漏らすと、吊られるように薄笑いが浮かび上がる
少し静寂が過ぎていくと、一同は大きく笑い上げる
「どうやら逃げてしまったようだな!まったく腰抜けな奴らだ。このままウェインフリートに攻め入ってやろうか。
まぁいい、約束通りあの拠点は破壊するとしよう。
おい、やれ。」
女は横にいる少女を前に蹴り出すと、女は腕をまくる。
僅かな鈍い光が灯り、それに呼応するように少女がうめき声を上げながら立ち上がると
丘の上に聳え立つ黒木の大きな屋敷に手を翳す
「ごめんなさい....ごめんなさい....」
「早く撃ちな!」
「フォルクロアフレイム!!」
虚空の中に声が溶けていくと、顔が蒸気したように熱を持つ
空を見上げ、新たなる光の誕生に誰もが勝利を確信する
熱がこもり、陣を抜けるごとにその大火が大火を飲み込み、業火が業火を征服する
天空から一陣の火の玉が着弾するも同時に火山の噴火でもしたような飛散した火球が飛び散り、幾多の線を描き出す
誰もが笑い、女もこればかりは少女を褒めるかのように薄ら笑いを浮かべていた。
虚空の中、その視線の先には1人の人物が立っていた。闇を塗り込んだような黒い髪に溶け込むような黒いベールを纏っていた。
下にいる有象無象を下に見下ろし、ただただ立っていた。
「大丈夫なんですかい?本当に1人で。」
「わからないわ。でも、ああするからには何かある。そのはずよ。」
問いかけてくるウェルマーに少年から一切視線を外すことなく答えるエレーナ
次の瞬間、全身が凍りつく
「なに、これ...」
誰もが狼狽え、跪く者さえいる。
視界が黒く霞み、空気が破裂したかのような衝撃が全身を襲う
点滅するように波が押し寄せ、引いていく。恐怖し、安堵し、また恐怖する
「フォルクロアフレイム!!」
声が僅かに耳を打つとふと上を仰ぐ
額が明るく照らされ、熱を帯びる
突然現れた魔法陣に晒されて、思わず目を瞑った。
しかし、あることに気がつく...
「なに...あれ...」
炎が飛び散るばかりで、建物が燃え上がることがない。
飛び散った火球は空気に冷やされ、やがて暗闇に飲み込まれていく。
凄まじい爆音また闇の中に葬られていく
誰もが名状し難いその光景に絶句する中、1人だけは鋭い眼差しで見下ろしていた。
源二は沸き立つ黒煙の中に立ち尽くす少女の姿を捉えていた。
少女の視線の遠く先に立つ少年は虚空の中に消え去った火球を遠く見上げる
その光景に背後に控える誰もが平伏する誰もが口を開け放つ
少年はその視線の先に立つ者たちを見下ろし、手を翳す
「誰...」
「早く守れ!」
女が叫んだのかさえも認識が及ばぬ僅かな刹那、誰もが目を疑う光景に包まれる
黒煙を巻き上がらせ、灰色の土埃と混ざる
丸い煙のベールの奥には灼熱が隆起しては鼓膜を押し抜ける爆発音に襲われる
誰もが身を伏せ、その衝撃の波の元に鼓動さえも時を止めたように感じる
エレーナが突然の爆発にたじろぎながらも、それを放ったであろうゲンジの方を再び見る
「きえた....」




