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悪夢の夜に  作者: 赤さん
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第2節 2章復権編Ⅱ

エレーナは深くため息を吐くと、端に見える患者のそばへ歩み寄る。

そこには源二もおり、二人でベットに横たわる男を見ていた。



「ごめんなさいね。」


エレーナはかけられた布団を捲ると、顔を顰める

ゲンジはただそれを淡々と見つめていた。


足が焼け爛れ、輪郭が赤黒く変色し、皮膚が腫れ上がりめくれ上がっていて変色した体液が流れ出していた。


「へへ、俺はもう終わりだよ。なぁねぇちゃん可愛いな。最後に俺に抱かれねぇか。」


「そんなこと言う余裕があるなら助かるわ。ゲンジくん。悪いんだけど綺麗な水と布を持ってきてくれるかしら。」


何も言わずに頷くと、エレーナはその間に手際良く布団を巡り、衣服をまくって傷を露出させる。

幸い炭化はしていないと軽く息をつくと、何か思い詰めた様子で男が問いかけてくる


「お前さん、あれは親方様の子だろ?」

男は源二が去っていった方向に目をやると、頷く


「じゃああの紅蓮の少女をやりに来たのか?」


「その子を知ってるの?」


「ああ、この傷もそいつにやられた。ここにいるやつの大半は単純な戦いの傷じゃねぇ奴が殆どだ。俺なんかまだ序の口さ。」

エレーナは初めて辺りを見回すと、寝かされている患者たちの有様に気づく。


皆、出血がひどいわけでもない。清潔な布の下から溢れるように体液が滲み出ていたり、炭化した足が露出していたり、半身が黒焦げになったものまでいた。


「これは...」


「全部、あいつらの仕業だ。」


「あいつら?」


「ピラーとか言うよくわかんねぇ高級取りの上等な奴隷を扱ってたグライムって名前のカルテルだよ。」


「グライム...」


「姉ちゃん、もしあの女と戦うなら気をつけろよ。あいつの魔法は尋常じゃない。」


自分が集中しすぎていたのか、エレーナは突然現れる背後の気配に驚来つつ、手に持たされた布を受け取る


「それが、お前らの相手してる奴らか。」


「え、ええ。ゲンジ...様。あいつらで、間違い無いです。」


「様はいい。その紅蓮の少女のこと、教えてくれ。」


「そう言われても、俺はただ対峙しただけで詳しいことは...獣人のちっこいガキとしか...」


「獣人...」


途端、ウェルマーがゲンジを呼ぶと、それに呼応する。

二人はエレーナをそのままに、部屋の外へ出ると、ウェルマーは源二の耳元に寄る


「ゲンジさん、その少女のことなんやけど、もしかしたら、例のオークションの時に競られたあの子かもしれません。」


「例のオークションっていうのは、俺らが見たピラーのオークション?」


「そうや。獣人の少女に火属性。そしてピラーの能力と三拍子揃ってる。あの子しかおらん!わいはまだ実物を見てないからなんとも言えねぇけど、そんな気がするんや!」


「それについては俺も同感だ...でもわからない。俺はピラーになったのに自意識だけで制御できている。魔物に精神を破壊されることが、どう本人に影響を与えてるんだ?」


「それって、ようはその子を操ってる奴がいるってことですかい?」


「俺だって、あんな小さい子を殺したくはない。それに、もし本当に操られてるんだとしたら、操っているやつを止めればいい。」



「もし、自分の意思で動いてたとしたら...どうするんや...」


「その時は...」



「とりあえず、作戦本部へ行こうゲンジさん。」


二人は並んで階段を上がると、苦痛に苦しむ声に満ちた空間を抜け、人々の声が飛び交うある意味賑やかな空間に辿り着くと、ウェルマーはとある扉の前でノックをしたのち、源二を先に通した。


「ゲンジ様。お待ちしておりました。」


そう声を放ったのは僅かに見覚えがある雅な甲冑を見にまとった男が源二を労った


「申し訳ございません。以前、貴族の反乱を治めるときに拝謁しているので、私目のことも覚えていてくださるかと思っていたのですが...」


「すいません。」


「いえいえそんな。恐れ多い。私のことより、ゲンジ様が来てくださったのは大変ありがたい。皆の者、勝機が見えたぞ。」


「勝機?」


「現在、我々は完全に二分化された交戦図で争っています。

ツバキ様率いるウェインフリート傭兵団とグライムカルテル。

我々はツバキ様とその傘下にいる方々の支援もあり、人員も武器も装備も万全。しかし、向こうは最後のピラー、紅蓮の少女がいます。」


「その紅蓮の少女とかいうのは、どういうやつなんだ。」


「紅蓮の少女は獣人で、固有武器は短剣型。恐らく属性は火属性で、魔法陣を用いた上位魔法を使えます。

それも、一撃ではなく、何発も威力の高い魔法を湯水の如く撃ってきます。」


「その他に、何か気になった報告はないか。例えば、その少女がいるところに絶対ある人物が付いて回っているとか、何か拘束具が取り付けられているとか。」


「それが...恐らく操ってるものが、いると思われます。」



「そいつは....」


男はボードに目をやると、一枚の羊皮紙を手渡す。

ゲンジはそれを受け取ると、端から丁寧に読み始めた。


文書には、このまま悪戯に傷物を生み出しては、互いの利益にもなるまい。

そこで、我々は明朝お前たちの根城を直接攻撃する。

全力で向かってこなければ、お前たちは死ぬ。

と書いてある。


わざわざ文書を送ってくるほどだ。多くの血が流れ、奴隷都市とはいえ関係のないもの達を多く巻き込み、互いに疲弊しているのだろう。



「なんか、随分と腹の立つ挑戦状やな...」



「なぜ、こいつらはこんなに勝ち気なんですか?」


「それは、恐らく紅蓮の少女の上級魔法...フォルクロアフレイムを使えるからかと...」


「フォルクロアフレイム...神話に登場するような、神をも殺す炎と伝承されている、紛れもない、炎属性の最上位魔法...」


「どうして、そんな魔法を...」


「ピラーの技術...それも、多分生半可な魔物じゃない。フォルクロアフレイムは、ペーネロペーが知っていたから俺も知っているに過ぎない。彼女でも使えない魔法だ。」


ゲンジは思考の世界に落ちると、紅蓮の少女のことを考えていた。

フォルクロアフレイム、各属性に存在する対人戦闘を考慮した際に最強と言われる魔法で、爆発魔法とも言われるこの魔法は太古、山が噴火する前兆、或いはマグマが発生する際に地下水などに触れ急激にエネルギーが変換されることによって爆発する現象がそのまま火の魔法として運用され始めたのだった。


水や岩を組み合わせる必要はなく、マグマも生み出す必要はない。ただ火の中にある温度というものを急激に変化させエネルギー変換を起こすという過程を踏むことで爆発を再現する。上澄みを掬うようなものだった。


そして当然、難易度も高い。

ピラーの技術一つだけでは、到底使うことができない難易度の高い魔法...

だとするならば、操っている術者が干渉している魔法に何かしら細工があるのか、あるいは、本当にとんでもない魔物がいるのか...あるいは、俺のような。ペーネロペーのような、ピラーの魔法から逃れた者がいる可能性がある。

俺自身も、そのピラーの魔法から逃れたうちの一人だ。

それに、ツバキさんが言っていた。もし勝てば、相手の力を全て我が物にできる。

その逆もまた然りってことだ。

高度な魔法を使えるってことはそれに伴う強力な魔物や人間がいる可能性がある



「じゃあ、ゲンジさんでも勝てない...んですかい?」


ゲンジは振り返り、部屋の外に向かって歩き始める。



「ちょっと!ゲンジさん!!」




ゲンジは階段を降りると、患者の手当てを行なっているエレーナの元へ向かった。


「おかえり。それで、どうだった?」


「その、意見を聞きたい。今、時間ある?」


「見ればわかる...はぁ、わかったわ。

そこのあなた。暇そうにしてるなら、この人の足を押さえてあげて?」


エレーナは病人を心配していた男と変わると、ゲンジを引き連れて、建物の外へ出て行った。


「何?どうしたの?」



「エレーナさん...ペトラに、秘密にしておいて欲しいことがある。」


「え?」


「もしかしたら、またあの魔法を使うかもしれない...」


「あの魔法って、まさか...だめよ!そもそも闇属性の魔法だって使うのを禁止されてるのよ!?本当だったら呪いをかけてまでも止めさせたいのを、ペトラが無理を言って無かったことにしたのよ!?

何言ってるかわかってるの!?」


「相手は、ただの魔法使いじゃない。ピラー、それも最上級魔法を使う。

俺が闇の魔法を使う理由にもなる。」


「どうしても、使うの?」


「はい。」


「だったら、今私をここで倒しなさい。あなたにこれ以上、闇の魔法は使わせないわ。」


「なんでそこまで...」


「逆に、あなたを思ってる人がどれだけいると思ってるの!?ペトラはもちろん、芽亜利ちゃんや、私をここに送ったツバキさんの面子も潰すつもり!?

闇の魔法はそう簡単に使っていい物じゃないし、相手はエイレーネとパイプがあるのよ!?いくらシャルロットさんが動いてくれてるとはいえ、ラインハルトの耳に直接入ればあなたはまた襲われるのよ!?」


「じゃあここで全員を見殺しにするか?こいつらは裏の人間だから消されてもいいと?どうせ真っ当な商売をしてないから、殺されて当然だとでも言うのか!?」


「そんなこと言ってない!私はあなたが心配なのよ!あなたを心配してるの!」


「殺しは生半可じゃない。陰鬱で危険だ。半端な気持ちでかかれば、こっちが殺される。だから...」


「だからって、私はあなたを見殺しにはできない。」


ゲンジは深く息を吸い込んで吐き出すと、エレーナの肩を掴む


「分かった。でも、本当にもしもの時は、使います。これは、俺のエゴじゃない。エレーナさんを守らなきゃ行けないし、ここにいる奴らの命を、守らなきゃ行けない。」


「貴方がそこまで追い込まれたなら、もう私の口の挟むところじゃないわ。」


ゲンジは再び木造の建物の戸を潜っていくと、エレーナは深く息を吐き出し、壁に寄りかかったまま力なく座り込む



「なに、あの感じ...何もしてこないはずなのに、ゲンジ君は味方のはずなのに...体の底から....」


エレーナは自分の肩を抱き寄せると、小さく疼くまる


「どうしちゃったの、ゲンジ君...」


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