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悪夢の夜に  作者: 赤さん
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第2節 1章女王編Ⅴ

白を基調とした広大な宮殿の正面に構える玉座の上。ラインハルトは考え込むように肘をつき重くのしかかる頭の重さを支えていた。


「剣聖を招集しろ。」

その声に誰もが耳を疑う。


「しかし...今動かれては...」


「シザーベントの統治よりも先に。ペーネロペーを再び葬らなければならない。剣聖を、呼べ。」



その知らせはすぐさま宮殿内、剣聖と呼ばれるものたちに伝えられるべく早馬が駆け出した。


その情報は宮殿の関係者だけでなくメイド達の間までにも届いていた。


「え?狂戦士ってまだ生きてるんですか!?」

休憩室で休む二人の陰のうちの一人、可愛らしい見た目をしたサラトガは隣にいるレイラに向かって問いかける


「んな訳ないでしょ。狂戦士の遺体は今もこの宮殿の地下にあるのよ?全くラインハルト様の二大言ったら処刑される秘密リストのうちの一つね。」


「え!?あれ本当なんですか?てっきうそかと...だって信じられないじゃないですか、ラインハルト様が皇女様より敵対してた狂戦士に恋したり、ネクロマンサーに興味があるなんて...」


「バカ!声が大きい!別に本当でもないけど、嘘でもないのよ!

だって信じられる?皇女様がいなくなって何十年、ラインハルト帝が色に興じてたとこ見た!?」



サラトガは顔を赤らめながら俯き、首を横に振る

「でしょ?従者セックスと暴利な税金は貴族の嗜みよ?

でも、ラインハルト様はただ一つ、大戦のことに固執し続けてる。

それだけじゃない。私たちが狂戦士って呼んでる女、その節ではサフィール家の隠された長女ペーネロペーらしいのよ。」


「サフィール家って...皇女様の!?」


「そう、皇女様は次女。貴族界では長女が家を立てるものよ?特に王族なんかは権威に縛られてるから容易にこれを無視できないわ。

それに、サフィール家は闇の剣聖がいたでしょ?」


「でも、闇の剣聖様って男の方じゃなかった?」


レイラは言葉に行き詰まると、座り直す

「ちぇーっ。それっぽいこと言えば面白そうな反応してくれると思ったのに。」


サラトガは苦笑いを浮かべると虚空に目を放つ


「でも、なんで今になって狂戦士を殺そうだなんて...」


「星の墜落。」

「やっぱり、あの日のことが関係してるのかな。」


「空が落ちてくる魔法なんて聞いたことない。

それに、空が流れる前に感じたあの波動...覚えてる?」


「え?ええ、すごい波動だったね。なんかこう、体の底から鳥肌が立ったって言うか、怖かったって言うか。凄かったね。」


「あんな魔法、普通の人間がやっていいもんじゃないわ

化け物よ。」



そう紡ぐとサラトガから言葉は出ない。


「これはあくまで噂なんだけど...」


「うん。」


「源二君が生きてるかもしれないって噂があるの。」


「え...」


「落ち着いて聞いてね、でも前の姿じゃない狂戦士を宿したんじゃないかって...

おかしいのよ。突然に教会とラインハルト様が喧嘩を始めて教皇様が宮廷で捕縛されてたり、シャルロット様が慌ただしく動いてらっしゃるそうよ。

普通、即位を控えた娘をわざわざ教皇を拉致するためだけに行かせる?余計に揉め事を荒立てるだけだとわかってて。

でも、決して他の貴族を向かわせずに身内のシャルロット様を向かわせたのには、何があるはずよ。」


「そんなことどうやって」


「なんでも知ってる人がいるじゃない」


そう言って指の先を下へ向け指すとサラトガにも心当たりが生まれる。


「なんでそんな危ないこと!」


「別に、大した理由じゃないわ。

でも、あんたがずっと仕事そっちのけにしたりぼーっとしてるから調べたんじゃない。」


「だからってそこまで...」


「最初はちょっとのつもりだったんだけど、調べれば調べるほどおかしいのよ。色々と。じゃ、話はこれでおしまい。ほら、もうすぐ鏡花さん達も戻るんだから、仕事仕事!」


レイラは立ち上がると、サラトガはそれを引き止める

「それが...これなんだけど...」


サラトガは一枚の羊皮紙をレイラに見せると、それは何かの電令のようだった。

「怪我で戻れない!?」

レイラは下に続く文字を読み続けていったのだった。





穏やかな鳥の囀りが聞こえる昼下がり、鏡花や佐伯 凛、龍弥や正吾、が鉄製のアーマーや腰に剣を携えて集まっていた。


「楽しみだねー!」

鏡花がいつものように明るい笑顔を見せる。



その近くまで、ミーシャやヒューノが馬を数匹連れてくると、皆それに跨る。


「それではシャルロット様、行って参ります。」


「気をつけてね、鏡花ちゃん。凛ちゃん。」

シャルロットは柔かに手を振ると、それに応えるように振り返す


「なんで俺の名前は言ってくれないの?シャルロットさぁぁん!」


「うるせえな、正吾」

凛が舌打ち混じりに睨むと、正吾は思わず泣いてしまいそうな顔を浮かべる


「龍弥さんも、気をつけてー!」

続け様にシャルロットが言い放った言葉により、正吾はいよいよ泣き出してしまいそうな表情を浮かべたが、それが一転して笑いに変わる

いつになくいつも通りの冒険の始まりだった。


鏡花達が揃って魔物の討伐を決意したのは昨晩のこと、シャルロットからの提案だった。


最近になって、パラトスを離れたことが多かったのか、魔物の討伐件数が少なかった。

しかし、それとは逆に星の墜落以降、ゲンジの強大な魔力によってなのか、魔物は弱体化する傾向にあった。


これを機に、せっかく剣の訓練や魔法の練習をしている鏡花達を魔物退治に向かわせることで、召喚者達の手によって新たに生み出された魔法の研究成果の実証や戦闘経験を積ませることと気分転換を兼ねて提案したのであった。




街の門を抜け、穏やかな草原を歩いていく一同はいつものごとく下らない会話をしながら、森の姿を視界に捉え始める。

「今回の目標は、イッカクウサギの討伐です。」


「イッカクウサギ?魔物ってそんなものがいるんだ。」


「僕も色々調べたんだけど、この世界の魔物って種はすごいよ。本当にゲームの世界に迷い込んじゃったみたいで。

さっきのイッカクウサギもそうだけど、アンデットと言われるゾンビみたいな奴とか、龍なんかもいるんだ。」


鏡花は興味ありげにその話を聞いていたものの、わずかにヒューノが微笑む


「もう龍やアンデッドの類は早々いませんよ。

龍族は大戦で滅ぼされ、アンデッドもエルダーリッチなどの上位種と言われる下位のアンデッドを精製する者も滅ぼされましたから。

今生まれる魔物は動物種、大量の魔素に触れて突然変異した動物が凶暴化したものが普通です。」


「じゃあそのイッカクウサギはウサギからなの?」


「うん、そうらしい。過去には捕縛した動物を魔物に変化させるまでを検証したこともあったそうだから、間違いないらしいよ。」


「なんか、ファンタジーなのに随分ロジカルなことしてるのね。」

凛が適切なツッコミを入れるものの、さらに言葉を重ねる

「この世界の人は本当に頭いいよ。大戦時代、魔法が主な攻撃手段になったことで日常に起こるありとあらゆる現象を人間の認識のしやすいよう言語化しようとする運動が起こったらしい。

つまりは、研究するって文化はここから来てるみたいよ。」



「なんか、戦争して頭良くやるのってどこの世界でも一緒なんやな。」

正吾は前の世界のことを思い出しているのだろうか、誰もその発言を咎めることも茶化すこともない。

実際、人類とはそういうものだったということは元高校生の彼らとて容易に理解できるからだ。


「でも、その研究のおかげで生活水準が高いのは確かだよ。

僕たちは戦争を経てエネルギーに対する知識を得た。この世界は魔法に対する知識を得た。でもそれのおかげで、何に困ることもなく衣食住何不自由なく揃ってる。」


「確かに。意外と快適だよね。」


鏡花が柔かに答える

「いえいえ、それは召喚者の皆様のおかげですよ。

本当に皆様の働きのおかげです。

シャルロット様も仰っておりましたが、召喚者の皆様が着手して以降、隣国のウェインフリートに並ぶ勢いで延びているそうですよ。」



「え!?ウェインフリートってそんなに凄いの!?正直、俺らの世界の方法を真似たら負けないやろ...」


「ウェインフリートは亜人種の国です。亜人種は人種と違い特別耳が良かったり、目が良かったりするので、ものの生産に関してもそう言った特徴を活かしたり、独特の風土を活かしているんです。

それに、ウェインフリートの政治体制に関わる1派、エルフの森は魔物こそ多いですが入ったら最後、そこで一生を過ごせるほど食物に溢れ、広大なのだそうですよ。」


「へぇー!行ってみたいね!凛ちゃん!」


「無理でしょ。ウェインフリートとエイレーネは分裂した国同士なんでしょ?」


「ええ、まぁそうです。」


「なんで喧嘩しちゃったの?」


「色々と問題があったのですが、戦時中。どこからが魔族でどこからがヒトとして認めるかが絶えず議論されていました。

その中で、今でいう亜人までを擁護したのがウェインフリートで、人間のみを支持したのがエイレーネ。

しかし、そんなウェインフリートは戦時中魔族側を裏切った魔族達を匿うためにすぎなかったとわかると、方向性の違いではなく対立が深まりました。

それに対抗するようにして、エイレーネは人類の立場をより厳格なものにするためにカストス教を迎え、今に至る。」


「なにそれ、お互いに屑じゃん。」

凛が淡々と切ると、ヒューノが苦笑いを浮かべる。


「幸い、シャルロット様はそう言った歴史を毛嫌いしておいでで、私を含め多くの者がこの歴史を反省として捉えています。」


「なんか、本当に王女様なんだね、シャルロットさんって...」


「そうだね、いつもは友達みたいに喋ってるもんね。」

正吾が楽しげに答える


「シャルロット様ももちろん、皆様も召喚者として大変尊きお方々です。」



「ですです!」

ヒューノだけでなくミーシャまでもが満面の笑みで頷くと、一向はまもなく森に差し掛かった。


一同は馬を森の橋の木にくくりつけると、森を歩き始める。


森に差し掛かってすぐ、ヒューノとミーシャは何かを感じ取ったように眉を顰める


「静かに...ミーシャ、感じますか?」


「血の、血の匂いがしますぅ....」


「何かあったの?」


「ええ、強力な魔物がいたり、魔物同士の縄張り争いがあったりするとこうして近くに血の匂いが充満するんです。でもそれはだいたいは森の奥地で、私たちはまださほど進んでもいません。」



「それって、まずいんじゃ...」


次の刹那、どこからともなくウサギが飛び出してくる。もちろん、ただのウサギではない。イッカクウサギ、それも血の匂いの正体なのか、口元や地面に設置している足が妙に赤黒い



「ミーシャ、気づきますか?」


「こいつ、ヤバいですぅ...」

ヒューノがミーシャと肩を並べ、剣を構える先に対峙する小さなウサギはその可愛らしい見た目とは裏腹に鮮血を地面へと落としていく


流石の鏡花たちも鮮血を前に誰も安易に飛び出すことはしなかった。


「普通、イッカクウサギは臆病で人を襲うときは決まって互いに気付かずに接近してしまうことが多い...

でもこいつは自分からやってきた...」


「でも、私たちの敵じゃないです!」

ミーシャは前へと歩みを進めようとした次の刹那、手を振り翳し、横へ一閃させる


詠唱はしない、風と風を圧縮してとある一点で左から右に流れる鋭い風とその反対に流れる風が交差し合うことで刃物のような効果を得る魔法が発動されると、イッカクウサギはそれを察知したかのように宙へ舞う。


どう考えても見えづらい風の軌道を掴むのは普通じゃない。訓練を積んだ熟練の騎士でさえ僅かな風の流れ。掴む他対応策がない魔法、それも曲がりなりにも女王殿下の側近を務めるミーシャの魔法はエイレーネの風の魔法使いの中でも5本の指に入るであろう実力はあった。


その光景にミーシャは軽くアホらしいポカンとした表情を浮かべた次の瞬間、魔物がまるで空中を足場にしたかのようにツノを盾に飛び込んでくる。


「ミーシャ!」


ヒューノが叫ぶその声が、咄嗟に振り抜いた灰色の塊が弾く音に交差する


「あぶなっ!?」

ウサギは圧倒的な体格差の前に軽々弾き飛ばされ、その軌道の先にはヒューノが居合の格好で待ち構えていた。


うさぎの体が宙を舞い、ヒューノの間合いに差し掛かった次の瞬間、まるで先程の突然の攻防がなかったかのように音もなく両断されると、鮮血が溢れることもなく、地面に墜落すると遅れて赤黒い液体が溢れてくる


ほっと一息ついた瞬間、ヒューノは怒気を含めた声で叫ぶ


「ミーシャ!鎌鼬を外すなんて何考えてんの!危なかったじゃない。」


「いやぁ、外したつもりなかったんだけど...それ以上にあのちっこいのが強かったというか...」


ヒューノはため息をつくと、血のついた剣を払い、鞘に収める


その無駄のない動きに、鏡花たちは思わず口を丸く変えながら、拍手を送っていた。


一同は再び森の奥地へ進んでいくと、ミーシャとヒューノはより一層顔の影が濃くなっていく。


「血の匂いが濃すぎる...魔物の凶暴化なんて報告無かったはずなのに...むしろ魔物の個体数が減少してるって...」


ミーシャがそう言葉をこぼすと、ヒューノに戦慄がはしる


「もしかして、魔物の個体数は減少してるけど、それってまさか...

強い魔物だけが生き残ってるってこと?」


「え、じゃあそれって凶暴化ってことですか?」



ヒューノは一瞬の隙に思考を巡らせる。

今現存する中で最も強く、遭遇する可能性の高い魔物、それは牛型。人が最も身近に飼育している牛が脱走したり、野生の牛が森の奥地に生息地を移すと生まれる魔物、ミノタウロスだった。


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