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悪夢の夜に  作者: 赤さん
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第1節 最終章 崩壊編Ⅰ

いよいよ最終章ですね。

黒を切り裂き、白い馬がパラトスへと駆け抜ける。

額には汗が流れだすも、気にも止めずに、長い金髪を駆け抜ける風へと開け放っていた。


教皇の引き渡しまでもう時間がない。この世が明け、空が再び夜になる頃には確実に何かが変わる。

シャルロットの胸騒ぎはそう予兆していた。

そして、それはほぼ的を得ているかのように他のものたちも一つの場所へと集まりつつあったのだった。



しかし、そんな状態は気もしれず。源二はすっかり白い世界に閉じこもっていた。


周りにはアレーやセレナだけでない。数人の異能使いたちが周囲を囲み、語り合っていた。


「いや、驚いたわ。みんな全く喋ったこともないのに、源二くんにこんなに興味津々だなんて。実はみんな人間好き?」


セレナは歳不相応と言わざるを得ない悪戯な笑みを浮かべると、源二は苦笑を浮かべる。


それにしても、名前も知らなければ、魔法もわからない人に囲まれるのはあまり得意ではない源二にとっても、すでに共通された精神を持ってすればすぐに慣れてしまった。

本来、人が関わりを持つ際に現れる立場の違いや、心中、趣味嗜好などを知り得ないがために時間がかかる工程を吹っ飛ばせるのだから無理もない。

しかし、それとは裏腹に外見はとてつもないカオスと化していた。


筋骨隆々で周りに気を配る女性や、いつも風のような透明な瘴気を纏い、いまいち輪郭を帯びないおそらく男性のような人物。

右腕だけ地面に垂れ下がり、筋肉の主張があるものの、それ以外の部位が全くと言っていいほどヒョロヒョロな男性などが源二の周りを囲んでいた。


それほどに、源二のもつ固有武器を破壊してしまう魔法というのは破格なのだということをこの異様使いに囲まれ、色々と聞かされるうちにそう感じていた。それほどに前例のない魔法なのであった。


しかし、ここで突然セレナが立ち上がると源二の元へ歩み寄る



「源二、ちょっといいかしら。」


セレナは突然深妙な声をかけると、源二は頷く。

すると、源二が周りに気を張るころにはすでに誰もいない白の世界が、草をはやし、空を描き、形を帯びていく。


「ここは...」


源二がそう呟くと、手前にある引き戸を引く。

ガラガラと調子のいい金属と車輪が擦れる音。

磨き上げられ、ワックスをつけて光を弾くクリーム色の床の上にはパイプを曲げて作られた椅子と机が綺麗に並べられ、正面には黒いボードがある。


源二は突然現れた元の世界の教室に驚きながらも、手前に座る。セレナと向かい合うようにして座る。


「そう、これがあなたの世界。あなたの力。

話を聞いてわかったわ、源二。」


「え?それはどういう...」


「つくづく私は呪われているのか、祝福されているのか...


ガーデンは、魔法を操る機関であると同時に、最も自分を客観的に移す鏡でもあるの。ここのガーデンは、最初にアトラスの贄となった人物のガーデンを私たちの壊れたガーデンと繋ぎ合わせることで、こうして私たちは同じ世界に生きている。

そうしなければこのガーデンは魔法を扱えるものに1つの世界が与えられるいわば精神の世界と言えるわ。」


再び情景が変わり、青いタイルに、黄色や赤の線が伸び、浮きが一直線に伸びるプールに対をなして向かい合う


「俺にはもう、想像力なんて...」

「何も、人を人たらしめているのは想像力だけじゃない。あなたにはまだ色々と残ってるわ。

それに、あなた達ならば、この運命にだって抗える。特に、源二。私の子、貴方なら。」


「俺の力って...」


「言わないわ。これは、あなたのことだもの。でもね、もし。あなたが自分の意思で自分の力を使うなら、私の娘を。今度こそ幸せにしてあげて。」


セレナはそっと手を伸ばすと、源二の頬を包む

「あなたならできるわ。私はあなたの本当の母じゃない。でも、娘の夫になるかもしれない人に、客観的に見て、あなたと言う魔法使いを観測して、そう思う。後の未来を頼むわ。源二君。」


「後のこと、頼んだわ。こんな勝手でごめんねだけど。あなたなら、きっと。」


セレナの姿がプールの中へ飛び込むとともに飛沫となって消える。

その瞬間、源二は階段の下を見下ろしていた。同じクリーム色のタイルに滑り止めの黒いゴム。所々ペンキのハゲた手すりが目に入る


「こればかりは私ではどうすることもできまい。」


源二が声の主の方に視線を移すと長い黒髪をうっすら伸ばした黒い甲冑を着た騎士が鋭い相貌を源二に向ける。



「もう気づいているのだろう。分かっているのだろう。いや、解らなければ我は倒せまい。

我が妹との悠久の時は我にとってもさぞ楽しいものであった。」


「どうして、あなたがここに。狂戦士。」


「ペーネロペー。まぁ狂戦士でも構わんが。

ここはお前のガーデン。お前の世界だ。お前はアトラスの中にいても、我はお前の中にしかいない。我にアトラスとの共通点は無い。」


その刹那、再び世界が変わる。今度は中庭らしい見た目で、一本の木を囲むように石でできたベンチの上には枯れ木が落ち、ペットボトルのゴミ箱や自動販売機が目に飛び込む。


「お前の魔法は、なんて切実なんだ。源二。

まるで、悲鳴だよ。」


「悲鳴...」


「これが、お前のいた世界なのだろう。

これがお前の強い想念...」


ペーネロペーは物珍しそうにあたりを回り始めると、源二はそれについていく。


中庭をまわり、下駄箱を回り、教室へ入る。

何度見た光景だろう。しかしこれも一年も前のこととなればどこか懐かしささえ感じる。


「ペーネロペー、俺。いくよ。」


「元より我はお前を引き止めるつもりはない。お前の命だ。我はお前に託した。」


「でも...俺は。」


「構わない。どちらにせよ私たちが再び出会うことはない。」


源二は再び頷くと、狂戦士と向かい合う。

頭の甲冑を取り去ると、金色の相貌が源二に向けられる。

少年は少し微笑むと、女も少し口元を緩ませる。



「行け。」


源二は白い光に飲まれると、共に今まで描かれていた世界が歪み、崩壊する。


幾重にも魔法陣が重なり合い、一つの幾何学模様を描き出すと眩い光に包まれて、源二の意識が浮上する。



「戻りましたね、源二さん。」


源二が重く訛りのようになった体を起こすと、その視線の先には明るく照らされた部屋の中、角に差し込む影からピンクの毛先だけが地面に刺さる陽の光に照らされていた。

「ツバキさん...」


「戻ると信じておりましたよ。最も、私だけですが...」


「ツバキさん...だけ?」


「いくらあなたをしても、容易ではなかったはず...遂に、自分の魔法を理解したのですね。」


「知ってたんですか?」


ツバキは影から妖艶な笑みを送ると軽く首を横へ振る。


「普通、2回も死して尚。生きながらえる人間はおりません。

いわば、賭けですわ。

そして、私の勝ち...」


源二は謎めいた表情を浮かべながらベットから立ち上がる。


「みんなは...」


「全てを終わらせに。」


「どこへ。」


「うーん、どうしましょう。あの子には全てを差し出させてしまったから、答えないわけにはいかないのだけれど...」


「あの子?」


「ええ、赤髪の短い子。ペトラ、と言ったでしょうか。あの子があなたのために自分の身を私に差し出したのですよ。」


源二はどこからともなく、黒のベールに包まれると、狂戦士を形取ったような鎧が体を覆う

「随分と、落ち着いているのですね。」


「ペトラは、俺のために戦ってくれている。

でも、俺は生きてる。

だから、ペトラを助けにいく。貴方からです。ツバキさん。これで、あなたの勝ちは体現された。そうでしょう。」



ツバキは珍しく声を少し上げて笑いを浮かべると陽元へと足を伸ばす


「素晴らしいですわ。失えば失うほど、あなたは強くなる。人間とはなんて脆いのでしょうか!」


「趣味が悪いですよ。人の命を弄ぶなんて。」


「弄んでいるつもりはありませんわ。ただ私も生きるために知恵を絞っているに過ぎませんわ。」


「それが、ペトラに身体を売らせることなんですか。」


「誰も身体を売らせるなんて言っていませんわ。まぁほぼ同義であることは認めますが...」


「でも俺が変わるんですから、それもなしですよ。」


「ええ、もちろん。ですが困りました。男娼はあまりないんですよ。」



「冗談はそのくらいにしてください。早く、ペトラの居場所を。」


「ええ、いいですよ。

あの子達が向かったのはパラトス。目的は、第三権の目論みの阻止と復讐。」


「目論み?」



「教皇、勇者の暗殺、及びアトラスの破壊と心中によって根源を生み出す。」


「あの世界で聞いた話...じゃああれはやはり...」



「ガーデン。魔法をあやつくことができるものであれば皆が持つ固有の領域」




「ツバキさん、知っていたんですか?」


「ええ、私は少ししか介入できませんが。見ていたしたよ。あなたのことを。」



源二はその言葉を気にも留めず、ツバキの横を過ぎ、扉に手をかける。


「ツバキさん、傷を焼いてくれてありがとうございます。

正直、ツバキさんはもっと怖い人かと思ってました。クリスさんやフォールンさん、エマさんも人の気持ちなんて考えられない酷い人だと思ってました。

でも、今は違う。僕の見る目がなかった。そういえます。」


「そうでしょうか?」


「僕には、そう思えます。

人の心は考えられないのかもしれないけど、あなた達はいつだって多くの人を救う選択をしてきた。

今度は、僕が力を貸す番です。」


「何を、するつもりなのでしょうか。」


「僕の世界も、多くの人が傷ついた時代があった。いや、今だってその延長線に立ってるし、今だって誰かが傷ついてる。

形は変わるけれど、意味も本質も変わらない。

だから、勇者とか大戦とか。そういう恨みを断ち切れるのは俺しかいない。

ただの召喚されただけの高校生に過ぎないけど、俺に託してくれた人がいるから。俺自身が、自分に向き合うために、俺はあのアトラスを壊す。」



「恐ろしや、再びあのお方に立ち向かうおつもりなのですね。

ですが、承伏しかねますわ。なにせ、貴方は私のものになった。そう易々と命を投げ出されては堪りません。」


「貸一回。ツバキさんが俺を試すために芽亜利を嗾けた時にそう言いましたよね。」


ツバキはニヤリと笑みを浮かべると、ベットの淵へと座る。


「面白いですわ。では、覚悟してくださいね。源二様?」


源二は振り返ることなく戸を潜ると少し日が傾き始めた屋敷の外に出ると、久々の晴天に眼を細める


「行くよ。」


そう呟くと、突然あたりに影が落ちる。

次の瞬間には源二はすでに音を置き去りに黒い馬と共に駆け出していた。





シャルロットがパラトスへ帰還する頃にはすっかり夕暮れ時になり、エイレーネ王都から派遣された騎士がやってきていた。


その騎士達に敬礼されるが、シャルロットは気にも留めずに叫ぶ

「白の防備を固めよ!」


そう声を上げるとその場に緊張が走り、誰もが小走りに忙しなく動き出す




シャルロットはそのまま地下への階段を降りていくと、その存在に気づいたのかミーシャが駆け寄ってくる


「ご苦労様です。ミーシャ、それで教皇様は?」


「はい!そこにいます。ただその、うるさくて...」


シャルロットは牢の前まで近づくと、にこやかな笑顔を向ける教皇を威圧するように鉄格子を乱暴につかむ


「あの聖書はなんだ!サイファー!お前は何をするつもりだ!」


「おやおや、いけませんねぇ。人の私物を勝手に拝借しては...

いくら王族といえど、バチが当たりますよ。」



「その言葉、そのまま返してやる。私達にわざと拘束されてまで、何がしたい!」


「わざと?私は突然貴方達に拘束されたのですよ?」


たしかに教皇の言っていることは筋が通っているが、シャルロットの脳裏にはなんとも不可解だった。

教皇は戦闘力は皆無だったものの、ここまで皇帝派と教会派に亀裂を産んだにも関わらずあまりに無警戒で、あまりに無抵抗で捉えられたことがかえって不気味で仕方なかったのだ。


「お前を今日中に皇帝派に引き渡して処刑してやる。」


「おやおや、いいんですか?そんなことをして。」


「何が言いたい!」


「神は厄災を残し、死す。

貴方達の信じた神は果たして、生きているのでしょうか。度重なる戦い。人を贄とし、奪い合い、殺し合う。

果たしてそんな世界に神の救済はあるのでしょうか。

皆は神を信仰しているのではない。神を信仰しているフリをして、神託された私たちを信じて止まない。疑わない。

そんな私を殺して、果たして宗教国家である貴方達はどうなるでしょうか...」



「この下衆が!」


「貴方の扱っている魔法にも関係していることですよ。

貴方は神の名を盾に戦う。詠唱にさえ登場する神の存在は果たして、本当に神より与えられし力なのか。

それとも哀れな妄想が貴方の中に力を与えているのか。」



再びシャルロットが鉄格子を叩くとサイファーは笑みを浮かべる

「いいか!今夜中にお前を引き渡してやる!」


「悔しいですか?こんな私のために貴方の民が死のうとしている。命を賭して戦うのですよ。」



「やはり、知っているのだな。」


「あの本を見られたのであれば隠すだけ無駄ですから。」


シャルロットは煮えたぎる怒りに顔を歪めながら、早足で独房を後にする


「ミーシャ、そいつを運び出す。準備して。」


階段を駆け登ると、あたりは既に暗く。闇が空を支配していた。


それと同時にとうとうこの時間が来てしまったのだという焦燥感や緊張がシャルロットの中に現れる。



城へ戻ると、王都から派遣された騎士を呼ぶ。


「今夜中にサイファーを引き渡します。」


そう言い放つと騎士の中に動揺が生まれる


「しかし、夜の間では...」


「危険は承知です。ただ今は蛮族や魔物に気を使ってる余裕はない。」



いつも見せていた朗らかで、柔らかみのある女性的な印象とは裏腹な、怒気に満ちた表情を向けると流石の騎士もその圧力に圧倒され、頷く他なかった。


「ですが、私たちだけでは...」


「僕が行きます。」


騎士と、シャルロットの視線が後ろへ向かうと、そこには勇者ルカが立っていた。


「状況によっては貴方も刑に処されるのです。護衛の頭数には入れられない。」


「ですが!僕は!僕は自分の信じることをしたいんだ!これで死刑になっても構わない。せめて...せめてこの剣に眠る源二君の為に使命を全うできるなら...」



ルカはそういうと、抜きっぱなしの剣を力なく翳した。


シャルロットは深いため息を吐くと仕方ないと言ったように頷いた


「わかりました。今は人手が足りません。もし、逃亡したら。わかりますね?」



「はい。」

勇者の額に一筋の汗が伝うが、剣の柄を握りしめると外へと歩き出した


「それでは、行きましょう。」


シャルロットが立ち上がると、城の正面へ出ていった。


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