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悪夢の夜に  作者: 赤さん
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第1節 11章 覚醒編Ⅳ

再び場所は変わり、ウェインフリートの帝都ではクリス達が机を介して向かい合っていた。



「それで、お主は源二をアトラスの中へ召したのか。」


「ああ。」


その瞬間、小さいからだから机を叩く音が鳴る

「自分のしたことをわかっているのか!彼が無くては我らの悲願は叶わぬのだぞ!」


「だから、私もここで終わらせる。」


「貴様、自分の言っていることがわかっているのか!お主が無理やり根源を生み出したとして、後は誰がそれを治める!誰が後世を担うのだ!」


「アトラスごと私は消える。

もうこの世を縛るものは無いだろう。」


「お主は戦いの中で何を見てきたのじゃ!魔法だけで無い、戦いこそが人の本質なのじゃぞ!」


「どうせ、戦いは起きる。空腹を満たす為に金を稼ぐのと同じだ。」


「やはり、お前如きに人の気持ちはわからぬようじゃな。

妾が何の為にあの戦いの後も生き恥を晒していると思っておる!

何の為にあの戦いを引き起こしたのか!」


「クリス、こればかりは僕も妾腹できない。今ここで強引に根源を生み出しては、後に僕らが治めることもできない。

ウェインフリートの政府機関ということになっている僕らは表面上の付き合いでしか無い神聖エイレーネに混乱を招き、あまつさえ教会派の兵を殺してしまった。

そこへ一方的にパラトスへ行って教皇と勇者ルカ、そしてアトラスを奪還するとなると一方的な侵略行為以外の何者でも無い。」


「しかし、好機は今だ。教皇が首都へ移送されればそれこそ、ウェインフリートとエイレーネは全面戦争。今度こそ人類同士が争い合う構図になりかねない。

ならば、パラトスでケリをつける。

たしかに戦いは起きる。だが、根源を生み出すことができれば個々の力が弱まる故、戦いが激化する可能性はない。」



「そんな保証がどこにあるんだい。第一、この何十年とあれを追ってはいるがその存在自体何なのかは僕らにもわからない。そうだろ?」


「ああ、だからここへ呼ぶのだ。こんなものがあるから、我々は永遠に争い合う。魔法さえなければな」


フォールンはなんの言葉も返すことなく、マスクの下からじんわりと静寂が漏れ出す


「重要なのは魔法の有無ではない。妾は、人間の本質は戦いにこそあると言っておるのじゃ。魔法がなくなったからと言って根本的な解決になるとはいえない。」


「ならば、再び我らが滅ぼすか、種族の全てを。魔族ではなく、今度は人を。


たしかに、人が争いを止めることはない。

国が争わなければ団体が、集団が、複数が、人が人を傷つけようとする。時に意図してなくともそれは起きる。

だが、一騎当千の力。力場を圧倒的に覆す個の存在は必要ない。


この力に頼り、他者を虐げては、歴史がまた繰り返される。

絶対的な武力の前に、無力なもの達はひれ伏すほかないのだから。

それが、人間という生物として当然なことだ。」


「魔法を奪い去り、世界が今後どうなるかは問わない。誰が統治しようと、どうなろうとも人という存在がありのままの姿であるだけで良いというのじゃな。」


クリスが頷くとエマは深く息を吸って、吐いた。


蝋燭の火がゆらゆらと黒い空気を照らしていた。


「我々も長く生きすぎたのじゃな。」


「そんなことはない。これで僕たちの役目も終わるんだろ?本望じゃないか。お姫様?」


フォールンはそう言って立ち上がると、それ以上は何も言わずに空気の中へ消えていった。









松明の明かりに照らされ、煌々と灯りが灯る白を基調とした建物。左右対称の建築物が並ぶ街にシャルロットが踏み入ると、一目散に街の中心部に位置する中央教会へ急ぐ。


辺りには既に配置されたシャルロットの部下達が警戒に当たり、ブロンドの髪を激しく揺らす姿に疑問を浮かべていた。


馬から降りると、中央教会の大きな戸を叩く

「はい。」


中からシワが目立つシスターのような女性が蝋燭を携え戸を半分開けて顔を覗く


「すまない、シスター殿。こんな時間に申し訳ないが、教皇の部屋に案内してくれないかしら。」


「教皇様の、でしょうか?」


「そうよ。」


「お言葉ですがシャルロット殿下、勝手に教皇様を捕縛して、挙げ句の果てにこんな時間に中入れろとはどういうおつもりなのですか?

いくらなんでも、非常識ではありませんか?そんな横暴なことをしては、神の裁きを受けますよ。」


「今はそんな悠長なことを言っている場合じゃないの、わかったら早く案内しなさい!」


「まぁ!貴方は神のお怒りに触れるというのですね!」


シャルロットはグッと歯を食いしばると、腰に下げていた剣を引き抜き、シスターの首元へ突きつける


「いい?あなた達の神なんて言うなんも働かないゴミなんて、この私が殺して差し上げますわ。

それ以上に、私は私の愛する民を守り抜く義務がある。

さっさと案内しなさい。」


シスターは冷や汗を垂らしながら、シャルロットを中へ招き入れたのだった。


「ここが教皇の...」


「はい、教皇様は書物がお好きでしたから。」


「アトラスに関する資料もここに?」


「ここの境界ではシスターや神父の手荷物以外、教会の書物等はこの教皇様のお部屋にございますから、あるとしたらここしか...」


「何処にあるかはわからないの?」


シスターは首を横に振ると、その様子に嘘は見られない。先程の怯えっぷりを見る限り、戦うことを知らない教会の人間が剣を向けられ、嘘をつく度胸なんてないはずなのだ。


シャルロットはため息をついて再び振り返ると、木枠組みの棚がいくつも並び、燃えやすい書物の為か、火の光はほとんどなく薄暗く、オレンジ色の光が妖しく部屋を彩っていた。


「わかりました。暫くここに居ます。何かあったら私に。妙なことをしたら、わかっていますね?」


シャルロットは念を押すとシスターはそそくさと部屋を後にしてしまった。


部屋の戸が閉められると、重い音が響き跳ね返りが部屋の大きさを一層際立たせるように重く鳴った。


「さて、何処から見れば...

アトラス、アトラス...」


シャルロットが書物を漁り始めると、独り言を零しながらページを巡っていく。

しかし、望みとは裏腹にただの伝記や魔法に関する書物、教義を説くための本などばかりだった。


「もー!全然見つからないじゃない!

こんな調子じゃ引渡しの日に間に合わないわよ!」


棚から数冊の本を再び見繕い、棚に囲まれるようにポツンと置かれた机の上に本を置くと椅子に座る。


その風にユラッと火の灯火が揺らぐとシャルロットは机の上に置いてあった一冊の本に目が留まる

聖書と言われるカストス教の教えを説いた文書や成り立ちが事細かに描かれているこの本は、本というもの自体なかなか手に入らないものであるが故に、そう容易く出回っているものではない。

宗教国家であるエイレーネも献身的な貴族は日々持ち歩いているそうだが、元より少しばかり仲が良くなかった王族のものはポーズとしてしか持ってはいなかった。


しかし、読んだことがないわけではなく、いわば聖書らしい内容と言えた。

神がいて、人がいて、厄災があって、救済があった。


シャルロットはおもむろにその本を手に取ると軽く鼻を鳴らす

「今更こんなの読んでもね。」


その途端、書斎の戸が開く音がするとシャルロットは咄嗟に振り返る。


「よろしければと思いまして、お茶を。」


先程のシスターがシャルロットの元へ歩み寄ると雅ではないがしっかりとしたカップにお茶を入れてきたようだった。


やがてそれが机の上に置かれると、シャルロットの手元を見つめた。


「それは、教皇様から奪われたのですか?」


顔に嫌悪感を伺わせる目つきでシャルロットに問いかける



「いいえ、ここに。」


すると、シスターは少し驚いた表情を浮かべた。


「それが何か?」

シャルロットが問いかける

「それは教皇様が肌身離さず持っていた物です。教皇様、つまりは今のサイファー様になる前の教皇。いいえ、私たちの神がまだ神でない時からそれはあるそうですよ。」



シャルロットは軽く興味がそそられたような素振りを見せると、シスターは再び部屋を後にしてしまう。


「この教えができる前から...原本か何かかしらね。」


シャルロットはおもむろにペラっとページを捲ると驚愕の顔を浮かべる。

なぜならそこにはとんでもないフレーズが書かれていたからだった。


"God is dies with disaster"


「この文字は何?」

シャルロットは見慣れない文字に戸惑いを表すと、再びページを捲ると再び独り言を零す

「翻訳?」


シャルロットの手の横には描かれた文字の下に新たに書き直されたものがいかにも翻訳されたように書かれていた。


「以下を日本語で示す...日本語?日本って...鏡花ちゃん達の世界の言葉よね...なんでこんな本に...」


女はその本に釘付けになると、途中から顔を青ざめたように読み漁る


「異能使い、召喚魔法で呼び寄せられた鏡花ちゃん達がこの世界へ来たのは偶然じゃないってこと?」


さらに、シャルロットは目を見開くものの、頭を振るとページを読み進めていく。



「あった!アトラス。擬似固有武器の誕生...

固有武器のみならず、魔法そのものにはガーデン<箱庭>が存在する。

ガーデンは己そのものであり、魔法という存在を通して見る自分という他人を観測するものでもある...ガーデンって、なんなの?」


シャルロットがさらに視線を移していくと次々と襲いかかる現実にシャルロットは息をすることさえも忘れそうになりながらも読み進めていく。


魔法を司る機関は理性を持つ者のみに与えられる力ではない。

ガーデン、イデアの世界に存在する根源と繋がる世界を持ち合わせる者にのみ与えられる。


イデア、現実と並列する別次元の世界は魔法を現実へ呼び出すきっかけを作り出している。


ガーデンは魔法を使えるものが持つ固有の世界。固有武器が魔法使いを体現する表象物だとするならば、ガーデンはその根底に位置にする魔法に観測され、存在する本人そのもの。

自分を最も客観的に観測できる自分が存在する世界だということ。


擬似固有武器の製作はガーデンを擬似的に生み出し、何者かの存在をベースに作り上げなければならない。

そして、贄となるものは固有の箱庭を開け放他なければならない。


「だから、ピラーなのですね。」



「アトラス第一の贄、アトラスそのものであるその人は、未観測魔法...ザフォールンワールド...終局点魔法?なんですの、さっきから次から次へと...」



「終局点魔法...世界を終焉へ導く大魔法。

この物語が終わりを告げる時、神は我らを嘲笑い、根源は根源によって滅びるだろう。」


「終局点...そんな魔法聞いたこともないわ。でも当たり前か、それが使われたら世界が滅びるってことが本当ならまだ使われたこともないんでしょ。いわば未観測魔法...」


ザフォールンワールド<失墜する世界>は世界誕生の祖、天体球同士の衝突を引き起こす魔法。

内容は神によって引き寄せられた二つの星が合わさることによってこの世界が誕生した。

この魔法はどうやらそれを人間が再び再現しようとする魔法らしい。

つまりは隕石落とし、これがアトラス誕生の第一の贄となった者の異能だった。


どうやら、アトラスの贄となるには異能使いでなくてはならないらしい。


「異能使い、他に類を見ない魔法を操る者たち、私の母上も...

しかしそれは異能でなく、いわば闇の魔法使いの派生系...

アトラスはガーデンの世界にある領域が重要であるが故にそこに侵入する為には自分の精神体がその領域に強く干渉しようとする力が必要になる、闇の魔法使い、及び派生系はその特質上、多くが人間という種の持っていた機能の拡張型やとある現象に強い想念を抱いてしまった者が持つ者と言われている...

なるほど、闇の魔法。最も人間らしいと言われる矛盾がなんとなく理解できましたわ。


つまり、ピラーはこのガーデンという領域を侵入されることで、固有の領域ではなくなる...でも、闇の魔法使いや異能使いはガーデンに対して他人より強い繋がりを持つことが多いから、アトラスに吸収されて以降アトラスを通して自分の魔法を行使できる...

そして、ガーデンの中で永遠に生きている...心が体から離れた状態で...


なんなのよ、これ。」


シャルロットは額に汗を滲ませながら、咄嗟に本を閉じると、少し肩で息をしていた。


思わぬ同様に自分自身も驚きを露わにしていると、その刹那。シャルロットの思考が巡る。


「仮に、これを知っていたとして。」


仮に、初代勇者や第三権がこれを知っていたとしたら、これまでの行動が恐ろしいほどに理解できる。いや、彼らは知っているのだ。この真実を。


だとすれば、狙いは教皇なんかじゃない。アトラス。その武器をなんとしても無力化しに来るはず、そうじゃなきゃわざわざピラーのことに頭を突っ込んだりはしない。


でももし、その終局点魔法が使われでもしたら、それこそ...


「こうしちゃいられない。早く戻らなくては!」

シャルロットが席を立つと、その本を手に取ろうか迷いだす。

流石に良心が痛むのか、他人の私物。それも教皇の、教義を説いた大事なものを盗むような行為はしてはいけない気がしたのだった。

少し読んだだけで自分の知らないことばかりの本だった。正直を言えば全てを知ってしまいたい。

それでも、シャルロットにとっては街の民のことの方が重要なのであった。


覚醒編ありがとうございました。かなり重量のある話だったかと思いますが、いよいよ次で最終章の崩壊編です。

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