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悪夢の夜に  作者: 赤さん
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第1節 11章 覚醒編Ⅲ

暗い部屋のなか、ペトラは一人の少年が横たわるベッドの端に腰掛け、安らかに眠る顔と髪を撫でていた。

体温が下がることはなく、サラサラの黒髪も衰えることなくその形を保ち続け、とても死んでいるようには見えない。むしろ睡眠をとっているかのような表情を浮かべていた。


「ペトラ?」

エレーナが心配そうに部屋の端から声をかける


「本当に、いくの?」


「ええ。もう覚悟はできてる。国のことなんて、私にとってはもうどうでもいい。」


「あなたがここで死んでしまったら、生かしてくれたあなたのお母さんやシャルロットさんを裏切ることにもなるのよ?」


「わかってる。でも、私はみすみす大切な人を失うために戦ってきたわけじゃない。私は源二のしたかったことをする。それでいいの。」


「第三権に手を出すなんて、正気じゃないわ。とてもあなた一人で戦えるような人達じゃ。」


「それでも構わない。でも、一発でも食らわせなきゃ、私が私を許せないの。」


「ペトラ...」


「ごめん、エレーナ。友達失格よね、あたし。

源二の為に戦うのに、今度は貴方を見捨てることになるのに、どうしても譲れない。」


エレーナは首を横に振る


「ごめんなさい。でも、私が貴方を責めることはないわ。それが友達ってものよ。」


「ありがとう。」


ペトラは立ち上がると、その行手を阻むようにして一人の女が戸の前に立つ。


「なりませんわ。お二人とも。」


「退いてください。」

「あら、そんなに恐ろしい形相を浮かべてはせっかくのお顔が台無しですよ。アンリの子。」


「ツバキ、さん?そこを退いていただけませんか?」


エレーナが丁寧に言い直すと、ドアの前に立つツバキは妖艶な笑みを浮かべるとそれに応じない素振りを見せる

「私がここを通したとて、あなた達が第三権、引いてはクリス様に辿り着くことはありません。」


「どういうこと?」


「彼はもうこの国にはいませんから。」


「知ってるの?あの人の居場所を」


「ええ、なぜそこにいるのかも知っていますよ。」


「教えて。」


「教える?私があなたのために?身の程を弁えてないのかしら。」


「何が欲しいの。」


「それは貴方が決めては如何でしょうか。」


「貴方、裏の人なんでしょ。いいわ、もし私が無事で帰ってきたら好きなようにして構わない。売りでもなんでもやってやるわ。」


「堕ちるところまで落ちるつもりですか?」


「どのみち私に選択肢なんてない。全て失った今じゃ、生きてる方が辛いわ。」


「いいでしょう。私も貴方のような子が仕事を手伝ってくれるなら、その対価には見合いますわ。」



再び、含みのある笑みを浮かべるとゆっくりと口を開く。


「彼らはパラトスへ向かいました。」


「パラトスへ...」


「ええ、勇者の生み出したといっても過言ではないこの穢れに終止符を打つと。彼もまた、本気のようですわ。」


「そんなの嘘、確かにあの人は勇者だったかもしれない。でも、何故一度手放したアトラスをもう一回手に入れに行くの?」








ペトラは立ち上がると、その行手を阻むようにして一人の女が戸の前に立つ。


「なりませんわ。お二人とも。」


「退いてください。」

「あら、そんなに恐ろしい形相を浮かべてはせっかくのお顔が台無しですよ。アンリの子。」


「ツバキ、さん?そこを退いていただけませんか?」


エレーナが丁寧に言い直すと、ドアの前に立つツバキは妖艶な笑みを浮かべるとそれに応じない素振りを見せる

「私がここを通したとて、あなた達が第三権、引いてはクリス様に辿り着くことはありません。」


「どういうこと?」


「彼はもうこの国にはいませんから。」


「知ってるの?あの人の居場所を」


「ええ、なぜそこにいるのかも知っていますよ。」


「教えて。」


「教える?私があなたのために?身の程を弁えてないのかしら。」


「何が欲しいの。」


「それは貴方が決めては如何でしょうか。」


「貴方、裏の人なんでしょ。いいわ、もし私が無事で帰ってきたら好きなようにして構わない。売りでもなんでもやってやるわ。」


「堕ちるところまで落ちるつもりですか?」


「どのみち私に選択肢なんてない。全て失った今じゃ、生きてる方が辛いわ。」


「いいでしょう。私も貴方のような子が仕事を手伝ってくれるなら、その対価には見合いますわ。」







「要はどのようにしてアトラスを手に入れるか、あの方とて勝手にこの世の構造を捻じ曲げる暴挙をするわけにはいきませんから。」


「何を、するの?」


「偽りの記憶を塗り替える為に、教皇及び勇者そのものを亡き者にする必要がある。」


「自分の子供を殺すってこと?」


「おっしゃる通りですわ。」


「そこまでして何がしたいの?」


「これ以上は教えられません。」


「私を甘く見ないで!」


ペトラが怒気に満ちた声を張り上げる。それもそのはず、今ツバキはペトラの身体と引き換えに情報を伝えているにもかかわらず、最も大事な根端を教えてくれなかったのだ。


ペトラは一瞬だけ握り拳を作って怒りを露わにするも、すぐにそれを収めてしまった。


この人たちにとって、人の人生なんてそんなものなんだ。


ペトラがそう自分に言い聞かせると、何も言わず、ツバキの横をすり抜けていった。




薄暗い地下牢、硬い石の上に滴る水の音と、重い金属が軋む音が響き渡る。

シャルロットが治める騎士団のメンバー、ヒューノは落ち着かない様子でチラチラと牢の方を見ていた。


「そんなにジロジロ見なくとも、私は逃げたりはしませんよ。神がそれを望んでおられるのです。」



「でも、シャルロット様には目を離すなって。あぁ!囚人と喋っちゃいけないんだった。」


ヒューノはアワアワと落ち着きがない様子でコツコツと地下牢を歩き始める。


「勇者、人から生み出された最強の兵器を最も恐れているのは誰だと思いますか。」


「ちょっと、喋らないでください!」


「それは人ですよ。幾多の争いを戦い、魔物を屠った者達の後に残るのは人類から向けられた恐怖だけ。」


「う、うるさいです!静かにしないと切りますよ!」


「囚人を斬りつけては次期女王の名が泣いてしまうのではないですか?」


「もー!私あなたみたいな人嫌いです!」


「人の心を自由にできないのもまた、神の思し召しですよ。」


「うるさいですー!」



地下牢に二人の声が響く中、シャルロットは王座に座り足を組んで思考の世界に意識を落としていた。


再び勇者はやって来る。なんと無くそんな気がしてならなかった。


源二達召喚者が現れて以降、ウェインフリートの動きが今までにない程に活発化しているし、ゲンジを倒したあの男が勇者であることはともかく、彼らの教会に対する執着は普通じゃない。

教会側はまだ出してないカードがあるのだろうか。何十人もの人柱を我が物として、これ以上何があるというの。


だとしたら、鏡花ちゃん達には一度王都で待たせる方が得策なのか...

でも、すでに出発しているはずですし近隣の村や町に寄ってからゆっくりくると言っていましたからまだ猶予はある。



シャルロットは虚空に向かって手を叩くと、少し時間を空けてミーシャが入室してくる。


「私は調査のため、教皇領へ向かいます。」


「いけません、シャルロット様!」


「いいえ、これは私達王族が片付けなければならない問題。

私こそ考えが浅かった。勇者という存在がただ人類を導いてくれる存在としてあり続ける者だと勘違いしていました。」


「シャルロット様、その。何が言いたいのですか?」





「時が経ち、この世界が我々人類のものになり、居なくなったはずの初代勇者が他国に潜伏し、今のウェインフリートを独立させ、挙げ句の果てにゲンジ、闇の魔法使いを救い出したのには何か裏がある。

それだけではない。私たちは今、まるで大戦の延長戦の上に選択を迫られているようなきがしてならないのです。

せめて、せめて教皇引き渡しの日までに何か分かれば。」



「わかりました。そこまで言うのなら、このミーシャこの身に変えましてもパラトスをお守りします。

シャルロット様にも神のご加護がありますように。」


「ありがとう。でもミーシャ、もう神の名を語ることは辞めなさい。いいですね?」


「すいません、私としたことが。」


シャルロットは微笑みを浮かべると、その部屋を後にしたのだった。


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