第1節 11章 覚醒編Ⅱ
ウェインフリート帝国第三権力機関、その前身は人類を担う初代勇者、クリス。彼の目指す根源はいわば魔法の集合体と言われています。
彼らが目指すのはその魔法の結晶をこの世界に再び生み出すこと。
闇の魔法使いが死ななければならない理由は、この根源を生み出す為だと言われています。」
「根源を生み出す?」
「光と闇の力が拮抗し合い、互いを牽制し合うことで根源から遠ざけられていた状況を、闇の魔法使いの絶対数を減らすことでこの均衡を壊すことで、根源を呼び出す。
ですが、それだけではありません。彼らはその根源を破壊する。いわゆる、この世界から魔法そのものを消し去ろうとしているのです。」
「そんなことが...」
「一見、戦いは人類側の勝利に見えましたが、実際のところ一部の人間達の思う通りにことが進みました。
ですが、闇の魔法使いを殺して回るには時間がかかり過ぎた。
やがて時代が変わり、闇の魔法使いという存在は歴史上の存在とされ、根源を生み出す必要なんてないほど戦いが治まってしまった。
良いことなはずなのに、私達の尾を引き続けた。」
「あなたのお姉さんも...」
「私達はとある貴族に過ぎなかったんです。
二人とも女でしたから、どこかの家に嫁がされるごく普通の貴族の娘でした。
ですが、姉は禁忌の闇の魔法を発現させ、私は異能使い。
世界にとっては忌み子のような、世界に否定されたような気分がしました。
男は私に擦り寄り、姉より私の方が優れていると中傷する。
だから姉は幼少の頃から男性のように振る舞っておりました。
そしてある日、運命が変わった。
王族である、今のラインハルトに出会いました。
彼は剣の一族でしたから、武者修行の一環で剣の稽古をつけてくれる師を探していたところに、私の姉と出会いました。
しかし、長い年月をかけて過ごすうちに戦いはみるみるうちに激化、やがて闇の魔法使いを殺す戦いになると、まだ少年だった彼は持てる限りの力を使って姉を隠しました。
そこで、私と彼が結婚すれば闇の魔法使いはいなくならなくて良いと、そう思いました。
でも、それは所詮子供の空想に過ぎない。
王座につけば民達の声、教会派の世界平和を体現するために力を貸す。
結局のところ、私達が姉にできたのは闇の魔法使いを殺させ、せめて私たちの手で彼女を殺すこと。
そして、次は私。
闇の魔法使いの肉親をのさばらせるわけにはいきませんもの。
私も当然殺されました。ですが、ラインハルトはせめてもと、私の心だけを残して...」
「じゃあ、俺の体の中にいるこの人は...」
「ラインハルトにとってはとても大事な人ですわ。」
そう言い放つと、アレーは俯きセレナは顔色を変える。まるで二人の意見がいきなり食い違い、立場が変わってしまったように二人の間に何かを感じる。
「ですが、それは勇者とて同じ。
人に造られた勇者も人の代わりに人を滅ぼした。人ではない者が人類の未来を考えた結果、根源へ至る道へしかないのだと...
ですから、それは私達とて同じこと。瀕死の狂戦士の体から魂を引き摺り出し、ここへ封印する。
勇者が滅びる時、この剣もまた滅びる。
かの勇者が全ての闇の魔法使いを葬り、ここへ封印し、最後は自らが命を絶つことで根源へ至る。
そして、人類は救済される...」
「救済...」
「ですから、あなたがここへきたこともまた決められたことなんです。源二くん。」
「セレナさん...」
「できれば、この目であの子の晴れ姿を見たかった。あなたと言う素敵な方の手をとって。」
「そんな、素敵だなんて。」
「確かに、見てくれはそんなにですが。私は知っていますよ。忌み嫌われる存在である闇の魔法を背負い、それでも運命に抗おうとした方を称賛しない理由はありません。
それこそ、世界を相手取る戦いなのですから。」
「でも、結果的に俺は...」
「これからは、あなたが決めることです。」
「え?」
「正直、この世界はもう穢れきっている。そう思いました。ですが、私が起こした騒動のせいで、少しこの世界に希望が見えた気がしたんです。
あなた達が手を取り合う姿が...」
セレナはカップを置くと、空を仰ぐ
「他の世界の力を借りるほど、汚れきっていた。でも、あなた達が抗うほどにこの世界にあった怨恨が和らいでいる。そんな気がするんです。
あなたが抗うことで、私たちは同時にこれまでのことを問われているのです。この世界の過去の選択について。」
「でも、闇の魔法って魔族が使ってたんですよね。それなのになんで人間らしいって...」
「正確には魔族以外にも使えたけれど、そこにも誤解がある。
さっき、人の認識によって闇の魔法が生まれたと言う説を話したじゃない?あれが魔族に対する畏怖と結びついたとか、そう言うことらしいわ。」
「そんなことで魔法って変質するんですか?」
「魔法を操る機関、ガーデンと言われるこの世界があるように、創造を具現化する力を魔法と呼ぶのよ。一人ならともかく、人類全体から恐れられるならそんな現象が起こっても不思議じゃない。闇と言う人間が本能的に避けたがる衝動と悪と言うイメージが結びつき、やがて闇が邪悪の象徴としてみられるようになった。すると人々はもともと魔族しか恐れてなかったのが闇そのものを恐れるようになる。そんなところじゃない?」
「闇が怖い...」
「ほら、ちっちゃい頃とか暗いところ怖いでしょ?
人間は夜行性の動物でもないし、暗いところに対していいイメージがないのが長い年月をかけて怖いって言う概念に固定されて、元々イメージから生み出された闇の魔法が変質しちゃったーってことよね。」
「すごくざっくりだけど、わかりました。」
「本当にお詳しいんですね、セレナ様。」
「褒められたことじゃないわ。ほんとよ。」
セレナは苦笑を浮かべると、カップを再び傾けると深いため息を吐く。
貴族にしては端無く、身なりに合わない行動も王族であるアレーが咎めることはない。
この世界はこれだけ退屈なのかもしれない。
今でこそこうして自分は他の人たちと話すことで少しずつこの世界を知り得ることで退屈を凌いでいるが、彼女達や他の人たちはずっとこの状態で時の経過だけを感じているのだろう。
「セレナさん達は、どれくらいここに?」
「何十年くらいかしら。まだあの子が幼かったから。」
すると、源二の脳裏に疑問が浮かぶ
「セレナさんって俺たちをいつ召喚したんですか?何十年もこの中にいたのに...」
「召喚魔法は難易度がアホみたいに高いから、発動するのも遅いのよ。」
「でも、何十人も召喚してセレナさんは大丈夫だったんですか?その、心がなくなる代償は...」
「ん?ダメに決まってるじゃない。だから、こうしてアトラスを通して外界を見ていないと、今にも自分を見失いそうよ。
もう自分の娘の顔さえ思い出せないと思ってた。正確には思い出せてないけれど、こうしてあなたを通じて出会えた。事実上の娘でしかないけれど、かけがえのない宝物よ。
だから、私が覚えているのもここまで。私があなたのために伝えられるのはこれ以上ないの、ごめんなさい。ほとんど忘れちゃった。」
「いえ、そんな。話してくれただけでも...」
「そうですね。健康で天命を全うした者など私くらいですもの。消えてしまうのも仕方ありません。
私の姉が何もかも忘れてしまったのと同じですもの。」
「ペーネロペーさんって、どんな人だったんですか。」
「うーん、殿方みたいな女性でした。懐が深く、思いやりがありました。
いつも私を気にかけてくれていて、私が戦わなくていいように全ての露を払ってくれましたから。
ですが、最後は何もかも忘れてしまいました。
私のことさえも。最後に口にしたのは、呪いのような言葉。誰がこの戦いを引き起こしたのか、それだけが彼女の言葉でした。
姉のことです。よほど辛いことがあったのでしょう。
辛かったです。最愛の姉をこの手にかけるなんて。」
源二はとんでもないことを聞いてしまったと思いつつもその言葉を受け止めていた。
心の中に冷たい水が流れ込むように、今自分の右にいる女性の心の嘆きが水のように注ぎ込まれる感触を覚える
「受け止めてくださるのですね。源二さん。」
「わかりません。でも、この痛みが...」
アレーは口元を隠しながら笑う
「ごめんなさい、つい思い出してしまって。」
「いえ、そんな。俺は家族が亡くなったことはないですけど、当然だと思います。
俺なんて、元の世界に戻れないことだけでこんなことになってるんですから。」
「なおさら、セレナさんには迷惑をかけられてばかりですね。」
源二は苦笑いを浮かべながらも首を振る。
とても、迷惑だなんて思ってない。それは本心だったからだ。この世界に来て、自分は間違いなく変わった。変わってなかったとしても、変わろうとする決意をさせてくれた。
もし、あのまま自分が誰かに縋ったまま人生を歩んだら自分は遅かれ早かれ、ダメになってたのかも知らない。そう思うと、セレナを責める気にはなれなかった。
「セレナさん、召喚魔法ってもう使えないんですか?」
「え?使えるけど、元の世界には戻れないよ?」
「そうなんですか、てっきり...」
「あれは一方的に呼び出すだけ。だから向こうからあなた達を引っ張ってくれる人がいなきゃ戻れない。
それに、召喚はその存在に縁がないとパスと言われる繋がりみたいなものが保たれないから」
「繋がり?」
「召喚魔法だけじゃ無くて、他の魔法も魔法を使う時その魔法を想像したり、呪文を唱えたりするでしょ?
召喚魔法はそれをもっと強く感じている必要があるの。
どんな大きさで、どんな存在で、どんなものなのか。思い浮かべて、口に出して、渇望する。そうすれば、世界を超えて私の元に呼び寄せられる。これが召喚の感覚かしら。」
「渇望する...」
「思いが強ければ強いほど、その想像に近いものが出てくるってことよ。」
「なんか、ここに来てからなるほどってしか言ってませんね。」
「そうね、でも当たり前よ。逆にあなたは無知すぎるくらいでよくこれまでやってきたわ。まぁ死ぬのは2回目らしいけど、命がいくつあっても足りないわ。もう死んじゃってるけど。」
二人は向かい合ってクスクス笑うと、源二も思わず口角が緩む。
「でも、わかっているのでしょう?源二くん。」
「え?」
「君が、何をすればいいのか。」




