第1節 最終章 崩壊編Ⅱ
そして、城の階段を速足で駆け降りる姿を見る姿があった。
冷たくその姿を見下ろす白髪の男はどこかその姿を遠い目で見つめる。
やがて馬車が動き出す頃には、そこには3人の姿がなかった。
隊列を牽引するシャルロットは走りながらも、額に伝う汗を拭うことなく警戒を強めていた。
そして次の瞬間、まるで何か世界が変わったような、薄い膜のようなものを通ったように不自然な風の流れを感じとる頃には、目の前に一人の人物が立ちはだかっていた。
「初代勇者...」
シャルロットがそう口ずさむ頃には、視界の外から一人の青年が颯爽と飛び込んでいく。
「ダメ!」
その叫びが届くはずもなく、重い鉄が弾かれる音でかき消される
その鉄は幾重にも弾かれ、睨み合う
「貴方は源二君を殺してまで、何がしたいんだ!」
「貴様にはわかるまい。人間の愚かさなど!」
ルカが柄に力を込め、一気に鉄塊に力を与えようとしたその瞬間脇腹に鈍痛が駆け抜ける。
少年は顔を顰める
源二によって与えられた傷に骨が軋み、肉が悲鳴をあげる。
それでも気に留めることなく一気に振り抜くものの、一瞬の気の迷い、猶予が命取りとなる戦いではこれ以上不利なものはない。
いとも容易く手元から弾き落とされると、ルカは無理やり体勢を整える
「モービラス!」
その叫びと共にクリスとの距離を置くと、二人の間には煌々と白く輝く剣だけを置き去りにしていた。
「答えはこれか...」
クリスがそう声を零す
「僕は、人間だ。自分の信じた道を生きたい。」
「だが、その願いは毒だ。誰も終末の力を持つものを歓迎などしない。
残るのは畏怖だけだ。
新たなる世界に、私たちは要らない。」
クリスはアトラスを手に取ると、より一層強い力でルカとの距離を詰める
既に剣を取られてしまったルカには反抗手段などない。
両手は開け放たれ、まだ脇腹にはワタを穿り出されるような激しい鈍痛が支配していた。
「いくよ!」
クリスの切先がルカの元へ届くその瞬間、どこからともなく、新たな剣が発現する。
アトラスほどの太く、厚い抜き身ではなく、これ以上ない直線で、まるで途中で折れてしまったかのような断面さえ見せる真っ直ぐながらも歪んだその剣が現れると、アトラスを弾き返す。
しかし、瞬く隙もなく突然自分の体が動かなくなってしまう。
「あ...う....あ」
口から出る言葉は意味を紡ぐことなく、自分の体から伸びる赤黒い剣身を視界に捉えていた。
「お前はまだ未熟だ。我が子よ。お前の望みも世界さえ違えば叶ったかもしれない。」
「僕は...僕は!」
次の瞬間凄まじい衝撃と共に、鮮血が弧を描く。
周りにいたものが目を見開き、その光景をまるでこの世の終わりのように見据える他なかった。
「殿下!お逃げください!ここは私達が!」
シャルロットの前にはミーシャなどの騎士たちが囲むものの、シャルロットの相貌はクリスだけを見つめていた。
「貴方、何をしに来たの。何が望み?」
しかし、クリスは答えない。
「ウェインフリート第三権、これは明らかな侵略行為よ。
せっかく独立を遂げたのに、また戦争を起こしたいのかしら。」
「戦争?そんなものは起こらない、根源を生み出し、人類は本当のあるべき姿を取り戻す。」
「まさか第三権がこんなにも頭のおかしい人達だとは思いませんでしたわ。」
しかし、クリスは挑発に乗ることもなく再びシャルロット達の方へ歩き出す。
距離が縮まり、騎士団に緊張が走る。
次の瞬間、ミーシャが切り込む
鈍く光る灰色の剣身がクリスの首元めがけて弧を描く
しかし、それが当たることはない。
まるでこの世のものでは無いかのようにクリスは避ける素振りも見せず、ただ位置が少しずれていた。
そして、ミーシャがその反動で動けなくなっている僅かな時の間にクリスの相貌はまるで虫を払うかの如く冷たい目でミーシャを見据える
剣が月の光を浴びて輝きを帯びる。
女の額を汗にも似た痺れと悪寒が駆け抜ける。
手に力が込められ、薙ぎ払うように剣が残像を帯びて軌道を生み出す。
ミーシャが目を瞑った次の瞬間、耳をつん裂く激音に晒され、ミーシャの意識が覚醒する。
咄嗟に後ろに飛び退くと、そのすれ違いざまに目に飛び込んできたのは鮮血を浴びたように真っ赤な髪に、まるで処刑道具のような禍々しい波を打つ剣身を携える美少女だった。
「邪魔だ。」
互いの力が擦れ合い、僅かに揺れる剣を介して、ペトラとクリスが睨み合う。
「退くわけ、無いでしょ!」
ペトラが剣を跳ね除けると、更に前に踏み込む。
怒りで我を失っているのか、普通じゃ考えられないほど強気な姿勢を見せるペトラにクリスが圧倒されているようにさえ見えた次の瞬間。
再び剣が交差する次の瞬間、再びクリスは幻影のように消え、全く違う角度から攻撃を繰り出していた。
しかし、ペトラはいつの間にかその軌道の先にクリスを捉え、目にも止まらぬ速さで振り抜く。
鮮血が舞い、横に大きな一閃が流れる
「無駄よ。」
ペトラが剣を払うと、僅かな赤が地面に飛び散る。
「フランベルジュ、私の剣は人の認識の外にある。
何度、目の前でその技を使う奴と一緒にいたと思っているのよ。」
クリスは再び剣を構え直すとペトラも隙を見せることもなく、構え直す
二人は一気に踏み出すと何回にも渡り、剣が弾かれ、叩かれ合う。
しかし、次の瞬間ペトラは視界の外から突然現れたとてつもない殺気を感じとる。
黒い衣に身を纏い、懐からはナイフが飛び出してくる。
ペトラは咄嗟に身を捩り、その軌道を変えようとするも間に合うはずもない。
切先が体に届くその瞬間、まるで蜘蛛の糸に絡め取られたように投げれたナイフが勢いを失う。
しかし、一瞬の虚をついて、クリスがペトラの目前へと剣を振り下ろす
だがその剣は激しい閃光と共に空を切る
「シャル!逃げて!」
その声に疑いを持つことなく、シャルロットは咄嗟に硬直するミーシャと共に馬車に向かって走り出す。
ペトラは閃光の中声を上げると、咄嗟に背後から、首元を抱えられる。
「キミはこっち。」
次の瞬間、視界が暗転すると体には風を感じる。
僅か数秒もの間に少し離れた場所で再び視界が戻ると、目の前には黒いローブに身を包んだフォールンが立っていた。
「まさかキミと本気で戦う日が来るとは思わなかったよ。芽亜利くん、ペトラ君。そして、そっちのキミは...戦うような人じゃなかったような気がするんだけど...」
ペトラが微かに視線を後ろへそらすと、芽亜利とエレーナもフォールンへ視線をむけていた。
さっきのナイフは芽亜利が止めてくれたとペトラの中で合点がいくと、相変わらず高度な魔法を使うと心の中で賞賛を送る。
しかし、純白の動きやすそうなドレスを見にまとった少女が鋭く冷たい視線を注ぐ先にはいつの間にか2人の人影が立っていた。
「妾も、お主らとは争いたくはないのじゃがな。
同じウェインフリート同士、ここは争うべきではないのではないかの?」
「あら、エマさん。あなた方が私のご主人様を殺したのですよ。
私の大切な、大切なたった1人のお方だったのに。許しませんわ。」
「それはクリスにとは言えぬか。
よかろう、お主らがそこまで源二を好いておるのであれば、妾も同じ女として受ける他あるまい。
かかってこい、小娘ども。」
「僕のこと、忘れてもらっちゃ困るなぁ。エマ君。」
「お前の手など借りなくとも勝てるわ。」
そう言い放った次の瞬間、虚空から紅の線が伸びる。
エマは飛び退き、フォールンは影の中へ溶けていくとその線は虚空を切り裂いて消失する。
目前になって2人の間には激しく震え、細いにもかかわらず鋭利さの伝わる風の揺れを感じていた。
食らっていれば即死は確実。
限界まで音を殺した認識外からの一撃も、この2人の前では悠に躱されてしまった。
「酷いなぁ、芽亜利くん。僕らもまた、キミの望んだ世界を体現しようときているに過ぎないんだが。」
「私にとって世界などもうどうでも良いことですわ。
怨恨に血を絶たれ、一度世界さえ恨んだ私でも、今はもう憂いに溺れる小娘ではなくてよ!」
珍しく芽亜利が間合いを詰めると、幾重にも重なった線が一本の鞭のように結束され、形を帯びる。
一気にそれを振り抜くと、擦る軌道を。当たったものに関係なく抉り取っていく。
しかしそれも容易に躱される。その光景にクリスは楽しそうに笑う
「いいね!いつもより情熱的な君を見れて僕は楽しいよ!」
しかし次の瞬間、フォールンの纏っていたローブに風穴が空き、月の光を透過される。
その光景にフォールンは何も言わずに地面に着地した。
鮮血は出ない。ただ開け放たれた布を触っていた。
「驚いた...」
「当然ですわ。この血塗られた私に、あなたが闇の魔法使いでないことくらい容易に分かりますわ。
影の魔法。闇の魔法、それに近い異能と言われる魔法ではなく、光の魔法の派生として生じる光の派生系。
ていい魔法に関してはほとんど闇の魔法と同じ原理で全く見分けがつかない....」
「よく、調べたね。」
「私もただ源二様と一緒に居たわけではありませんのよ。
当然、源二様の身辺を固める者を見張るのも私の役目ですもの。」
フォールンは突然ボーッと吊っ立つようにして芽亜利を見つめる。
「面白くないね。全くもって不愉快だ。」
「それは当然ですわ。私も、これほど不愉快な争いは久しいです。愛する者を奪われ、失墜する自分を肯定するように復讐を果たそうとする私は。」
「そんなに、源二君が大事かい?」
「分からないなら、証明して差し上げますわ。力を欲するために近づいた女がどうなったか。
どれほどにあの方の側が良かったかを!」
芽亜利は目にも止まらぬ速さで前へ出ると、畝る鞭のようなものを虚空へ投げ出す。
その瞬間に絡まっていた糸が解け、虚空へと投げ出される。
「ブリットスピア!」
放射状に赤い光線のようなものが放たれると、フォールンは自分の体にかかる糸を無理やり跳ね除け、エマは難なく障壁で守り切る
しかし、視界が遮られた一瞬の隙に芽亜利はフォールンの目前へと迫っていた
それでもフォールンに焦った様子はない。
姿が消失し一瞬で芽亜利の背後を取ると、懐からは鋭利なナイフが光を放っていた。
ナイフの刃が純白のドレスの下にある柔肌に喰いかかろうとした次の瞬間、フォールンの動きが止まる。
「どこ見てんのよ。」
そう怒気の籠った声で言い放つ先はフォールンのさらに背後、ペトラの手に握られた波打つ剣が完全にフォールンの体を貫いていた。
「フランベルジュ!」
そう叫ぶと一気に剣を引き抜く。
「僕に物理攻撃はあまり意味がないはずなんだけどねぇ...痛いよ?ペトラ君。」
「上等よ。そっちの方がゆっくり痛めつけられるもの。」
フォールンが芽亜利へ視線を移そうとした次の瞬間、激しい光の円陣がフォールンとペトラを囲み外にいる人物の姿さえも強い光の前に消え去る。
「なるほど、それが君の魔法。興味深いねぇ。」
「わかったらとっとと剣を取ったらどう?無抵抗の人を殺す趣味はないの。最も、あんたはどうやら人じゃなさそうだけど。」
「よく知っているじゃないか、アンリ・ペトラ。召喚者の子...」
「煩いわよ。」
フォールンは頭部にへばりついた仮面を取り去ると、その下からは白く冷たい骨が露出する。
「アンデット?」
「近いけど、どうだろう。僕は普通のアンデットでは無いからねぇ。気をつけた方がいいよ。」
先程まで厚みのあったローブが突然力を失ったかのようにするすると地面に落ち始めると、心臓のあたり、胴体の中心だけに肉が残り、そこから根を張るように近場の骨に根を伸ばすような形をした歪な骸がペトラの表情を歪ませた。
「どうして、闇の魔法使いでも無いあなたが傷を治せているのかしら。」
「うーん、まぁいいよ。
闇の魔法、ひと呼んで"最も人間らしい魔法"は、特別闇の魔法使いだけが使える特権じゃ無いってことさ。
異能、そう呼ばれたものたちはこぞって闇の魔法の派生型、君の友達の芽亜利君のような限定的にその力の恩恵を受けている状態のようなものだ。
うーん、随分と興味ないようだねぇ」
怒りで我を失っているのか、普通じゃ考えられないほど強気な姿勢を見せるペトラにクリスが圧倒されているようにさえ見えた次の瞬間。
再び剣が交差する次の瞬間、再びクリスは幻影のように消え、全く違う角度から攻撃を繰り出していた。
しかし、ペトラはいつの間にかその軌道の先にクリスを捉え、目にも止まらぬ速さで振り抜く。
鮮血が舞い、横に大きな一閃が流れる
「無駄よ。」
ペトラが剣を払うと、僅かな赤が地面に飛び散る。
「フランベルジュ、私の剣は人の認識の外にある。
何度、目の前でその技を使う奴と一緒にいたと思っているのよ。」
クリスは再び剣を構え直すとペトラも隙を見せることもなく、構え直す
二人は一気に踏み出すと何回にも渡り、剣が弾かれ、叩かれ合う。
しかし、次の瞬間ペトラは視界の外から突然現れたとてつもない殺気を感じとる。
黒い衣に身を纏い、懐からはナイフが飛び出してくる。
ペトラは咄嗟に身を捩り、その軌道を変えようとするも間に合うはずもない。
切先が体に届くその瞬間、まるで蜘蛛の糸に絡め取られたように投げれたナイフが勢いを失う。
しかし、一瞬の虚をついて、クリスがペトラの目前へと剣を振り下ろす
だがその剣は激しい閃光と共に空を切る
「シャル!逃げて!」
その声に疑いを持つことなく、シャルロットは咄嗟に硬直するミーシャと共に馬車に向かって走り出す。
ペトラは閃光の中声を上げると、咄嗟に背後から、首元を抱えられる。
「キミはこっち。」
次の瞬間、視界が暗転すると体には風を感じる。
僅か数秒もの間に少し離れた場所で再び視界が戻ると、目の前には黒いローブに身を包んだフォールンが立っていた。
「まさかキミと本気で戦う日が来るとは思わなかったよ。芽亜利くん、ペトラ君。そして、そっちのキミは...戦うような人じゃなかったような気がするんだけど...」
ペトラが微かに視線を後ろへそらすと、芽亜利とエレーナもフォールンへ視線をむけていた。
さっきのナイフは芽亜利が止めてくれたとペトラの中で合点がいくと、相変わらず高度な魔法を使うと心の中で賞賛を送る。
しかし、純白の動きやすそうなドレスを見にまとった少女が鋭く冷たい視線を注ぐ先にはいつの間にか2人の人影が立っていた。




