第1節 10章 終末編Ⅳ
白い石を基調とした宮殿の中、謁見室ではシャルロットと側近の騎士ミーシャが跪き、神聖エイレーネ帝国皇帝のラインハルトと対面していた。
「此度のこと、大義であった。」
「光栄です。お父様」
「パラトスへはすぐに戻るのか。」
「急を要する要はございませんが。」
「ならば召喚者たちの相手をしてくれ。可能であればあの者達をパラトスへ派遣したい。」
「彼らは他の召喚者たちと比べても特に豊富な知識と力を持っておりますが、こちらから離れてもよろしいのですか?」
「あの者のうちの一人は特にシャジールに魔法の教えを説かれ、今や世界の魔法概論をけん引するうちの一人となろうとしている。
サイファーがここまで簡単に捕まるのも我は腑に堕ちんのだ。」
「なるほど。心得ました。もし、彼が事実関係を聞いてきたらいかがすればよろしいでしょうか。」
「好きにさせろ。彼らも自分の命を投げ出すことはしまい。」
そう会話を終えると、シャルロットは部屋を出る
「ミーシャ、一度パラトスへ戻ります。しばらく領を開ければ民たちに示しがつきません。」
「畏まりました。」
「あなたは足の用意を。私が召喚者たちに。」
「はい。」
そういって別れると、シャルロットは少しばかり笑みを浮かべながら庭の方へ歩き出す。
「シャルロットちゃん!」
広い庭の中、一人の女性が駆け寄るとシャルロットは笑みを浮かべる
「ただいま戻りました。鏡花ちゃん。」
「無事で良かったよー!」
「え、ええ。私もこうしてまた再開できて嬉しいです。凛ちゃんも。」
「うん。まぁここにいても暇だしね。」
佐伯が苦笑を浮かべながら背後を見渡すと、ただ広いだけの庭園に静かな風が吹き抜ける
「そうでしょうか...」
「凛ちゃん、ここは別の世界なんだから...」
「まぁそうだけど、なんもすることないし...」
「でも凛ちゃん、魔法使うのものすごく上手くなったじゃん!」
「でも所詮ツタ伸ばすくらいしか出来ないけど。」
「植物の成長を促すのは立派な魔法の使い方ですよ、凛ちゃん!
その昔、大戦時代にいた女性が身寄りのないものや困窮する者達を救って回っていたという逸話があって気になって調べてみるとその人は植物の魔法使いで、その人の庭にはたわわになった実りで埋め尽くされていて、それ以来植物魔法を使う者達は、天使の使いとして祝福されていたんですよ?」
「へー」
「凛ちゃん凄いじゃん!」
「いや、私が凄いんじゃなくてその女の人が凄いんでしょ。」
「まぁそうだけど、凛ちゃんもできるよ!」
「いや、私そういうの興味ないし。」
先日までの緊張とは天地ほどの差もあるのどかな光景にシャルロットは思わず笑みをこぼす
「ところで、シャルロットさんはなんで帰ってきたの?なんか教皇?さんと一緒って聞いたんだけど。
もしかして、シャジールさん達がその、殺された事に関係してるの?」
「鏡花」
佐伯の制止があるも、それを押し切るようにシャルロットの相貌を覗く
「私がここへ戻ったのは、教皇と対立してしまったからですわ。
私たちがあなたの友人、ゲンジさんを巡る様々なことがありました。
闇の魔法使い。その存在は残念ながら秘匿しなければならない理由がある。今回のことはその闇の魔法使いを巡る戦いでした。」
「闇の魔法使い...」
「いかにも悪そうな名前だけど...」
「そんなことはありませんわ。先ほど、私が凛ちゃんの魔法に対して天使の祝福を受けると言ったことを言ったでしょう?
この例えは他の魔法にもあるんです。
光は神に愛され、火は人類の叡智、水は豊かをもたらし、地は全てを愛す。植物は天使に愛されるが如く、我らに実りを与える。
そして闇は、最も人らしい。
「人らしい?」
「人間の本質、人の在り方を体現したようだと。」
「でも魔族の人たちが使ってた魔法なんでしょ?」
「この伝承は人によって作られたものですから、魔族のことを指している訳ではないんです。
狂戦士、私達がまだ戦争を繰り返していた頃。私達は魔族の大半を討伐し終えた頃、人類を導いていたのは私達の先代の皇帝とそれに従う9人の異能使い。」
「異能?」
「私達の魔法は現実に起こり得る現象を再び再現するに限りますわ。
ですが、異能は魔法と魔法の現象同士が作用し合い、新たな現象を生み出すことで本来この世にはなかったものが生まれることで生じる、本来はなかった力を使う者たち。あるいは私たちでは考えも及ばぬような高次元の出来事に気がついた者が宿した力などと言われておりますわ。」
「それでそれで??」
「その異能使い達は大戦が終わると、やがて民衆から追われることになった。数々の魔族を退け、人類を勝利に導いた者たちに残ったのは強大すぎる力を持った者達へ懐く畏怖の念。
そのうちの一人、お父様の師、狂戦士と恐れられた者は元はただの魔法使いだった。
戦いで疲弊し、痛みに耐えきれなくなった彼女は魔物を体内に取り込み、痛みを戦いへの執着で塗りつぶしました。
痛みを感じない異能を得た彼女が最後にしたことは、同族殺し。他の異能使いたちを追い詰めた。
私の父に出会ったのは、その頃だそうです。
そして、人類の畏怖を全て背負い、最後に残った狂戦士は今の皇帝、まだ私と同じ年頃の頃の父上が、自らの手で殺しました。
そうして私達は今の栄光を手に入れました。」
「だから、源二君が戦うことに...」
佐伯は特に驚くこともなくそう問いかけると、シャルロットは頷く。
「じゃあ、シャルロットちゃんは源二と戦いに...?」
「え....」
鏡花と凛の問いかけにシャルロットが止まる
言わなければならない。いつかは伝えなければならない。
シャルロットやエイレーネの人間、この世界にとっては厄災でしかない闇の魔法使いも、彼女達にとってはかけがえのない友人なのだ。
今シャルロットがペトラとの間にできた溝を永遠に埋められないように、鏡花達にとっても永遠に出会えない人になってしまった訳だからだ。」
「私はただ、私はただ。自分の責務を全うしたまでです。
シャジール様や宮廷魔法士達が殺されたのも、私は何も知りません...」
「そう...なんだ。」
「はい。」
「なんかごめんね、こんな雰囲気にしちゃって!ところでシャルロットさん、私たちに何かあるの?」
「え?ええ。もしよろしければ召喚者の方々とまたパラトスへと思いまして。」
「ほんと!?みんなで?」
「はい、今度は何も起こらないといいんですが。」
「大丈夫大丈夫!今度は私達も強くなったから手伝うよ!」
「ちょっと鏡花、私は嫌よ。ここは飽きてたからパラトスへ行くのはいいけど、私は戦うのなんて嫌だからね。」
「その時は私達が全力でお守り致しますから、大丈夫よ。凛ちゃん。」
「じゃあシャルロットちゃん!みんなに話してくる!」
そう言って鏡花が駆け出すとその様子をシャルロットと佐伯凛が見送っていた。
「ねえ、源二君。殺してないんだよね。」
「え?」
「聞いてるの。この国で闇の魔法使いは生きていけない。本当に、シャルロットさんは知らないんだよね?」
「え、ええ。」
「そう。でも、みんな悲しんでる。私みたいに周りに無関心じゃないから、本気で源二君がいなくなったことを寂しんでる。
シャジールさんや宮廷魔法士の人たちが死んだことも悲しんでる。
もし、シャルロットさんが何も教えてくれないなら私たち、探しに行くかもよ。」
「それは無理です。彼は今、ウェインフリート領にいるのですから。」
「それはそっちの都合。こんな中世みたいなダサい世界で生きてるあんた達にとっては大事なことだけど、私たちにとっては友達が一番大事なの。」
「善処しますわ...」
「その言葉だけは、どの世界のどの時代も一緒なんだ。」
佐伯が振り返り、歩き始めるとシャルロットは額に汗が滴る
結局、真実を告げることができなかった。
鏡花の明るい希望に満ちた顔を前にすると、今自分の口から友人の死を伝えることなんてできない。ましてやこの世界の私情に巻き込み、さらには自分たちの生み出した残酷な魔法を使って心を汚し、勇者という仮初めの象徴に奪われたという事実はあまりに悲惨すぎる。
「私は、どうしたらいいんでしょう....」
ペトラがそう呟く背中はどこか慈愛とは程遠い寂しさを庭の緑の中へ落としていった。
終末編ありがとうございました。一節も終盤に差し掛かり主人公も二回目の死を迎えて楽しいですね。




