第1節 10章 終末編Ⅰ
終末編始まりました。終末編は割と文字数的には多くないかなと思います。
凄まじい一撃にアトラスと漆黒の剣が火花をあげる
シャルロットはその光景を尻目に飛び退く
なぜ、教会によって生み出された狂戦士が教会派の人間の勇者に牙をむき、教皇を連れ去ろうとする自分を攻撃しないのかはわからない。それほどに理性がないのか、あるいは勇者は本気で教皇派から離反しようとしている。あるいは、狂戦士を裏で操る何かがいるのか。
だが、今はそんな思考に意識を落とす暇はなく、咄嗟にさらに足に力を入れ、飛び退くとミーシャの元へ駆け寄る
「助かりました。」
「いえ、殿下。まだです。」
ミーシャはシャルロットに視線を送ることなく剣を抜くと、その剣先にはペトラ達を捕らえていた。
「あんた達も教皇を殺しに来たのかしら。」
「なぜ、貴方がここに。」
「ゲンジは私の仲間だもの。当然よ。」
「あれは既に元の人ではないんですよ?」
「あんた何言ってんの?ゲンジはゲンジよ。」
「抜かせ!ピラー化の魔法はそう簡単に無効化できるものではない!」
「そのくらい知ってるわ。そもそも発動した魔法ごと消し去るなんて不可能だもの。
それより聞きたいのだけど、何故あたしを助けてくれたあんたがこうして剣を向けてるのかしら。」
「あなたが教皇を狙うなら、私たちはそれを阻止する。アレの身柄が皇帝の名のもとに拘束した。」
「そういうこと...だったら、何としても教皇を殺す。行くわよ」
ペトラがシャルロットとの間合いを詰めると、目前にミーシャの剣が割り込む。
二つの鉄塊が交わると、激しい金属音が響く
「ミーシャ!そいつの狙いは!」
ミーシャの剣が大きく弾かれると、胴が開け放たれる
しかし、同じ力を加えていたはずのペトラは全く動じることなくその切っ先を正面へ整えていた。
ミーシャが心の中で驚きの声を叫んだ次の瞬間、懐から人影が飛び出し、再び激音が轟く
「シャルロット様!」
「ミーシャ!彼女たちは一人ではありません!注意して!」
ミーシャが着地するために僅かに視線を足元へ遷すと、足元には僅かな赤い線が伸びていた。
「これは...」
「まさか、貴方達と対峙することになるとは。」
「大人しく教皇を渡せばそれでいい。私達の願いは、二度とピラーを生み出さなければそれでいい!」
「ならば、取引しませんこと?」
「取引?」
「残念ですが、教皇の身は私達エイレーネ帝国が捕らえました。ですが、ピラーの使用に関してはすべての機関を私たちが壊滅させることを約束します。」
「そんな保証何処にもないじゃない!」
「あなたを助けた時も、私達に何の保証もありませんでしたわ。」
ペトラは苦しい表情を浮かべる。もし、シャルロットが言っていることが本当ならば、本来の目的そのものは達成される。
「あんたが私を助けてくれたことは感謝してるわ。
でも、この問題はまた別。」
「ならば、」
「だったら!二度とゲンジを狙わないで。」
シャルロットとミーシャは困惑の表情を浮かべる。
「それは無理です。彼はもう、ゲンジではない。狂戦士の因子を植えられた彼はピラーになってしまった。もはや彼は狂戦士その人なのですよ?」
「それは違う!あいつはそんな魔法使われても、あいつのままだった!」
「そんなありえないことを抜かさないでください。」
「嘘なんかじゃない。今もゲンジは自分の意思で戦ってる。あんたたちが仕組んだことなのに、あいつがケリを付けようとしてる。」
「いい加減に!」
ミーシャが剣にぐっと力を込めると、シャルロットが一歩前へ出る。
「まさか、勇者と対峙しているのは」
「あいつが、教会派を壊滅させる為よ。」
シャルロットの表情に驚愕の二文字だ浮かび上がる、それと同時にたじろぐシャルロットの姿を見て、ミーシャの心にも影が差し込む
「そんな、どうやって」
「私にもわからないわ。なんであいつが平気なのか。
気になるなら、見てくればいい。」
その刹那、凄まじい雄たけびが奥の教会前から響き渡る
その声に一同が振り返ると、シャルロットは少し立ち止まった後、教会へ足を向けた。
「ゲンジ君!?」
凄まじい衝撃を弾くと、源二は地面を踏みしめる。
「勇者ルカ、教皇を渡せ。」
「君もここに来るとは。随分、久しぶりだね。傷は...大丈夫なわけないか。」
「御託はいい。早く出せ。」
「まさか、消したかった腐敗の成れの果てが僕だなんて思わなかったよ。ゲンジ君。
せっかく、君を傷つけてまで探したのに、まさか僕自身が元凶だなんて...
こんな剣があるから...」
源二はその様子を見つめていたが、その切っ先は今にも暴れだしそうなほどに疼き、震えていた
「早く出せ、今にも、殺してしまいたい衝動に駆られてるんだ!!!」
「君も、随分と変わってしまった、いや、僕が変えてしまったんだね...
聞いたよ。君も奴隷になったんだろ?僕が君を殺せなかったばかりに、こうしてまた君と出会ってしまった。
でも、また僕は君と戦わなくてはいけない。今度こそ、この腐敗を止める為に、僕は僕のできることをする。
あの教皇を生かして、関係者を全員殺すんだ!僕の手で!」
ルカが前へ踏み込むと剣が源二めがけて振り下ろされる。
しかし、その剣は肉を斬り裂く感触も音も立てず風を裂く音ごと闇の中へ消失していく。
その光景に勇者は驚くことなく剣を引き体勢を整えつつ咄嗟に後ろを振り向く。
その判断にかかった時間は一瞬にも満たなかったがそれでも遅れていた。
速すぎる!この短期間で、こんなに!?
勇者は心の中で呟くと飛び退くと剣のレンジから逃れることができたものの、源二は容赦なく弧の軌道を描く。
次の瞬間、勇者は驚愕の顔を浮かべながら、耳を劈く激音に晒されていた。
間違いない。過去のゲンジ君とは別人。いや、すでにあの魔法を使われて別人でないほうがおかしい。いや、でもなんだ。この違和感は。まるで狂戦士の力をゲンジ君が操っているような...
「君は、ゲンジ君なのかい?」
「だったらなんだ。」
「僕は、できれば君とは戦いたくはない。」
「だが、俺はお前を殺したくて堪らない!」
ゲンジは不敵な笑みを浮かべると勇者を圧倒する。
金属音が弾け、地面が抉れ、風が唸る。
クソ!なんだこの攻撃!
「大いなる光よ!」
ひと際口を開き呪文を唱えようとするが、勇者は喉を詰まらせる
目前には源二の描いた剣の軌道が迫っていた。
再び二人が交じり合う。
今ここで、教会派を殺す。勇者とは俺も戦いたくない。誰とも争いたくはない。でも、教皇を殺す為ならば俺は何人でも殺す。今更躊躇ったりはしない
ゲンジは大きく息を吸い、勇者との間合いを詰める
しかし、源二の中には大きな疑問があった。ここにきて何故自分がこれほどまでに勇者に固執して戦っているのかがわからない。
教皇を殺したいはずなのに、今ここで教会派を殺すのではなく、勇者を殺したくてたまらなかった。
理性では殺したくないはずなのに、本能では殺したくてたまらない。
理性と本能という純粋な二次元ではない自分の中にある何かがせめぎ合っては、侵食されていく。
戦いを重ねるごとにその感覚が源二を支配していた。
「逃げろ。勇者...」
「なに?」
勇者の顔に疑問符が浮かぶ
それもそのはず、今目の前で死闘を繰り広げた相手に対して騎士道に反する逃走の選択肢を提案したのだ。
「いや、逃げるな。お前がここにいれば都合がいい。いっそここですべてを終わらせる。」
再び口遊むと再び不敵な笑みを浮かべる
「まさか、ピラーの魔法にゲンジの魔法が抵抗している!?」
遠目にその様子を見張るシャルロットがつぶやくとミーシャが驚愕の表情を浮かべる
「出ていけ。俺の好きにさせろ!」
「我とお前の目指すべくは定められている。我に身を任せろ。」
「お前、裏切ったのか!」
「裏切り?まさか、我はお前に喰われたとも。だが、童の望みは叶えさせてもらう!」
一瞬、狂戦士に出会った無機質な世界が視界を覆う。
目の前には黒い鎧に身を包んだ狂戦士が立ちはだかり、背後に輝く黒い輝きに剣を翳す。
「アアアアアアアアアアアアア!!」
またこの感覚だ。この感覚だったのだ。
宮廷魔法士を葬り、シャジールを難なく殺した力...
まさか狂戦士に体を乗っ取らせるようにして戦っていたとは
源二の思考とは裏腹に勇者の顔に深い影が落ちる。
シャルロットの表情も暗く、今目の前に立つ厄災の復活をまじまじと見つめる他なかった。




