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悪夢の夜に  作者: 赤さん
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第1節 9章 再臨編Ⅲ

えー、今回結構少ないです。

「私は、没落した貴族の身なのは知ってるでしょ。

私は神聖エイレーネ帝国の臣民だった。

正確には神聖エイレーネ帝国の前身、ラインハルト達が治める一大領地。人類の砦と言われたバルドル帝国だった。


大戦終結間際にかけて、いつしか戦争は人と魔族の戦いから、人と人の争いになった。

人類の大部分の戦力を担っていたのは勇者、そしてアトラス率いる教会。


魔族との戦いから力に磨きをかけ、人知を超えた魔法や技を使う固有魔法使い。ママや私のような他人に真似ができない魔法を使う人々を率いた旧帝国。


そして、多くの闇の魔法使いを殺す中、人類はある選択を迫られた。


このまま味方同士で殺し合い、闇の魔法使いだけじゃない身内同士の戦争に発展するか、教会と帝国。


二つの組織が合わさり、人類を導くことで確固たる意志で闇の魔法使いを排斥し尽くし、弾圧するか。

答えは簡単。今の通り、神聖エイレーネ帝国が築かれ闇の魔法使いは排斥された。


でも、教会は違った。教会は旧帝国と統合されて以降、帝国同様の待遇を要求した。


それが教皇領。エイレーネの隣、シザーベントと旧帝国領を丁度経由する形にあるその土地が、アタシの故郷...」


「でも、それも仕方なかった。私が教皇なら同じ立場を望むのもわかる。

だから私も闇の魔法使いとの内通を疑われ、迫害された。



だから、私はここにいる。」


「でも、ペトラはお前と違って追われてない。俺とは違う。」


「違わない。アレクサンドラ・バルドル・シャルロット。

私の友達...昔の...」


「そんな。」


「シャルは小さいころの友達だった。もう記憶はないけれど、私とシャルは幼馴染だった。


でも、私が追われる身になって彼女も私も離れていった。心も、身体も。

でも、それは違った。


私を追ってきたのは結局、教会派の兵士ばかり。皇帝側に属する兵士は一切手を出してこなかった。


そんなことを知らない私はただひたすら、戦うしかなかった。

ただ殺し続け、逃げ続ける。ひたすら走って、隠れて、殺し続けた。


ウェインフリートにたどり着く頃には、何人殺したのか判らなくなってた。



私はシャルを恨んだ。友達だったのにって...

でも、それは違った。あとからそれがシャルや今の皇帝が教会派にバレないよう手を回してくれたことを知って、私は後悔した。

恨み続けて、強くなり続けた。じゃないと、私が死んじゃうから。

でも、それは正しくても、間違いだった。


私も殺すことに何の躊躇もない。敵わなければ死ぬことだって覚悟してる。

でも、私が生きる為に身に着けた力は、何処にぶつければいいの?だれに使ってあげればいいの?



だから私は逃げ続けた。殺し続けた。人じゃなくて、魔物だったけど、危害を加える者は一切迷いなく殺した。


それもすぐに負けた!人の命もまともに奪えない半端な魔法使いに!


しかもそいつは闇の魔法使いで、あんたさえいなければママもパパも死ななくて済んだ!こんな魔法さえなければ戦争なんて起こらなかった!


でも、すぐにそう思ったことを後悔した。

そいつは闇の魔法使いでも、なりたくてなった訳じゃない。力を持つことを拒み、恨んで、怯えていた。

しかも、傷つけた人や魔物を悔やみ、自分を攻めた。


アンタなんか嫌い!人の命を奪っておいて悔やむ薄情者!あんたは殺したやつを悲しんでるんじゃない!酷いことをする自分を憐れんでるだけだわ!

だから、私はアンタと一緒にいるの!」


「何が言いたいんだよ!」


「なんで!なんでアンタまでこんな姿になっちゃったのよ!なんで狂戦士なんか連れてきちゃったの!


シザーベントを助けて、逆恨みしてたフロストを殺した!それでウェインフリートもエイレーネも一区切りついたんじゃなかったの!?」


「ペトラの為じゃない。俺の為にやったんだ。みんなの為にやったんだ!」


源二は置きあがり、何処からともなく剣を引き出すと、凄まじい風切り音を出してペトラの喉元に向けて留めた


「だから、私はアンタと一緒にいる。最初は、パーティーの仲間だったからって割り切ってた。闇の魔法使いの秘密を露見させないためだと、割り切ってた。


でも、アンタが殺せないのは優しいからだった。

私みたいに恨みに身を堕とすこともなく、貴方は戦って、自分を、貴方の友達を護り続けた。私のことだって、守ってくれた。

それがいつしか、その...好きかもって...なったときに思ったの。ゲンジが皆を守ってくれるなら、私がゲンジを護るって。アンタに火の粉が降りかかるなら、私が振り払ってあげたいって。」


「そんなの、必要ない。俺はもう迷いはしない。人を殺すことも、奪うことも。」


「やってみなさいよ。


私だから戸惑ってるなら無用よ。どうせ身寄りのない娘一人、ここで死んでも何も変わらない。


それとも何?理由が必要?だったらアンタは私を殺す理由がある。」


「シザーベントの件で、アンタをパラトスへ行くよう仕向けたのは私。

あれがなければ、アンタを戦いに巻き込むことはなかった。」


「別にお前が巻き込まなくとも、いずれこうなってた。」


「じゃあ、ママがアンタらを召喚しなければ、ゲンジはこうなってなかった。親の責任は子の私の責任。」


「それは...」


「だから、私は頼って欲しかった。戦うことしかできない私を。

今私と同じになろうとしてる好きな人を助けたかったのに...」



源二の心は喉元に向けられた切っ先のように蠢いていた。

なんで、こんなにも自分は動揺しているんだろうか。何に?


ペトラは自分のことを助けてくれようとしているのに、何故自分はこの手をとろうとしないのか、また人に頼るのが嫌なのか。エレーナの言っていたことも最もだし、納得もできたのに、なんでこんなにも自分は惨めなんだ。

そんな思考が渦巻いていた。



「でも、俺はもう...遅いんだ。宮廷魔法士達を殺した時、戦いが楽しかった。


訓練を受けた強い人達でも、構うことなく無双できる力があって。

化け物と呼ばれたって何も思わない。むしろかっこいいとさえ思った。だってそうだろ。努力を積み重ねてきた人間の結晶を尽く打ち破るんだ。人間の尊厳を捨てて、地に伏せるだけでこんなにも強くなれる。なりふり構わなければ、どんな苦痛も無に還される。

まして、そんな力を持ったことない俺にとっては楽しくて仕方なかった...


でも、それを違うっていう俺もいるんだ。ただの蹂躙で、人間の所業じゃないと卑下する。ゴミ以下の人間だ。」



「まだやり直せるわ?」


「無理です。すでに殺したんですから。

こうしてる間にも、クリスさんたちが画策したように教会派と皇帝派の関係は悪化してる。

俺のせいで、大勢の人が死ぬ。」


「だったら、私たちが元凶を殺すまでよ。」


ペトラが強い双眸で見つめる


「どうやって...」

「教会派のトップ、教皇のシモンド・サイファーを殺しにいく。」


「教会派を殺しても、今度は皇帝派が俺を殺しに来る。」


「シャルなら、シャルロットなら。それも止められる。

私を救ってくれたシャルなら...」


ゲンジはグッと歯を食いしばるといつの間にか剣は闇の中へ消えていった。


徐々に言葉にならない嗚咽が漏れ出始める。

今までにしてきた身に余る暴挙の反動が襲ったのか、ゲンジの心は音を立てて崩れ落ちていった。



漆黒の闇夜を斬り裂き、白馬がそれらを斬り祓うように前へ前へ駆けていく。


「ミーシャ、どうして姫様はあんなに急いでるんですか?」

「は?奴隷街はピラーの生産の要だ。それにラインハルト様から正式に声明が出ているだろ!」


「それはそうですけど、なぜシャルロット様と私達騎士団の数名だけなんですか?」


「全軍を動かしては不可侵領域の侵犯としてみなされることもある。

もともとこれはエイレーネ内の私闘のようなもの。最小の人数でかかるしかない。」


「私まだ、死にたくはないですぅ」

「死ぬもんか!シャルロット様がいる限り、我々は果てぬ。」


「そういう意味じゃないですー!」


ヒューノが少し涙目を浮かべながらも、馬を快調に飛ばしていくなか、シャルロットの脳内には様々な懸念材料があった。

それは、奴隷街を占拠することで教会派を排除できても、ウェインフリートの抵抗を受けねばならなくなるかもしれない点。


狂戦士はシザーベントにて確認されているため、いくら教会派が狂戦士を止めることができず、シャジールや宮廷魔法士達が殺されたとしても、教皇の元へたどり着く可能性が五分五分であること。


もし、教会側の人間に取り押さえられたとしたら、教皇捕縛に関わる攻防に加わる可能性がある。

奴隷都市はただでさえ教会の息のかかった商会が多いため、精鋭の騎士団でも容易に鎮圧できない。


そこにさらに狂戦士も加わっては、全員でかからない限り彼女、いや彼を止めることはできない。


まして、彼の腕は教会側に管理されているからだ。

そしてもう一つ。ここ数日、勇者の行方を掴めていない。

彼はずっとこの奴隷のことについて追っていた。

もしそれが及ばぬところまで行ってしまった場合、最悪彼も私たちに牙をむく可能性さえあり得る。


そうなったときに、民兵と狂戦士、勇者という一国を相手に戦えるだけの戦力を一手に相手にしなくてはならない。

だからこそ、狙うはただ一つ。

ピラーを生み出すことができる人物を狙い、即時離脱する。


占拠はできなくとも効果的に狂戦士の周囲を囲む教会側の人間を排除することができる。


想定する最悪のシナリオは、教会側にとって狂戦士が本当に操作不能な状態になった場合。

正直、私は彼の力を見誤っている気がしていた。ゲンジ...それだけではない。召喚者の来た世界になにか特別な力や魔法に関する知識、あるいはこの世界とは違う理が存在した時、この世界の魔法そのものが変革を迎える可能性さえありうる。


だとすれば、この段階で私たちが当然のように享受していた魔法は正面から打ち破れないという考えさえ改めなければならないかもしれない。


そうなったとき、教会側が奴隷街を抑えピラーそのものの情報の流出を抑える。あるいはバレないうちに囲い込んでしまうために、奴隷街へ赴く可能性がある。


教会側はすでにシャジールを失った以上、ここで軍を引き入れる人物は数少ない。


シャルロットの頭の中で蠢く不吉なイメージを薙ぎ払い、手綱を強く握るのだった。



「シャルロット様。」


「ええ、ここの川から先は、教皇領。今の我々が咎められることはなくとも、心してかかりましょう。」



ミーシャがシャルロットに知らせを送ると、日が昇り始める川のほとりを駆け抜けていく



教会派と皇帝派の溝をこれ以上深めない為には、ピラーそのものをつぶす必要がある。

そして、それを指示できるのはただ一人。サイファーのみ。だとすれば、彼を捕らえることができれば教会派は沈静化される。

そうすれば狂戦士だけに集中できる。

ゲンジ、そして彼のパーティーのブラッディーメアリー、あと...ペトラ。


シャルロットの顔には苦笑が浮かんでいた。顔に現れる表情の奥には何故こうしてまた再び相まみえてしまうかと考えているのだろうか、ゲンジの友人、鏡花や龍弥、凛はまだ源二が死んだことさえも知らない。

まして、狂戦士になろうだなんてことを伝えるなんて、私には重すぎる。せめて、然るべき場所で、然るべき人物に殺されるよう、頑張らねば。


召喚者たちは何も悪くない。今もこうして、国の為に力を尽くしてくれている。

ゲンジだって、鏡花さんや龍弥さんと何も変わらないただの人間だったのだから。


クロセス・フロストと戦っていた時とは違った姿、正直恐ろしい。それでも、私がやらなくては。昔とは違う、力のある私がこの世界を変えなくては。

再びあのような惨劇が繰り返されないために


そんな純粋な思いだけが今の少年の身体を突き動かしていた。

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