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悪夢の夜に  作者: 赤さん
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第1節 8章 解放編Ⅲ

暗闇の中、芽亜李は源二に抱き着くように首元で話し始める


「此度のこと確かではありませんが、ゲンジ様はシザーベントへ行くことを仕組まれていたように思いますわ。」


「なんで?」


「私がここへ来たのは、決して私が行方を掴んだからではありませんわ。

私も教えられてここへ来ましたの。」


すると、闇の中から突然声がかけられる虚空から姿を現したのはクリスやフォールン、エマだった。


「芽亜利君?それはルール違反だよ?」


「私はいつでもゲンジ様と共にありますわ。」


「ゲンジ君、気分はどうだい?」


そう問いかけられると、むしろ何も思うことがなかった。

確かに、宮廷魔法士を殺したこともシャジールを殺したことも多少、心苦しくはある

だが、彼らはしてはならない犯罪の片棒を担いでいたようなもの。

自分は正しいことをしたのだと言い聞かせるまでもなかった。


しかし、何か心に引っかかる喪失感なのか、言葉に言い表せられない違和感を確かに感じ取っていた。



「すまないが、今回は君を利用させてもらった。

だが、決して悪用はしていない。

君が殺したシャジールはエイレーネの中でもピラー開発に深くかかわっていた人物。

今回のシザーベント蜂起でシャルロットや皇帝自ら鎮圧に乗り出さなかったのは、あそこが君の追っていたピラーの重要拠点だからに違いない。」


「そうですか...」


「ずいぶん落ち着いてるんだね。」


「わかりません...」

「そうか。」


源二は文字通り抜け殻といった感覚で再び天を仰ぐ


「だが、お前の活躍で今後新たな奴隷が生み出されることはなくなった。」


「俺じゃないです。エイレーネは最初からシザーベントのピラーを殺していました。」


「いや、そうじゃない。エイレーネはピラーの開発期間をウェインフリートとの講和の前に掌握しておきたかったんだ。

それを阻止したということは、ピラーの開発機関は事実上壊滅だろうね。」


「なら、良かったです...よかった...です。」

「ゲンジ、戦士として屈強な精神はこの上ない武器にもなり得る。

だが、そう偽っていては持たんぞ。」


そういうと馬の歩く音と振動だけが染みていく。


「偽ってなんていませんよ。

ただ、楽しかった。人を殺すのが、自分の正義を貫ける力を持つのが...

でも、なぜかよくわからないんです...」


その問いかけに誰も答えることなく、一同はただ無言で進み続け何日かかけ、ウェインフリートへたどり着いた。


途中、食事をとることもあったが源二は数口食べると手を付けることはなかった。

拠点へと戻るなり、クリスは源二を呼び止める


「ゲンジ、しばらく闇の魔法を使うことを禁止にする。わかっているな。」



「はい...」


実は源二にも薄々気づいていたのだった。この世界に来て突然手に入れた魔法の感覚ではあったが、これ以上闇の魔法を使うといよいよ自分のなかで何か大切なものが失われ始める。そんな気がしていたのだ。


「何が、なくなるんですか?」

「古い記憶。君が生まれた故郷のことや思い出が少しづつなくなっていくんだよ。

でも、君の名前とか友人の名前は記憶ではなく反射的に覚えてるものだから失われることはないけどね。

たとえば、風景とか。古い友人の顔...君の場合は両親の顔なんかも忘れてしまうかもしれない。元の世界に戻りたい君にとって記憶は大事なものなんだろ?」


源二は軽く感謝を述べ、一人で歩き出す


「ずっとあの調子じゃの。」


「まあ無理もないんじゃないかな。戦う意味を問いかけられるのは戦士にとって辛いことだし、今のゲンジ君は前にいた源二という存在と狂戦士とが混ざり合っているから、これまで戦うことになれなかった源二君にとって相当な負担になってるのは、研究者じゃなくてもわかるよ。それに、好きな女の子からきっつい一発も貰ってるしね。

ま、僕はそういうの嫌だからこうなったんだけどねー」


「そう易々と嘲笑うものでもあるまい。アレは優しいからの、失われつつあるアイデンティティーと激しい戦闘でのショックが相当祟ってるんじゃろ。」



シャジールや宮廷魔法士たちの凶報はしばらくして、ラインハルトの耳にも届いた。


「シャジールが死んだ?何故だ。シザーベントは鎮圧したのだろう?」

「ええ、それが...」

「なんだ。」

「シャジール様や宮廷魔法士は新たに出現した者によって殺されたと...それにより鎮圧は致しましたが、このような結果に...」


「誰だ、その者は。」


皇帝の目の前に跪く人物は額に汗を浮かべながらラインハルトの顔を伺う


「良い。」

「これは、確かな情報ではありません。

ですが、その。新たに表れた人物は...狂戦士とのことで...」

その言葉にラインハルトは立ち上がる


「お、お気を確かに!これは確かな情報ではありません故...」


「ではなぜ、あれの話が出てくる!」

「その、剣が。その者が持っていた剣が...姿かたちは変わろうとも、英雄の剣だけは見間違えたりはしないとの強い、報告が...」


ラインハルトはグッと奥歯を噛み締める


「皆、席を外せ...早く!」

そそくさと周りの者を追い出すと、大きく吹き抜けになっている部屋に一人佇む


「クソ!」

ラインハルトはどこからともなく剣を一閃させると、王座の長い背もたれが弾け飛ぶ


「サイファー!!」


放たれた咆哮は部屋の中へ飛んでいくと、石を震わせる。その揺れが僅かに地面を震わせるようだった



そして、その報告は当然シャルロットやクラスメイト達にも届く。

存在が秘匿されている源二とは違い、宮中に詰めていることが多かったシャジールや魔法士の存在が居なくなったことがわかるのは、時間の問題でもあった。


「なんですって!?狂戦士が蘇った?」


「はい、そう聞き及んでおります。」


シャルロットも同様に驚きの表情を浮かべると、その心中を同じにするように騎士団のミーシャたちも顔の表情が歪む


「シャルロット様、本当に狂戦士様は蘇ったのでしょうか...」


「ヒューノ、狂戦士に様を付けるな。」


騎士団の副団長、ミーシャが叱咤するとヒューノという同じ騎士団の格好をした少女が委縮する。戦争の開戦に伴いもう一人傍につける人間を増やすという名目で新たに選出された護衛だった。

しかし、シャルロットはそれを咎めることなく話を続ける


「いえ、蘇ったのではありません。狂戦士は確かにお父様が殺しました...

それに、シザーベントは勇者の追っていた...」


「勇者様がどうかしたんですか?」

「あそこは、ピラーという魔法を強制的に使わせる奴隷を扱っているんです。

それ故に、これを知る人間は限られるのですが。今回のシザーベントの一件で教会側はピラーの開発拠点を教皇領へ遷すだろうと思っていましたが...

まさか、私たちに喧嘩を売ろうとはいい度胸です。」


「え?え?どうして姫様は怒ってらっしゃるの?ミーシャ...」


「ピラーは魔物の暴走機関を移植することで魔法を扱う機関を支配する大戦時代の技術だ。

つまり、狂戦士はこの世に再び受肉したといえる。」


「でも、それだけじゃ狂戦士がこの世に受肉できはずがありませんよね。だって狂戦士は闇の魔法使い、この世に狂戦士が受肉できるほどの器持っている者なんて...」


「いるだろう。先の戦闘で勇者に殺されたものが。」

「嘘...じゃあ狂戦士は!」


「未だ、彼の死体は見つかっていません。そう考えて間違いないでしょう。

それに、あれを持ち出せる者は一人しかおりません。」


「教皇...」


「そうです。狂戦士が死んだとき、それを悲しんだお父様は永遠に狂戦士様の亡骸を王宮の地下へと葬りました。

もう、これ以上お父様を苦しめることはこの私が許しませんわ。」


シャルロットは立ち上がると、青い双眸は強い光を宿し表情はまるで今にも人を殺してしまいそうなほどの緊張感を漂わせていた。


エイレーネに激震が走る中、ゲンジじゃツバキに呼び出され薄暗い部屋の中で向かい合っていた。2人の間には部屋に差し込む太陽の光で線が描かれ隔たりを生んでいた。


「お久しぶりです、ゲンジさん。

またこうして会えてうれしいですわ。」


「その、ツバキさん。疑ってすいませんでした。」

「ああ、そんなことですか。わざわざ謝らなくともよろしいですわ。

それよりお礼を言いたい方はわたしの方ですわ。

ゲンジ様が連れていたあのウェルマーという男。あれは私の傘下で働くことになりましたわ。

それと、奴隷街の深層へ踏み込む足掛かりも掴めましたので。


ですが私はともかく、ゲンジ様の方は随分とお代わりになってしまいましたね。」


そういうと、ツバキは線をまたぎこちら側へ入ってくると背後へ音もなく回る

背後から懐へ手を伸ばすと、腕の下を通り胸の上で抱き留められると首元へ顔を埋めてくる。ひと際大きく息を吸うと吐息がむず痒く感じた。

次第に体が密着するとぐっと体が後ろに引き寄せられ、上体が反る形になりうまく力が伝わらなくなると源二はツバキに枝垂れかかる格好になってしまった。


「随分と匂いが変わってしまいましたね...」

そう呟くと、ローブの下に手をもぐりこませ左の肩口に触れると甘美な痛みが伝わると体に静かな電気が走る

「痛みますか?」

「はい...」

「随分長いことお休みになられていないご様子でしたが、これなら無理もありませんね。」


「その、離してください...」

「お断りいたしますわ。ゲンジさん、クリス様から聞き及んでおります。ゲンジ様、私の屋敷で暮らしませんこと?」


「ツバキさんの、ですか?」

「私が棲んでいるわけでは御座いませんが、ゲンジ様の存在がいまバレてしまうのは得策ではありません。

ですので、より人目に付かないところでお休みになられてはいかがですか?きっとお気持ちも安らぐと思いますわ。」


「その...」

「なんですか?話してくださいませ。」


ツバキはより一層身体を密着させると、源二の鼻腔を甘い香りが抜ける。普段ならば卒倒してしまうような状況ではあったが、今のゲンジにはそんな余裕などない。それどころか今まではツバキに近寄られるだけでも思考がまばらになるはずが何故かいたって冷静だった自分の姿に誰より自分自身が驚いていた。


「俺は、何のために戦ってるんでしょうか...

人を殺すのには、もう何の躊躇もない。だってそれが戦うことだから。でも、みんな何のために戦ってるんですか...

最初は家に帰れればそれでいいと思ってた。でも、みんなと離れてこんな魔法を持ったせいで離ればなれで。

挙句の果てにこんな体で、もはや心の中までも俺じゃないみたいで...

俺、初めてあんなに怒ったんです。こんなことをする奴は許せないって。俺がこんなんになったから許せなかったのかもしれません。でも、結局俺がやったのはただの蹂躙でただの人殺しです...」


「行きましょう?」


ツバキはそっと源二を自分の元へ手繰り寄せると二人の姿は闇の中へ突然飲み込まれていった

次の瞬間、源二は反射的に閉じた瞼の向こうから強烈な閃光が刺さるとほのかな温かみに肌が撫でられる

目を開けると、そこにはきっちり整備された畑とその奥にある屋敷が広がっていた。


「ここは...」

「私の屋敷、ですわ。」


ツバキは名残惜しそうに源二に絡ませていた腕を解くと、頭上に影が落ちる。

その現象に思わず振り返ると、二人の頭上には大きな葉っぱが被さっていた。


「すごい...」


その視線の先には、青々と生い茂る野菜や花が目に飛び込んでくる。

それだけではない、植物が植物の世話をしているのである。


「ただの生活魔法ですわ。いきましょう。」


そういうと、ツバキは源二の手をとり歩き始める

すると、何やら異変に気付く。少年はおもむろに足元を見るとなんと横に立つ女性は何も履かずに裸足で歩いていた。


「破壊するのは簡単でも、また豊かに暮らすのは楽ではありませんわ。

一度壊したものは、二度と同じ形には戻らない。治した跡が残りますもの。」

そういうと、ツバキは一つの株に歩み寄ると愛おしそうに植物を撫でる


「ツバキさんは、なんでこんなに俺に優しくしてくれるんですか...」


女は株から一つの実をもぎ取ると、立ち上がり源二の元へ歩み寄る。

そしてその実を少年の口の中へと入れ込む。

ゲンジはそれを咀嚼するとみずみずしい僅かな酸味と甘みが口に広がる


「それは、貴方が優しいからですわ。

あなたは、あなたが思っている以上に人間らしく、優しい方です。

それこそ、女を堕とし男を誘惑するような卑しい私にはとても触れることさえ恐れ多いですわ。

あなたにはじめて出会ったとき、私は貴方がただの臆病者に思えてなりませんでした。

正直、匿ったことを悩んだことも。

ですが、それは違いました。あなたは恐怖に打ち震えても立ち上がり、仲間の為に剣を振るう。それが仮に一方的な蹂躙であっても、あなたは忌々しい大戦の歴史に一つの終止符を打ったのですよ。

それが、貴方の望まぬ形で。仕組まれたものだとしてもあなたが成したことは立派ですわ。えらい!」


ツバキは慈愛に満ちた笑みを浮かべるといつもとは違う妖艶さからかけ離れた無邪気ささえ感じさせた。


やがて屋敷の前につくとドアを開け、中へ入る。

中は人が居ない静かな場所にもかかわらず庭の花の匂いが流れ込んできているのか穏やかで、窓から差し込む光が足元に広がる赤の絨毯を彩っていた。

ツバキはある一室に源二を通すと、その先には大きなベッドが存在感を露にしていた。


女は何も言わず、ゲンジをベッドに寝かせると布団をかける。

さらにツバキがベッドに腰掛けると視界がぼやけ始める

そう声が聞こえたかと思うと、源二は掠れゆきぼやける視界に意識ごと開け流していく。

風が吹き抜ける部屋の中、ツバキは源二の頭を撫でていた。


「今はお休みください

お労しや...麻痺効果のある植物をずっと与えておりましたのにやっとお休みになられて。

それほどの苦痛に、貴方は耐えているのですね。」




「ねえ、どうしたの?いきなり駆け出して行ったと思ったら今度は一人で帰ってくるなんて...なにかあったんでしょ?もしかして、ゲンジ君...」


「違う。あいつは生きてる。」


エレーナは友人のとりあえずの無事にほっと胸をなでおろすと同時に今目の前で机に突っ伏しているペトラに視線を向ける

いきなり帰ってきたと思えば、突然に泣き出すヒステリックさは一体だれに似たのか苦笑いを浮かばずにはいられない。


「じゃあなんで...」

「ゲンジも変わっちゃったから...」

「え?」

「ゲンジもアタシみたくなっちゃった...」

ペトラは擦れた声でそう答えると、鼻を啜る

エレーナは隣に座り背中を擦ると慈愛に満ちた表情でペトラの顔を覗き込む

「でも、ペトラはゲンジ君に助けてもらったんでしょ?だったら、今度はペトラが助けてあげなくていいの?」


「だって、叩いちゃったもん...きっと、一番つらい時にビンタして二度と会いたくないって言っちゃったもん!」


エレーナは泣き崩れるペトラの背中を再び撫でながら再び苦笑を浮かべていたのだった。


心中ではこの娘は何をしてるんですかいと思ったのだろうか、思ったより緊張感のないエレーナの口角が下がることはしばらくなかった。


「笑ってるでしょ。」

「笑ってないわよ。」

「嘘。」

「笑ってないわ、こんな女に振り回されてゲンジ君もかわいそうだなって思ったの。」

ペトラはわざとらしく再び机に突っ伏す

「だって、勝手にペトラが源二君を襲って連れてきたと思ったら。勝手な妄想で好きになって、そしたら今度は好きな男の子がつらい時にビンタして帰ってくるなんて」


「言わないで!」

「でも、もういい加減ゲンジ君に話してもいいんじゃない?」

ペトラは赤く腫れためでエレーナの方向を見つめると、エレーナがため息を零す

「はいはい、わかったわ。」


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