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悪夢の夜に  作者: 赤さん
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第1節 8章 解放編Ⅱ

これがいわばboyaってやつですね

時を戻し、未だ太陽が昇る昼頃。

芽亜利とペトラはそれぞれ馬に跨り平原を疾走していた


「なんで早くわからなかったのよ!」

「私とてすべての情報を知り得るわけではありませんわ。

あまり無茶を言わないでくださる?」


「このままで間に合うわよね!?」

「恐らくシザーベントにつくのはこのまま走らせれば日が落ちた頃にはたどり着くはずですわ。」


「それじゃ遅い!早く行くわよ!」

「いい加減そうやって仕切るのやめてくださいませんか?」


二人は手綱をより一層握ると、勢いよく土を蹴った


しかし、先を急ぐ芽亜利の思考の端にはなぜ彼らはゲンジ様がシザーベントに向かっていることを知っていたのか、そんな問いが渦巻いていた。


少女の脳裏にはフォールンとの会話が思い出されていた。

フォールン達にゲンジの行方について聞くと、今までは知り得なかった情報が突然もたらされた。

芽亜利たちにとってはそれが鶴の一声だったが、今まで消息を絶っていた源二の行方をどうして突然わかったのだろうか。

確かにあの時、ゲンジ様が倒されてからは皆さまと一緒におりましたのに...



「ゲンジさん!もうすぐ着きますわ!この森を抜ければその先の丘がシザーベントや!」


ウェルマーがそう言い放つと、暗闇を抜け遥かさきに城の姿が飛びこんでくる。

城壁は無残に砕かれ、市内からは黒煙と明かりが漏れている


「ありゃあひでえや...」


ウェルマーは馬を止めるとじっと遠くの城を見つめていた


「お前はここにいてくれ。俺だけで行く。」


源二は荷台を降りると暗闇へ消えていく

心の中はすでに落ち切っていたが、迷いはなかった。

ピラーを生み出さない為ならば、それをまとめている機関を叩く。これだけだったら喜んで戦う。だが、一度は自分もなりかけた同じ存在を手にかけるのは気が進まなかった。

勇者に敗れたあの一件以降、源二の中に躊躇はない。だが、気が進まないということは変わらずあった。


源二はウェルマーの姿が見えなくなると、大きく息を吸って足に力を込めると地面が抉れるような勢いで進み始める


風を斬り裂く音を感じ、せわしなく変わっていく景色の中どんどん城の姿が鮮明に大きく飛び込んでくる

人間では到底出し得ない、あるいは馬も容易に追い越す速度で走り去ってくが、ゲンジの表情は一切変わらなかった


そしてその姿がやがて暗闇と同化し、靄のようなものが身体を覆うと体のラインが消失していく


やがて、城壁が目前に迫ると一気に靄の塊が城壁を駆け上る 


一気に視界が開けると、星が輝く夜空に一人の影が落ちる


「何者か!」


風を斬り裂く音と、突然の襲来に驚いた兵士たちが叫ぶと次の瞬間、城壁にいた人間たちに小さい線が貫通すると、体を固め倒れる


「ま...まて...」


遠のいていく黒い影に手を伸ばすと、兵士たちの指と指の間には小さな雷紋が描き出された。

源二は瞬時に城壁にいた一部の者達を無力化すると、階段を使わずに城壁から飛び降りると、再び駆け出す

しかし、一部の人間のみを無力化していた為その様子を見られたのか敵の襲来を知らせる鐘が鳴り響く


すると、兵士たちが次々と襲い掛かってきた


それでも源二は止まることがない。

血を結い上げ、礫を飛ばし雷を落とす。

殺すまでには至らない者の、次々と戦闘不能に追い込むと一気に駆け出す


現れた兵を跳ね除け、襲い掛かるものをなぎ倒し飛び越していく


城の足元、源二の目の前に複数の人だかりが現れる

源二はその姿に見覚えがあった


「宮廷魔法士...」


そう呟くと、その場に立ち止まる


「ここから先は通しません!」


立派な装備を着たもの達がどこからともなく武器を発現させると、突然現れた黒い存在に視線を合わせる

しかしその中から突然、驚きの声が生まれた。


「君は...召喚者の。」

「え!?そんな!死んだはずじゃ!」


源二は観念し、フードをとると開けた視界と差し込む松明の光に目を細める

それと同時に驚きの声が増した


「どうして君が...」

「この先に行かせてほしい。」

「それはできない。この先にはシャジール様がいる。それに君は、ラインハルト様に聞かされた通り、生きてはいけない人だ!僕たちは君を通すわけには行かない!我が国の平和の為に!!」

「そうか...」


誰がその声を発したのはわからなかったがその場には重い緊張が漂い始める


そういうことだったのだろうか。

確かによくよく考えてみればその通りだ。最初に召喚した側の陣営がピラーを管理していた。出なければ召喚の魔法を使わせられるわけがない。

てっきりピラーを買ったのだと勘違いしていたがそれは違ったようだ。

思えばこいつらは、俺を殺そうとして先生の暗殺も計画したやつらだ。ここまで動いた自分が馬鹿らしくなって気さえする


勇者がその全体像を掴めないのも無理はないのかもしれない。

敵は最初から目の前にいたんだから...


とんだ茶番だったと心の中で嘲笑う。ピラーという魔法を生み出した存在がエイレーネの教会と深い関係があるならば、この世界を背負って立とうといった勇者が自分の創造主たる存在にかなうはずがない。何より、彼が召喚の魔法を使えたのが何よりの証拠なのだ。


「投降したまえ。僕らとて、君を。我々の為に召喚された君たちを傷つけることはしたくない!僕たちだって、君をこのままいたぶりたくはない!大人しくしていてくれ!!」


「それで、また殺すのか?」

「それは!」

「どうせ投降しても俺に行く場所はない。」


「こっちは何十人もいるんだぞ!

それを出せるということは君はかなり魔法を使えるはずだ。僕が、宮廷魔法士が君の無事を保証する。

王にも我々が進言しよう。」


「すまないな。」


「そうか、ならば私たちはここで君を殺さねばならない!」


そういうと、宮廷魔法士たちは一歩前へ踏み出すとその眼には強い光が宿っていた


(嫌いだ。お前らのその正義に満ち溢れたような目が。

裏では平気で殺そうと思ってたくせに簡単に掌を返すお前たちが。)


魔法士たちが走り出す


「こうして平気な顔で自分が正しいと思っているお前たちが。」


源二の周りに魔法陣が展開されていく

あるものは剣を振りかざし、あるものは息を呑み、あるものは口遊む


その刹那、まるで自分の隣に口が突然現れたような、耳と耳の間にある何かがその存在を感じ取るような声のような物が全身を駆け巡っていく。

その声は何処までも透き通り美しい。自分の身体に取り込まれたもう一つの闇が少年の心に語り駆ける。


「剣を抜け。」

二度と


「私たちを」

お前らなんかに

「侵させはしない。」

負けないために。




源二は目にもとまらぬ速さで空中へ飛び上がると、後方に展開していた魔法陣に一直線に飛んでいくその光景は人間というより人型の獣のような禍々しい影を下界に落としていた。


凄まじい衝撃と共に魔法陣がガラスを割ったような音と共に崩壊すると、一瞬で間合いが詰まる

その軌跡を追える者など誰もいない。

魔法を破壊されたダメージで巻き起こる悲鳴、目の前の戦友が一瞬にして肉塊へと豹変する光景、そして目の前にはかつての救世主の姿が現れては消え、その姿を赤に染めていく


派手な魔法は一切ない。ただ目にもとまらぬ速さで動き、切り伏せ、叩き落す

その光景はまさに蹂躙と言ってよかった


降りかかる火の粉を払うように、次から次へとなぎ倒していくと数で押し切ろうと宮廷魔法士たちが連携する


源二めがけて一直線で魔法が繰り出されると、それを難なく回避する否、姿ごと虚空の中に消失する。

だが、それを知っていたかのように二人の魔法士が懐に飛び込んでくるものの、次の瞬間には地面へと崩れ落ちていた。

さらに身体をぐるっと捻り、振り切ることで二人を切り抜く


だが、その無防備になった身体を仲間を踏み越え刺しぬくと、初めてその身体を捉えた証拠に黒の動きが止まった。


鼠色の鉄の上に赤い線が垂れていく中、突然に身体を駆け巡った衝撃に男は驚愕の顔を浮かべる


剣が抜けない。否、動かないように止められている。

ありえない。一瞬のうちにその答えにたどり着くが、もし仮にそれができるとしたらそれができるのは今目の前にいる少年しかできない。


時間がたつごとにゆっくりと腹部を激痛が襲った

男は脂汗を浮かべながら痛みの方向へ目を移していくと、自分の身体が見たこともない剣に刺しぬかれていたのだった。


そして一瞬でそれが抜かれると、男は地面にたどり着く

その視線の先には、体を一直線に貫かれたまま力強い双眸を差す源二の姿があった。

確かに、自分の放った剣は彼の身体を捉えていた。

しかし、その緩むことなき線は一本ではなく二本自分の間を行き来するように橋が架かっていた。

もう一本は、彼の背中から生えている。つまり、目の前の少年は正面の身体から自身の身体を貫通させて自分の腹部へと到達させていたのである。

尋常ではない、もはや人間とは思えない所業に男は力なく地面へと落ちるしかなかった。

剣を地面に突き刺し、背中へ手を伸ばすと持ち手を掴む


一瞬苦悶の表情を浮かべるが、それを引き抜くとその剣を地面へ投げ捨てる。



「この野ろ...」


強い激情に駆られ、顔を歪め怒気に声を震わせながら男が吠えようとしたときにはすでにとめどなく鮮血がはじけ飛んでいたのだった。


その名状しがたい光景に一瞬にして戦意は削がれ、散り散りになっていく人々に追いついては倒れていく


肉を削がれ、地面に落とされる。

時には刺さりきったままの剣をそのままに片手で頭を掴み地面へ凄まじい力で叩き潰す光景はとても人間にはできないような地獄の気色を伺わせた


しかし、中には勇敢に立ち向かうものもあった

源二が一人を斬り伏せるその瞬間を狙い、魔法を使う


だがその魔法は当たることなく闇の中へ散っていくと、その間に別の人間が間合いを詰める

力いっぱい手に握りしめられた鋼鉄を振りぬく


その刹那剣の軌道を止める為に振り絞っていた足から力が漏れ出ては沈んでいく


「あ...れ...」


思考が巡ることも許さず、視界が地面へと到達するとそこは赤色で埋め尽くされていた


その光景に魔法を使ったものは戦慄する


「バケモノ!」


彼女が残した言葉は虚空の中へと消えていった


「狂戦士...じゃと!?」


シャジールは驚愕に息をすることさえ忘れながら、今視線の先で戦っている黒い騎士を見つめていた

身体を貫こうとももろともせず、技の反動など気にしない。

闇の魔法にのみ与えられた神の如き能力をフルに使った戦い方にシャジールは見覚えがあった。

それだけに、流れ出る汗を抑えることなどできるはずもない。


何故なら狂戦士は確かに死んだはずだからだ。


だが、今目の前で戦うものの身のこなし、太刀筋、そしてその手に握られた剣は間違えるはずもない。

自分たちの為にその身を投げうってまで戦った英雄。

それを裏切って勝ち取った栄光が今の神聖エイレーネ帝国を作り上げたのだった。


さらにシャジールはその視線を顔に移すと鬼のような形相を浮かべる

と、言葉にならない力んだ唸りが漏れる



何故こうなった。

勇者が殺したと言っていたのに。いや、それが虚偽だったことはもはや明確、あいつ。何が目的でここに来た!?


何処から間違ったんだ!?

シザーベントを攻める、ピラーの拠点を...


あの力、技。魔法。それを実現する技術...


「己、第三権...ここまで仕組んでおったとは...」


源二は階段を足を使って上ることなく跳ね上がると、老人は怒気を孕ませた双眸で空に黒く輝く双眸を捉えていた。


「おのれ!ゲンジ!!」



それ以上、シャジールが口を開くことはなかった。






暗闇の中、クリスとエマ、フォールンは遠くで繰り広げられる光景を見つめていた


「エマ君、神聖エイレーネが抱える二つの因縁って知ってるかい?」

「知らぬ。童はそちらの人間ではないからの。」


「一つは、闇の魔法使いの因縁。

その昔、君が起こした戦いで人類の為に戦った人柱、狂戦士。

魔物になった原因は耐えがたい苦痛から逃れる為にだったけど、痛みを感じる人間にとっては辛かったんだろうね。


そして、魔族を殺しつくした狂戦士は今度真っ先に人間に狙われることになった。」


「そっちは知っておる。」

「でも、あれが単なる闇の魔法使いだから殺されたわけではないのは知らないだろ?」

エマは興味がありげな顔でフォールンの顔を覗く

「あれは、ラインハルトが時代が変わった今でも闇の魔法使いを受け入れられない原因に直結してる。」


「ああ、あの噂は本当だったのか。ラインハルトと狂戦士の太刀筋が似通っているとな。まあ確かにそれが原因じゃ、ゲンジが執拗に狙われる理由もわからんでもないのじゃ。」


「もう一つは、教皇と皇帝。二つの王の存在。

城内でさえ存在する教会派と皇帝派の派閥争い。そして、シザーベントと、新たに判明したピラーという存在。

これにも派閥があるとしたら、一体どちらの持ち物になるんだろうね。」


三人の間に風が通り抜けると、しばらく源二の姿を見つめる




「いやいや、それにしてもあれは凄まじいね。

やりすぎなんじゃないかい?」


「狂戦士の因子をいれたんじゃ。当然じゃろ」

「でも、なんで急に源二君をあんなふうにしたんだい?初めて君の話を聞いた時、僕は正気じゃないだろって思っちゃったよ。」


「気持ちは、いくらでも変えられる。本人次第だからのぉ、じゃが技はそうはいかん。いくら疲れることも、実践的な鍛錬を積もうとも一年二年で片付くほど容易くはない。」



クリスは朱い眼の先に源二の姿を捉えていた


「またまた、こんなところまで見に来なくったって君がやったんだから結果はわかってるだろうに。」


「いや、あれが適合するかは賭けだった。

別にゲンジは特別というわけではない。ただ闇の魔法を使うだけだ。

ただあれを倒し、狂戦士の力を宿したのならゲンジには資格があったということだ。」


「随分と君らしくないこと言うね。」


「この世界は幾多の偶然でできているものだ

あらゆる発展に、偶発性が必要と言いたいのじゃな。エイレーネの逆鱗に触れて我らも無事ではあるまい。まあ、せいぜいゲンジに恨まれぬようにな。」




闇夜の中、馬の走る音と高鳴る心臓の鼓動だけが耳に届く

先ほどまで轟いていた鉄の弾ける音も、魔法による破壊音もしない。


ペトラと芽亜李は開け放たれた門へ一直線へ駆け込んで来る


「どいて!」


動けなくなっている人だかりを跳ね除け、どんどん奥へ進んでいく

辺りに瓦礫が散乱し、特に正門から一直線に伸びるこの大通りは無残にも平らになっていた

少し走ると、城の入口辺りに見慣れたはずの少年の姿が飛び込んでくる




源二は天を仰いでいた

宮廷魔法士はピラーのことなど、何も知らなかった。結果として源二はただ虐殺をしていたようなものだった。

だが、シャジールだけは違った。

彼がピラーと何らかの関係があるのは間違いない。

それは、あたりに散乱した別の死体を見れば一目瞭然だった。

源二が一目散に城の付近まで走ってきた理由。

それはうまく言葉にはできないものの、魔物が人間を追っていたあのミノタウロスの一件のようなことが説明できるような気がしていた。

正確にはわからなくとも、どこかで自分と同じような存在の痕跡を追っていると感じ取っていたのだった。


結局、ピラーはすべて死んでしまった。今はそう感じられる。

恐らくシャジールがここを攻めた時に殺したのだろうか...

だが、宮廷魔法士がここにいる以上。ウェインフリートとの講和にはない何かを狙っていたに違いない。

つまり、ピラーを何かしらに使おうとしていた。

そして自分が召喚されたことを考えればこいつらが再び何かをしようとしていたのは明白だった。


「ああ、最高の気分だ。これが闇の魔法...」


馬が跳ねる音が近づいてくると源二はそちらに視線を移す

その視線の先にはいつもと変わらないペトラと芽亜李の姿があった。


芽亜利は驚きを見せないものの、ペトラはこの光景に驚愕を浮かべており、それと同時に細かく震えていた。




しばらく会わない間に随分と自分は変わってしまった。それに、見た目も随分と惨めになってしまった。

源二は苦笑を浮かべながら二人を見つめると、ペトラがこちらに走ってくる。


次の瞬間乾いた音が響き、僅かな衝撃に顔がのけぞると視線が横へ無理やり変えられたのだった。


何が何のかわからなかった源二はその場に立ち尽くす。


「二度と、アタシの前に顔見せないで。」


ペトラは拳を震わせながら小さい声でそう言い放つ。

小さな声だったが、それを聞き逃すことはなかった


「なんでアンタまで、そんなんになっちゃうのよ!」


ひと際大きく言い放つと振り返り、馬に乗って走り去ってしまった。


芽亜利はその一部始終を見終わると、ゆっくりと歩み寄ると源二を抱き寄せる

少女は血だらけの身体など気にも留めず、より密着すると

身体を滴る血が、どんどんと地面へ流れ落ちて元の服の色へ還っていった


「ここは人の目につきすぎますわ。戻りましょう。」


少女は源二の手を引き歩き始めると馬に跨り、北方向とは別の人気のない門から帰路に就く。


こうして、シザーベントは再び陥落したのだった。


初めてちゃんと戦闘描写を書きましたがなんかいいですね。

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