第1節 8章 解放編Ⅰ
今回から解放編ということで、どんどん主人公がおかしくなっていきますが、まあいいでしょう。
賑やかな酒場の中、三種三様の美少女たちが向かい合っていた
長い黒髪を流し、制服を思わせるきっちりとした格好がむしろ煽情的に見えなくもない絶妙なバランスを保っているエレーナ
紅いショートヘアを少しだけ整え、高貴さをうかがわせる赤と白を基調とした鎧に身を包むペトラ
長い白髪を二つにまとめ、腰の辺りまで伸びている
スラッと伸びた控えめな体躯は黒いマントの下に、黒と赤の動きやすそうなドレスを着た芽亜利はいつもの如く食事を前に源二の居所を探す為に話し合っていた。
ペトラは特に源二を探そうと必死だったが、下手に帝都を離れては逆に情報が手に入らなくなるため、ひたすら情報を集めていたのだった。
「どうしていつも一緒にいるあなたがなんもしらないのよ!」
「そんなこと言われましても、私も遠くから拝見していただけですもの。
その後どうなったかは分かり得ませんわ。」
「ねえ、喧嘩しても仕方ないでしょ?芽亜利ちゃんも何回も同じこと言ったじゃない。ペトラもいい加減にしなさい?」
「だって...」
「ですが、もし源二様がご壮健なのでしたら。もしかするとシザーベントに行く可能性は多少はあると思いますわ。」
ペトラは食いつくように椅子を立ち上がる
「勝手な推察なので、これっぽっちも根拠はございませんが。
シザーベントの蜂起はここ最近の動向を見るに、当然のことと言えますわ。
ですが、そこに出兵するという者たちの中に珍しい者がおりますの。」
「珍しい?私たちの国にそんな人いた?あんた、自分とか言ったら叩くわよ?」
「少しは自分で考えるということを覚えてくださいませ。
私が行っているのは剣聖、その中でも火の剣聖がシザーベントに向かっているとの話ですわ。」
「剣聖が?」
「でも、おかしいわよね。剣聖さんってどこの国にも属さない人達のはずなのに、なぜこのタイミングで...」
「まあ、みんな生き物だもの。守りたい場所の一つや二つ...ん?
攻めに行くの?」
「それはわかりませんわ。
ですが、このタイミングで剣聖が出てくるということは以前の雹王との闘いにはなかった別の何かが関わっている可能性はありますわ。」
「別の何か?」
「ですからそれがゲンジ様なのか、あるいはあなたのお母さまなのか、召喚者についてなのかわからないから推測なのです。おわかりかしら?」
「わかったけど、あんたその態度どうにかならないの?ギルド追い出すわよ!?」
「やってみなさいな。まともに管理もできない女に追い出されたとて自ら無能ですと宣言しているようなものですわ。
まして私を手放すなんて知ったらあなたの首のほうが危なくてよ?」
「もう!メ!その辺にして早くご飯たべなさい!私もまだ午後の仕事があるんだから、依頼の一つや二つ多くこなして頂戴。」
ペトラはバツの悪そうな表情を浮かべると、席へと座った
芽亜利も食事を再開すると、三人は静かに食事をとり始めた。
この光景もなれたようなものではあったが2人はともかく三人をつなぎとめていた源二という存在がいなくなってから、険悪な雰囲気が流れてはエレーナがそれを繋ぎとめる事で事なきを得るといったことが多々あることに彼女自身、頭痛を感じ始める気がするほど悩んでいた。
「つかぬことをお伺いしますが、お二人はゲンジ様に出会う前。いつもこうして食事されていたんですか?」
「ええ、そうだけど。どうして?」
「私はずっと一人でしたから、ゲンジ様と一緒にあなた方と食を共にするようになって、存外愉快なものだと思っておりましたの。
ですが、あなた方は特に何をするでもないんだなと思いまして。」
「アンタ、ほんと変わったわね。」
「私が?そうですね。変わったかもしれません。なにせ、主様がゲンジ様ですもの。あまりに私とは違いますわ。」
「たしかに、あいつじゃ情けなさ過ぎてそれどころじゃないわよね。」
三人はどの場面を思い出しているのか、微笑を浮かべると食べ物を口へ運んだ。
「ねえ、もしあんたがシザーベントのこと怪しんでいるなら調べてくれないかしら...」
ひと際真剣な口調でそう告げると、一瞬茶化そうと思ったのか芽亜利は深みのある笑みを浮かべたが、想像以上に真剣だったのか軽くため息をつく
「わかりましたわ。どうせ隠したところで永遠と質問攻めにあうだけですもの。
やるだけやりますわ。」
「アタシも、いつでも行けるように準備しておく。」
「ちょっと、また私だけ置いてけぼりじゃない!」
日が昇りきった奴隷街は今日もあまりいい雰囲気とは言えなかった。
だが、それも日常的といえば日常的な光景だった
「げ、ゲンジさん!」
「戻った。」
「よかった...ほんまによかった...」
源二は軽く笑みを浮かべると、街の外で項垂れるウェルマーを見つける。実は、もし何かあったときはせめてウェルマーだけでも危険を回避するため比較的安全な街の外で過ごすという約束を交わしていたのだった。
「だいぶ待たせたかな?」
「ほんの数日間のことや。造作もありません。わい、ゲンジさんが戻ってくるって信じてましたから!」
「そっか、すまないんだけど。もう一ついいかな。」
「ええ!なんでも!」
「シザーベントに行かなきゃいけないんだ。」
「え!?シザーベントにですかい?またどうして...」
「ピラーは一度そこへ集められるそうだ。
だから、俺が全員殺す。」
「殺すって...」
「わかってる。普通じゃないことだけど、もう彼らは人間でも魔物でもない。抜け殻みたいなもんだ。ただ、魔法を他人に操られるだけで痛みも苦しみも伝わってくる。
こうするしかない。」
「そんな...そんな、わいピラーがまさかそんなひでえ奴隷だなんて」
「俺も驚いた。それに、きっと俺じゃなきゃピラーを助けてやれない。それに、約束したからね。」
「約束?」
「ここ、俺の中にもいるんだ。」
「まさかゲンジさんも、ピラーに!?」
「いや、俺は少し違う。でもやられたことは多分ほとんど一緒だ。」
ウェルマーは立ち止まるとぐっと拳を作る
「わかりやした。この身に変えても、ゲンジさん!あんたをシザーベントへ送り届ける!
こんなのまちごうとる!」
「いまから全員を殺そうってやつの前でそういうこと言わないでくれ。
俺がやるのは紛れもない、人殺しなんだから。」
覚悟は嬉しいものの元気が良すぎる男の反応に思わず源二は苦笑を浮かべると、街の外へ向かい歩いていく
片腕はなかったが、体を覆う美しい黒と金のライトアーマーとさらにその上にかぶさるローブが風に揺らいでいた
少年が荷車へ乗り込むと、ウェルマーが手綱を握ると2人の足は連合小王国群シザーベントへと向けた。
「そいじゃ、いきまっせ!」
それから幾日か日は流れ、水気を帯びる土とコケのうえには灰色の鉄を身にまとった騎士たちが整列し、高々と旗が掲げられていた。
高らかに戦士を鼓舞し、それに呼応するように地面が揺れるような声が上がる
「エイレーネに栄光あれ!」
その声と共に兵士たちや馬が前へ走り始めると、空を魔法が飛び交い始める
城壁へとりつくと、梯子をかけてはそれを落としたり
魔法や弓を使い、城壁の上にいる者達を撃っては再び梯子をかけようとする。
その背後からは大きな木枠で組まれた塔のようなものがまっすぐ城壁へ向かっていく
その光景を目にするや否や激しい業火が塔の足元を襲い、悲鳴が轟く
そんな一進一退の攻防がいくつもの城壁の小さな区画ごとに繰り広げられていた。
右を押せば左が空き、左を押せば押していた右が崩され左が押している間に右側にいた兵が左に対応する。
「報告!城壁、突破ならず。城壁突破ならず!」
「老子...どうしますか?」
「近隣の村はほぼ損耗なしでしたが、ここはさすがに違いますね。
地属性の魔法使いを前へ。城壁までの道をつなぎ直接ではなく、間接的に落としましょう。」
「わかりました。」
ある宮廷魔法士がそれに賛同すると同時に怪訝な表情を浮かべる
「それにしても、これほど手ごわいとは...なぜなのでしょうか。」
「直にわかりますよ。」
未だ膠着状態の城壁の際ではいまだに多くの兵士たちが争っていた
そしてその僅か後方、ひと際立派な装備に身を包んだ人物が数人並ぶ
と城壁に向かい手をかざす
小さな声でぶつぶつと詠唱を刻んでいくと、地面が揺れ、亀裂が入り始める
そしてやがて土が隆起し岩を重ね一つの坂を形成していく
その途端、兵士たちの感嘆の声と侵入を許さない怒号が飛び交う
兵士たちは大声をあげながら坂を一気に駆け上がる
横から激しい矢の雨を受けながらも城壁の上へたどり着くと、今度は金属が打ち付け合う音に変わる
そして一つの坂が出来上がると、それに追われる形でまた新たな坂が形成される
二つ、三つほど侵入経路が出来上がったところで宮廷魔法士たちはへ垂れ込んでしまった
しかし、その様子を誰も咎めることなくどんどんと前へ進んでいく
さらに状況が一変したことで正面の門が手薄になったことで一気に戦線が崩壊したのだった
それからというもの、城壁を掌握されたシザーベントは一見防戦一方に思われたが、市街地の中でも神聖エイレーネ軍は苦戦を強いられていた。
「クソ!シザーベントはどんだけ魔法使いがいるんだ!」
「あいつら自分の命なんぞ易々と差し出しやがる!こんなんじゃ命がいくつあっても足りねえ!」
凄まじい火炎に大きな瓦礫の裏で身を隠していた数人の騎士が緊張の中叫ぶ
その視線の先には激しい炎と赤の光に包まれた人の姿が見えていた
日は僅かに傾き、戦いが始まってから既にかなりの時間が経過していることを示していた。
「報告します!正体不明の魔法使い集団にわが軍は苦戦を強いられています!」
「予想よりかなりのピラーをため込んでいたようですね。」
シャジールは軽く頭を縦に振りながらも、報告を受けたテントの机の向かいにすわる戦場に立つにはまだ少し若い召喚者と同じような年齢であろう男に向いていた。
その男は、獣の分厚い毛皮を肩回りにまとい、戦場には不向きな薄手の主張の強いデザインの服に、腹部は大気に晒されている無謀ともいうような挑戦的な見た目を伺わせていて、赤黒いヴァイオレット色の髪の間には笑顔に歪む顔が覗いていた。
「愚かなことに私たちは交換条件に彼らに大切なものを差し出してしまいました。それを取り返してほしいのです。剣聖の力。お見せ頂けますかな?」
「あ?お前らになんぞ言われなくとも、俺は一人で攻めるに決まってんだろ。アレは俺が頂くもんだって決まってんだよ。
だが、俺がお前らと戦うのは途中までだ。勘違いすんじゃねえよ、ボケジジイが。」
「もちろん、心得ておりますとも。」
少年の退室と共に垂れ幕が下がると、微かに暗がりを落とすテントの中老人はじっと正面を見つめ、その視線が焦点を結ぶことはなかった
「結果的に裏切る形とはなってしまいましたが、これでピラーは我々の物です。」
「ですが、ピラーは強大な魔法力を有するはず。今潰してしまっていいのでしょうか?」
「あれは魔法でも何でもない、我々でも作れますよ。それにここはウェインフリートといずれ取り合う領地。
すれば、今ここで我々の痕跡を残すのは得策ではないでしょう。
我が教会が、ピラーを作っていたなど。
それにしても勇者は頭が悪いですねぇ。ま、自分を生み出した存在が追い求めていたピラーの生みの親が自分の目の前にいたのでは無理もないですかね。」
怪しく笑みを浮かべると、魔法士はそれ以上何も問いかけることはなかった。
そして、少年の賛成によってシャジールの思い通り、月が空を支配する頃には剣聖の活躍で前線が開かれシザーベントは陥落した。
街は激しい戦闘で瓦礫は飛散し酷い有様で、その痕跡はあらゆるものが融解する程に凄まじい焼け跡がいくつか残されていた。
地面には激しい魔法の攻撃に晒され、焼けていたり水気を帯びていたり不自然な湾曲を生み出しており、それに覆いかぶさる形で死体や血液も飛び散っていた
しかし、そんな戦場に新たな来訪者の知らせが轟く
その知らせが届いてから、正体不明の存在に数十分が立とうとしていた。
そして、それが知らされてからというもの、シャジールの表情はどんどんと怒気を纏っていった
「なぜたかが一人も止められないのですか!」
「それは...」
誰だ。誰なのだ。漁夫の利を画策したウェインフリート軍か?
そんなことエイレーネが許すはずもないし、今国交を悪くする意図がわからない。
最初は遅い援軍かと思ったがどうやらそうではないらしい。
それに...我々は裏切ったはずなのだ。
なんかやべえやつでてきましたね




