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悪夢の夜に  作者: 赤さん
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第1節 7章 逃亡編Ⅳ

「これで、同じだ。」




「聖刻か」

「お前、あんなこと言ってた割にこの魔法使えるんだな。」


女は笑みを浮かべると、肩口を触る。鼻を鳴らすと、もう片方の腕を動かし地面に横たわる剣を拾い上げると二つの全く同じ黒と金色の剣が向き合っていた

源二は女の持っていた剣と全く同じものをその手からを離し、姿が溶けると再び槍が現れる


「俺は、みんなを連れて帰る。

お前らのことに同情を抱かないわけではない。だが、それ以上に俺には助けたい人が居る。

だから、俺もここで死ぬわけにはいかない。二度と、後悔しないために!」


「良い度胸だ!!!!」


2人の双眸が交差する。先ほどまで深い青色をしていた目は赤く染まりあがりもはや人間の眼光とは思えないような禍々しいオーラを感じ取れるほどに圧力を生み出していた。

しかし、そんなものを気にしている余裕も、気概も少年の中には存在していなかった。


「俺は、みんなを連れて帰る。

お前らのことに同情を抱かないわけではない。だが、それ以上に俺には助けたい人が居る。

だから、俺もここで死ぬわけにはいかない。二度と、後悔しないために!」


源二は後ろへ飛び退くと魔法陣が発現する

少年が通過するたび幾何学模様が新たな線を描き、重なり変化していく


その刹那、黒い世界に太陽のような光が降り注ぐ


光に包まれた途端、源二と女は立ち尽くしていた。

木の面とパイプで作られた椅子と机が整えられ、正面には深緑の板。わずかに霞む白


透明な板は抵抗することなく外の光を通過させ、外の存在を規則正しく映している

窓はところどころに開けられ、臭い人間とホコリ、ゴミの混ざった空気と土のにおい。



その光景に源二さえも驚いていた。


「なんだ...これ...」

「教室...この匂い...」


景色が変わる


冬の芯を貫く風に角度の強い坂、足元から硬い感触を返すアスファルトの黒、規則正しく並べられる円の堀、白いガードレールにわずかに剥げた黒い痕跡。

木の葉が茶色くしぼみこみ、風の揺らぎに抗うことなく落ちていく。

遠くからわずかにエンジンがうなる音や、鳥の囀り。風に軋む地面の音


少年が瞬きをする


光に打たれ地面を輝かせる木のツヤ。いくつもの色で彩られた線が引かれ、一見するだけでは何の線かわからない柔らかな足元。

微かに外から桜色の光が差し込み、自然光に半円柱状の建物が彩られる。

壇の上には木製の台

側面のタイルに、文字が刻み込まれている


振り返ると、地面には数個のオレンジと黒線が彫られた球体が転がっていた。


女が驚きに振り返る



木組みの弾力のあるベッドに、木組みの机、枕元に伸びる白い糸

柔らかみの中に温かみのある足元は木でも石でもない毛皮のような四角

紙の束が並べられ、赤や緑、白といった色に彩られた堅紙に留められ、整列している


源二が手を伸ばす


複数人が座れる柔らか味のある柔らかい長椅子

黒く横に長い黒の平面

明るい茶色の面の上に置かれた灰色の紙

窓に垂れる白い布


しかし、そこに人はいない。



源二は腕に力を込める


「何故、お前がこれを見せられる。

消失は間違いなく始まっているはず。

光も闇も同様に起こる精神の消失、これだけは絶対の理!お前は人ではない、神とでもいうのか!」


再び世界が黒い世界へ戻ったその刹那凄まじい轟音と共に、世界が白く染まった

光が差し込むわけではない、ただ均一に白い光が放たれた世界に女が横たわる

少年がそのもとへ歩み寄る


「負けたよ。アタシじゃ勝てない。」

女の倒れた背後には散らばった黒の欠片が飛散していた。

「そんなにじっと見ないでおくれ。いくら私とは言え、恥ずかしい。」


両手が再生したにもかかわらず生まれたままの姿で横たわる姿はこの状況でなければ卒倒しそうではあったが、源二はそんなこと気にせず、顔元に跪く


「お前の気持ちははわかった。だから、少しでもいい。お前がこの世界にいる間だけは、私の代わりに戦ってくれないか。」


「何をすればいい?」


「お前が元の世界に戻るならば、闇の魔法使いのことはこの世界の者が引き継ぐ。


もし選択肢があれば多くの人間が救う選択をしてほしい。私の力を使うのだから、せめて人の役に立ててほしいんだ。

それと、ピラーとなってしまった者達を...殺してやってくれないか。


あれはもう人の形をしていても中身はもう抜け殻だ。

それでも、自由に動けなくなるだけで五感はある。

魔法を使う部分だけが制御を外れているだけなんだ。

こんなこと、お願いをするようなことではないがこれも大戦を始めた我々の責任。たのむ...」



「わかった。」


源二は女を抱き起こすと、その距離を一層縮める


「その、名前。教えてくれないか?」





「忘れたよ。言ったろ。もう私は人間じゃないと。」

「そうか。」

「お前と戦ってる間、セレナの顔が浮かんだ。お前の身体からセレナみたいな匂いがした。


なあ、お前が見せてくれたあれはなんだ?」


「俺の来た世界。」

「なんで、あれが見えたんだ?お前の魔法なのか?」

「わからない。俺はもうずっと頭の中で魔法をイメージしたことがない。というか、できない。」


「そうか...さあ、はやく私を食べな。」

源二は表情を強張らせる

「お前が私を喰わなきゃ戻ることはできない。わかるだろ?

なに、遠慮するな。漢だろ?」

「でも...」

「君が私の代わりに君が誰かを救ってくれるなら、私の痛みなど造作もない。

痛いのには慣れっこ...そうだろ?」


女は柔らかな笑みを浮かべながらも、その目端はどこか悲し気で悔し気な気を感じざるを得なかった。

今、自分が辛い思いをしているように、この女性もまた多くの苦難を乗り越え、多くの絶望を味わい、夢の最中に思い敵わなかった悲しき宿命を背負う闇の魔法使いだと言うことを考えるだけで、少年の心は心臓を掴まれるような深い虚空に心を浸していた。


「逆に、お前の名前を聞いてもいいか?忘れてしまうかもしれないが、私と共に戦ってくれる者の名くらい覚えていたい。」


「源二、志乃 源二だ。」

「ゲンジ。覚えた。必ず覚えた。

さあ、食べな。元の世界のことは頼んだからね。」



源二は軽く口を開けると、細い純白の首元へ歯を立てると一気に力を込める


少年と狂戦士の姿は白の世界の中で、赤い華で彩りながら一つになっていったのだった。


視界のなかにぼんやりと視界が差し込む中、僅かに飛び込む人型の姿が口を開く


「お!やっと起きたかい?じゃあ、さっそ...」


世界が再び石造りの地下へと戻されると、源二は目の前に立つ女の柔首を易々と持ち上げていた


「な...ぜだ...」



源二は麻布を黒い粒子へと変え、何処からともなく黒を基調としたライトアーマーを発現させ、その身体を黒のローブで覆いつくす。


「まって...ゆるして...なんでも...する」


少年は手の力を緩めると、嗚咽を漏らしながら床に座り込む


「エイレーネと内通している奴隷商はどこだ」

「知らない...私はただ調教して流すだけ」



「ほかのピラーはどこにいる」

「お前らは一度、集められる。」

「どこにだ。」


源二は一気に手を離すと、力なく床に垂れ嗚咽を漏らす


「シザーベントよ。私もシザーベントにお金をもらってるだけなの!ね?おねがい!」


「お前が本当のことを伝えているかどうかもわからないのに、なぜお前を救わなきゃいけないんだ。」


「ほんとのことよ!あんたらは一度王城の地下へ集められてそこで出来栄えをみるの!

ほら、これ!シザーベントの紋章!これがあれば門だって難なく通れるわ!」


源二は差し出された紋章を手に取ると後ろを向いて歩き出す


「俺はあんたが嫌いだ。平気な顔して、楽しそうに人を痛めつけるお前が。

だが、学ぼう。そんな綺麗事を並べるだけでは何もできまい。」


その刹那女の胸を貫くように黒く、大きな手が脈打つ肉をつかみ取っていた

ギチギチと手が握りこぶしを作るために圧を増すと、その内側が強く反発し声にならない苦悶の音が静寂の中へ生まれる


「よくも、人の命を弄んでくれたな。」


「なんで...なんで...私、そんな因子は...」


女の声が暗闇へと溶け出すと、それを後押しするように鮮血が冷たい石の上に流れ出した。


少年はそんなことを気にも留めず外へ出る為に出口を目指しながら、意識を思考の世界へ向けていた。


というのも、先ほど使った魔法はこれまで源二が使えるはずのないものだったのだったからだ。

少年の中でピラーという存在が人間ではない、魔法を使う人間の魔法を使う機関を魔物の暴走機関を入れることで無力化し、文字通り魔法を使おうとする機関を奪われることでその魔物が魔物に変化するまでに蓄積された魔素が解き放たれ、強制的に力が解放される。そして、それを操ろうとする力をなくすことで外からの干渉によって簡単に魔法を使わせる状態にしていたのだった。


それに、シザーベントにピラーが集められているという情報

確実性はないものの十分に考えられる

というのも、シザーベントを納めていた雹王は篠原を暗殺しようとしていた。

しかし、その策略はエイレーネが計画したもの。

ということはエイレーネがシザーベントに依頼したことで雹王が動いた。

それを自分たちが阻止したことでもともと立場の弱かった連合小王国が奮起した...

確かに、人権を無視すればこのピラーという存在は非常に厄介だ。


源二はひと際大きな扉へ手をかけると、青黒い空が少年の視界に飛び込んできた。

ひと際大きな呼吸をすると、苦笑を浮かべる


「この街、臭いな

とりあえず、シザーベントを目指そう。」



その頃、エイレーネの王宮はどこか物々しい雰囲気に包まれていた

「シザーベントが蜂起しました!」

そう告げるのは、宮廷に出入りしていた身分の高い兵士だった。」


「そうか。」


そう淡々と告げるのは王座に座るラインハルトだった


「シザーベントであれば、我々が向かいます。よろしいですね?」


「構わん。あれは教会派の持ち物なのだろう?

だが、これはあくまでシザーベントの蜂起だ。我々も一人同行させる。いいな?」


「大いに構いませんとも。では失礼いたします。」


そう淡々と告げるのは王座に座るラインハルトの背中に後ろからそう告げるのはシャジールだった。その相貌は怪しい光が宿り、妖しく笑う。



シャジールは口元にシワを寄せると、そのまま王座の前を去っていく

兵士たちが物々しく動き回り、メイドたちの動きも慌ただしくなってきたころ、白銀の鎧をまとった女が馬に跨ると鏡花達が駆け寄る


「ゲンジの死体はいまだ見つからず。シザーベントの蜂起は予想道理...あとはウェインフリートか、教会派は何を企んでいるのか。」


ラインハルトは深い闇の中玉座の上で



「シャルロットさん、また戦争に行っちゃうんですか?」


「キョウカ、安心して?今回は私達は行きません。シザーベント領に最も近い領地が私の治める地ですから、いつまでたっても領主の仕事をほおっておくわけにはいきませんの。」


「また会えるよね!?」


「はい、ですから戦いに行くわけではありません。また私のところにいらしてください!キョウカ、それにリン。またあなた達の世界のこといろいろと教えてくださいまし。」


鏡花も頭を縦に振ると佐伯も笑顔を向けていた


「リュウヤ、ショウゴ。あなた達の成長ぶり、本当にいつも驚かされました。このまま自分に甘えることなく、鍛錬を続けてくださいね

!」


「ああ!」

「ありがとー!シャルロットたそ!」


男子二人も笑顔で答えると、後ろから佐伯の蹴りが襲う


「何がたそよ。ほんとキモい。」


「いや、これはいと尊きお方に捧げる敬称みたいなもので...」

「だからそれがキモいって言ってんのよ。」


「もう!二人とも!シャルロットさんが行っちゃうのにそんなどうでもいいこと言ってないで!」


鏡花が頬を膨らませ、二人を諭すと篠原が歩み寄ってくる


「シャルロット殿、そのお世話になった。」

「こちらこそ、シノハラ。皆様には良くしていただいて、私の方がお礼を申し上げたいくらいですわ。

いえ、あなた達だけではありません。

各地にいらっしゃる召喚者様が今日もこの国の為に働いてくださるおかげで今日の私たちの生活がありますわ。」


一同がこの世界に来てからかれこれ1年が立とうとしていた頃、源二以外の者達もこの世界の暮らしにだいぶ慣れてきたようだった。


各地にいるクラスメイトたちの動向も定期便という形でやり取りをしていた。

1年も経てばこの世界の中でも現地の人間やクラスメイト以外のコミュニティーに属し始める者や、自身で目的を立て魔法の研究に励むもの騎士のまねごとをするものまでいた。


その中でも、鏡花達の成長は凄まじく全員は固有武器を発現するまでには至らないものの、すでに帝国の魔法使いとして戦えるくらいの能力を有していたのだった。

篠原自身にはそのことが気がかりで仕方なかったが、帰れないという現状では、この世界で健やかに生きていくことが先決だった。

だからこそ、今目の前にいる子供たちが今は亡き源二を救うという叶わぬ夢のためであってもあえて目を瞑っていたのだった。



やがてシャルロットや王宮魔法士たちが出立すると、いつにもなく場内は静寂に包まれていた


「行っちゃったね。

戦争って初めてだよね。」


「この世界じゃむしろ戦いはよくあることだろうから

むしろ僕たちがいた時代のほうがすごいのでは。」


鏡花の問いかけにどことなく得意げに正吾が答える


「僕たちの世界のほうがたくさん戦ってる気がしなくもないけどね。」

正吾が振り向くとそこには西宮和がいた


「シャルロットさん行っちゃったよ?」

「うん。僕はシャジールさんと話してたから顔出せなかったんだ。悪いことしちゃったね。」

「和くん、いつもあの人に魔法教わってたもんね。」

「うん。」


「西宮は勉強もできるし、結果残してるけど。あんたたちはどうなのよ。馬鹿みたいにずっと剣振って。」


佐伯が龍弥と正吾のほうにジト目を向けると、二人はバツが悪そうにごまかした表情を浮かべていた


「でも、和くんすごいよね!火属性魔法を何十年分も進化させたんでしょ?」

「それは言いすぎだよ。たまたまだって」


西宮は恥ずかしそうに手を振りながら答える


だが、実際に火属性魔法を扱っていた西宮はシャジールや宮廷魔導士から火属性魔法について多くを教えてもらい、図書館に行っては書物を読み漁り推定ではあるが、火属性の魔法を十数年分進化させたと言われている。


というのも、魔法そのものの強度を高めるといったものではなく一般的な言語に落とし込むことでより体系化された火属性魔法を記すことで今までに習得できなかった魔法を習得させたり、新たな火属性魔法使いを生み出しやすくなったのだった。




召喚者たちはいつもとは少しだけ緊張感のある日常を過ごしていたころ、シザーベント蜂起の情報は地をかけウェインフリートにも当然届いていた。

ウェインフリート帝国の帝都では早急に皇帝、エルフの森代表、そしてクリスがそろい机を囲んでいた


「シザーベントは我々の国としては欲しいところ。内陸に広い我々の国にとってはこの戦いに参加し、海を押さえておきたい。」


「それに関しては私のほうからいうことはありませぬ。

我々は安寧を約束される代わりに、実りを与えるだけですから。」


すると、自動的に視線が最後の者へと向かうとゆっくりと紅の眼を光らせる


「すまないが、承服できない。」


「理由を聞いても?」


「無論、理由は二つある。

一つはこの状況を最も重くとらえているのはエイレーネの方だからだ。

元よりエイレーネとシザーベントの間には深い因縁がある。

エイレーネに裏切られる形で離散したシザーベントはその関係上、エイレーネへの怒りが強い。

もっともそれは雹王が反旗を翻した時に証明されている。

我々が手を出さずとも、すでにエイレーネとの間に大きな借りがある以上、其方も民を死なせるべきではないだろう。」


「最もな意見ですね。言われて見れば私もそれに賛同致しますわ。」


エルフの女性はカップを傾けると、室内に静寂が生まれる。


「それで、もう一つの理由というのは?」




「勝負は既に決しているからだ。」


逃亡編をお送りしました。いよいよとんでもない展開になってきましたが、この狂戦士さんは設定上、アナザーストーリーを作れるくらい深い歴史と悲しみが混ざった可哀そうな人物です。いたわってあげてください。

次回からは解放編!ここから怒涛ですね。

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