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悪夢の夜に  作者: 赤さん
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3節最終章 絶界ノ終極天編 Ⅱ-Ⅸ

「久しいな、芽亜利。」


「顔馴染みになった覚えはありませんわ。この外道。」


「贄を操る魔法を使うものに外道とは。あの男が、その呪いを解き去ったか。」


ヨルは担いでいた長刀をこちらへ向けてくる。


「ラインハルトが死ねば我も滅びると思うなら、あらかじめ否定しよう。王冠は壊された。貴様らの手によって。


この世界は、闇の魔法使いがいないかのように装わなければならなかった。

あとは、説明しなくともわかるであろう。」



ヨルは刀を構え、水平に移すとその美しい刀身は規則正しく光を弾き、水平の光に同化して見えなくなる。


「ゲンジ様がラインハルトに立ち向かうというのなら」


「アタシ達だって、その障害を取り除いてあげたい。」


「向かってくるか、この闇に。」


大空で縦横無尽に駆け回る激情の衝突の裏、見えぬ地面の一角で、静かにその時を待っていた。


芽亜利は見抜いた。ずっと、気になっていた。


なぜ、ラインハルトは直接殺しに来ない。なぜラインハルトはゲンジが成長するかのような試練ばかりを与えるのか。


自分がそうであったように、一貫して目的を変えないことは難しい。


だったら自分はどうする。この歪み、美しい世界を作り上げた血塗られた王冠の持ち主、2人の超越者が描く勝利のシナリオは。

そして、反転する。ゲンジならどうするか。


二転三転。


ゲンジの全てを汲み取っている。死しても立ち向かい、戦い、突き進むと知っていた。


どこからだ。



最初は違かったはず、何か決定的な何か。




ペトラが目前でヨルの剣を弾く。


芽亜利の糸の凶弾がヨルの身体を貫くも消え去る煙から実体へと目まぐるしく代わり、次々と襲いかかる。


太刀筋はゲンジと全く違い、技量一つで戦場を駆け抜けたという評価そのもの。全ての戦略に意図があって、そして裏をかくように立ち回り剣撃というよりも、読み合いに近い。



「「絶剣・阿修羅」」


振るわれる剣が幾多にも伸び、拡散して襲いかかる。



なんとか回避し弾くもののゲンジと同じように一撃振り抜くだけで拡張された魔法の軌跡が襲いかかってくる。


「「紅獄 ・ 結」」


芽亜利は強く手を叩くとその手のひらにあった鮮血が細かい粒子になって拡散し、大気に溶ける魔法が固定化される。


それは、ヨルの魔法を間接的に抑制し、拡張し続ける魔法の成長を止める。


さらにペトラがその間に入って自らの左の薬指に手を添える。


「夢に消えて「モーフィアス」」


白い花を携えた蔦がヨルの剣に結びつき、攻撃の意図が傷害から退くと魔法は完全に相殺される。


「芽亜利。」


「ええ、ゲンジ様とは全く違う。」



「それを感じ取れる感覚は残されているようだ。」





刹那、ペトラがヨルの横を目に見えぬ瞬間に取っていた。


「「アタシを、舐めるな!!」」


「明鏡止水を知って尚振り抜くか。」


「ゲンジの為なら!」


芽亜利では間に合わない。しかし、そう知っていても止めようと手をのばす。


「「明鏡

「「スプリット

      止水」」

ゲート!!」」


ペトラの赤い相貌が雷を帯びたかのように強い魔素が頭角を表し、描く剣の軌道が大気を分断する。


しかし、その剣は合わさるどころか触れることすらなかった。


「どこをみている。」



水平に保たれた刀がごく自然に現れたヨルの手から放たれる。


なんの変哲もない横一線。自然だからこそその技量の異次元さを物語る。



やられる。



芽亜りがそう思うのに 一瞬も必要ない。誰がみたってこれは、勝てるわけがない。


「「赫ノ絶叫 惡」」


生み出される大鎌を振り下ろしたような大きな攻撃が虚空から生み出され、それを回避しようとしたヨルの体だが、その切り口が切り裂いたのは体ではなく大気。


その切り口へ爆縮が巻き起こると


ヨルはそこから逃れるためにペトラの元を離れ、瓦礫の上に姿を現す。


「貴様らが、誰かのために戦う限り、我々は滅ぼせない。」



「知ってるわよ。アンタだって妹を守るために戦ってたって。何が、お前を動かしてんのよ。」



「ウメに聞いたか。サクラは死んだ。」


「サクラがゲンジ様の身体の中にいるから、狙っているのかしら。」



「違う。やつが囲っているのは闇という概念が孕んだ記憶。サクラ本人でもなければ死した闇の魔法使いの誰でもない。」


「だったらなぜ、いつまでも彼を!」


「この世界には、示すべき光と闇が必要だ。

根源という絶対。頂点ではなくその山を登らぬものが居ないように、円環を。」



そして結びつく、運命という最後のピース。


ラインハルトが、ゲンジを深く追い求め、そして終わりの見えない地獄の核となりうる心臓。



誰よりも、ゲンジを知っているのは自分ではない。


この2人。


ヨルとラインハルトは、こうなる未来を知っていた。


己の忌み嫌う地獄の中で、どう動くか知っていた。


それは、ゲンジを知っているからじゃない。己を知り、人間を愛し知っているからこそわかる。


ヨルはウメを愛し、ラインハルトは....



「狂戦士....」




ヨルは目にも留まらぬ速さでペトラへと向かっていく。


それが、ヨルとラインハルトの狙い。


どこからかなんてどうでもいい。こいつらは今、ゲンジとこの世のつながりを断とうとしている。

いつからか、それがラインハルト達の狙いになった。


前に進み、ペトラの軌道へと割り入ろうとするほどに強く確信に変わる。


ゲンジにはそうするだけの力がある。

精神性、魔法。それだけではない。志乃源二という少年の発現した魔法はこの世界始まって以来の禁忌。そして無限の可能性を秘めている。


ラインハルトはパラベラム。

その圧倒的な力をさらに高め、他者に魔法の掌握すら許さない。超支配的な魔法。


ヨルは、他者の生命を操り我がものとする。

一見、ラインハルトに似ているように思えるが全く違う。

あれは支配ではなく、継承。


ヨルもまた王たる所以。それらしい固有の魔法を持ち合わせ、それに由来する世界の記憶を持っている。そのことを本人ですら知らなかったほどに深く。



そして、ゲンジはその2人の立場を完全に調和する最後の欠片。


2人にとってこの上ない適合者。


ゲンジの魔法は、魔法を以って魔法を完全否定する悪夢のようなもの。

人間によって受け継がれ、人間によって支配され、最後に人間によって滅ぼされる。


誰がやるかではない。人間という種族であること、人間という存在が最も人間を脅かすことであることを、誰よりもこの3人が知り得ている。


己が人間かどうかではない。過程などどうでもいい。

導きたい未来は終焉。


ゲンジをこの世から切り離し、絶界へと到達させる。


そうすれば人間は、人間の作り出した戦い、人間の作り出した禁忌によって己を焼き尽くす体裁が整う。


「この世に人間なぞ、」


芽亜利はペトラを押し除け、その手に飛散した鮮血の全てを込める。


「「find the flame.」ゲンジ様に与えられたこれが、私の!!!」



芽亜利の手から血を集めた一閃が繰り出され、何もかもを貫く。

そしてそれがヨルの姿に差し掛かった時、球体を描くように威力が拡散し、魔法によって生み出された炎が大気に消えさ失せると、ヨルの体を覆うように現れた黒い龍の手とそれによって静止した槍の存在が顕になり、ヨルの笑い声が不気味に空気を支配していた。




「奇跡とは、往々にして起こりうるものだな。芽亜利。かつてのヨルであれば、この刃は我に届きうるものだった。

その記憶が、その愚かな勝算を弾き出したか。」


「この場から逃げて、ペトラ。」


「何言って、」

「コイツらの狙いはゲンジ様の孤独。

私達全員を殺して、ゲンジ様とこの世界を繋ぐ、無間という住処の光すら奪おうとしている!」


「じゃあアンタは!」


「ペトラ、私はゲンジ様のために戦いたい。


貴方が罪悪感を感じる必要などないのです。思い出したんです。あの姿、ゲンジ様の本当の暗闇に触れた時に。

芽亜利がこの世界でなぜ、闇の魔法使いを追い求めてきたか。


この身に流れる血の一滴でも、お前と同じものを流しているとは認めたくもありません。」



「そんな...うそ...よね。」


「本当だ。久遠ノ芽亜利。我が母君の家系の子よ。」


「ですが、そんなものもう関係ありません。」


「お前という血が、ゲンジをこの場に導いた。皮肉にもな。」


「たとえ私がおらずとも、ゲンジ様はあなた方を許さなかった。


ペトラ、あなたと出会えてよかった。貴方と戦えてよかったですわ。


ここで3人を殺されるわけにはいかない。


私が、闇の魔法使いを追う理由はただ一つ。闇の魔法使いを殺すのは、全てこの男の作り出した悪夢を断ち切るため。」


「運命とは奇遇なものだ。余計な怨恨も断ち切らせにくる!来い、芽亜利!!!」



「「赫ノ絶凶• 阿修羅」」


芽亜利の作り出した槍から放たれた波動がいくつもの波に拡散し、全方位から襲いかかる。


「「絶剣•明鏡止水」」


刹那、また横をペトラが取ると芽亜利の打ち出したものを弾いたものが、ペトラにも襲いかかる。


しかしゆらめく剣はそれを戸惑うことなく一直線に鮮血を切り裂くと、前に飛び込んでいく。


「何度試そうが...」


ペトラの作り出す光に隠れ、ヨルの背後を襲う赤黒い影。


「アイツ、アタシを囮に...」


「「紅獄ノ絶歌 ・ 暗赫」」


虚空の中心から、無を切り裂いていくつもの牙が円環を剥くと芽亜利の腕に食い込んで話さない薔薇の剣を発現させる。


ヨルが剣を持った時、異変は突然起きた。


目にも留まらぬ速さで腕が弾き落とされ、蔦に生える棘が大気を食い散らし、ヨルの腕を地面に叩き落とすと、話すことなく棘が地面ごと喰らい潰す。


「獣が...」


「私は、ここで死んだもいい。私たちの家系はこの戦いで滅ぼす。」


その蔦は芽亜利の体に容赦なく食い込み、この傷口からは止めどなく鮮血が滴り、ほぼ無呼吸の極限状態にまで陥れる硬い装甲が芽亜利の体を覆い尽くす。

まさに、諸刃の剣というに相応しいが、ヨルですら無視できないほどの存在感と確かな強さが魔法を通して伝わってくる


だが、それも長くは続かない。

ヨルは一瞬にして蔦を切り落とすと、追撃する芽亜利の軌道を塞ぐ。


否、塞いでいるのは刀ではなく、大きな竜の鉤爪。


芽亜利も引くことなく、闇の龍にさえ立ち向かう。


それに追従してペトラも喰らいつくもその行動すら見透かして、ヨルか闇龍がペトラのために割いた気配を察知して飛び込んでいく。

またペトラが出し抜かれたように驚愕する。


「やはり貴様の血脈は面白い、ヨル。」


「哀れな。破滅や依存など何にもならないというのに。


だが、良いきっかけだ。」



「「絶剣・ウカノミタマ」」



まるで、すべての時が止まったように全員が制止する。

ただ違ったのは一瞬前までいたヨルの座標と動いたであろう軌道に残る僅かな雷の跡。


芽亜利の全身に渦巻く蔦が一閃、全て解け落ち、鮮血の自由落下とともに地面に手を付く。


「その魔法...」


「召喚者とは名ばかりの呪いよ。人間の本質は何も変わらぬ。

現に、奴はこれを大成させるに至った。


たった1人、ゲンジという存在に辿り着くために、己の持てる力の全てを以て、根源に触れられる奴にも匹敵するだけの魔法を。


これが、人間の呪いの正体だ。」



「所詮...お前も、人間ってことです。」


芽亜利はよろめきながら立ち上がると、何とか作り出した剣を杖にして姿勢を保つ。

片手は鮮血で潰れ、体の至る所から食い込んだ出血が止まらない。


「芽亜利....アンタ...」


「ペトラ、さっきも言ったわよね。コイツは、私達全員を殺そうとしている。ゲンジ様のためにも、誰かは生き残らなくては...」


「じゃあ...芽亜利はどうなんのよ。何で、そんなこと!」


「おかしいですよね。言いたいことはわかりますよ。

でも、不思議と身体がいうことを聞いてくれないのです。滾りではなくて、心の奥底から溢れ出る温かい高揚感に!」





時が過ぎ、何もかもが終わった静寂の中、


滴る涙が手に落ちて、ペトラの手が震え、芽亜利の弱々しい笑い声と共に手が握り返される。


「ペトラ。」


「何で...何でアンタがこんなこと...おかしいわよ...」


「何ででしょうか...わからないんです。でも...たくさんのものを、与えてもらいました。こんな思い、こんな楽しさを感じたのはいつぶりでしょうか...


おかしくなってしまったんですね、私は。」


「馬鹿よ...大馬鹿よ....普通の芽亜利なら、何としても勝つはずでしょ?そうでしょ...」


「ペトラ。ゲンジ様は今、自分すら許せずあなた達の思いも受け取れていません。

いいですか、ゲンジ様の暗闇を照らしてあげられるのは、あなたとエレーナ以外いません。

少しでも、私のことを憂いてくれるなら、彼を見つけて再びラインハルトの元に。


彼なら....必ず....」


「そんな...だめ!まだエレーナも。助けも来てない!!」


「この命尽き果てようとも...私の紡いだ運命を。見せて、誰でもいい、この世界に生まれてよかったと思える人間を。

あと....少しだから。」



突如、芽亜利の体が黒い染みを帯び、服の至る所に墨を吐いたように黒いしみが生まれるも、芽亜利はそれを愛おしそうに触る。


「ゲンジ様。愚かな私の全てを捧げます。これが、私の示せる究極の愛です。


お慕いしております....いつまでも、あなたと共に。」



少女は体のいたるところを包む暗闇に呑まれ、その姿形がペトラの抱擁を貫通して消えていく。



走り、追いついたエレーナが辿り着く頃に芽亜利は闇に消え、自然と足が崩れ落ちる。


「嘘....」


「話は後じゃ。ここは概念が不安定すぎる。またいつ奈落の底に落とされるかもわからぬ。引くのじゃ。」


エマは体躯の差に見合わぬツバキを抱え、ペトラも、涙を流すことなくゲンジを抱き起こし、シャルロットは満身創痍のミーシャとしゃがむエレーナに肩を貸すと、一向はその場から姿を消した。



時が流れ、全員の救護が行き渡る頃には日が暮れ、先ほどの戦いとは嘘みたいな静寂がキャンプに流れていた。

それもそのはず、今この場にはペトラ達以外には誰もいない。


遠くに見えるパラトスの光も一つもない。


被害は、甚大なんていう言葉では現れない。ある意味で終末的な結果を迎えていた。思想の統一、それが、魔法における特殊な事象に結びつきゲンジという恐怖を軸に生み出されたあの巨大な生命体はことごとく全ての命を奪っていった。

その真実に誰もが直面しつつも何ともいえぬ絶望が夜闇と共に辺りを包む。


ゲンジはツバキとミーシャの負傷者と一緒にテントに押し込め、呼吸は正しくも何の返事もしない肉塊のように魔法の感触も何もない無と化していて、再起する可能性も感じない。


ただ丸太に座り、シャルロットが火を突いて、燃料が崩れると火の粉が舞って消える。




「エレーナ、ゲンジはどうじゃった。」


「ショックなのか...何も、見えません。前は、暗闇だけが見えました。でも今は...透明で、少しだけ靄が浮かんでるような感じ。何もない、だけです...」


「たった1人でこの破壊力...よっぽど、汝等を愛している証拠じゃ...


惨い...」


エマは立ち上がり、その手を天高く広げる


「何を...」


「「エレメンタル」」


眩いエメラルドグリーンの光、その輝きが夜空をオーロラのように変え、剣の枝のように小さい体躯を照らす。


しかしペトラ達は皆、上空の景色に気を取られ、次に目を移す頃には、焚き火に照らされた美しいブロンドで、背の高いエルフの女が立っていた。



「エ...マ...さん...その体..」


「こっちの方が、説得力があるだろうと思っての。

性格の悪い女よ、妾は。」


そう言って、手を振るとゲンジ達のいるテントが透明のベールに隠されると自分たちの周りの音の反響がなくなり、完全な防音になったことを知らせていた。



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