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悪夢の夜に  作者: 赤さん
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3節最終章 絶界ノ終極天編 Ⅱ-Ⅷ

すいません、前後の関係で今日は少ないです

やがて、収まった台風の目に浮かぶゲンジは自らの肩を抱き、蹲っていた。


肩が小刻みに震え、決壊した心とそれを深く、深く押し込めていた巨大な闇に隠され残されたのは純粋な悲壮だけ。少年の涙だけだった。


「返して...どうして...どうしてそんな酷いことするんだよ!



酷いよ....酷い....」




「俺が、俺が死ねばいいんだろ!殺せばいいじゃん!殺せよ!」


ゲンジの姿にもう前ほどの気迫も絶望もない。

純粋な少年の純粋な怒りが、ラインハルトに向けられ、それでもどこからともなく槍が飛ばされると、轟音を立ててゲンジの槍を叩き落とし、遥か深くの底の底まで落ちていく。



「殺せよ...殺してくれよ...」


「選べ。ここで、全てを失うか。我はお前の全てを奪い尽くす。それは変わらない。お前に戦う意志がないのなら、泣こうが喚こうが、今からあの女どもを引き摺り出してお前の目の前で殺す。

あるいは、お前がその存在ごと我に引き渡すか。

我の望むまま神として君臨し、人間を導け。もっとも、お前の愛する者が死ぬこととほぼ同義だがな。」


ゲンジは項垂れ、まだ涙を流す。


その背に、ラインハルトは剣を向ける。


「折れたか...」


何も返さない。


「考えておけ。もうこの世界にはうんざりだ。」

ラインハルトの姿が消え、一気にプレッシャーが消える。

魔力の調和が乱れ、ゲンジの絶望が当たりを巻き込む。


それは、一瞬の衝動だった。糸が切れ、自己嫌悪の頂点に至る。


ゲンジはどこからともなく槍を発現すると、その凶弾は虚空へと浮かんでいく。



幾つもの魔法陣が重なり、その剣先がゲンジの元へ向けられる。


ゲンジの顔が天を仰ぎ、自らの凶弾を受け入れたいと見上げる。


もう、諦めたい。


逃げたい。


死にたい。


投げ出したい。




1にも満たない、マイナスにもならない放り投げた心が魔法を汲み上げていく。


いい加減使い慣れた己の魔法、慣れた痛み、苦しみ。

それもこれも全部、最後だと思えるならもうどうだっていい。


「「バイバイ。」」



魔法陣が一個の模様を描き、槍が放たれる。


それはまるでスローモーションのように描き出される一直線の軌道。


全くブレのない弾丸と、纏う禁忌の魔法は自らの魔法にすら牙を剥いて襲いかかる。



ーー源ちゃんはさ、もっと自分に正直になったほうがいいんだよ。ーー


こんな時にまで、幻聴が聞こえてくる。



ーー0か100かじゃなくて、もっと自由で適当で良いんだよ。

ねぇ、壊れちゃうよ。ーー


「少し黙ってくれ、鏡花。」



「ダメだよ。源ちゃんには幸せになってほしいから。」


下を向くゲンジの首に腕が回され、抱擁される。

それは強大だが、とても暖かくて穏やかなそよ風のような柔らかな魔法。

本当に抱擁されているかのような温もり。


ゲンジの涙が解け、頬に添えられた手と微笑む鏡花の笑顔は、まるで志乃源二の知る幼馴染の...


刹那、鏡花の胸を貫通する槍の鋒がゲンジの目の湾曲に届きかけて止まる。



崩れていく。心の中で、繋ぎ止めた純情が。

白く破滅的な光の感触が。


4本目の剣に内側からヒビが入り、砕け落ちる。


なんの悲鳴もなんの苦しみもない。ただ静かに、安らかに溶け去っていく。


「源ちゃん...幸せになっていいんだよ。」





全身にヒビが入り、その笑顔が歪になっていく。

その溝から光が溢れ、ゲンジが手を伸ばした時、全てが風に流され、崩れ落ちていった。









そこから先は、何も覚えていない。意識が離れ、遥か上空にいたその体が自由落下を始める心地よさ。もういっそ、この程度でも殺してくれと願うだけで、そこで考えるのを辞めた。





街にこびりついていた黒色の潮が引いていく。



「ゲンジ!!!」


街の中心までは程遠い。

でも、切れた雲の隙間から落ちてくる魔力の欠片を振り撒くその姿をペトラは見逃さなかった。


街の中心に向かって引いていくもう元の足場などない細かい隕石の衝突痕のような凹凸の連続を器用に駆け抜ける。


ペトラが僅かに頭上を見上げると、後少し。身体の形がはっきりとわかるまで近くなってきた。

そして同時に気がつく。まだこびりついた黒が引くよりも前にゲンジが落ちてきてしまう。かと言って飛び込めばゲンジの暗闇に引き摺り込まれてしまう。


「翔んで、ペトラ!」



すぐ後ろ、いつのまにか同じように走ってきていたシャルロットの声に導かれ、下を見ずにゲンジを受け取るために飛び込む


シャルロットの眼が翡翠色の光を帯び、伸ばした手からエメラルドグリーンの魔法が飛んでいく。


ペトラは全身に残された僅かな魔法を漲らせゲンジの衝撃を和らげるべく魔法が集結する。


ゲンジの体は驚くほど侵食に弱く、肉体はあっても心は一切無いかのようにペトラの魔法を受け入れ、急減速する。



そして、その手に抱かれ、身体を覆うエメラルドが背中に天使の羽根のような枝を生やし、足元に広がる暗闇を飛翔する。


ペトラの意図しないままその身体が崩落した黒色の地盤の淵へと運ばれ、降り立つと無間は中心へと集約し1人の人間の存在を吐き出して消えていった。


赤く短い髪が汗に濡れ肌に張り付き、少年の身体を支える身体、腕は少年の身体から流れる血に汚れる。


ペトラはひとまずの無事を感じ取ると、ゆっくりその身体を起き集約された無間から出てきた芽亜利の元へと走る。


「芽亜利!」


「ゲンジ様...は...」


「動かないで!もうすぐエレーナがくる。

助かるから!」


「馬鹿ですね...傷口をよくみなさい...」


ペトラが視線を移すと、そこに広がっていたのはまるで夜空の星を描いたような黒く固定された貫通痕。それだけで、聖刻に似た何かが刻まれていることがわかる。



「これ...」


「思い出したんです...私は、ヨルによって導かれていた人形の1人...」


「だから、だからアタシのこと...」



ラインハルトがまだゲンジと正面衝突している時、キングスクラウンによって分断されていた2人はDDDを下した後、背後の鏡花だった存在の崩壊から逃れようと元いた場所へ向かいながら、上空で繰り広げられるゲンジとラインハルトの線を追っていた。


「芽亜利!」


「無理に決まってますわ。ゲンジ様は今そこら中の人間共の魔法を移されている。私達が加わったところで余計な心を割くだけですわ。

それより、ここはあまりに混沌としすぎていますわ。」


突然、芽亜利が走る足を止め、魔法を手に纏わせる。


「そう、やはりこちらが本命。」


ペトラも立ち止まり、その目に飛び込んできたのは道を塞ぐようにして立つ和装の男。

上半身に纏うものは何もなく、その手に握られた反った刀が荒廃し崩壊する紅い街に生える。


ペトラも剣を構え直す。


「ヨル...」



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