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悪夢の夜に  作者: 赤さん
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第1節 6章 勇者降臨編Ⅰ

さて、勇者降臨編をお届けします。今回から少しずつ政界の歴史を紐解き始める回になってきます。今まで蓄積されていた疑問がすこーしずつ解かれて行けばいいな。

源二は暗く閉ざされた視界の中、考えていた。

自分はいつからこんなものになったのだろうか、思考が巡っている時点で死んではいないのだろうか、あるいは死んでしまったからこそこの暗い世界で考えているのだろうか。

否、痛みはあった。身体を迸る鋭く、額が焼けるような痛み。

闇の魔法使いは死に得る、これだけは覚えている。

そして、ひと際大きな痛みが肩口を包むように、内側から縁取るように垂れ流されていた



時は遡り、勇者を逃がした後。項垂れる源二の背中から声がかかるものの源二の口が動くことはない。


「明朝、勇者を討つ。」


「ゲンジ君?勇者は...」

「フォールン」


クリスが制止すると深く息を吸う

そう告げると、後ろに立つ男の土を踏む音が鳴り、やがてひと際大きな風の音と共に消失する


クリスとフォールンが去った後、源二はその場でしばらく固まったままだった

ゆっくりと、立ち上がると街のほうへ向かって歩き始めた

源二の心は決まっていた。勇者ルカ、いい人間だった。奴隷のことは確かに心が痛む、しかしツバキがそうでない以上、源二の知るところではない。

だが、彼の怒りが本物だということは少し考えればわかることだった。

しかし、それを超えるだけのことがあった

召喚魔法。アンリ家、ペトラの母が持つ固有魔法。


源二の知る限り召喚魔法を扱える人間は彼女しかいない。

それに加え、固有魔法というくらいだ。そうポンポンと新たな使い手が現れる訳はない。

だとするならば、考えられるのは何かの力を使って光の魔法を取り込んでいる。

そしてそれを裏付けるような勇者の生い立ち

作られた存在に、魔法を使わせるようにできる武器。

もし、自分が手っ取り早くそんな武器を作るとしたら、何の手段も辞さないのであれば、間違いなく生きた人間を贄に使う


しかし、そんな魔法があるのだろうか。いや、むしろそれは今は関係ない。目の前に召喚魔法を使った人間がいる、ただそれだけであの勇者の後を追わねばならない。

自分の為にでもあるのかもしれない、ただ自分を慰めてくれたペトラや芽亜利、エレーナの為に勇者を殺さねばならない。

こんな自分でさえ、自分だからこそ、自分の母がこんな姿になったという事実を知らせたくはない。



源二は暗い夜道をゆっくりと歩くと立ち止まる


「あるいは...」


あるいは、俺の持つ魔法なら...と。

固有武器を砕け去る自分の魔法ならば、それも可能かもしれない...

源二は微かな活路を見出したような気がしていた。

アトラス、あれを砕くことさえできればすべてがうまくいくのかもしれない。


源二は黒いローブのフードを深く被るとクリス達のいる家の扉を開ける


「勇者は...ルカは俺が殺します。」

「そうか、では馬はここのを連れていけ。」


「ゲンジ様」

「芽亜利、ごめん。」


源二は芽亜利の前を馬で横切ると、その場を後にした


「あれ、君は行かないのかい?芽亜利君。彼、多分死ぬけど。」


芽亜利は不敵な笑みを浮かべたまま走り去る源二の背中を見つめていた。


源二は考えていた。

思えば、自分が芽亜李の武器を砕いた時、自分はどうやって魔法を使ったのだろうか...

あの時は、ペトラを護ろうとしたからなのだろうか、それとも感情が高ぶったからなのだろうか。

こればかりは軽率に足を進めてしまった自分を恨む

しかし、少年には決して心当たりがないわけではなかった。

呪文を唱えない。それは詰まるところ闇の魔法の消失のせいだということはすでに聞かされていた。

だとするならば、著しい感情の高ぶりという選択肢はするりと出てきたりはしない。

魔法をまともに学んだことのない源二にとって、詠唱の節や言葉の中身は知るわけがない。

数種の上位魔法はエマから聞かされていた為、多少は扱うことができる。


詠唱は呪文と同じように発現させたい魔法、現象を呼び起こすためにそれを文字として体系化し文字通り詠むことで、発現させる


中でも、詠唱、及び魔法には純粋な属性だけではない。いつしか、源二が青い炎を出したように、自然の摂理を読み解くことが魔法を構成する根幹をなしている。

それ故に、源二達召喚者の間でいう各学問別に呪文を分けることができた。


以前、エマが二領地攻略の際に使ったアストラル・ボーライド

火属性の最上位に分類されるこの魔法は文字の意味自体は高校生のみである源二には難しく、理解が及ばなかったものの。

この魔法に関してもエマに多少のことを教えられていた。

アストラルシリーズ、源二達の言語では天文学に分類される魔法。

そして、引き起こす現象は流星の再現

この魔法は決して本当に流星を呼び起こしているわけではない。

そもそも、現象というものはある観測者がとある事象を知覚することに説明を付けること。

それ故に、科学的に説明できることが魔法に通じているのである

つまり、アストラルシリーズ。天文学をもとにした魔法は人間の知覚によってその現象を再現するだけに留まっている。

だからこそ、発現させたい魔法をわざわざ詠み起こさなければならない。


これは、源二が長年をかけて考えついた一種の答えだった。

「だとするならば、俺の魔法も何かの現象が...」

人の思いを砕く現象、そんなものあるのだろうか...

しかし、源二達の世界では実に多くの現象が説明され、理論づけられてきた。

そのなかに、人の精神を砕く現象はなかった。

しかし、特定の現象。いわゆる厄災と呼ばれる現象ならば人の心を幾度となくうち砕いてきた。

だとすると、源二達の世界でいうところの心理学に当たるのだろうか、だとすれば人の精神を破壊する...

人を殺すことによる精神の破壊、あるいは停止ということでは芽亜李のことが説明がつかない。

いじめとか、そういうたぐいのものなのだろうか高校生程度の頭脳ではそれほどのことしか思い浮かばなかった。


源二はより一層、芽亜李との戦いを思い出そうと思考の奥底へともぐりこんでいく


今では随分と丸くなったが、思えば少年が初めて出会った狂気の塊。それが芽亜李の第一印象だった

見た目だけは可憐な少女だったが腹の内にある狂気、純粋な暴力だけを追い求める彼女の姿に源二は強い抵抗感を抱いていた。


その激情に駆られ、あの魔法を使えたのだとすれば源二の使った魔法は、絶対的な拒絶...



源二が作り出した心の隙、自分でさえ知っていた自分の弱い部分である綻びは、よりにもよって拒絶という形で体現したのかと皮肉にも笑みを浮かべる


「どこまで...どこまで弱いんだ...」


源二は足に力を込めると、馬の腹を蹴る



それでも構わない、自分の心が脆くたって、弱くたってもなんでもいい。

今彼の前にはただ絶対的な暴力がある。皮肉にもあまりに弱すぎる心の綻びを染め上げるような大きな力が。



源二が迷わず馬を走らせているのには当然、理由があった。

短い時間しか共にしていない彼らではあったが、勇者と王城で話した時、パラトスにいると言っていた。

見つからなければ、町中へ無理やり潜入して探せばいい。

だが、それだけでない、勇者はまだ源二がクリス達と行動を共にしていることを知らない。

勇者は自分が殺そうとした相手がクリスであるということは知らなかったとしても、あの力量で、それも源二が助けに飛び込んできたとなれば...


源二は馬を歩かせると、薄暗い闇夜に立つルカの姿を見つける。


「やあ、ゲンジ君。さっきはありがとう」


少年が青年の前に降り立つ


「すこし、話さないか?」


勇者はそういうと、源二に背中を向け歩き出した。


青年は上を見ながら歩いていると、丁度一番星が見える丘の上で座り込むとおもむろにしゃべりだす


「実はね、僕はあんまり戦ったことがなかったんだ。

地方の田舎で生まれでね。先代は僕をのびのびと生きてほしかったんだって。

ある日突然自分が勇者であることを知った。

先代の勇者、僕の父がやけに剣術だけは仕込んでくると思ったから、そういうことかって。納得したよ。

決して知らないわけじゃなかったんだ、人より運動するのが得意だったし師範の剣にもある程度追いつけるようになるのにそんなに時間もかからなかった。

まさか、それが勇者だとは思わなかったけどね。


でも僕はやっぱり田舎のドラ息子だ。世俗にも、貴族の世界にも興味はないみたいだ。


なあ、ゲンジ君。ゲンジ君も人殺すの、嫌いなんだろ?」


源二はとりあえず、勇者の隣に座ると軽く頷く


「やっぱり。君からはあまりそういう気を感じないんだ。」

「気?」

「何となくの雰囲気だよ。

君は剣を持つような人間には見えなかったんだ。」


源二は微かに笑みを浮かべる


「でも、君は僕を殺しに来たんだよね?」


しばらくの静寂が訪れると、源二はゆっくりと頷く


「そうか...なんでか聞いてもいいかな。

君が僕を討ちに来たんだ短い期間しかあってないけど、理由なしに来るような君ではないはず。」


「アトラス...その武器は俺の大事な友人の仇だ。」


勇者はぶっきらぼうに足を崩し、空を見上げる


「召喚魔法...かい?」

「アンリ・セレナ、俺を召喚した魔法使いで、大事なパーティーメンバーの、ペトラの母だ。」


「そうか...まさか僕がその一端を担ってたとは。

なぁゲンジ、この世界はいつからこうなったんだろうか。

僕は国を取り巻く腐敗を追って、君はその捕虜にされた人物を追って僕にたどり着いた。

誰が、この世界を作ったんだろう。」


源二は足を畳み抱え込む


「召喚者の君に聞いても無駄だったね、ごめん。

でも、君が言ったツバキという人物が違うならきっともっと大きな組織が人物がいるんだろうね...」


「うん...」


「なあ、改めて聞く。僕と一緒に新しい世界を目指さないか?

奴隷...だけじゃない。最初は人も殺さなければならないだろう。

だが、然るべき時になれば、奴隷も、虐げられるものもいない世界にならないかな。」


「それは...違う気が...する。

戦いは避けられない。虐げられない世界なんて存在しない。ましてや俺と君では...」


「そうだね、僕も君の肩書も汚れきってる。君も僕も人を殺すことが嫌いなのに、そんなのお構いなしで戦いの方からやってくる...そうだね。僕が甘かったね。

それに、こうして僕も君のところまでたどり着いたのになにも掴めちゃいない...

それに、僕のこのアトラスも僕の追っていた腐敗のうちの一つのようだ...

もはや国家の問題じゃない。大戦の歴史が、戦いの構造が腐りきってるのかもしれない...」






勇者はおもむろに立ち上がると、何処からともなく鋭く白い光を放つ大剣を発現させる


「ゲンジ君。約束してくれ、俺も今から君を切る。

だから、生き残ったならば...この腐敗しきった世界を正すと。」


源二はゆっくりと立ち上がると、勇者に向き直る



「わかった。」


一歩、また一歩と歩みを進める。

その距離が少しずつ離れていくと、源二も固有武器を発現させる。


ゲンジが去った後、クリス、エマ、フォールン、芽亜利が一室の机を囲むように座っていた

「今度こそ、助からないと思うけど良いのかい?」

「奴が決めたことだ。我々が関与するまでもあるまい。」

「じゃが、彼の力は...」


エマは途中で咳ばらいをすると、カップを傾ける


「ツバキから聞いた。勇者とゲンジは使い捨てにされたアンリ・セレナを元に繋がった。」

「なら、よっぽど行ったほうが良いんじゃないかな。」

「ダメだ。」

「理屈...じゃないんだね。

君にもまだそんな部分が残っていたとは...」

「やめるのじゃ、フォールン」


「ツバキは、源二と勇者が奴隷について嗅ぎまわっていると言っていた。」

「奴隷?」

「そうだ。どうやら勇者は諸侯の地下牢獄を見たようだ。」

「ああ、そういうこと。」


「話の腰を追って申し訳ないのですが、この国には奴隷制度がおありなのですか?」

「うん、まだあるよ。ただ、ゲンジ君たちが追っている奴隷とは全く違う。

ツバキ君が扱っている奴隷はあくまで身宛のないものの総称のこと、ただの立場上の存在にすぎない。

衣食住飾医もそのすべてが魔法によって補われているから、わざわざ余計な死人を出す必要がない。ならば身寄りのないものをまとめて継続的に働かせた方が効率的なのさ。」


芽亜利は納得の表情を浮かべ、カップを傾ける


「では、そうではない奴隷とは」




「魔法を使える道具ということだよ。」


待ってましたと言わんばかりに声を上ずらせると続いてしゃべる



「ツバキ君たちの奴隷は魔法が使えない。そもそもみんなに魔法が使えたとしても方法論も、本も、教育の機会もないもの達にとっては何の意味もない。

でも、魔法が使えるようになってしまった者は違う。

魔法のレベルにもよりけりだが、それこそ勇者とゲンジ君が交わった光の魔法使い、セレナ君のような優秀な魔法使いはものすごい利用価値の高い奴隷といえる。

だからこそ、セレナ君は召喚魔法でゲンジ君たちを呼び出した。


ここからは、ぼくの仮説だが...

ゲンジ君のような闇の魔法使いの存在を生み出す可能性を考えていたら、みすみす彼を僕たちの手には渡らせない。だとすると召喚者は本来、多くても少数名のみで済ませるつもりだったのではないんじゃないかなってね。」


「なるほど、たしかにそう考えるとわかりやすいのぉ...」


「話を戻すけど、そういった魔法を使える奴隷は自らを危険にさらさなくとも魔法を使い、戦ったり、より生産的なことをさせられる。

最初は闇の魔法使いがその対象だったが、時代が移ろうに連れやがて貴族たちの暗黙の了解のもと、その伝統が今でも引き継がれているんだろうね。」


「見えてきた。

では、ゲンジが負けたとしてもそうはなり得ない...相手が勇者である以上は...

だが良いのか?アトラスは容易に闇の魔法使いを葬れるぞ」



クリスはゆっくり立ち上がる

他のもの達も知っていましたとばかりに一人も何をするか聞くこともなく立ち上がると、家を後にした


ありがとうございました。読んで頂いて分かった通り、勇者降臨編の構成は構成なんてものがないくらいクッソ単純ですね。

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