第1節 4章 叛逆編Ⅳ
叛逆編もいよいよ最終章となりました。ここまででかなりキツイ展開になりつつありますが、戦いというものは容赦ないものですね。頑張りましょう。
「ゲンジ!ここら辺、情報の通り魔物が集結してる。このままじゃ助けに行けない!」
ところどころで黒煙が上がる城壁が見えてくると、それを取り囲むように魔物や人間が戦いあっていた。
「ゲンジ様、私なら。私なら使役しているものを探りだせると思いますわ。」
「どうやって見つけ出すのよ!こんなに沢山いるのよ!?」
「逆ですわ。これだけ大量の魔物を使役しているからこそ、それは必ず魔法によって管理されているはずですわ。伊達に並みの魔法使い狩りだなんて呼ばれてませんことよ。
私があの包囲に穴を開けますわ。ペトラさん、あなたは私と。ゲンジ様はお間抜けなお姫様を引っ張ってきてくださいますか?」
ゲンジは頷くと、いよいよ魔物たちが間近に差し掛かる
「ブラッドフィル!」
目前に差し掛かると同時に素早く呪文を唱える。
すると地面に飛散し赤黒く彩っていた血が幾本の線になり魔物たちの身体を一同に薙ぐと一瞬にして死体と化した。
ペトラも勢いよく馬から飛び降り、馬だけを逃がすと戦列の中央に舞い降りた。
「あら、随分なご登場ですわね。私にはそんなはしたないことできませんわ。それにしても、貴女と背中を合わせることになるなんて、ゲンジ様も酷なことをしますわ。」
芽亜利もゆっくりとペトラのもとへ歩み寄ると、2人の背中がくっつくような格好になる。
「うるさい。それより、とりあえずはこれを何とかするわよ。」
「誰に言ってるんですか?生意気ですよ?あなたこそ、準備は良くって?」
ペトラは不敵に笑うと、魔物たちが一斉に飛び掛かる
「ラディエーションレイ!」
そう唱えると突如現れた激しい光に辺りが包まれ、次の瞬間には魔物たちが力なく横たわっていた。
「あなた、頭だけはよろしいかと思っていたのですが、どうやら間違いだったようです。」
今の強い光を受けて周りにいた兵士や魔物が余計に集まってくるとペトラはすかさずゆらゆらと波打つ剣を発現させ、群れに向かって魔法を放つ。
放ったのは火属性の魔法、威力こそ低いものの丸腰で突っ込んでくる魔物たちはうってつけの範囲攻撃を実現できた。
やがて魔物は見る見るうちに燃え盛り倒れた。
芽亜利も固有武器こそ失ったものの、これまでの戦闘で培っていた低級魔法と近接戦闘の組み合わせや、魔法同士を組み合わせて間髪入れずに攻撃を叩き込むことができた。
ペトラのように光の魔法使いでない以上、無駄に多くの魔法は使えないものの、元より戦闘技術が常人の比ではない芽亜李にはこの程度の魔物は本来寄り付くはずのないもの達だった。
やがて大方の敵が片付くと、ペトラは剣についた血を払う。
「それで?どうやって見つけるの?」
芽亜利はしゃがみ込むと、血を指で触る
「血というものは、体を動かすためだけの物と思われておりますけど、それは間違いですのよ。正確には血だけではないのですけど、人間の体液には魔法を伝達する物質が含まれていると考えられておりますわ。想像した魔法が精神から、体内を伝って末端へ伝達されるのですもの。ですから、魔物を使役しているのであればそのものの魔法の痕跡も辿れるということですわ。」
芽亜利は血を触りながら狂気に満ちた笑みを浮かべると、その場から立ち上がる
「どうやら、わざわざ来てくださったようですね。」
「ええ、せっかくペトラさんが来てくださったんですもの。喜んではせ参じますわ。」
ペトラが振り返ると、そこには薄青色の長い髪を腰の辺りまで伸ばした女が立っていた。
「初めまして、クロセス・フロストの妻アンと申します。」
「あなたが魔物を操っているのね。」
「ええ、そうですよ、大義のためですもの。」
ペトラは疑問符を浮かべる
「あら、同郷のあなたも同じような考えを持っていたのですが、違うのですか?
大戦時、没落した貴族たちを秘密裏に一斉に処分した、その中にあなたもいたはずですが。」
「それが魔物を使役して多くの人間を苦しめることとどう関係あるの」
「あら、あなたもシャルロットさんを攫いに来たんだとおもっていたのだけど...」
「私たちは、あの女を救いに来た。」
アンという女は顔を顰める。むしろその反応は当然だ。ペトラは親の仇である皇女殿下を殺さず、拉致して然るべき立場を得るでもなく、増してや別の国の国民でありながら救いだすというものだ。むしろ当然の反応といえる
「私は確かにこの国を恨んでる。でも、それ以上に今いる環境のほうが良いわ。権力に目がくらんだあなた達にはわからないことよ。」
「そう、残念だわ。貴方はこちら側には来ないのね。」
「ええ、これから叩きのめされる側に行きたいなんて思う人居るのかしら」
ペトラが剣を構えようとした次の瞬間....
ウェンディーはわけもわからないといった表情で力なく地面へと崩れた。
「御託はどうでもよろしくてよ。人が殺しあうのに謀略も何もありませんわ。すべては勝者によって語られる、弱い自分を恨みなさいな。」
芽亜利は振り返り、街の中を目指して歩き出した。
ウェンディーは崩れ落ちた足を触ると、鮮血がにじみ出て、じわじわと激痛が響く
「せめて、苦痛なく死になさい...」
歩き始める芽亜利の背後でウェンディーの頭部が鮮血の糸に貫かれ、完全に崩れ落ちると地面を包んでいた雪が彩られる。
彼女の死を受けて、魔物たちは制御を失い同じ戦線に並んだ兵士たちを襲っているのだろう、あたりから先日声が聞こえてくるとペトラも慌てて芽亜利の背後につく
「どうしてあんなことしたの...」
「どうして?ただ殺しただけですよ?」
「なんで...」
「私はもう言いましたが...でも、全てを失ったとしても自らを律し、前を向こうとするあなたはあなたで、見どころがありそうですわ。」
二人は街に向かって歩み始めた。
「シャルロット様!もういいです!お下がりください!」
重傷者の搬送を終えたミーシャや騎士団の数人はローザを運び終えると龍弥や鏡花達を護りながら、フロストと対峙するシャルロットを見ていた。
微かに切れた傷口からは血が流れでており、肩で息をしている。
一方フロストは上裸になっており、その体から血が流れるどころか傷が一つもなかった
防具を脱いでから少し動きが素早くなるくらいならば、シャルロットの技量でも多少は反撃できたはずだった。しかし、上を脱いでからというもの攻撃が一切当たらない。
当たらないというよりは、フロストの使う魔法の精度が増しているようだった。
「不思議か?まさかこんな防戦一方になるなんてといった表情だな。まあ、直にこの戦いも終いだ。教えてやろう。私の使う氷魔法の冷気に体を順応させることで、精度を上げている。それだけだ
お前らが神から与えられし力などと戯れている間に、私は自分の命を森羅万象に託したのだ。お前如き下級騎士に負けてなどたまるか。」
それでも、シャルロットは立ち上がると、剣を握る
フロストは苛立ちに顔を歪めると、正面から一気に踏み込んだ。その刹那、氷が砕け散る凄まじい音と共にシャルロットとフロストとの間に黒い物体が襲来した
氷が飛び散る音と共に静寂が辺りを支配していた。
フロストはその身なりに見覚えがあった。自分が篠原綾子暗殺にかけて際して手配した暗殺部隊を一蹴した黒いローブの人物たち。
篠原の派遣先を綿密にブロックしたにもかかわらず、見事その派遣先を見つけいとも簡単に返り討ちにした存在。根源へと至るもの達
すぐさま距離を置くと、剣を構えなおす
ミーシャはその隙ににシャルロットを引っ張り、距離をとる
「あれは一体...」
源二は目の前に立つ男、クロセス・フロストを殺すと心に決めていた。それは、今背後にいる鏡花たちのためでもあり、クリスに言われた責任を果たす為でもあり、篠原を殺そうとした人物でもあり、ペトラや芽亜利が自分を此処に連れてきてくれたからでもあった。
人間は、責務さえあれば、使命さえあれば殺しなど厭わないのかと残酷になっていく自分に笑みを浮かべる。その手には源二の固有武器である槍が強く握られていた。
次の瞬間、源二は音もなく男にに急迫する。フロストは剣で弾こうと身構えるが、鉄塊が重なることはなかった。
一瞬体の力が行き場を失うその刹那、背後から気配を感じる
咄嗟にそれを避けると、音もなく身体を貫くように槍先が空を伐る
フロストは顔を顰めると、空に放たれたはずの槍身が見えないことに気づいたとき、脇腹に鈍い音が鳴り響く。それと同時に氷の壁を展開すると、建物に叩き込まれた衝撃に包まれる。
フロストは脇腹の鈍痛をこらえながら立ち上がる
「ハイルスパイク!」
フロストはそう唱えると同時に源二との間合いをつめる。
しかし、その攻撃が当たることはなかった。
何度攻撃を試みても、攻撃が当たることはない。
それより、攻撃を仕掛けるたびに源二の姿が視界の端に、死角に移動していた。
「人知を超えた身体能力に、詠唱もまともにつかわないのにあの魔法の発動速度...来たな、志乃 源二...」
シャルロットがぽつりと呟くと龍弥や鏡花達、騎士団が唖然とした顔で源二を見つめていた。
振り下ろされる剣を横に薙ぐと、フロストの身体が大きく払いのけられる。そこに間髪入れず刃が襲う。
咄嗟に壁を作るものの、音もなく崩れ去ると距離をとる。
腕を襲う激しい痛みにフロストは顔を顰める
「我、凍てつく地を統べる者なり、森羅万象を白き世界で覆いつくせ、ワイトアウト!」
そう言い放つと、源二とフロストの周りが白い世界に包まれる。
「源ちゃん!」
鏡花の叫ぶ声が源二の耳に届くと、視界が一気に白に包まれた。
風が吹き荒れる音が聴覚を奪い、目の前に広がる吹雪が視界を奪い、寒さが触角を奪う。
風の中には氷の礫やつららのような鋭利な氷も混ざっていた。まさしく回避不能の魔法といえる。
それに加え、吹雪の音に紛れてフロストが四方八方から切りかかってくる。
白の世界から突然現れては消える。現れては消えていく。反応すればどこからともなく氷の礫に体が割かれる。
源二の足元に一滴、また一滴と鮮血が飛散する。
服を切り裂かれたことで体の感覚まで失ったのか、それとも本当に痛覚を失ってしまったのか、それともこれが戦いの高揚なのか。
源二は不敵に笑みを浮かべると源二は目を見開く。
その相貌は白い世界から微かに色を落とし、足元には当然影を落としていた。
「インベイジョン」
神速の一撃ではない。生きとし生けるもの、物体を持つものであれば光が存在するならば闇も当然存在する。それを利用し、闇から闇へと移り、統合する。
「なぜ...」
白の世界が消え去ると同時に鉄塊が身体を貫く。
その姿を、鏡花達が手を口に当てたり唖然とした表情で見ていた。
人を殺す感覚、自分の手に握られた槍は尽くフロストの背中を貫き、鮮血が伝っては足元に落ちていく。
槍を少し動かせば、肉の感触が手に伝わる。
フロストから伝った血が手に届くと、悴んでいた手に温かみが伝わる。血の温かみがこの寒空の中、少し心地よい。
「気持ち悪い、何考えてんだ俺...」
そう呟くと、突き刺していた槍を一気に引き抜く。
男は力なく座り込むと、足元に大量の血が流れ落ちる。
源二は正面に回り込みながら槍を振り、鮮血を振り撒く。
正面に立つと、もう一度槍を横に薙いだ。
「源....ちゃん...」
源二はフードを脱ぐと、座り込む鏡花達に向かった。
すると、背後から声がかかる。
「ゲンジ様、お疲れ様ですわ。」
源二は振り返ると、そこにはペトラと芽亜利が立っていた。芽亜利は笑顔の額に血を浴び、髪にも血しぶきを浴びながらもいつもの笑みで、源二に飛び込む。
それを受け止めると、ペトラは複雑そうな顔で笑顔を浮かべながら源二の元へたどり着いた。
ペトラはコクリと頷くと、源二の前に出る
「パラトス統治者のシャルロットね。」
シャルロットは頷くと、次の瞬間ローザや数人の騎士がかばうようにして抜剣し、構えていた。
「殿下!お逃げください!ここは私たちが!」
ミーシャは新たな脅威の登場には額に汗を浮かべながら叫ぶ
「なんで!どうしちゃったのミーシャちゃん!」
鏡花も困惑し、今にも泣きだしそうな表情で叫ぶ。
「私達とて、かの鮮血の処刑人を前に何秒持つかはわかりません。早く!」
ミーシャの声がだんだんと焦りを帯びる。
しかし、シャルロットは立ち上がるとミーシャの剣を下ろすように肩に手を置いた。
「志乃 源二、なぜここへ来たのですか。」
「私たちはウェインフリート帝国皇帝、アルレイド・センの銘を受けここへはせ参じました。シャルロット殿、これは神聖エイレーネ帝国が私達ウェインフリート帝国にもたらされた、いわば借りです。決してあなたの命を脅かす為ではないとお心得ください。」
ペトラは依然とした態度を示すと、シャルロットも真剣な表情を浮かべる。
「承知いたしました。これは、借りとして皇帝陛下にご報告することを約束致しますわ。ですが、そこにいる志乃 源二は存在してよい人物ではございません。」
芽亜利は源二の腕に抱き着いていた手を放すと、狂気に満ちた笑みをシャルロットへ向けていた。
「あら、小娘如きが良くそんな口聞けますわね。」
「闇の魔法使いを狩っていたあなたに言われるとは思いませんでしたわ。」
「私は強い魔法使いを探していただけですの。どこぞの神様なんて耳辺りのいい言葉に現を抜かしている小娘たちには私たちの愛はわかりませんことよ?」
源二は芽亜利の言動に頭痛を覚えたが、今はそれ以上に先ほど葬ったフロストに突き刺した感触に心が支配されていた。肉を貫いたあの瞬間、あの感覚が芽生えたときに禁忌の扉が、タガが外れたような、そんな感触を覚えていたのだった。
「とりあえず、こちらへ」
シャルロットは源二達を城へと案内する。源二の腕には芽亜李が笑顔で抱き着いており、その横をペトラが、さらにその後ろを鏡花達が追っていた。
長い時間が経過していたにも関わらず、会話は一切なかった。
それもそのはず、いま鏡花達を支配していたのは恐怖だった。
目にもとまらぬ速さで攻撃を繰り出し、躱し、不敵にも笑みを浮かべていた変わり果てた源二に、元クラスメイトに、親友に、幼馴染に皆が一同に恐怖を覚えていたのだった。
やがて、王城にたどり着くとシャルロットと、数人の騎士団が立ち反対側に源二達が立っており、鏡花達はそれを傍観するように少し離れたところで様子を見守っていた。
「話は先ほど、話した通りです。そこにいる志乃 源二は我々が召喚した召喚者、それも闇の魔法使いです。いくら命を救われたからとて、アクマの跳梁を見逃すわけにはいきません。
志乃 源二、アレクサンドラ・バルドル・シャルロットの名において正式な決闘を申し込みます。」
その言葉に周りの騎士や鏡花達も驚きの表情を浮かべる。
ミーシャが話に入ってこようとするが手でそれを制止する。
「どうしても...あなたを倒さなければならないのでしょうか。」
「そうです。」
源二はどこからともなく槍を発現させると、シャルロットも剣を発現させる。
その姿を見て周りにいたもの達も部屋の隅へを移動し、シャルロットと源二も距離をとる。
「ルールはこの部屋を破壊しないこと。相手を死に至らしめないこと。それだけです。ミーシャ、合図を」
源二は頷くと、肩幅に足を開く。
ローザが中央に歩み出ると左右を見渡す。
心臓の鼓動が耳に響く。源二は心の内に巣くう目の前にいる女を殺してしまおうかといった狂気を押し込めると、身体中を魔法で満ち溢れさせる
源二の心が黒く黒く包まれる。
それは人間を殺すことに対する気の悪さそのものだった。
「始め!」
開始の合図が宣言されると同時にシャルロットが急迫する。
源二はそれを迎え撃つかのように一歩も動くことなく、腰を落としていた。
金色に光り輝く刃が源二の作り出した闇に一閃の光の軌道を生み出すが、源二のいたところでその軌道が留まることはなかった。
(外した!?こんな近距離で!)シャルロットは心の中で驚きの声を漏らすと、次の瞬間わけもわからず剣が手元から弾き飛ばされる。
幾度も弾かれ、躱されるとシャルロットは間合いを離す
「あなた...この私を侮辱する気!?
相手を殺す気がないなら、おとなしく死になさい!」
シャルロットは一直線に急迫すると、室内に一筋の光が差し込む。
そして激しい金属音を響かせ、シャルロットと源二の間に一人の青年が現れる
「勇者...ルカ!?あなたが、なぜここに。神聖な決闘中ですよ!」
「今あなたが切ろうとしているお方はあなたの命の恩人なのですよ!お分かりなのですか!?」
「ええ、わかっておりますとも!」
シャルロットと青年は間合いを取ると、青年は源二を庇うように前に立つ。
「何のつもりですか...」
「外にいる兵士たちに聞きました。この方がパラトスの窮地を救ったと。」
「それと、この決闘を邪魔する理由がどこに御有りなのですか!」
「あなたは間違ってる!」
「人を切ることもできない者が何を語るか!」
再びシャルロットが源二に向かって踏み込むと、寸前で勇者が割り込み、それを払う
「人を傷つけることはできなくとも、ことの分別はわかるつもりです。命を救ってくれた人を殺そうだなんて、あなたはどうかしてる!」
シャルロットはぐっと奥歯を噛み締めると、ゆっくり剣を納める
その姿を見ると、青年も立派な大剣を下ろすと源二達へ振り返る。
「このような出会い方になってしまって申し訳ない...旅のお方、この度はこの街を救ってくれてありがとう。
僕はルカ、すまないがここは剣を収めてくれないか?」
あっけにとられた源二を尻目に芽亜利が口を開く
「構いませんわ。ハナからそこの女を殺すつもりはありませんもの。ゲンジ様、ここは一旦引きましょう」
源二はとりあえず頷き、芽亜李とペトラと共に部屋を後にする
源二達は外に出て、城の階段を降りている最中突然呼び止められると鏡花は涙を浮かべながら源二の姿を捉えていた。
「源ちゃん!」
「鏡花...久しぶり...だね。」
少女は階段を駆け下りると、源二に飛びついてくる。それを簡単に受け止めると、鏡花を地面に優しく下ろす。
「心配させてごめんね、俺ちゃんといきてるから。」
「うん。」
「じゃあ、俺行かなきゃ。」
「いやだよ!」
即答する鏡花に向き直り、少女を撫でる
「俺が戻っても、殺されちゃうからさ。ごめんね。みんなの元気な姿みれてうれしかったよ。」
鏡花が涙を流す最中、さらにそれを龍弥達が追ってきた。
「龍弥、俺今までずっとお前に励まされてたんだ。俺、ずっと弱くて何もできなくて、寂しかったけど、俺頑張ったんだ。みんなと会えなくなって...」
言葉を選ぶたびに視界がぼやけると、源二の目から大粒の涙がこぼれる。
鏡花の拘束を解くと、涙を拭う。
「お前はすげえよ、源二。お前がどんくらい頑張ったか親友の俺ならわかる。」
「そうだぞ!そんなにかわいい子連れて羨ましいぞ!ゲンゲン
!」
源二は笑みを浮かべると、ペトラたちのほうを見ると彼女たちも笑みを浮かべていた。
「源二、元気でな。」
「ああ。」
源二と龍弥は普通の握手ではなく、親指をクロスさせお互いの手を握りこむように握ると、少年との距離が離れていくと馬に跨り、歩き始める。
ふと後ろを振り向くと、鏡花達は源二達の姿が見えなくなるまで手を振り続けていたのだった。
やがて、リュッセンガルにたどり着くと皆が源二達の帰りを待っていたかのように手を振っていた。
ペトラは笑顔で手を振り返すと、源二もその様子に心が安らぐ。
「ほら、源二も手振りなさいよ!」
源二は、笑みをこぼすと大きく手を振り返した。
源二達が街へと入り、貴族のもとへ戻ると大きな拍手で迎えられた。なんだかむず痒い感触を覚えたが、皆が席に座るとその空気も少し緊張を帯びる
「魔物の異常発生については雹王、クロセス・フロストの妻アンの不可分類魔法で間違いないと思います。実際にウェンディーの死後、魔物たちはこれまで通りの行動を見せていました。
クロセス・アンもゲンジ殿が討ち取り、シャルロットとの一騎打ちに勝利。依頼は完了しました。」
ペトラが報告すると、貴族たちから感嘆の声が響く。
皇帝アルレイド・センの補佐官であるアイザックが立ち上がる
「凱旋だ!」
一同は心からの笑みを浮かべると、馬に跨り帝都へと歩みを進めた。
帝都へと戻ると、エレーナが今にも泣きそうな顔で源二達に飛び込んできた。
ペトラは笑みをうかべながら
「心配した?」
と問いかけると、エレーナはペトラに顔をうずめながら頷く
源二もその様子に笑みを浮かべると、エレーナは源二にも、芽亜李にも飛びつき、柄にもなく嗚咽を漏らしていた。
「エレーナさん、ただいまです。」
「ただいまじゃないわよ...」
源二は苦笑いを浮かべると、背中をさする
エレーナとペトラと夕食をいつもの酒場でとる約束をしていったん拠点まで戻ると、いつもの如くエマやフォールンが本を読んだり談笑していた。
「お、帰ってきたねぇ、どうだった?久々の同級生たちは」
フォールンはゲンジの顔を見るなりいつも通りの飄々とした態度で話しかける。
「みんな元気でした。一緒に入れないのが傷だけど...」
「まあ、あの国居たんじゃ命がいくつあっても足りないからねえ」
「そうじゃな。源二、此度はよくやった。」
「エマさんに言われてもあんま...」
「何を言うか、雹王はこの季節に最も強い力を得る。まして雪が降った後のことじゃ。それを倒したんじゃから、お主の力は本物じゃよ。」
みんなが自分を褒めてくれる。それだけではない、この世界に召喚されいきなり命を狙われた男の子にとってはこれ以上ない嬉しいことだった。
やがて夜になり、酒場へたどり着くとペトラやエレーナ達、冒険者や常連の兵士たちがいた。芽亜利は、残念ながらうるさいのは好きではないと珍しく断られてしまったが、それ以外に酒場のウェイターともある程度仲良くなっていた源二はここに来てやっと帰ってきたという実感が湧きだしてきた。
「おう、ゲンジ!お帰り!待ってたぞ!」
酒場の親父さんは笑顔で源二を出迎えると、まるで来るのを知っていたかのように大きな木樽のジョッキが置かれる
源二は苦笑いでそのジョッキを受け取ると、見知らぬ男性冒険者に肩を組まれ、兵士と肩を組み叫び飲み、食べ散らかしては路上で吐き散らかした。
親父さんも今日だけはと目を瞑ってくれたようだった。
「ペトラ!聞いたわよ!あなたグラズの街でゲンジにキスしたらしいじゃない。」
エレーナもペトラも感情が読めないほど泥酔して、顔中真っ赤で呂律も回っていなかった
「なに、わるい?エレーナあんたいつも大人ぶってるからよ。初チューはあたしの方が先」
「なにそれ!ムカつく!あたしもチューできるわよ!」
酒場で、街中で賑わっている最中クリスとフォールンは夜の街の姿を見ていた。
「良いのかい、あんな遊ばせて」
「構わない。楽しめるのは今しかない、センはかなり本気だ。召喚者の存在も本格的にこの国に知れ渡るきっかけにもなるだろう。」
「そうだね。そうなれば、僕たちもエイレーネに乗り込むことになるかもね。」
フォールン達はそう話すと暗闇に消失した。
叛逆編ありがとうございました!この第4章は源二君らしさが少し残ってていいですね。
メインヒロインがいきなり告白してきたりするのに困惑した人もいるかもですが、まあそのうちわかるでしょう。




