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悪夢の夜に  作者: 赤さん
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第1節 4章 叛逆編Ⅲ

さて、叛逆編もいよいよ佳境。今回の話はかなり見ごたえがありますね!

源二は遠くに城壁を望む少し小高い丘に立ち

後ろには鎧を着た兵士たちに、その背中を押されるように先頭に立っていた。

視界の剥く先には同じように灰色の鈍い光を帯びた兵士たちが、新たな国家の旗を掲げ、こちらに向き合っていた。


源二の隣にはエマ、そして芽亜利もいた。黒いローブを身にまとい、フードを深くかぶってこれから攻め入るグラズの街を望んでいた


「童の前でそう震えるでない。示しがつかんじゃろ」


エマが小声で声をかけると、源二はいつの間にか震えていた足に力を込める。

日は少し昇りはじめ、朝霜が輝く大地に怒号が飛び交う

「勇敢な戦士たちよ!グラズは今や敵の手に落ちた!ここに住む正当なウェインフリートの民を救い出すのだ!」


戦闘で馬を駆けていた貴族の者が大声で鼓舞すると、源二達にいる男たちが一斉に吠え叫ぶ

源二は肩をビクッと震わせるものの、足の震えは消え腹の奥胸のあたりから沸々と何かが湧き出るような感触を覚えた

すると、エマがどこからともなく大きく分厚い本を発現させるとその本は独りでに開き、あるページで留まると、エマの頭上に大きな魔法陣が浮かび上がる。赤く輝く幾何学模様が一本、また一本と模様を紡いでいく。


「我、根源を渇望せし者なり。森羅万象を嘲笑うが如き大火を此処へ、わが剣となりて敵を討て。アストラル・ボーライド!」


エマがそう言い放つと呪文を言い放つと同時に魔法陣から、流星が過ぎ去ると次の瞬間、耳を切り裂くような爆音に震える心を嘲笑うような空気の振動、酷い耳鳴りが源二を襲う。だが、肌に流れる冬の風は温かく妙な心地よささえ感じさせた。

耳鳴りが治まり、源二は視界を取り戻すとそこには城壁の石が、門の木が大きな口をあけ放っていた。

彼女の使用した魔法はアストラル・ボーライドという火属性最上級魔法の一つ。星が降りおちてきたような凄まじい爆炎。放たれた火の玉だけでなくそれによる延焼も凄まじく、火の玉が通った後は跡形もなくその周りも蜘蛛の子を散らしたように体中に炎を纏いのたうち回っていた。


源二だけではない。周りの兵や貴族たちまでもがたった今起こった出来事を理解できずにいた。


「あーあ、やっぱりエマはやりすぎだったんじゃないのかな?ウェインフリートだけなら僕がいってもよかったのに。」

「今回の反乱は我々にも多少の責がある。ここである程度の戦力を示すことが今後のためにもなる。」


遠巻きに様子を見ていたクリスとフォールンは淡々と言葉を重ねていた。

目の前で起こった大量殺人をさも当たり前かのように見送ると、二人はその場を後にした。



源二とエマ、芽亜利はグラズの街中を歩いていた。城壁の破壊によって飛ばされた細かい瓦礫が飛散しているものの、警告に基づき住民は避難していた為、被害は少なく街はいたって綺麗なままだった。


エマが放った一撃の衝撃は凄まじく、街に展開していた兵士たちの一部も凄まじい大火に焼かれ結果的にその多くの兵が投降したのだった。それでも、抵抗を続けていた兵もいたが数の多さと士気の高さに圧倒され、鎮圧された。領主も後に然るべき裁きを受けると言い渡され、罪人として拘束され1日足らずで街を陥落させたのだった。


「エマさん、なんであんな魔法使ったんですか...」

「敵とはいえ、ここにいる者たちも、敵の騎士たちも同じ民じゃ。同士討ちはなるだけ避けたい、そのためには一番最初の一撃が大事なのじゃ。身体は逞しくとも、心が折られては戦いでは役に立たんからな。」

源二は心の中で今の言葉を意外に思った。フォールンやクリスたちと訓練を積んでいた源二にとって、今自分がいる場所はとんでもない人は血が通ったないのではないかという疑問があった。

確かにエマは実際にとんでもない魔法を最も簡単に使い多くの命を奪ったがその意図は逆に余計な命が失われないように配慮したものだった。

それに加え、この街もあくまで奪還したものであった為国民として然るべき対処を受けていたこともあり、町が荒らされると言ったことも一切なかった。

結果としてエマの言った通りの展開になったのだった。

グラズの街の安全が確保される頃にはすっかりあたりは暗くなると、源二は一旦芽亜利とエマと別れ、ペトラと城壁の上を歩いていた。


「ねえ、あのでたらめな魔法なによ。」


源二は愛想笑いを浮かべるとエマの顔が浮かぶ寒空の中、松明に照らされる足元に輝く星そして月の光が足元を照らしていた。

源二にとっての初陣は何とも拍子抜けといったものだったが、決して死人が少ないわけではなかった。源二はその光景に心を痛めていたのだった。


「ゲンジ、こんなのまだ序の口よ。兵士がただ責務を全うして死んでいるだけ。ものが奪われることも、女が犯されることもない...負ければすべてを奪われ、勝ったものがすべてを手にする。それが本当の戦いよ。

私も奪われ、今回反乱に加担した雹王クロセス・フロストもいろいろなものを奪い去られたわ。それでも彼は今の地位に返り咲いた。

本当は私にもそういう恨みとかはあるのよ。」


ペトラの顔を松明の火が照らすと、顔の影が一層濃くなったように見える


「どうして、どうしてペトラは僕たちと戦うんですか?」

「ゲンジ、私のお母さんアンリ・セレナは固有光魔法、召喚の魔法を使えるわ。最近、世界中の動きが活発になってるし貴方のような闇の魔法使いの突然の誕生、そして第三権力を担う者達が動き出して世界中がその動向を探りあってる。

ゲンジ、あなたこの世界の人間じゃないのよね?」


源二は頷く


「やっぱり...お母さんの魔法は光の魔法よ。使えば使うほど可笑しくなっちゃうの。私がここに来た時、お母さんは幽閉されてた。でもあなたがここにいるってことはお母さんは多分...」




「ゲンジ、あなたは私のママの仇...でも、あなたのことは殺せないわ。

力が足りないんじゃない、ママがそう言ってたの。世界が平和になりますように...今はまだまだ遠い未来の話だけど、私は自分が信じたこの国で自分のできることをする。そう決めたの。」


源二はフォールンが伝えたかったことはこれなのかと拳を強く握った。

これが運命なのだろうか。あまりに残酷な現実に源二の思考が闇に突き落とされる。それでも目を見開いて、あふれ出そうになる涙を輝かせながら前を向くペトラの姿が美しいと思ったのであった。


「それに、あなたを殺せない理由はまだあるわ。」


源二はこれから来るであろう残酷な運命を受け止めるべく、さらに強く拳を作って歯を食いしばりペトラのほうを向くと、二人の間を揺らめいていた光に影が落とされる。


「みんなには秘密だから...」


ペトラはオレンジ色に揺らめく火よりもさらに赤い顔を浮かばせていた。


「い、いまのって...」

「言わせないでよ。そういうことよ。」


源二は今になって全身の血がゆっくりと体を巡ってくるのを感じる。夜の冷気が一層冷たく感じた。


ペトラが星を見上げるように上を向き、虚空に掌を差し出すと白い物が揺らめく光に照らされ、蛍光を帯びて掌に降り立つと消えていった。


「雪...降ってきたね...もどろっか」


ペトラは恥ずかしそうに笑いかけるとエマや芽亜利のもとへ戻っていった。



源二はベッドへと入ると先ほどのことを思い返していた。ペトラの母、セレナが源二達を召喚したのだとすればツバキに言われた通り、恐らく死んでしまっているだろう。それに、死んでいなかったとしても今の源二でさえ想像もできない固有光魔法。それにかかる代償を考えるだけで、死んでいるに等しい精神の消失を伴っているだろうという結論に容易に至った。

それでも、ペトラは強く生きていた。その姿に純粋に尊敬の念を抱いた。そしてそんな女性がまさか自分のことを好きになってくれるなんて、こんな腑抜けの一体どこに惹かれたのか気になったがそれ以上に唇の感覚に表情をふやけさせていた。


「それで、何をされていたのですか?」


芽亜利のにやけたが源二の顔を覗き込んでくると、源二は必至に赤面した顔を背ける。


「まあ、一応戦争ですからね。思いを伝えておかなければいつ失うかもわからない命ですもの。」


「女に現を抜かすのもよいが、明日は、リュッセンガル攻略じゃ。明日も同様に童が先端を拓くが、ウェインフリート領地の最後の街じゃ。お主も絶対に死なないわけではない。心しておくのじゃ」


エマがそういうと一行は眠りについた。




ゆらゆらと輝くろうそくの火がシャルロットの顔に深い闇を与えていた。

不覚、完全な不覚だった。人間であれば事前に気づくことができた完全包囲網も、元より潜伏するのが常の魔物たちに包囲されるとなると全く話が違った。

それもただの魔物ではない。まるで誰かに操られているように、否操られているとしか言いようのない行動をしていたのだった。

本来行動を共にするはずのない魔物同士の行動、あろうことかその魔物たちは人間ほどとは言わないが、駆け引きさえしてくる始末。それにさらに拍車をかけるように、死を恐れぬ戦い方にこれ以上ない苦戦を強いられていた。

外部からの情報も一切が遮断されていたが、恐らく早く見積もっても増援が到着するまで、二日か三日はかかるだろう。

そして、苦戦を強いられているのはそれだけではない。こともあろうにその魔物たちと反旗を翻した領地の者が共闘しているのである

シャルロッテは机に両手をつき、苛立ちを募らせる。

辺りは少しずつ日の光が差し込み始める。

外には雪が降っており、かなり厳しい朝の訪れを告げていた。


「殿下、いかがいたしますか。」


騎士団の副団長ローザも戦いに参加していた為、髪がすこし乱れていた。


「街の様子を見て回ります。この雪のこともありますし。貴方は街の南側へ行きなさい。私は北に行きます。」


「北の方が押され気味で危険です!私が北に!」


「命令を聞きなさい、ローザ。貴方が南に行くの。さっさと制圧して、この私を助けなさい。良いわね。私はミーシャと共に行くわ。」


ローザは頷くと、小走りで部屋を後にした。

外へ出るとキシキシと粉を踏む音が鳴る

子供であれば喜びそうな景色とは裏腹に街の中は酷い有様だった。

救護は重傷者の手当てで手いっぱいのようで間に合っておらず、軽症の兵士は雪の降る中外で兵士同士で応急処置をしていた。

シャルロットに気付いた兵士たちも女王殿下に対してあいさつをするものの屈強な戦士たちの声色は疲労に満ちていた。

思った以上に疲弊している現状に顔を顰めると、途端に鐘が鳴り響く


「敵襲!敵襲!」


城壁の上で監視していた人物が叫ぶと、周りの兵が緊張に顔を強張らせる。

昨夜からこれで3度目、いい加減そろそろ持ちそうにない。そう決心したシャルロットは駆け出すと、城壁を駆けのぼり手近にあった旗を掲げる


「持ちこたえよ!奮い立つのだ!友軍がこの門にたどり着くまで、何人たりともこの地をまたがせてはならない!私たちが立ち上がるから、神は我々に勝利を与えてくださるのだ!」

雪雲が覆う空にわずかに太陽の光が差し込むと、その光はシャルロットを祝福するように明るく照らしていた。その姿に、その言葉に感銘を受けたのか、男たちの声が弾ける。

戦いが始まると、シャルロットは戦士たちの雄姿を城壁から望んでいた。

一人、また一人と少しずつ兵が倒れていく。陣形が崩れればいったん体制を立て直す。そこに間髪入れず魔物が突っ込んでくる。常軌を逸した戦い方は士気が上がった如きではやはり少しだけしか変わらないとわかると、女は奥歯を噛み締めた。


「殿下!殿下!」


すると、ローザではない別の騎士団員の女が走ってきた


「何事か」

「西門が破壊されました!」


シャルロットは驚愕の顔を浮かべると、西門に向かって走り出した。

今、彼女がいる場所は東門で味方の領地に最も近い場所だった。

一方西門は反旗を翻した領地と隣接していたのだった。


「どうやって突破されたのですか!」

「氷が、大きな氷が城門を丸ごと吹き飛ばしたんです!ローザさんが!ローザ副団長が!!!」








朝日が昇り源二達は初日同様、城壁の前に展開する軍をエマの魔法で一網打尽にすると再び町中での戦闘が起こった。金属が何度も重なり合い、打ち付けあう心地の悪い音が町中に響く。

しかしそれも、すぐさま治まり領主もあっさりとらわれた。源二も戦いには参加したが、殺すことはなく、無力化するだけだった。

エマと芽亜利、そして合流したペトラは街の様子を見下ろしていた。


「おかしいのじゃ。簡単すぎはしないか。」


源二はやっと戦いがおわったと内心ほっとしており、早く帝都に帰りたいとさえ思っていた矢先、エマがおかしなことを言いだすので、少し笑みを浮かべる


「何言ってるんですか、エマさんが最初に強い魔法を使うことが一番被害が少なく、速く戦いが終わるって言ったんじゃないですか。」

「そうではない。ここは新しく樹立した王国の中でウェインフリート領最後の砦、どうして何も援軍が来ないのかということじゃ。」

「確かに、言われてみればあっさり過ぎる気がしますわ。クロセス・フロスト、神聖エイレーネの諸侯たちの者達を一度も見ておりません。それどころか、まるでここは用なしと言わんばかりに....」


ペトラはその言葉を聞いて思いだしたように声を張り上げる


「そうか!最初から徹底抗戦のつもりはなかったんだ!目標はここじゃないわ。神聖エイレーネ帝国、アレクサンドラ・バルドル・シャルロット統治領、パラトス!」

「女王殿下を人質にとって交渉を持ち掛ける気の用じゃな。明らかな侵略行為ではあるが、捕らえてしまえばそういった建前はもはや関係ないといったところかの」

エマは表情を変えず淡々と分析していたものの、その相貌は強い眼光を露にしていた。

源二はその状況に一人ついていくことができず、驚きを隠すのに必死だった。


「じゃが、我々の介入はここまで。童は先に失礼するのじゃ」


エマは一人歩き出すと部屋を後にした。

軽く伸びをしながら外に出る為に長い廊下を歩きエマは悪戯な笑みを浮かべると、その場を後にした。


「さて、どうするかな。ゲンジ。」

「来ていたのかの、フォールン」

「やあ、エマ君。ご苦労様」

「うむ、それでお主らのほうはどうだったんじゃ」

「ああ最悪の状況だね。魔物は人間に操られてパラトスは袋のネズミ、それに外はこの雪だ。これはフロストの独壇場だろうね」


フォールンは楽しくなったと言わんばかりに楽しそうな声でそう伝えるクロセス・フロスト、別名雹王はその名の通り氷の属性を使う魔法使いで、自然に起こる現象の中から自分と適合している魔力属性を抽出するこの世界では、冬、それも雪の降る寒空の下という状況はこれ以上のない最高の条件と言えた。


「童はもう帰るぞ。」


フォールンは陽気にその様子を手を振りながら見送る。


エマがいなくなった後、源二達はペトラに連れられ貴族たちの会議に連れていかれていた。。


「我々がエイレーネにそこまでしてやる義理はない。ここは一旦取り返した領地を抑えたままにしなければ」


貴族たちは一同に頷き、この戦いもこれで終わりかと緩んだ空気が漂い始めていた。

源二も内心いつもの日常に戻りたいと思っていた為この会議でさえも早く終わってほしかった。

すると突然入り口のドアが開かれる。

入ってきたのは、皇帝補佐官であるアイザックという人物の関係者で咎められることなくアイザックの耳元まで行くと何かを伝えていた。

源二はその光景に嫌な気配を感じると、目線が源二の下ペトラへと向けられる。


「皇帝陛下からの直々の命令だ。この件で借りを作れと。そして、その任はペトラ殿に一任する、後顧の憂いを断て。と仰せられたそうだ。

そしてゲンジ殿、芽亜李殿、第三機関としてではない冒険者ゲンジとして改めて依頼する。アレクサンドラ・バルドル・シャルロットを救出せよ。」


ペトラは勢いよく立ち上がる。


「皇帝陛下の銘ならば喜んで従います。が、ゲンジの動向に関しては都合がよすぎるのではないでしょうか。このままでは、第三権力者をギルドに囲い込むことで第一権である皇帝陛下の配下として使役してしまうことにならないでしょうか。」

「それについては、両者の了解が取れている。どうやら、叛逆に加担しているものの中に魔物を使役する者がいるようだ。本件はエルフの森をはじめ、ウェインフリートの全体として対処しなければならない問題も含まれる。しかし、この件に対処するのにわが軍を動かすようなことがあっては侵略とみなされかねない。ましてや、それに第三権力者たちの力を使ってはそれこそ権利濫用というもの。

ですから、冒険者ゲンジの存在が必要なのです。」


「本当に、許可は取れてるんですか?」

「ええ。御口添えも頂きました。仲間を守れ...と。」

「受けます!」


ゲンジはうろたえるペトラを後に部屋を後にすると、芽亜李もそれに続く。ペトラも慌てて部屋を後にすると部屋に静寂が訪れるとアイザックが口を開く。その声色は、外に広がるどんな雪景色よりも白く、冷たく、落ち着いた怒気を孕んでいた。


「これを期によからぬことを企んでいるもの達はやめておいたほうが良い。皇帝の制裁だけではない。森の実りも受けられなければ、己を待つのは死のみ、我々が収めているのではない。我々が住まわせてもらっていることを忘れてはならない。」


源二達は馬にまたがると、勢いよく駆け出した。街をでて、日の光が差し込む凍土に輝きが生まれる。


「ゲンジ、何か策はあるの?

まあ、あの様子じゃあるわけないわよね。まだ、予想に過ぎないけど恐らくフロスト達は一挙にシャルロッテを狙いに行ってるはず。

それに、向こうにだって軍はある。主戦力さえ叩けば何とかなるはずよ!」

「あら、私は危ない橋を渡るのは嫌でしてよ。」

「そういうこと言わない!あなたたちが死んだら、私がエレーナに怒られるんだから!」

芽亜利は不敵な笑みを浮かべると、三人は強く手綱を握った。




シャルロットは門を貫く大きな氷の前に立ち尽くしていた。

こんな魔法を使える人間は数少ない。それもこの季節、この天候、この状況下で訪れるとしたらただ一人。

そしてその存在は遥かに高くそびえ立つ氷の角の上で一人の存在を虚空へと浮かび上がらせていた。

手元から伸びるその鈍色は、まっすぐ見慣れた白を基調としたプレートを貫き、滴る鮮血が結晶化した氷に穴を穿ち、血だまりを掘っていた。


男はまるでゴミを扱うかのように足で串刺しになった肉塊を蹴り落とすと、女は綺麗に整えられた髪を真っ赤に染め、氷を滑り落ちると血だまりに墜落する。その時初めて、地面を覆いつくし、白のキャンバスを凄惨に彩る赤に気付くと、幾多の兵士たちは倒れ血が飛散していた。


「ローザ!!!」

「これはこれは、シャルロット王女殿下。この女が、かの右腕ローザ・エイマーズだったのですか、準備運動にしては丁度いい相手でした。それに、わざわざご足労頂き光栄です、まあ来ていただかなくても私のほうから参りましたが手間が省けました。...さて、素直にご同行頂けると幸いなのですが、貴方は私の庇護下に入ってもらいます。」



「お断りしますわ。クロセス・フロストあなたをここで葬ります!ミーシャ!負傷者を重傷者を優先して運びなさい!」


ミーシャはいち早くローザの元へと駆け出していこうとするものの、シャルロットは凄まじい怒号でそれを制止する。


「ローザは一番最後よ!!早く他の重傷者を運びなさい!!!」


少女はどこからともなく洗礼された狂いのない剣を発現すると、まっすぐに男の方へと向ける。

ミーシャ達もあふれ出そうになる涙を押し殺し、主の覚悟に水を差すようなことはせず頷くと、その場から駆け出した。

美しい刀身はツタが這ったような文様を浮かべている。


「見てなさい、ローザ。このド三流王子に、目にもの見せてやる...」


シャルロットは静かに剣を握ると、目にもとまらぬ速さでフロストに迫る

フロストはそれを正面から受けきると、さらにはじき返した

女はその勢いを殺すことなく、一度後ろへ距離をとろうと思った次の瞬間着地しようとした足元が滑る

自然の現象ではない、紛れもない魔法の効果だった。大胆な魔法を使えるにも関わらずこういった細かい駆け引きまで仕掛けてくる、一人で一国の王にまで君臨した正真正銘の実力の持ち主であることを証明していた。

シャルロットは一瞬足元に気を取られているうちに、目にもとまらぬ速さで今度はフロストが間合いを詰める

間に合わない。シャルロットが思考を巡らせたのは一瞬、素早くフロストから繰り出される剣を何とか躱すものの、うまく体勢が整えられない身体に蹴りが叩き込まれると、建物の中に叩き込まれる衝撃がシャルロッテを襲う


「少しはやるようだ、皇女様。僕の攻撃が受けきれないとわかって受け身の障壁を先に出すとは...」


女は障壁を解除すると、蹴りを食らわされた脇腹のあたりを抑えて立ち上がるがうまく呼吸ができず、よろよろとしている様子だった。

建物から出て、再び剣を握るとフロストは笑みを浮かべる

フロストは魔法を使うことなく、一振り、また一振りと次々と攻撃を加える

シャルロットはそれを防いでいるものの表情はかなり厳しく防戦一方といった印象だった。

弾ききれなかった斬撃が少しずつ体の末端に傷を与えては、血が滴る、このままでは負ける。そう思ったシャルロットの顔が一層険しいものになる、ひと際大きく剣をはじき返すと後ろに飛び退くと深く深呼吸をする。


「闇夜を斬り祓う破魔の光よ、我が道を照らし賜え!エーテルプリズム!」


詠唱を紡ぎ始めると、少女の剣に魔法陣が発現する。やがてその魔法陣が消えるが辺りには何の現象も起きなかった。

フロストが笑みを零しそうになった次の瞬間、視界の端に今にも切りかかる体勢に入っている女の姿があった。

ギリギリでそれを回避するが、肩口の鎧がバターのように切れ落ちる。

フロストは素早くシャルロットのほうを見るが、そこに先ほどの少女の姿はない。さらに驚愕の顔を浮かべたとき、今度は背後から殺気を感じる。


「ハイルスパイク」


素早く呪文を唱えると、自分めがけてつららが振り下ろされる。

激しい、金属音がフロストの背後で響くとシャルロットが間合いを開けて立っていた。つららはフロストではなくシャルロットめがけて放たれたのだった。


「人間の認識を凌駕する連撃、さすがラインハルトの娘だ。いとも簡単に人を嘲笑うような魔法を使う。

だが、その正体は光を駆使して姿を眩ませているに過ぎない。それに、隙を突くお手本通りの戦い方。下手な素人より下手に腕が立つ方が敵として信頼できる。」


シャルロットは図星を突かれたように顔を歪めると、遅れて体が痛むのか脇腹を抑える。


「来ないのか、ならばこちらから行くぞ!」


フロストが大きく前に踏み込むと、足元に雷光が降り注ぐ。


「何の真似だ、ガキども...」


いつもは冷静さを感じさせる顔を浮かべていたフロストも一対一の戦いに横やりが入るのは許せないのか、表情に怒りがこもる


「シャルロットちゃん!」


足がよろめいているシャルロットに鏡花が肩を貸していた。


「いけません、あなた方は!」

「全く、殺すつもりなど元よりないのだがね。だが、9対1

ともなると私も手加減はできまいな」


フロストは怒りと狂気に満ちた笑みを浮かべる

シャルロットにはその笑みの腹心が理解できた。

仮に自分が負けたとしても、あくまで交渉の材料であるシャルロットは殺されることはない。しかし、今シャルロットを助けようとしているもの達は確かに交渉の材料としてなりえるだけの価値がある。しかし、それはあくまで機密事項で当然フロストが知っているとは限らない。とすると、彼は今この場で召喚者たちを殺してしまおうかと威嚇しているのであった。

ペトラは、よろめく身体に喝を入れ足に力を込める


「みんなは、下がって。私一人で十分よ。」


シャルロットがそういうと、目の前にいる男子生徒たちが笑みを浮かべながらぼろぼろになった女騎士を見ていた。


「何言ってるんですか!シャルロットさん!こういう時の為に毎日訓練したんですよ!」


正吾が気前よく言い放つと龍弥も和もうなずいていた。


「やめなさい。彼の相手はあなた達じゃ務まらない、邪魔よ。勇気と無謀は履き違えないで!わかったら、そこをどきなさい!」


戦いに慣れていないただの高校生たちが勇気を振り絞って助けに来たにも関わらずそれを一蹴された一同は、シャルロットの迫力に気おさる。


「鏡花ちゃん、私の雄姿見ててよね、かっこよく倒して見せるわ。」


シャルロットは鏡花の手を丁寧に払うと、前に出る


「そこの雑魚共を庇うだけの理由があるとは思わんが、まあ良い。

では、覚悟はいいな。」


シャルロットは頷くと、剣を強く握り踏みしめた。


シャルロットさん、かなり強いんですが相手もものすごく強いです。本編では両方滅茶苦茶強いという描写に苦戦しました。

明日も20時に投稿するのでよろしくお願いします。

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