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悪夢の夜に  作者: 赤さん
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第1節 3章 暗殺編Ⅲ

暗殺編も後半に入り、今回はかなりショッキングな内容も含んでいるので少し注意です。


フォールンは街を抜けしばらく草原を走り森へと入っていく者たちの跡を追っていた。

走っていた馬の背から突然、靄が空中へ舞い上がると森の中へ消えていった。

「さて、篠原くんが死なないうちに助けてあげないと。」



篠原が目を覚ますと、森の木に括りつけられていた。

まだ日が少しづつ見え始めてきたころ、複数のローブをまとったもの達が自分の周りを取り囲んでいた。

突然訪れた非日常的な光景に昨夜のことを思い出すが、ここに来るまでずっと眠らされていた篠原には思い当たる節はない。

男たちはフードの下から白い歯を見せると、笑っているのだろうか、今までにない体験したことのない恐怖が篠原を襲う。

息を吸うことさえ忘れてしまうような緊張感の中、人並の奥から一人の男が出現する

男は篠原の前にしゃがむと、篠原のあごを掴み視線を合わせる。



「連れてきました。」

「ご苦労。」


「黒髪に、黒い目。この身長。間違いないシノハラアヤコだ。

お前に恨みは悪いが、お前は今から死ぬ」




篠原は突然の宣告に涙を目に浮かばせると信じられないのか、首を左右に振る。

勢いよく、木から離れようとするが縛られていたため抵抗むなしく、地面に力なく落ちる。

フードを被った男が剣の刃の様子を見ているのか、少しづつ昇る朝日に照らす。

篠原の恐怖もいよいよ最高潮を迎え、力なく涙が瞳からあふれローブを被った者が篠原の目前に歩み寄ったその時

篠原の膝元に男が倒れこむ。否フードが脱げた男が力なく、首の裏から血を流して倒れこんでいた。


「えっ...」

「やあ。連合小王国軍の兵士の諸君、この女性はちょーっと面倒な所用があってね。死なせるわけにはいかないんだ。」


ローブや鎧を着た男たちが振り返ると、そこには自分たちより背の高い、黒いローブの下からは白骨化した指が覗く。その手には、幾重にも重なった投げナイフが鉄線のように展開されていた。


「僕は、あんまり戦いが得意じゃないからみんなのこと殺しちゃうけど、我慢してね。」


その瞬間、兵士の一人が素早く呪文と唱えると、火の玉がフォールンに向けて放たれる。フォールンは避けることもなく、その火を正面から受けると思われたがその攻撃が身体に触れることはなかった。


続けて、他の者たちも石の礫や風の刃を繰り出すがどれも体をすり抜けていく。と、その途端目にもとまらぬ速さで腕を振り上げると兵士たちは次々とナイフの餌食となった。

魔法を放てばすり抜け。物理攻撃をしようと近づけば避けては地面へ叩き落され。ナイフでトドメをさされる。

あまりに人間離れした戦い方。人間とは思えない身のこなしとナイフ捌きにいつしか篠原の周りは血の海が広がっていた。

すると突如フォールンの頭上に魔法陣が浮かぶ。


「あー。そういえば植物系の強いのがいたねえ。」


そう呟きながら頭上に展開される魔法陣めがけてナイフを投げる


「分類不可禁忌魔法、イロージョンクラフト発動」


そう唱えた途端、どこからともなく叫び声が上がる。声の主は、植物魔法を行使していた男だった。

やがて魔法陣から多数のツタのようなものが現れると、フォールンではなく周りの者たちを拘束し、圧迫する。兵士たちが挙げる苦しそうな声がだんだんとかすれ声になり、ついには血を噴き出して力なく地面へ倒れこむ。


「やはり、さすが禁忌というだけはある。まあ人の精神から発現する魔法を乗っ取っちゃうわけだからね。まあ、今後の研究次第かな。」


フォールンは飄々とした顔で散らばったナイフを一挙に手元へ集めると、その鉄扇のようなナイフたちは空中へ塵となって溶けていった。

男は足元に水溜まりを作っている血をもろともせず、篠原の前に立つ

篠原は力なく地面にへたり込みながら恐怖のあまり顔を歪め涙を流していた。

フォールンは、篠原の前にしゃがみ込み縛っているものを解いてやろうとするが、惨殺した張本人が目の前にいるからなのか相当おびえていた。

しかし、特に危害を加えられることもなく縄を解き立ち上がる覆面の男を不思議そうに見上げる。

「ごめんね、ちょっと刺激が強かったかな。でも言ったでしょ。君に死んでもらっては困るって

それにしても君すごいね。こんなもの見せられて平然を保ってるなんて。」


篠原はそういわれた途端、突然現実味を帯び始めたのか自分が生きていることを自覚したのか、あたりに散乱する肉片や臓器、溢れ、流れ出す血とその水溜まりをみて、茂みに嘔吐してしまう。

「まあ、そうなるよね」


フォールンは篠原が嘔吐している様子を見ながら独り言を漏らしていた。


「だいぶ派手にやったようじゃの」

「やあ、エマ」

「全く、レヴィアンの街に行ってみればそれっぽい奴らが慌てておったわい。」

「なるほど。それにしてもなんでここがわかったんだい?」

「それなんじゃが、どうやら近くに芽亜李がおるようじゃ。」

「ほーう。」

「どうやら、近くを通りかかる商人たちの間で芽亜李がこのところ個々の国境付近を嗅ぎまわってるらしいのじゃ。

狙いはおそらく」

「クリスじゃなければ、ゲンジ...でも誰が...」

「とりあえず、そこの女性を何とかして護衛達に引き渡さなければ。」

「僕はこのまま連れ去りたいんだけどねえ。」

「確かに、この者が持ってる知識が他国に独占されるのは惜しいが、いなくなっては元も子もない。今は返すのじゃ。」


篠原は惨状から目をそむきながら少し落ち着きを取り戻すと、ローブのフードを脱いだ金髪の幼女が目の前に立っていた。


「落ち着きを取り戻したかの?」

「大丈夫...です。」

「両手を出すのじゃ。」


篠原は両手を出すと、エマにその両手をそろえられどこからともなく水が湧き出た。


「そんなひどい顔では美しい顔が台無しじゃ。」


突然の優しい言葉に感情の起伏がおかしなことになり、むしろ落ち着きを取り戻しつつある篠原は口を濯ぎ、髪を手櫛で整える。


「うむ。立てるか?」

「はい。大丈夫...です。」

「これから、お主を護衛のところまで送っていくからついてこれるか?」


篠原はコクリと頷くと、エマと横並びで歩き出した

後ろにいる人間かどうかもわからない化け物に度々おびえていたようだった。


「おい、お主やりすぎじゃぞ。おびえとるではないか。」

「いやーごめんごめん。つい実験できるとなるとね。」

エマはため息をつく。と、篠原は恐る恐る口を開いた。

「さっき、ゲンジって...」

「お、気が動転していたから気づかないと思ってたけど、よく気付いたね。そう、君の知ってる志乃 源二だよ。彼は生きてる。」


篠原はその一言に足から崩れそうになる


「よかった...」

「なんなら、君のことを助けに来ている最中だと思うよ。」

「でも、君には会えないんじゃないかな。」

「どうしてですか。」

「鮮血の処刑人、別名ブラッディーメアリーと呼ばれる闇の魔法使い狩りが源二君を探しているからさ。」


源二は林の中、馬をできるだけ走らせていた。

その姿を前にとらえるペトラは、どこか表情を曇らせていたのであった。

それは、源二がおかしな行動をとっているからではない。村からさらに離れた場所、人が通りづらい場所であるにもかかわらず魔物の気配が存在しない。

遭遇しないのではなく、存在さえしていないような異様な静けさに君の悪さを覚えているのだった。

源二はそんなことを気にもせず、商人に言われた街へ向かうため馬をさらに加速させようと試みた時、馬がバランスを崩し源二は空中に放りだされる。瞬時に魔力を宿らせ、体勢を整えると何とか受け身をとることができた。

手に鈍い鈍痛が伝わるが、やがてその痛みも引き素早くと馬に視界を移す。

しかし、馬は立ち上がるのではなく苦しそうにもがいている。

バランスを崩したのではない。崩されたのだ。

その思考に至った次の瞬間、目にもとまらぬ速さで赤黒い刃が襲い掛かるのを視界の端にとらえる。

剣を抜く余裕さえ与えない一撃を躱そうと、飛び退くが焼けるような激痛が襲う。

激痛に脂汗を滲ませるが、すぐさま体勢を整え切りかかったものを睨む

傷はたちどころに癒えるが、当然痛みは感じる源二にとっては心が竦む凄まじい衝撃を与えた。


赤黒く太陽に照らされる大鎌の刃は使い手の者の笑みをより不気味に演出していた。

間違いなく固有武器、しかもクリスやフォールン、エマの迫力を思わせる凄まじい気配...殺気というものはわからなくとも、目の前に立ちふさがる少女が異様な雰囲気をまとっているのは感じられた。

ペトラは、突然源二が馬から落馬したことに驚いたがその驚きは突如別の者にすり替わる。


「この女!」

ペトラはぐっと奥歯をかみしめ、固有武器を発現させると大鎌を振り被る少女へと飛び掛かる。

少女は突然の攻撃に不愉快そうな表情を浮かべ、ペトラの剣をはじくと、後ろへ飛び退く


「あなたは邪魔。あたしはそこの殿方だけ頂きたいのですけど」


源二は立ち上がると、懐から剣を抜く。


「あら、いけませんわ。ゲンジ、その武器ではなくてよ。」


少女は源二の目前に急接近すると、その体格に見合わない鎌を振りぬく。

源二はすかさずその軌道を阻んで薙ぎ、再び距離を置く。


「ゲンジ!」


ペトラは、源二に向かって叫ぶ

源二は腹部がだんだんと熱く、次第に激痛が響き始める。

瞬時に腹部を見ると源二の腹部がぱっくりと切り開かれていた。

次第に傷が塞がり始める光景に少女は狂気に満ちた笑みを浮かべ、ペトラは絶句する。

源二は、神経を直で触られたような。気がふれてしまうような痛みに地面の土を握りしめ苦悶の表情を浮かべる


「今ので確信しましたわ。新たに誕生した闇の魔法使いゲンジ。」

ペトラは少女に警戒しながらも、動揺を浮かべる

「なんで、あなたがここにいるのかしら。ブラッディーメアリー。

ここはあなたのいる国の領土ではないはずよ。」

「あら、それを言ったらあなた方も同じではないですか。

それに、没落した娘に興味はありませんわ。私が欲しいのは、闇の魔法使いの命。ただそれだけですもの。」


少女は再び凄まじい速度で視界の端へ移動する。

再び大鎌を横に振ると、身をかわしてそれを何とか回避する。

しかし、回避したはずの攻撃は今度は源二の肩を大きく切開していた。

源二は、続けざまに襲う激しい痛みに耐えながら思考する。

なぜ避けたはずの攻撃が当たっているのか。確実に当たっていないはずなのに切ったことさえ感じさせない鋭い一撃が源二を襲う。

そしてそんな種などわかるはずもなく、2度、3度4度と切り刻まれる。そして切られるたびにその切り口が深く重い鈍痛となって源二の脳に針を刺したかのような痛みが襲う。

少女は笑みを浮かべながら口を開く。


「ゲンジ様、闇の魔法使いはどうやって肉体を再生するか知ってるかしら。」


源二はよろよろと立ち上がると、少女に視界に捉える

後ろで2つに結んだ白い髪が、源二の血を浴びて赤く模様のように付着していた。


「闇の魔法は、再生しているわけではなくて、無理やりつなぎ合わせてるのですわ。

きれた点から切れた点を無理やりつなぎ合わせ、失った体液を魔法で生み出す。

じゃあ、腕や足をそのまま切り離したらどうなると思いますか?


切り離された足や腕は再び切り離された断面へ戻らないと、繋がれない。もちろん切り離された部位も戻ろうと動きはしますけれど、手で押さえれば止められるくらいで留められますのよ」


源二は何が言いたいとは言うことはなかった。要は、源二の腕か足か、その両方を切り離して放置したいのか、そこから何かしたいのだろう。考えるだけでも恐ろしい。

急速に迫る死の存在が、むしろ死そのものが目の前の少女そのものであるかのような幻想を抱く。

しかし、少女はそれを楽しんでいるかのように笑みを浮かべていた。


少女は再び源二へ間合いを詰める。しかし、激しい金属音と共に目前でその攻撃が受け止められた。


「やはり、出せるのですね。安心しました。これで、心置きなく殺せますわ。」


その言葉を放った瞬間、少女は目前から姿を消す。

否、視界の端まで移動する

源二は瞬時に少女の攻撃を受けようと体勢を変えようとしたその刹那、

「ブラッドフィル!」

少女の口から魔法の発現をアシストする呪文が放たれると、途端に足に激痛が走る。

突然力が入ったわけではない。明らかに敵の攻撃により、足が動かなくなっていた。

何とか、攻撃を片手で弾き飛ばす。

続けざまに大鎌が振りかざされる

その瞬間、源二の目前に赤い光が煌めく。


「ゲンジ!」


ペトラは大鎌をはじき飛ばすと、開け放たれた胴に蹴りを繰り出すが、空を斬る


「ペトラさん、逃げて!」


源二は痛みに震える声を何とか抑え込みながら話しかける。


「お断りするわ。あなたがいなきゃ誰がエレーナを連れて帰るの。」

「そんなこと言ってる場合じゃ」

「じゃあ、このまま形上のパーティーメンバーを見捨てて殺されるのを背に私だけ生き延びろというのかしら、私はそんなに薄情な女じゃない。殺すのは嫌い、でも殺されるのはもっと嫌いなのよ!」


ペトラは、波打つ剣を握りしめる。

源二も立ち上がり少女を見つめる。


「俺が、俺があの子を殺す。」

「やっと戦う気になりましたか?あぁ...楽しくなってきました。

この私を滅ぼさんとするその思い、力、魔法、鼓動、殺気そのすべてが愛おしいわ...

私が死んだあと、殺した者との間に子を設けられないことが唯一の無念...ああ、好きよ、その表情。」


少女は狂気に満ちた笑みを浮かべるが源二の心は揺れ動くことはない。

鋭い、鈍い、体中を覆いつくす痛みの大火が体中を迸り恐怖など微塵も感じない。

「彼女は不可分類魔法、血液を媒体とした魔法で、水属性魔法と同じ効果のほかにも様々な効果を生み出せる。」

「あら、よくご存じですのね。」

「鮮血の処刑人、ブラッディーメアリーの存在を知らないほうがおかしいわよ。」

芽亜利は再び笑みを浮かべると、鎌を太陽に照らす。

鎌の表面は源二の血で塗られ、その穢れを払うこともなく、持ち手まで滴ると、少女は一気に踏み込む

ペトラはぐっと足腰に力を入れ、一撃をはねのけるよう身構えるが、目にもとまらぬ速さで槍と鎌の刃が交差すると、鎌が跳ねのけられる。

すかさず脇腹めがけて蹴りを叩き込むが、凄まじい痛みが足を襲う。

芽亜利に向けて放たれた蹴りは、その前にある赤い水壁に阻まれるどころか、その壁は鋭い棘を帯びアーマーや服の上から貫いている。

少女はそのすきに次の攻撃を繰り出そうとするが、ペトラが肩口に刃を振るうと咄嗟に持ち手で刃を払いのけ、飛び退く。

だが、その軌道上にわずかな血の水滴が飛散する


「その剣、本当に鬱陶しいわね。」


少女は初めて表情を曇らせると不快を露にする

その刹那、少女の背後から突然斬撃が繰り出される。

少女はその攻撃を躱すと、機嫌を取り戻したのかクスクスと笑う


「闇属性の魔法、久しく感じましたわ。

敵の背後、死角に音もなく現れ攻撃する魔法。」


源二は少女の目前まで距離を詰めると、顔を貫くように槍を放つ。

金属が弾ける音が幾重にも重なる。

より力を込めた一撃を、大鎌を手放させるように下から上へ振り上げると、ひと際大きな音が空気を揺るがす。

すると少女は目前に捉えていたはずの源二を見失う。

すぐさま横に飛び退くと、槍が地面に叩き込まれる。

しかし、その槍をそのまま手放し空中にいる少女めがけて蹴りが放たれるものの、その攻撃が間に合わないと判断するのに、一刻の時も刻まない。

少女は瞬時に棘のない水壁を構築し、それを躱すと体が何かに引っ張られる。


「私の間合いからは逃がさない!」


ペトラが芽亜利を間合いへと引きずり込むと、間髪入れず剣を振るうが、目前で体をそるように剣を避けるとその体の勢いを殺すことなく鎌の刃がペトラを襲う

重い衝撃が腕を襲うが、続けて少女の間合いを強制的に詰めさせ鎌の間合いの内側へと引き込む。

芽亜利は瞬時に鎌を持つ手とは反対の手をペトラにかざすと、白髪の少女は瞬時に魔法を展開し、どこからともなく細い鮮血の針が首元めがけて放たれる。


「アストルレイ!」


ペトラの展開した凄まじい光が鮮血を覆うとその液体は形もなく蒸発する

二人の間に閃光が放たれたことで、お互いの位置が消失するが、次の瞬間、芽亜李の鎌の刃はペトラの首元に添えられていた。


少女は胸を激しく上下させ、息を切らしているがその相貌は源二を捉えていた。黒く、黒く闇を纏い、間違いなく自分めがけて展開された幾重にも重なる幾何学模様を纏った魔法陣達が歯車のように重なり、合わさり一つの模様を浮かび上がらせる。

一瞬にも満たない、神速を凌駕し世界から存在さえ疑わせる速度、当たれば必殺、狙いは必中の一撃が一閃する。

(クソ!この女の攻撃に気を取られて気づかなかった。でも、この女の領域は内部の人間をレンジ外に離さない魔法と同時に外部の侵入を許さない不可侵領域。しかも私の前にはこの女がいる)

女は冷静に状況を分析すると、今ペトラを殺す必要はないと鎌を止めた瞬間


心が、崩れていく。壊れていく。砕け散っていく。

狂っているのではない。もとより狂っていると自覚していた少女芽亜李にとってこの感覚は自身の精神の崩壊であることを告げていた。


「砕かれた。私の心が、精神が...鎌が...」


それ以上、少女が思考を紡ぐことはなかった。


「割った...固有武器を...」


ペトラは背後から倒れゆくものなど気にも留めずへたり込む。

彼女の目の前には名状しがたい光景が広がっていた。

鎌が砕け散っているのである。赤黒い色を帯びた大きな鎌がその巨大な刃から、持ち手まで空中に飛散して煌めいていた。


フォールンとエマは、篠原を護衛騎士のもとへ歩いて向かわせると、その背中を見ていた。

「もし、源二君がブラッディーメアリーと対峙したら、未だかつてない苦戦を強いられる。

人を今の源二君にとって、ある意味タガが外れているあの子を相手にするのは分が悪すぎる。」

「じゃあ、源二は死ぬと?」

「いや。肉体と精神の消失の第一段階は制御力の消失といったろ?

なぜ、魔法を簡略化する力を獲得したと肯定的な受け取り方で言われない理由はもう一つある。

それは、まだ安定しきってない感情の起伏によってその段階に見合わない危険な魔法を使うことになる可能性があるんだ

ブラッディー・メアリーは闇の魔法使いとあらば片っ端から攻撃してくる頭のおかしな子だから、その異常性が源二君を刺激してもしかしたら僕らでいう、未観測魔法や最上級魔法。もしくは禁忌魔法か...」

「もしどれかをこの段階で発動したとなると...」

「まあ、3回は死ぬかな。」



「ゲンジ!!!」


ペトラは口に手をあて、目の前に広がる惨状に顔を背けたくなる気持ちを抑える


「アアアアアアアアアアアアアアア!!!!」


源二の体を闇色の炎が包む。皮膚は焼けただれては、紡ぎなおされ、体から血が湧き出ては塞がれる。

体中の神経にワイヤーを突っ込まれ全身を巡らせたような表現しようのないイタミが思考のすべてを支配する。

意識が失っては繋ぎなおされ、失ってははたき起こされる。


ペトラは、急いでありったけの水を浴びせてせめて火でも消化できないかと、魔法を行使しようとすると突如目の前に現れた男にそれを止められる。

「これは水では消えない。やがて治まる。」


その言葉通り、やがて源二の耳を壊すほどの激しい悲鳴が治まると、体を覆っていたものもまるで何も起きていなかったかのようにきれいな体が地面に横たわる。

男は源二を抱き上げると、ペトラに向き直る


「あなたは。」

「クリスだ。」


赤い双眸がペトラを覗く


「仲間...ですか。」

「そうだ。ゲンジは連れていく。すまないが、そこの女を連れ帰ってくれ。」


それだけ言い残すと、クリスは歩き出し、消えていく。

ペトラはしばらくその場に立ち尽くすが、やがてエレーナと共に帰路へ着いたのだった。


「まさか、ゲンジ君が闇の魔法使いとはね...はぁ、道理で体を見られたくなかったり、戦うのを毛嫌いしたりしてたのかしら。」


「私は人の体を覗いたことないからわからないけど、戦いを拒んでいたのは本当よ。ゲンジは最後まで殺すことを躊躇っていたわ。人を斬る覚悟を少しでも考えてもらえればとは思ったけど、まさか死なないなんて反則よ。」


ペトラの脳裏には源二の戦う姿と、クリスの姿を思い出していた。

源二が魔法陣を展開した時のあの迫力、そして佇まいだけでわかるクリスの強さ。とんでもないものに巻き込まれてしまったとため息をつく


「でも、助けてもらったんだ。」

「うるさい!」

「ごめんごめん。でもゲンジ君なら...」

「うん。パーティーはこのままにするわ。」


「このままにするじゃなくて、したいんでしょ?顔赤いわよ?」

「もう!馬走らせるわよ!」


ペトラは顔を背けると、馬の腹を蹴った。


クリスは、一足早く拠点へ戻るとゲンジの部屋のベッドへ寝かせると、気を失ったままではあったが規則正しい寝息を立てていた。

やがて全員が戻ると、エマは疲れた様子で紅茶を啜る。


「まさか、闇属性の未観測禁忌魔法を放つとは。感情の暴走による精度の低い一撃だったとはいえ、固有魔法を砕くとは...」


「ところで、なんで未観測なのに禁忌なんじゃ?未観測ならば禁忌なんてジャンル分けはできない気もするが。」


「まあ、仮定だよ仮定。

固有魔法はある一定の段階以上の魔法を放つときに使われる物でもあり、武器そのものでもある。でもその出どころは間違いなく魔法で、魔法は人の精神から発現するものだから精神をそのままカタチにしたようなものだ。だから、それを破壊できちゃうなんてとんでもないってことで、魔法を調べる段階からずっと言われ続けてきたことなんだ。でも固有武器を壊す破壊力があるなんて今までには見られなかったら未観測禁忌魔法なんて意味わからない呼び方するんだよ。」


「だから芽亜李をわざわざ治療するんじゃな。研究の為に」

「そうゆうことー」


「とりあえず、状況を整理しよう篠原綾子は護衛騎士と共に王都へと戻り、芽亜李による攻撃を受けたがこれを撃退。こちらの損害は源二の消失の進行のみ。か。」

「まずまずじゃないかな。」


「うむ。ゲンジがもともと気の強い子ではないからな。少し心苦しいが、戦力としては申し分なくなったというわけじゃな。」

「そうだね。ただ、まだ理性は失ったわけじゃないからそれなりに苦悩するとは思うよ。残酷なことをする実感はわかないだろうけど...

それより、芽亜李をよこしたのは誰なんだい?

ピンポイントでゲンジが召喚者で闇の魔法使いであることを知ってる人物は両手でも十分なくらいしかいないと思うんだけど」


「ツバキだ。先ほど、連絡がきた。」

「随分なご挨拶じゃの。」


「大方、私がゲンジを助ける選択肢をとった理由をツバキなりに求めたかったのだろう。今後、芽亜李のような人物は現れないだろうが、同じようなことを起こすことはないだろう。

その時は私がツバキを始末する。」

二人は頷く

「あの少女たちには僕が釘をさしておくよ。」

「虐めすぎるでないぞ?」

「知ってるかい?窮地を救われた女性は吊り橋効果といって男性に強く惹かれるそうだよ」

「なんでそんなこと知ってるんじゃ...」

「僕の専門は光魔法の研究だからね。思いというジャンルもまた、大事な要素なんだよ。」


「女心はそんな単純じゃないような気もするがの...」


その声に反応する者はだれもおらず、三人のいる屋敷の中へと染み込んでいった。


フォールンさん、とんでもない魔法を使いますが設定上ではアレは絶対に使ってはいけない代物ですね。詳しくは概論をまとめたものがあるのでそちらを。

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