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悪夢の夜に  作者: 赤さん
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第1節 3章 暗殺編Ⅱ

暗殺編、篠原先生が早速狙われて何故?と思っている人も多いかもしれませんが、帝国はそれだけ焦っているようです。




賑やかな酒場の中、金を払ってある程度の個人スペースが確保できる二階席では、いつもの如く源二とエレーナ、ペトラが向かい合っていた。

「それじゃあ、予定は空いたのね?

よかったあ...じゃあペトラもよろしくね。」


エレーナは忙しいのか、酒場でさらっと事務的な挨拶を済ませると、小走りでどこかへ行ってしまったものの、話していた内容は、エレーナの仕事である定期健診の同行の目途がたったということだった。

源二は表向きは同行ということになっているが、その真は国境付近まで自分が向かうこと。エレーナの定期健診も国境付近だったために都合がよかった。そしてそれはいつしかフォールンの言っていた、自分以外の肉壁が増える。そんなことが的中してしまっているような奇妙な感覚を覚えていた。


「ああ見えて忙しいのよ。エレーナは。


エレーナは表向きでは回復の魔法使いなんて言われてるけど、本当は蟲魔法、寄生虫といわれる生物の中に入り込む虫がいてね。その魔法に特化してるの。


だから、本当は普通に優秀なお医者さんなのよ。でも周りはすっかりエレーナに縋りつくから遠出する前は大変なんだって。」


源二はそうなんだと心の中で呟くそれにしても、あんな少女が寄生虫の魔法かとどの立場からなのか、同情を覚える。


「これであなたとは最後ね。」


「はい。今までお世話になりました。」


「まだ最後の大仕事、終わってないんですけど」


「そうでした。ごめんなさい」


「まあいいわ。明朝出立するから正門前で」


二人はそういい交わすと、席を立つ。


「エレーナとペトラを頼むぞ。まあお前なら大丈夫だとは思うが」


酒場の親父がにこやかに微笑む

親父さんは、ペトラとエレーナを実の娘のようにかわいがっており、精神的に不安はありつつも実力は確かという理由で信頼を置かれていた。


源二は翌朝正門まで向かうと、エレーナとペトラが待っていた。

挨拶を交わすと、荷台に乗り込むとペトラは馬を走らせる。やがてウェインフリートの帝都から離れていった。

途中、エレーナとペトラと雑談をしたり、源二が全く馬を扱ったことがなかったというアクシデントがあったがおおむね予定通りに進んでいた。



「ここら辺はさすが人通りが大きいとだけあってまだ魔物も出ないわね」


「それより源二君、ペトラから聞いたんだけど本当は魔物とか倒すの嫌いなの?」

源二は核心を突く質問に顔を顰めるが、同時に自分自身も見詰めなおしていた。

「嫌いって言ったら嫌いです。肉を切る感触とか、血が滲む光景とか...もともと戦いとは縁がなかったんです。」

「ふーん。私、こんな職業やってるから戦いで傷ついた人も見てきたけど、未だになれないわ」

「エレーナはともかく、戦うことを躊躇するのはどうかと思うんだけど」

「ごめん」


源二はもういっその事全部ぶちまけてしまいたくなった。

いきなり召喚されたと思ったら自分は排斥された魔法使いだったこと。かといってこの力は自分の意思とは関係なく魔法を使用すればたちまち人間を超えた能力が生まれること。

自分がつらい訓練に耐えていたのも、突然に突きつけられた自分の死という選択肢から逃れる為に過ぎなかった。


こんな弱気な自分が惨めったらしい。

いつもは周りに励まされて、安い言葉で生かされていただけだということを改めて実感させられる。


源二はこんなにも深刻に捉えているのに、ペトラは干し肉を嚙みながらぼーっとその話を聞いていた。


「まあ、それぞれ嫌なことはあるわよね。ごめんなさい。変なことをきいちゃって」


のどかな風が荷車を吹き抜けると、どこか心地悪く感じた。


いつの間にか眠りについていた源二は夢を見ていた。

断片的ではあったが、いつもの龍弥と正吾の顔。談笑している和んだ雰囲気に夢の中でも心が穏やかになっていくのを感じる。

それでも、自分が異世界へ放りこまれたという事実は夢の中でさえ定着するようになっていた。

何とかして帰らなければいけない。今はまだそれができないが、召喚者という人物が誰なのか、魔法を追求すれば帰れるかもしれない。かすかな希望だったが、確かな原動力を生み出していた。

そのためにも篠原先生のことは死なせてはならない。誰も死なせてはいけない。自分に強大な力が託されたのは迷惑な話だったが、それ以上に強い人物が自分の周りにはいて、幼馴染の鏡花も光の魔法使いだ。

それに、闇の魔法使いはその規格外な力を持っているのだから俺が頑張らなければと夢の中で喝を入れる。

それでも安息後に再び心の安寧を求めようとすると、突然意識が誰かに引き上げられる。


「おきて!源二君、魔物よ!」


意識を覚醒させるなり、手元に置いていた剣をとると辺りを見回す。

素早く荷台を降りると、ペトラのフォローへ走った。


なんでこの世界はこんなにも不親切なんだ。

源二は魔物に向かい、魔法を放つと心の中で愚痴をこぼす




最後の魔物が倒れると、源二は一体ずつ焼却していく。

積み重なった元動物の足や手が燃え盛る火炎の影となって源二の心にも影を落とす。


ため息をつくと、再び馬車は歩き始めた。


「ご苦労様。ペトラの言ってた通りホントに強いのね、源二君。」

「ありがとうございます。」


源二はエレーナに笑顔でほめられたことをうれしく思うが、やはり心の靄は晴れなかった。


やがて空が傾き始める辺りになったとき、今日の宿泊する街が見えてきた。

三人はその街へと入り、宿をとるとその宿にある酒場で夕食を食べる。


「そういえば、源二君は寝ちゃってたからお昼は食べてなかったわね。ごめんね、起こしたほうが良かった?」

「いえ、昨日あんま眠れなかったので大丈夫です。」

「なんかアンタ、最近暗くない?

もし、なにか力になれることがあれば相談に乗るわよ。

一応パーティーメンバーだし...」


しかし、源二は笑顔でそれを断ると、ペトラの表情は崩れることなく食事を口に運ぶ少年のうつろな顔を見ていた。

ペトラには確信があった。この少年と短いながらにも一緒にいたからこそ今この男は何かを隠している。



その日の夜、ペトラとエレーナはベットで源二という少年について話し合っていた。


「まさか、本当に魔物や人を切る覚悟がないとはね。

ああいう覚悟は一番最初に身に着けさせるものなんだけど。」

「まあ、それも彼らしくていいんじゃない?

あんなかわいい寝顔をする子が平気な顔で人を殺せてしまうほうが私は怖いわ。綺麗事とはわかっているけれどね。」

「大丈夫かしら。」

「あら、彼の腕は確かって言ったのはあなたじゃない。」



ペトラは顔を赤くすると、布団にくるまる。


源二はそのころ、ボーっと外を見ていた。

後ろを振り向くと、自分以外誰もいない簡素な部屋。カーテンが夜風に揺れていた。

星をみるその先には、酒場での映像が浮かんでいた。

自分の悩みに対しての答えはペトラの回答こそ厳しかったものの、確かなものだった。覚悟がなければそもそも戦わなければいいというのはむしろ当然の選択といえる。今の源二の立場を除けば。

しかし、ペトラの言葉をさらに深読みするとすれば、殺すならば、同時に殺される覚悟もしなければならない。

闇の魔法使いはもちろん不死身というわけではない。しかし、自然の中から魔法力を蓄積するこの世界では、闇の魔法使いが極々少数なのに対して、あまりにキャパシティーが多すぎる。

それ故に闇の魔法はあふれんばかりの力を扱える。そんな楽観的な状況だからか、殺される覚悟もその殺される実感がない以上殺す覚悟ができないのも当然だった。


ならばいっそ狂ってしまうか。でもそんな偽りの自分なんか演じることができていたら、そもそもこんな考えはしない。

夜になると、こんなネガティブな思考が頭を覆いつくす。こんな時間が嫌いだった。だが、こんな些細なことでさえ抗えない。闇の魔素は闇に生まれる。それを欲するものは闇に生きのである。


「あーダメダメ。魔法の練習してこよ」


源二はそういって宿を抜け出したのであった。


煌々と光る街の光を下に、フォールンは街を見下ろしていた。

「未だに動きはなければ、こちらに篠原君は来ていないようだ。

それにしても召喚者たちは優秀だねえ。

細かい構造は現地の技術者に相談しながらのようだけど、農場や畜産の生産に当たる生産ラインの効率化に。当然のように魔法が使えるようになってるわけだ。教え方はあまりよくないのかと思ってたけど、あるいは召喚者たちの理解力が深いのか...まあいいや。どうやらここははずれのようだね。あとは戦力評価だけど、護衛騎士のほうはともかくやはり源二君のお友達はスキしかないね。」

フォールンの姿が闇夜に消失する





目的地の街についてからというもの、エレーナは着々と回診を進めていた。途中の町でも多少は行っていたが、目的地についてからというものかなり接待されていた。

最初の頃はそれなりに断っていたものの、もうすぐ十日を迎えようとするときには遠慮する気も起きなかった。

源二は身の丈に合わない部屋を後にすると、湖のほとりに座り込んでいると、ペトラから声をかけられた。

何やら面倒なことが起きているようで、珍しく仕事ができたことにそれとなく面倒ごとでないよう心で呟いた。

エレーナのいるところまで行くと、何やら頼みごとをされているようだった。

ペトラに事情を聞くと、どうやら国境地帯の村で頼み込んできた男の親族が病に倒れたようだった。

今いる街は国境付近といっても比較的大きな町で、最も国境に近い街というだけで、人間が住んでいる場所に限ってはさらに国境の近くの村が存在している。しかし、源二達が通ってきた道はいわゆる街道という場所で人通りも多く、盗賊や魔物の類の治安も保たれているのに比べ、人通りが少ない道を通るのは危険が一気に高まるため相談を持ち掛けられたということだった。


源二は少し考えたが、それを承諾した。


殺さなければ、無力化すれば人間だって


医療品類を荷台に街のご厚意で馬をもう1頭増やし、源二が一人で馬に乗ると街を後にする。

馬を操ったことがなかった源二は最初こそ不慣れだったが、移動するうちにだいぶ慣れてきて、多少であれば走れるほどにはなっていた。

医療品類を荷台に街のご厚意で馬をもう1頭増やし、源二が一人で馬に乗ると街を後にする。

馬を操ったことがなかった源二は最初こそ不慣れだったが、移動するうちにだいぶ慣れてきて、多少であれば走れるほどにはなっていた。


「あなた、魔物はともかく賊の時はホントに頼むわよ。私だって女なんだから、万が一負けでもしたらどうなるかわかってるわよね」


源二の心が揺れるが、無力化することに自信はあった。もちろん盗賊たちを甘く見ているわけではない。しかし、源二はすでに人間を超える能力と魔法構築にあたる制御力の消失により瞬発的に魔法を発動できるようになっていた。

そして、不安は的中するもので山林に差し掛かる部分で盗賊が現れた。筋骨隆々と言った見た目はいかにも自然を生き抜いてきたと言う荒々しい強さをうかがわせていた。



「ひょろっちいガキ三人か、これは楽勝だな

うち二人は女、それもかなりの上物ときた。これは今夜が楽しみだな」


源二はすばやく馬を降りると剣を抜く

賊は六人、慢心しているのか道をふさぐようにして立っていた。


「おーこわこわ。とっととそのガキやっちまおうぜ。」


賊の男は真ん中に立つ大柄な男に声をかけると不敵な笑みを浮かべながら前に歩み出る。

手にはハンマーを持っており、食らったらひとたまりもなさそうだ。


源二は深呼吸をすると、持ち手を強く握る

ライノという男はハンマーを持つと同時に、賊の中から源二に向かって鋭利な投げナイフを投げると、瞬時にそれを叩き落す。

しかし、それを落としたせいでライノの接近を許すがその攻撃が当たることはなかった。

振り下ろされる鉄塊を剣に角度をつけて弾くと地面が揺れる。


「おお、このガキやるじゃねえか。こりゃあ女二人も連れてんのも納得がいくぜ。じゃあ本気でいくぜ!」


賊のリーダーらしき人物がそう叫んだ刹那男たちは瞬く間に男たちを線で結ぶように雷電が疾走する。


「あんたたち、舐めてんじゃないわよ。」


ペトラは片手に波打つ剣を片手に燃え盛る男たちに問いかける。

最初に源二にナイフを投げるため位置を変えていた男以外が焼死体に変化を遂げると、男は尻もちをつく。

ペトラは問答無用で男の鎧を貫くと、剣についた血を払い、剣が空気に散っていった。


源二は視界の端でその姿を捉えていたが、混乱に乗じて懐へ飛び込む

男はハンマーを離し、源二にこぶしを繰り出そうとするがそれをよけ、鳩尾に一撃を食らわせるがその体は意思を殴ったように硬かった


「お前の一撃もなかなかだが、俺の筋肉の前には打撃は無力!仲間は死んじまったが、俺が一人で楽しませてもらうぜ!」


男はハンマーを手にして体勢を変えると同時に源二も前へ踏み込む。ハンマーを横に薙ぐと寸前でそれをよけ、再び懐へもぐりこむ


その刹那、少年は思考する。純粋な急所が通用しなければもっと強烈な一撃を最も効果的な一撃を食らわせる。

思い出していたのはそうアドバイスしたフォールンの飄々とした態度で語られる言葉だった。

源二は足に思いっきり力を籠めると振り上げる


ゴリュと凄まじくも生々しい音が源二の体内まで響くと、ライノはハンマーを力なく離し、ありったけの声が止まっていた鳥を羽ばたかせるほどに響き渡る。

ペトラもエレーナも口元に手を当てて、男が股間を抑えて倒れこむ様子を見ていた。



「場合によっては殺されるよりずっとつらい気もするけど、とりあえず片付いたわね。」


ペトラは失神した男の様子を確認すると、再び荷台へ戻っていく。

辺りには異様にも焼肉のようなにおいが漂っているものの、追撃を懸念しすぐさまその場から動き出した。


馬の手綱を握りながら目線だけペトラに合わせる


「ペトラさんはなぜ人を殺しても平気なんですか。」

「人聞きの悪いこといわないで。アタシだって人を殺めるのは嫌いよ。前にも言ったけど、アタシは剣を持つときにそう決めているのよ。

相手を想う気持ちを殺して、ただ目の前の敵を倒すことだけを考える。さもなければ自分が死ぬ。だから人を殺すという禁忌の選択肢でさえ選ぶわ。」

「ごめんなさい。」

「でも、珍しくアンタは正常よ。むしろこんなに容易く人を殺せるほうがおかしいのよ。」

「まあまあ、私たちが犯されたりすることも無くなったわけだし、源二君見てあげるからこっちに来て。」


源二は首を傾げながら荷台に飛び移る。

ペトラは終始怪訝な顔を浮かべていた。


「手、出して?

心の治療まではできないけれど、元気が出る魔法をかけてあげるわ。」


源二は手を差し出すと、差し出していない手も掴まれ源二の両手をエレーナの両手が覆う。

心臓の鼓動が高まると、温かいエレーナの体温が流れ込む


「なにやってるの?」

「こういうときの相場はこうって決まってるじゃない?

それに、あなたが初めて人を殺めたときもこうして上げたでしょ?」


ペトラは顔を赤くしてそっぽを向く


「ペトラが怒ってるからこれでおしまいね。」

エレーナの温かい手が離れると、自分の馬へと戻った。







横に長く広がる国境地帯の一角、比較的熱帯のこの地方でエマは作業をする金髪の少女と茶髪の少女の姿を見ながら愚痴をこぼす。


「儂は潜入とか不向きなはずなんじゃがな。そうも言ってられまい。」


「あれが愛済鏡花じゃな。フォールンやクリスなら源二が生きていることをうまく伝えられたろうが...

とりあえずここには小王国らしきものも暗殺者の気配もない。

ハズレかの。それにしてもあの少年...」


エマは路地を利用し、街を後にした


「みつけた。篠原綾子、属性は地か。小王国や諸侯の騎士が存在していないとなると、まずは暗器とかからかな。それにしても、ここで荒事を起こすとは考えづらいかな。とりあえず、皇帝に顔出しに行ってるクリスもこういった隠密行動が苦手なエマ君も。最初から僕が動かないといけないようなもんじゃないか。苦手なんだよね。人助けって」


フォールンは虚空に向かって独り言を溶け込ませると、靄となり消失する。

それと同じころ、ラインハルトはブロンド髪を腰の辺りまで伸ばした凛々しい少女と向かい合っていた。


「父上!いくら我が国のためとはいえ、貴重な召喚魔法の使い手を殺してまであの者たちを召喚するとは、なぜ教えていただけなかったのですか。」


「諄いぞ、シャルロット。

あの大召喚は我の望んだものではない。」


「ではどうして...」


「仕組まれていたのだ。こうなるようにと。」


「一体だれが...」


「ともかく、あの召喚者たちが我々の身に余ることも確か。ここは指揮官を殺し、我々が手綱を握ることが優先されるとは思わんか。お前の意見を聞きたい。」


「それについては賛成ですが、良いのでしょうか。信頼を置くものを殺してしまって。もっと別の方法が...」

「それについては考えた。だが、志乃 源二なる新たな闇の魔法使いによって我々に不信感を覚えてしまった。」


娘シャルロットは顔を顰める


「また、闇の魔法使いとの戦争が起こるのでしょうか」

「シャルロット、闇の魔法使いは存在しない。今度は人類同士の衝突。

それだけではない。戦争で生き残った者たちが新たな闇の魔法使いの誕生に興味を持っている。今のうちに決着を付けなければなるまい」

「父上がそこまで言うのなら。我々の騎士団を」

「その必要はない。小王国連合に頼んだ。」

「よろしいのですか!あの街は水の資源も豊富なのですよ!」

「落ち着け。何もレヴィアンの街を襲わせるつもりはない。」


ラインハルトの双眸はシャルロットという可憐でクールビューティーな見た目を思わせる少女の切れ目を貫くような深い視線を落とし、不敵に微笑んでいた。




「さて、動き出したよいうだね。こちらもなるべく姿を明かしてはならないし、いち早くこの地を離れてもらうとなると...はあ。ほんとにいつから研究室から戦場に職場が異動したんだろうねー...」

フォールンは街中に散らばっていく者たちを上から見下ろし、黒ずくめの男たちを上から見下ろしていた。

その視線は揺らぐことがない。淡々と得物を見定める鴉のような真っ黒な仮面が街の光を写し取っていた。


「篠原先生、おやすみなさい!」

「ああ。おやすみ」


女子生徒に声をかけられた篠原は自室へと入った。

この世界に召喚されて何か月が経っただろうか。

篠原の心は最初の頃こそ焦っていたが、今ではこの世界の本を読み漁ったり使用人たちの話でこの世界のことを勉強していた。

それに加え、篠原の持っている地の属性の魔法は地面や石、鉱石に関係する魔法が得意で、いわゆる石材建築分野に関しては高い能力を有していた。

その魔法特性のおかげで篠原は生徒たちにこの世界についての講習を行ったり、農業や畜産、その発展について知っているだけの知識を教えていた。

歴史上の形式的な学びではなく、実際に生活に必要とされるノウハウ等を教えているに近かったのもあってか、前にいた世界よりも皆の吸収が早かったような気がして、それはそれで教師として複雑な気持ちを覚えたが生徒たちが逞しくなっていく姿には嬉しい思いが募っていた。


「みんなは元気にやってるかな...それに」


志乃 源二 禁忌と呼ばれる闇の魔法を発現させ謎の組織に連れ去られた生徒は篠原にとって最も気にかけていたことの一つだった。

前の世界のように親からクレームが来たり、教育委員会の重圧や立場上の責務、刑事上の扱いはもはや存在しなかったとしても、自分の可愛がっていた生徒がこちらの世界の勝手な理由で連れ去られ、生死さえ不明といった状況はどう考えても普通ではない。

かといって見つけて連れ去ったところで篠原に匿ってやれるだけの立場も財力もない。というより、衣食住ともに王宮によって管理され、たまに自分の服を買いに行くこと以外、通貨等持ち歩いたことはなかったし、相場や施設さえもない。

この飼いならされている状況に篠原は疑いを持っていた。

その一つに


「光魔法は神より与えられし祝福。そして闇は邪の神より与えられし力。善と悪、か。何がカストス教だ。

まあいい。とりあえず何とか変える手立てを見つけないと。」


篠原は、深呼吸するとベッドの中へ入った。

篠原が規則正しい寝息を立てた頃、部屋の扉が開かれる。


「あーあ。寝ている淑女の寝込みを複数で襲うとは小王国軍の暗殺部隊も落ちたもんだねぇ。

それに、植物系の魔法使い魔までいるとはさてはだいぶ本気だね。」


部屋の中へ入った者たちは魔法で篠原をまどろみの中へ突き落した後、体を拘束すると篠原を担ぎ部屋を後にしようとしたとき、別の部屋の窓ガラスが割れる音が響く。


「何事か!」


その音にいち早く騎士たちが気付いた、女性を担ぎ出そうとする者たちを見ると、すぐさま抜剣し後を追う。

ローブをまとったもの達は馬にまたがり、その場を走り去ったのだった。




「おー。頑張るねえ。」


フォールンは飄々とした仕草で割られた窓を見つめる。

部屋の電気は明るくなり、投げ込まれたナイフを残った護衛騎士たちが確認している最中だった。

生徒たちも突然の出来事に目を覚ましていた。


源二達が村にたどり着くと、とある女性を診察していた。街で頼まれていた親族の人だった。

その患者が女性ということもあり、家の外で小さな商店をふらふらと歩いていた。



「おい、そこの兄ちゃん。良かったら見てってくれよ。」


移動式の焦点を簡易的に開いていた商人に近づくと、ウェインフリートの商人ギルドの紋がないことに気づく。

地方ともなると管理も適当なのかなと、いわゆる非公認な商人なんだなと少し懐疑的な表情を見せる。


「兄ちゃんどこの人だい?」

「ウェインフリートの帝都ですけど。」

「じゃあいっぱいお金持ってるんだな

なんか買っとくれよ。」

「いや、ちょっとすいません。間に合ってるんで。」


商人は悩んだ表情を見せる。商人もピンキリでかわいそうなんだなと心のどこかで思っていると、商人は手をたたくと思いついたような表情を見せる。


「そういや、今日神聖エイレーネ帝国から来たんだけど、そこの特産品なんてどうだい?

ここから一番近い主要都市のレヴィアンってところにある人気な甘味でな。ここで出すつもりはなかったんだけど、兄ちゃんには特別だぜ味見してもいいぜ。」


源二は会釈してその甘味を手に取り、口に運ぶとフルーツから抽出したのか、自然な甘みが口に広がり中に入っているナッツ類の甘みとマッチしていた。


「おいしいですね。」

「だろ!」

「これってウェインフリートじゃないもんなんですか?」

「正確にはあるんだけど、水が豊富なところじゃないと果物がならないんだよ。」

「なるほど。おじさん、神聖エイレーネ帝国から来たんですね。」

「まあ商人だからね。通行証があるから予定を繰り上げて早めに来たのさ。」

「なんかあったんですか?」

「良くはわからないんだけど、私が荷物をまとめている時ちょっと商談に時間がかかってしまってね。夜も遅くなっていたんだけど、人攫いなのか、馬に乗ったいかにも怪しそうな奴が女性を連れ去ってたんだよ。」


源二は一瞬他人事かのように受け取ったが、あることが脳裏を過る。

今、源二は護衛としてここまで来ているが同時に恩師である篠原綾子の暗殺を阻止するためにも動かねばならなかった。


「その騒ぎのこと、詳しく教えてくれないですか」

「ただというわけではねぇ」


手元をクスクスとこねる素振りを見せると源二は青筋を立てる

今すぐこの男を殴りたい衝動に駆られるが、懐に手を伸ばすと腐っても商人なのかと割り切り金を渡す。


「あーおもいだしてきたぞ。

連れ去られたやつの格好は暗くてよくは見えなかったが、かなりプロの犯行だと思えるな。人攫いというだけなら商人の荷台を襲うとか、旅人を襲ったほうがいい。わざわざ町中であんなことをするくらいだから何かあるんだろ。

それと...」

「それと?」

「聞きなれない名前だったけど、シノ...なんとか。シノ、シノ」

「篠原?」

「そう!それそれ!」


源二は我を忘れて、その場を駆け出すと自分が連れてきた馬を走らせる。


「ゲンジー。終わったわよー」


ドアを開けたペトラの前を勢いよく横切る


「あの馬鹿、何やってんの!」

「どうしたの?」

「よくわからないけど、ゲンジが馬に乗って村の外に出てっちゃったのよ!」

「えぇ...

そんなヒステリックを起こすような子だったかしら。」

「わからないけど、とにかくそこでまってて!」


勢いよく外へ駆け出す


「もう、なんでこう剣を持つ人たちってみんなこうなのかしら。」


ペトラも源二を追うように勢いよく馬を走らせたのだった。


ありがとうございました!エレーナさんとペトラ、2人ともかわいくていいですね。

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