第1節 3章 暗殺編Ⅰ
新章暗殺編に突入しました!ここまで読んでくださった方に感謝。
源二達が異世界に召喚されてから、さらに2か月が経とうとしていた時のある日の昼のこと、王宮では人がせわしなく動いていた。
「とうとう今日ね。」
班を編成して神聖エイレーネ帝国の地方領地へと派遣する計画の当日を迎えていた鏡花は気合を入れるように頬を叩く
「そうね。ウチと鏡花ちゃんは同じチームだしがんばろ!」
「うん!」
「和君と康史君も頑張ろうね。」
佐伯 凛、西宮 和と、同じルームメイトだった平崎 康史も2人と同じチームの4人で旅をすることになっていた。
鏡花はあたりを見回すと、龍弥たちが乗り込む馬車を見つける
「龍弥君!気を付けてね!」
「ああ。お互い頑張ろう。源二のこともな」
「俺には?」
馬車から顔を出しようにして正吾が目線を送る。
「もちろん、正吾君もがんばってね!」
「しゅっ...しゅき...」
「うっさいキモオタ。とっとと行け」
いつの間にか来ていた佐伯に一周されると落ち込みをあらわにしながら馬車へ乗り込む
「サラトガちゃん!絶対見つけてくるからね!」
鏡花たちも馬車へ乗り込むと、メイドや宮殿関係者たちが送りだしてくれていた。
人並のなかに馬車に向かって手を振るサラトガを見つけると、窓から顔を出して叫ぶとサラトガは一礼して大きく手を振り返す。
「行っちゃったね」
「はい。」
「皆さん。お気を付けて。」
サラトガは胸の前にこぶしを作ると、メイドたちと宮中へ戻っていく。
しかし、その様子を見守っていたのは何もメイドたちだけではなかった。
ラインハルトは、城から旅立っていく馬車たちを見送りながら虚空へと目をあけ放っていた。
男は危惧していた。今召喚者たちの間に立つ不満、不平。それが思わぬ形で跳ね返ってこないだろうかという不安。
源二以外に闇の魔法使いを発現した者はいない。そして、魔法の技量も到底良いとも思えない。
決して、負けるのが怖い訳でも立場が危ぶまれるのが怖い訳でもない。
せっかく召喚した者たちが下らない闇の魔法使いの登場のせいで全員が犠牲となり、結果的に全ての労力が無駄になるのが惜しかったのだ。
「良いのですか。今は他の国が嗅ぎまわっておりますが。」
「むしろ今だからだ。召喚者の存在が知られる可能性は否定はできん。だがそれ以上に召喚者たちは源二という少年の失踪で不信感が増している。このままにはしておけない。...雹王を呼べ。」
シャジャールとラインハルトは旅立つ召喚者たちを宮中から見送りながら笑みを浮かべる
「先生?どうかしたんですか?」
篠原に声をかけた男は井上 隆史という名前で、他にも永井 真衣、堀切 佳奈美、加藤 洋太という人物が同乗していた。
「いや、何でもないよ。」
「それより、今から行くところってかなり遠いんですよね」
堀切が不安そうに問いかける
「そうだな。これから行くところは、国境に近いところだったはずだ。まあ国境に近いとはいっても私たちのいた世界とは違って、完全に隔離されているわけじゃないがな」
「とんでもないところだったらどうしましょう...」
もともと弱気な永井は極度に心配性なところがあったが、今回ばかりはみな同じ気持ちだった。
「大丈夫ですよ!皆さんがこれから行くボーデンという場所は、人口こそあまり多くはないですが、のどかな場所で多くの商人が最初の宿場として利用するため、宿泊施設としても人気なんですよ。」
そう教えてくれたのは、彼らの護衛の任についていた騎士だった。
好青年な印象をうけるこの騎士は今回の護衛が初の任務らしく、かなり張り切っていたのだった。
「ここから目的地までこのスピードだと...約3,4日ほどかかりますが、途中いろいろと街を経由していくので、まともな休息が取れるかと思います。狭い車内ですが、おくつろぎください」
よほど重役ととらえているのか、ハキハキとしゃべる少年の熱量に苦笑いを浮かべた篠原は軽く礼を言った。
源二は隣にいる赤髪の少女と共に森の中を歩いていた。今になれば自然なようにも見えたが、本来二人はもうすでにパーティーなど解体しているはずだったのだ。
時は少し遡る。
源二が固有武器を出現させたあと、ようやく町にも慣れ始めた頃。
酒場で昼食を食べていると入口から2人の女性が入ってくる。
源二は体をこわばらせる。心なしかその二人を視線から外すが、こちらに近づいてくる。
「ここにいたのね。源二君」
声をかけてきたのはエレーナだった。
そしてエレーナの隣には脳震盪から回復したペトラが立っていた。
二人は向かいの席に座ると、注文を済ませる。
エレーナは目を合わせようとしないペトラを肘で小突く。
渋々といった表情で源二に視線を向ける
「アンリ・ペトラ よろしく」
源二とエレーナは苦笑いを浮かべる
「あの時は、悪かったわね。」
反省の色は微塵も見られないが形上でも謝罪を受け取った源二も形式上の返事を返す
「今日は、パーティーの件で相談に来たんだけど...」
ペトラは机から立ち上がる
「それは、もう一回いうけど、私一人で十分!どこのやつともわからない新人と組むつもりはないわ!」
「でもあなた負けたじゃない。しかもご丁寧に足のアーマーを外して情けまでかけられて」
ペトラはぐっと歯を食いしばる
「まあ、じゃあせめて私の定期健診が終わるまででいいから、一緒にパーティーを組んでほしいの」
ペトラも表情を曇らせる
「だからそれは!」
「別の冒険者に頼んでもいいのだけれど、国境付近まで行って健診を終わらせて帰ってくるほど資金もないの。」
親友の頼みだからか、考えるそぶりを見せる
さっきまで二人でいたはずなのになぜ自分の目の前で言い合うのかツッコミたかったが、こらえる。
「あの、僕はパーティー...いいですよ。」
エレーナは顔を輝かせると感激の色を示す
「そこまで言うなら、エレーナに免じてパーティーを組んであげる。足、引っ張らないでよね。」
源二はこうして可愛らしさのかけらもない女とパーティーを組むことになったのである。
源二とペトラは最初こそ、険悪だったが話してみれば意外としっかりした子で、反発されていたのは単に一騎打ちで負けたことに腹を立てていただけだった。
「ペトラって毎日こうやって魔物狩ってるのか?」
「ええ。」
「かなり魔法が使えるのに?」
「そりゃ、使えるけど攻撃魔法に偏りっきりな私には何もできやしないわよ。」
この世界における魔法は知性を持つ限りすべての人間がその才を有していたが、教育自体が行き届いていないこの世界では魔法が使えるというだけでそれなりの価値があった
「それより、あなたほんとに何者よ!冒険者ギルドの新人かとおもったらいきなり深部の魔物を殺して、ものすごい強いかと思ったら魔物を倒せば倒すほど、顔色が悪くなるなんて。とんだポンコツじゃない。
まあいいわ。もうすぐエレーナを連れて地方まで行かなきゃいけないけど、結局いけるの?」
源二は自分やクラスメイト達を探る勢力の出現により首都を離れなければならない用事を入れることをクリス達からできるだけ返答を先延ばしするように言われていたのだった
「まだちょっと予定が...」
「あなた、いつもそればっかじゃない。
何があるのか知らないけど、そもそも私と組むのだってエレーナのためなんだから。」
「だよね。でも勘違いで人を襲う人と一緒にいていいのかなって」
「だから、それは謝ったじゃない。それに、深部にいる魔物を単騎で複数体倒すのなんてどうかしてる。最低三人は必要なのよ」
「そんなこと言ったらペトラさんはどうなんですか。」
「私はこれがあるから。」
そういってペトラは波打つ剣を発現させると、見せつけるようにして光に晒す。
灰色の刀身は中心に向かうにつれ紅く染まりまるで血を吸っているのではないかと錯覚してしまうほど危なげで妖しい魅力を醸し出していた。
「この剣は傷つけた敵を一騎打ちに持ち込む特異な魔法があるのよ。これを使えば単騎でも一対複数じゃなくて、一対一を複数回こなすだけになるのよ。」
「でもそんな魔法...」
「まあ消費は激しいわね。」
確かに、並みの冒険者達では厳しいかもしれないが強制的に能力を向上され、怪我もたちどころに癒える闇の魔法の前では手を抜いても勝てる相手だった。
しかし、一対一に持ち込まれる魔法。源二がこの少女と戦わざるを得なくなった異様な魔法は確かに厄介なものだった。
魔法を行使された側は彼女の持つ鎖のようなものに縛られ、周りを光のドームのようなもので囲い出られることができない。
それだけではない。彼女の持つ鎖は常に彼女のタイミングで強く引き寄せられ、体幹を大きく崩され、終始彼女にペースを握られながら戦いを強いられるのである。
そしておそらくその鎖は彼女の自力ではなく魔力によって賄われている以上、その範囲内にいる時点で鎖から逃れられる術はないのである。
源二は先の見えない暗闇に足を踏み入れたのかと錯覚するほどにまだ中はお世辞にも良いとは言えなかった。
その日の夜、拠点へ戻ると珍しくクリス、エマ、フォールンがそろっていた。
「ゲンジ、それからパーティーのほうはどうだ。」
「最悪ですよ。ペトラさんは気が強いし、隠さなきゃいけないことが多いし...」
「そうだねえ。今は君が闇の魔法使いってばれるといろいろとまずいからねえ。でも、最近は警戒の手も薄くなってきている。今日は久々に良いことがあるかもよ。」
源二は首をかしげる
「ゲンジ、ツバキのところに行くぞ。準備しろ」
ツバキという言葉に心臓が跳ねるが、素早くローブを被ると四人は外へ出た。
暗い室内の中ツバキと四人は向き合う
「本日はお呼びつけして申し訳ございません。」
「構わない。」
「エイレーネに動きがありました。半月ほど前になりましょうか。
38名を9班に分けた召喚者たちが護衛騎士と共に各国境付近にある街へ派遣したようです。」
「エイレーネがリスクを冒して召喚をしたのはこういうことだったんだね。」
「恐らくは。ですが、どうやらそう簡単にもいかない様子です。
ゲンジさんの召喚による制約が確認できないことに少々の疑問を抱いていましたが、恐らく術者は死亡しているようです。」
「というのは?」
「神聖エイレーネ帝国皇帝ラインハルトが連合小王国軍と雹王をはじめとした複数の諸侯たちと接触したようです。」
「このタイミングでの接触となると、単なるお茶会でもあるまい。」
「なるほどねえ...」
「恐らくは、召喚者何者かの暗殺。」
「ただでさえ、魔法を使える者しかいない召喚者たちは誰もが標的にされてもおかしくはないですね。しかし、中でも特に注意しておかなければならない人物は限られます。将来的に帝国の存在を揺るがしかねない力を持つかもしれない者...例えば、光の魔法使いか、戦闘に特化した雷魔法使いか、あるいはより希少性の高い、我と同じ植物系の者か...」
その一言一言に源二の心が戦慄すると同時に同級生たちの顔が脳裏に浮かぶんでは消えていく。
「でも、僕たちが介入する理由も戦果も期待できないね。」
「いや、戦果はある。」
「ほう?」
「現在、召喚者は神聖エイレーネによって管理されている。ゲンジの森羅万象を論理付けるものは、恐らく皆持ち合わせているものと考えられる。
すると、今後神聖エイレーネは莫大な資源と戦力を有する。エマの発見した魔法の発生論についても逆算的に気付くものが出てくるやもしれん。そうなったときに、より多くの者たちをこのウェインフリートに引き込んでおくほうが良い。」
「たしかにな。」
エマが頷く
「童が皇帝だとしたら、標的は間違いなく監督役じゃろうな」
「先生ですか!?」
源二はクラスメイト達が標的にされていることに我慢ができない様子で初めて声を上げる
「落ち着け。お前の気持ちは痛いほどわかっているつもりだ。」
クリスは源二を制すると、エマは話を続ける
「ゲンジの状態を見る限り、召喚者を縛っているのは権利上の支配に過ぎない。
だとすると、今召喚者たちを束ねているのはその篠原という女のいうことを優先しているはずだ。そこから指示を出しているものを排除すれば、必然的に帝国の犬となるってわけじゃな。」
「そこからのことなのですが、7班に分けられた者たちとその者たちの行先が国境地帯であるということしか判明していないのです。」
「ふーん...難しいなあ。篠原という女性が死んでしまったら、今度は他の者たちが帝国の手先にならないように僕たちが始末しなくちゃいけないねぇ。」
「でも、帝国が暗殺を企ててたことが露見してしまったら、召喚者全員が危ないんじゃないか?」
「たしかにのお...」
「いえ、恐らくなのですが...
この件は神聖エイレーネ帝国が連合小王国群のどこかをたきつけたのではないかと...実際に王宮には連合小王国群へ斥候が 出されました。」
「なるほど。連合小王国群は可能な限りエイレーネに借りを作った置きたいからねぇ。それだけラインハルトも重要視しているのか...」
「連合小王国群って...」
「この国は僕たちのいるウェインフリートと、お隣のエイレーネだけじゃない。大小さまざまな国が固まった集合体みたいなところがあるんだよ。
その国は大戦時に独立した国が多くてね。人類側の最前線を戦ってたエイレーネと深い因縁があるんだよ。」
「深い因縁...」
クリスは源二のさらに踏み込もうとする雰囲気を察したのか、手でそれを制すと口を開く
「フォールン、そこまでだ。ゲンジ、お前も出ろ。ただし、闇の魔法の存在は明るみに出てはならない。
使うならば、確実に殺せ。」
四人が部屋を後にするとツバキは深い暗闇の中で不気味な笑みを浮かべていた。
彼女が思い浮かべていたのは、源二という少年のあどけない顔だった。
「志乃 源二。新たに生まれ堕ちた闇の魔法使いの男の子...クリス様は覚悟を決めているようだけど、私はまだ決めかねているの。サフィールの名に懸けてね...」
「ゲンジ。お前はパーティーメンバーを連れて、国境付近へ行け。
我々は越境し、できるだけ情報を掌握する。
お前は事態の急転に備え、動けるように待機しておけ。」
そういってクリスやエマ、フォールンは虚空へと消えていくと屋敷にはいよいよ自分一人になってしまった。
思えば、この国に来てから信頼できる人物はいても、気の休まるときは一秒たりともなかった。それが今こうして一人になるとドッと押し寄せてくる。
しかし、それが慰められることもない。広いリビングでも書庫でもなく、割り振られた部屋へと入っていくと、座ったまま布団に包まると自分の体温が僅かに冷たくなった布団を温ため返してくる。
「みんな...俺、怖いよ...」
しかし、その声でさえも誰の目に届かぬことなく虚空の彼方へと消失していった。
深い虚空の中、闇をそのまま織って纏ったような姿をした三人の人影が向かい合っていた。
「エマ、フォールン。お前らは早速偵察に出ろ。この作戦はなるべく源二には手を出させたくない。」
「賛成だね。君はどうするんだい」
「センのところに」
「ああ。アルレイド・センか。
越境偵察なのに、国のトップまで話をしに行くのはなぜだい。」
「恐らくは、召喚者の存在に感づいた勢力がいるかもしれないということじゃな」
「そうだ。それも連合小王国じゃない」
「どこだ。」
「それを含め、より幅広く情報を捉える必要がある。」
「そうじゃな。それでは、中のことは頼んだぞ」
三人は手早く情報を共有するとそれぞれ全く違う方向へと消えていったのだった。
読んで頂いてありがとうございます。やっとスペースの対処法が判り楽になりました。
今回は量的に少なかったかと思いますが、大体一章辺り4回、あるいは10000字で区切って毎日投稿していきますね。




