第1節 2章 暗転編Ⅳ
戦闘描写がかなり難しく苦戦しておりますが、頑張りました。
現実は非情であった。
この世界の僅かな人間としか交流してこなかった人間に、突然血気盛んで男勝りなギルドへ行って新人である自分と組めとは言えなかった。
当分の鍛錬として魔物狩りを言い渡されると、少し憂鬱になりながら一人で街中からエルフの森へと入っていった。
ライトアーマーと訓練で使い慣れた剣を渡されたが、それ以上に仲間がいないと言う現実に泣きそうになった。
しかしその空気も束の間、エルフの森はその名前とは裏腹に奥へ進めば進むほどおどろおどろしい空気が待っていた。
すると影から突然狼のような魔物が姿を表す。
狼は源二の虚をつく形で背後から飛びかかるが、魔法を使おうとするだけで肉体や感覚が研ぎ澄まされてしまういい意味で呪いのようなこの魔法の前に、源二に一撃でも喰らわせられる魔物は存在していなかった。
数体も倒すと身体もなれるもので、最初は思わず戻してしまう事もあったが、何とか皮を剝がずに焼き切れば気持ち的に楽だと気付くとまた一匹と数を重ねた。
源二は息を引き取った魔物に歩み寄り、腐食による環境破壊を防ぐため、火葬の要領で魔物を倒しては灰にしていた。
ときに魔物の血が跳ねてきたり、剣が骨に刺さり、抜けなくなったときやまだ死んではいないもののいずれ死にゆく魔物を見ているとき、ふと心の中でおもう
いつからこんなに残酷になったんだ
影も形も動物と瓜二つなその獣は間違いなく血が流れている。切られた部位からは内臓が流れ出ており、地面が時間を追うごとに赤く、黒く深く飲み込まれていく。
いくら魔物とはいえ消費されることがなく滞留する大量の魔素に当てられ、凶暴化してしまっただけ。源二はその無残な姿を自分が作り出したという非現実的な感覚に襲われる。
いくら人間や亜人に悪影響を与えるとはいえ元を辿れば動物であるものをこの手で殺めるのは、元高校生の源二には心苦しかった。しかし心のどこかでこの行為を感傷的に捉えない部分があった。
ギルドでは、討伐の証として死体の処理をする前にその魔物の特徴となるものを切り取り保管することで、討伐の証明としていたが元より誰からの依頼を受けたわけでない源二は特にそれをすることなく、魔物をみつける。あるいは襲われるまで歩き続けた。
すでに何十体という魔物を葬っていた源二は空腹を覚え、一旦街に戻り貯金を崩してご飯を食べようと思っていた。
この時、勇気を出して依頼を受注していれば貯金を崩さずに済んだと反省する
「待ちなさい。」
凛々しい女性の声が森に響くと、源二は振り返る
「この辺りに立ち入っていいのはギルドの人間のみよ。アンタ何者!?」
そう問いかける女性は、赤いショートカットの声から受ける印象通り凛々しい見た目をしていて、胸部と腕、膝丈のアーマーをきていた。
「僕はギルドの新入りで」
「新人がこんなとこ、来れるわけないじゃない。それにここはギルドでも一部の人間しか立ち入らない。よほどの自殺志願者でない限りね」
女は腰にある剣を抜くと、源二に向かって構えだす。
源二は剣に手をかけたまま静止する
「アンタ、随分と魔物を倒していたようだけど固有武器は使わないのね。」
「覚悟はいいかしら!」
女は一気に間合いを詰める
しかしすでに人間の近くを超えつつあった源二にとっては避けるのは容易いことだった。
一振りを難なく飛び上がってかわすと女はさらに前に踏み込む。
仕方ないと決心した源二は剣を抜き、弾き返す。
「手加減してると死んじゃうわよ。今なら見逃してあげるわ。とっととこの森から出て行きなさい。」
自分は侵入者だと思われているのか、そんな考えを巡らせながらも源二は至って冷静に立ち回れていた。
女は返答のない男に再び斬りかかると、同じように弾き返される。
しかし、攻撃に転じようとはしない。
女は舐められているのだと断定すると、着地と同時に踏み切り、もう一度間合いを詰める。
再び剣同士がぶつかりあうが、女の握っていた剣が突然離され、源二の剣が軽い鉄を撃つと、女はどこからともなく懐から別の剣が源二の顔面目掛けて突き出される。
源二は咄嗟にそれを交わすが、頬に擦り、血が滲む。
「捕まえた!」
そう言い放つ女の剣をみると、体のサイズに合った長さの剣だったが刀身はゆらゆらと波打つようにうねっていた。
女は突如魔法陣を展開する。
源二は咄嗟に魔法攻撃を察知し、飛び退くと誰かに引っ張られるように女の元へと吸い込まれる。否、引っ張られていた。
女はその手から鎖のようなものが先程、源二が追った傷から生まれ、身体に巻き付き手元の魔法陣で固定されていた。
「これで逃げられないわ。さぁ行くわよ!」
とても女性とは思えない力で体が間合いを詰め始めると、源二も間合いを詰める。
唯一他人に感づかれないように使えるさまざまな恩恵を駆使し、攻撃を防ぐ
与えられた傷もとっくに癒えていたが、鎖が離れることはなく、常に相手にペースを握られていた。それもそのはず、女は常に自分の好きなタイミングで相手の体を引き寄せてくる。しかしそれ以上に厄介だったのは、彼女の持つゆらゆらと揺らぐ刀身は通常の剣と違い波の頂点同士を測ると、恐らくかなり幅の広い刀身になる。それを波打たせることで防いだと思ったがそうでなかったり、あるいは間合いを見誤る原因を作り出す。それに加え、なんの魔法なのかわからないこの能力は、彼女の間合いから逃れることを許されない。
そんな状況の中、必死に攻撃に対応していたが引き出しの数がまだまだ少ない源二の状況は最悪といえた。
なんとか攻撃に対処しながら、この状況を打開する方法を考える。
彼女の魔法傷を治しても、巻き付けられた鎖を斬ろうとしても不可能だった。
すると、女自身を倒す他なかったが殺人なんてとんでもないことを犯す度胸はまだ源二にはない。となると...
源二は鎖の張りを緩ませる。
「やっと戦う気になったかしら。」
源二は足につけていた硬い防具の留め具を剣で切り落とすと、女に向かい構え直す。
剣技に関して、つい最近始めたばかりだった源二は心を決めていた。
狙いは一瞬。
源二は思いっきり踏み込むと一瞬で間合いを詰めると剣を横に振る
女もそれを待ったましたとばかりに波打つ刀身で迎えると激しい金属の砕ける音が鳴り響く
それと同時に赤く短い髪が右へと傾くと、源二は砕けた剣を気にせず、頭部に蹴りを叩き込むと、右に揺らいだ髪は左へと向きを変え、女の意識を掻き消した
源二は砕けた剣など気にも留めず、倒れた女へ駆け寄る。
いきなり自分を殺そうとしてきた人物にいい印象は受けなかったが、それ以上に美しい女性にこともあろうに耳のあたりではあったが、頭部に蹴りを叩き込んでしまったことは本人の心にも大きなショックを与えていた。
源二は女を抱きかかえると、急いで街へと引き返した。
街へと入ると、すれ違う街の人物に病院の場所を聞き、そこへ駆け込む
「すいません!この人を!」
ドアを開けるなりそう叫ぶと、奥から走ってくる音が聞こえる
「どうしましたか」
恐らく1日に何回でも言っているであろうその言葉を言いながら来訪者の姿を視界に捉える
「ペトラ!」
奥から出てきた黒髪の女性が恐らく源二の抱いている女性の名前を叫ぶと、急いだ様子で病院の一室へ案内した
室内のベッドに寝かせてやると、黒髪の女性は女性へ近寄ると、ペトラと呼ばれた女性の手を挟み込むようにして握る。
すると、魔法の発現を感じ取った
源二はその姿に既視感を覚えたような気がしたが自分が倒した女性のことを気にかけていたため、深く考えることはなかった。
「とりあえずは大丈夫みたい。脳震盪を起こしてるみたい。後遺症もこの程度なら大丈夫だと思うし、きっとそのうち起きるわ。」
女性は安堵した様子を見せるとクルッと椅子を回し、源二と目があう
「怪我、してるでしょ?見てあげるから、手出して?」
慈愛に満ちた表情を浮かべながら問いかけるその姿は白衣の天使というよりかは近所のお姉さん的な優しさを感じるものの、決して見せるわけにはいかない。彼女は今魔法を使って倒した女に何かをしていた。
だとするならば自分がここで闇の魔法使いだとバレてしまってはせっかく助けてくれたクリスさんたちに申し訳が立たないし、なにより大パニックになるかもしてない。
「いや、俺は特には」
女は疑問符を浮かべたような顔を浮かべながらも再び赤髪の少女の方へと向き直ると、寝ている女性の赤い髪をそっと整える
「何も聞かないんですか?」
「うーん、気になるけどまずは、この子の鎧を取ってあげたいから、申し訳ないんだけど」
源二は女性が伝えたいことを察すると、部屋を出て、廊下で待つことにした。
少し待っていると、扉が開けられると再び入室する。
「あのー、いいんでしょうか」
「何が?」
「その…見ず知らずの女性にこんな...」
「あら、運んできてくれたのは貴方よ?これくらいのサービスしてもらわないと」
誰にとは聞かなかったが、恐らく運んできた自分に赤髪の女性が恩を返さなきゃいけないと言っているのだろう。
この女性に蹴りをかました男が目の前にいると言うのに...
源二は複雑な気持ちで促されるまま席に座る
「私の名前はエレーナ・ミア、気軽にエレーナって呼んで」
エレーナと名乗る女性はそういうと、手を差し伸べる。
「えっと、ゲンジって言います」
緊張を浮かべながら、手を握り返すとその時
自分の中に何かが入り込んでくるような感覚に陥る
源二はこの感触を覚えていた。自分の中に他人が入り込んで同居する感覚。
エマに使われた魔法だった。
即座に手を切り離すと女性はおっとりとした空気を漂わせる
「本当に怪我はしたないみたいね」
妙に妖艶な笑みの下にどんな顔があるのかはわからなかったが、再び座り直す
しまったと気づく頃にはすでに遅く、彼女の笑みが何か自分の秘密を掴んでいることを示していた。
「まずは説明してくれるかしら。」
そういって源二は事の顛末を丁寧に離すと、エレーナはため息をついたのだった。
「この子昔からそう言うところあるのよね。
自分の信じたことは疑わないのよね。
ごめんなさい。」
エレーナは頭を深々と下げる
「そんな、やめてください。もともとこの方をこんなにしたのは僕のせいですし…」
「それでも、友達だから…」
その言葉にミアは意味深な顔を浮かべるが、源二はそれ以上に心を抉られた
パーティーメンバーがいないとかそんなチンケなことではない。友達がいない。クラスメイトたちがいないその気持ちが再び思い起こされていたのだ。
源二は動揺を隠そうと、顔を背けると鎧を外し落ち着いたのかリラックスした顔で眠る赤髪の少女の姿が目に入る
こんな時にもかかわらず、見とれそうになる中ふと首元に光る高貴な装飾品に視線が映る
冒険者のギルドに所属していると言っていた少女にはその装飾品はあまりに身の丈に合っていない。もっと上の位の人間がつけるような立派なものだった。
「これって...」
源二がつぶやくとエレーナも視線を移す
「気になる?
あれはね、形見なの。これ以上はひみつよ」
その胸に光る宝石は朱く光り輝いていた。
源二は疲れた様子で街を歩いていた。空はすっかり暗くなり夕食もまだだったため、そこら辺の食事処で夕食を済ませることにするが、この街のことを全くと言っていいほど知らない源二は途方に暮れていた。
「はあ。いきなり街に出て行っていいなんて言われてもなんもできるわけねえじゃん。エマさんは引きこもりみたいにずっと本読んでるし。フォールンさんも自室に引きこもって変な笑い声あげてたり、ふらっと外出て行っちゃうし。いろいろと教えてくれるけど、何考えてるかわからないし。クリスさんなんか訓練の時以外ほとんど家にいないし...ツバキさんが言ってた良くも悪くも人間じゃないっていってたもんな...
俺は俺で魔物はともかく、あんなきれいな女の人まで気絶させちゃうなんて...」
空腹のせいか日頃たまっていた鬱憤を虚空の中へぶちまける。
いつもなら誰かに聞いてもらって、励まされていたんだと再認識すると、ぎゅっと体を丸める。
「なんで俺だけ。こんなことになってるんだろ...」
「もしもーし」
源二は突然かけられる声の主へ顔を上げる
そこにはさっきまで病室で話し合っていたエレーナがたっていた。
「ゲンジ君は早速あの子たちに捕まったみたいねぇ
いくら成長が必要とはいえ、召喚者。闇の魔法使いを野放しにするのは、本当に良かったのかい?」
フォールンは書庫で本を探しながら話す
「確かに我も同感だが、クリスがそう言いだしたんじゃ。闇の魔法使いにしかわからんこともあるのじゃよきっと。
あの者たちに関しては、まさか初日とは驚いたが、これも運命なのかの」
「君みたいな知識人が運命とか言うの珍しいねぇ」
「それは、童だって神なんてもの信じてはおらん。そうではない、紛れもない人が生み出した運命じゃ。」
二人は書庫で本に目を向けていた。
エレーナに連れられ二人はとある酒場の前に立っていた。盛り上がる男たちの声が外まで響いてくる。
いかにも男臭い酒場をエレーナは表情一つ崩さずに入ると、源二は「マジか。」と呟き後を追う。
ドアをくぐると、以前サラトガ達と入ったような店内が広がっていたが、あたりはすでに暗くなっていたこともあり労働を終えた者たちの憩いの場になっていた。
客と従業員たちが源二達に目を向ける 。その視線はどこかよそ者を嫌っているのか威圧的で働いている女性スタッフでさえ恐怖心を抱かざるを得ない。
「エレーナが男連れてきやがった...」
エレーナは静まり帰る店内を何食わぬ顔でカウンターの前まで進む
「親父さん。いつものやつ2つ。」
「わかったが...その坊主は?」
店主の男がエレーナの後ろを見る
「この人はペトラのことを助けてくれたのよ」
「そいつはお礼しなきゃな。坊主。お代はいいから今日はとにかく食ってってくれ」
男臭い酒場の常連なのかそう伝えると、空いている席へ座る
客たちもそういうことかと席に戻り談笑を始める
エレーナはちょんちょんと席の向かいを指すと、源二はカウンターの向こうの男に感謝を伝えると、席に座る。
「よかったわね。新人だからあんまりお金もないんでしょ?本当は私が払ってあげようと思ったけど、ラッキーだったわね」
やがて料理が運ばれてくる。
二人は食事をしながら談笑をしていると、エレーナはいろんなことを教えてくれた。
源二が助けたのは、ペトラという人物でエレーナと親友らしくここの酒場もよく来るようだった。といってもお酒はたまにしか飲まないらしく、今二人が食べているような健康的な食事をとっていた。それもそのはず、ペトラも凛々しい美少女だったがエレーナもタイプは異なるが間違いなく美形だった。
二人は食事を終えると、店の外へ出る。近くにある人通りの少ない道にはいると源二は不純な妄想を浮かべていた。
「それで、ペトラになにがあったのかしら。」
源二は妄想を打ち砕かれ、険悪な雰囲気が漂い始めるのを感じる
「ペトラのけがは内部にこそ問題はあるものの、外傷は目立ったものもない。今日は魔物の討伐に行くといっていたから、怪我をするとしたら魔物か暴漢か...
でもそれに見合った怪我をしてなければ襲われた形跡もない。
それに、あなた。武器も持ってないわね。
魔法で固有武器を出せるほどの人間なら名前も知れているはずよ。」
核心をつくような質問に源二は警戒をぐっと強める
「ですから、彼女に突然!」
「それに、彼女の魔法は一度発動すれば逃げられないはずよ。
あなた。一体何をしたのかしら。」
源二はいよいよ逃げられまいと、口を開こうとしたとき
キレイな黒髪がふわりと舞う姿に思わず思考が途絶されるとエレーナは深々と頭を下げていた
「あの子とパーティーを組んであげて」
源二は驚いた様子をみせる
「でも...」
「あの子はこれまでずっと一人だったの。勝手なお願いだってことはわかってるけど、お願い!」
源二は声も出なかった。
確かにパーティーを組んでもよいとは言われた。それが美少女であるならなおのことだ。しかし、彼女が目を覚ました時どう接してよいかわからなかった。些細な問題だったが、思春期な男子にはその問題が重くのしかかっていた。
「ごめんなさい!」
源二は現実逃避をするようにその場を走り去った。
「それで、逃げてきたのかい?なんでもかんでも許可をとる必要はないんだけどねえ」
クリスとエマ、フォールンと源二はリビングで話し合っていた。
「ゲンジ。ペトラという女はギルドの中でも指折りの実力者だ。お前の相手に不足はない。
エレーナという女も非常に希少な才を有している。
ゲンジ。申し出を受けろ。」
「でも!」
「ゲンジ君。もしパーティーになる人間に危害が及ぶことを気にしているなら今のうちに捨てたほうがいい。
君の存在はそんなに甘いものではないんだ。酷いことを言うようになるけど、身代わりが2人増えた程度に考えればいいんじゃないかな。」
しかし、クリスは手でそれを制すと深い眼差しを源二に向ける。
「迷っているならば、ついてこい。」
クリスはそういうと、まるでついてくることを知っているかのようにドアから出ていく
源二はエマやフォールンに顔を合わせることなく、クリスに続いた。
クリスは振り返らずに源二の前方を歩き、源二もそれに続く。エマとフォールンはそのさらに後ろを歩いていた。
「あれは、やる気じゃな。」
「そうだね。」
二人は虚空を見つめる
「闇と光の魔法の自我消失、その第一段階...早速そのタガを外そうとしているのか...彼は事態を思ったより深刻に捉えているようだね。」
やがて二人は立ち止まると、そこはエルフの森内部。いつもの訓練場所だった。
源二は目の前に背を向けて立つ男を見つめる
「武器を抜け。ゲンジ。お前にはまだ仲間が必要だ。殺されたくなければお前が守れ」
源二は困惑する仲間のことではない。街から帰ったばかりのゲンジは砕けた剣を置き去りにしたままだった。
口を開こうとした瞬間、クリスは目にもとまらぬ速さで剣を振るうと眼前に鉄塊が空を切る。
暗闇に溶け込むような独特な形状の刀身は訓練用の得物ではない。
その剣はラインハルトの一閃を目前ではじき返した、正真正銘クリスの武器だった。
クリスは音もなく急迫する。
剣の勢いを殺すことなく再び振り下ろすと、全身全霊でそれをよけきる。
回避することに精一杯の力を使った源二は後に来る蹴りをよけきれなかった。
切り裂くような鋭い蹴りが、源二の脇腹を抉ると鈍い音が体に響く。
源二は息をすることさえ許されないひどい痛みに顔を歪ませる
脇腹の異常は瞬時に収まったが脂汗がにじむ
「前から思ってたけど、クリスさん強すぎる...」
クリスは直立すると、飛んで行った源二のほうを向く。
「最近、クリスと僕はツバキからあることを頼まれていてね。
それは、ゲンジと召喚者たちを嗅ぎまわる勢力の妨害と攪乱。」
「どこが嗅ぎまわってるのじゃ?」
「それがさっぱりなんだ。おかしいだろ、僕らでも意味わからないなんて。でもそれがヒントだ。僕たちの存在自体を正確に理解して、戦力を順当に評価できる組織はそうといない...」
「二権か...」
「恐らくは」
源二は立ち上がると、間髪入れず再びクリスが間合いを詰める
今度は1回、2回と剣を躱すと蹴りを避ける。その刹那、死角から。虚空から姿を追っていたはずのクリスが切りかかる。
とっさに飛び退くが、鋭い刀身が腕を通過する。
凄まじい激痛に再び顔をゆがめる
衣服は切られ、血が滲むとやがて治まる。
訓練で組み手をしている時とは全く違う迫力とスピード、そして漆黒の剣は確実に源二を殺す為の剣だった。
それに、闇の魔法。明らかに肉体の生み出せる速さを超える。闇の魔法の恩恵でさえも凌駕する虚空からの一撃。
「クリスさんが、闇の魔法使い...」
思考を遮るように源二の体に蹴りを叩き込む
体の異常はすぐに治まるものの、思わず咳をすると覚悟を決める。
それは、以前から教えられていたことだった。
固有武器。一定階以上の魔法を行使しようとしたときに出現する武器。ほかの武器とは違い、凄まじい強度を誇る武器は、魔法を発現させる精神を現実に投影したモノだ。
再び、クリスが接近する。今度は魔法の行使を躊躇うことなく源二も瞬間的に闇の魔法を行使する。
「プロテクト!」
唱えられた魔法は闇を地魔法の如く凝固させ、障壁とする魔法
わざわざ口に唱えるのは、緊迫した状況下でイメージを安定させるためのポピュラーな手法だった。
しかし、その障壁はことごとく破壊されると飛び退こうとするが、着地前に間合いを詰められる。
今度こそ確実に避けられないと感覚的に捉える。
このままでは死んでしまう。そう感じ取った源二は途端に思考を巡らせる。
現状、使える最高の魔法を使用した源二はそれ以上の手段を探るほかなかった。
「守ることができないのなら、我の糧となれ!」
初めてクリスの感情がこもった声が放たれた刹那
鋼鉄が弾ける音が森林に鼓動すると同時にクリスはかすかに笑みを浮かべる。
「消失の第一段階。まずは制御力だ。
完全に制御を失うわけではないんだけど、固有武器を出現させる段階まで魔法の抑えが効かなくなる。
あくまで、暴発ではなく制御力の消失といわれているのは魔法が本人の意図にかかわらず発現してしまうわけではなくて、一説では瞬間的に固有武器が展開できるよう低位の魔法を発現させるときに使われる想像力を消失することで、特定の魔法を使おうとするだけで瞬時に魔法が発現してしまう状態になるといわれている。
これは闇だけではなく、光も同様といわれていてまだ光や闇の魔法使いが多かった時代も現在でも固有武器を発現させられる人間は多くはなかったから、この異常な強さも現実的な脅威にはならなかったんだよね」
「お主は誰に講釈垂れてるのじゃ?」
「あれ?知ってた?」
「何年生きとると思ってるんじゃ」
「いやあ。こうして実際に研究の証明がされていくのが面白くて。」
「にしても可哀そうな奴じゃ。こんな時代に生まれてなければ、奴ももっと...」
「その話はナシだよ。散っていった彼らの為にも、僕らが彼を導かなきゃいけないんだから。」
体勢を崩しながらもクリスの斬撃を正面からはじき返すと、源二の手には一刺しの槍が握られていた。槍先にかけてまるで乱暴に岩から切り出してきたような姿が暗い闇夜にその存在感を表すとクリスは剣を手放し、闇夜へ融解させるとその場を後にする。
源二は自分の手に持っている槍を月の光に照らして姿をよく確認すると刀身は深い黒色で覆われ、槍身は歪な形をしているものの槍先に近づくにつれ一つに纏まっていた。
「かっこいい...」
「ふーん。槍か。」
「そうじゃな。では、我らも戻るぞ」
「ゲンジ、その力は考えて使え。もしもの時は、その力で守ってやれ」
源二は走って三人に追いつくと誇らしげに顔を赤らめる
「はい!」
読んでいただきありがとうございます。
暗転編はかなり覚えることが多いかと思い、登場人物や概論をまとめたものを近くに追加する予定です。




