第1節 3章 暗殺編Ⅳ
暗殺編もすでに最後となりました。評価、コメント嬉しいです。批判も好評も参考にさせていただきます。きゅんです。
同じころ、鏡花達は宿舎で食事をとっていた。
「まさか、お米が食べられる日が来るとは...しかもパサパサな奴じゃなくていつも食べてるやつだよ!しかもカレーなんて!」
鏡花は皿に盛りつけられたカレーを頬張ると、他の生徒たちも満足そうな表情を浮かべる
店主は幸せそうに食事する姿ににこやかな表情を浮かべていた。
「この付近はお米と、一部の香辛料が盛んで残りの材料は取り寄せて作っているんですよ。
これはペル・グランデ朝の郷土料理なんですよ」
鏡花は要領を得ない様子で、西宮に視線を送る。
「ペル・グランデ朝は熱帯地方で、前の世界で香辛料が栽培されてた土地とよく似てる気候なんだよ。
この世界は大きく分けて2つの強国があって、僕たちがいる神聖エイレーネ帝国、亜人種と共存関係にあるいわゆる人種の坩堝といわれるウェインフリート帝国。ウェインフリートには国の中枢に100を優に超えるエルフがいるらしいよ。」
「まじ!?エルフ!?」
「そう。エルフはものすごい長寿なんだよ。あとは、僕たちのきた国とものすごい似ている、こうしてこの世界にお米があってこういう僕らに似た文化があるのは、その昔覇國っていう国が連合小王国の中にあった名残らしい。」
鏡花や佐伯はさすがといった表情を浮かべる
しかし、鏡花は微かな笑みの中にどことなく幼馴染のことを心配していた
この広大な世界のどこに今幼馴染はいるのだろうか、まだきっと彼は生きている。
鏡花は毎日のように魔法の訓練を繰り返していた。
私が頑張れば、みんなを連れて元の世界に戻れる。
闇の魔法使いが世界中から狙われるなら、それに匹敵するのは円環をなしている光の魔法のみ、そして自分にはその力がある。
鏡花は戦う覚悟こそしていなかったものの、自分がみんなを救う使命感を持っていた。
しかし、この気持ちも源二なしでは生み出されないものだった。
恥ずかしくて本人にはいうことができなかったが、鏡花は帰れないと知ったとき深い絶望に叩き落された。
突然消失した現実、前の世界での自分、すべてが音を立てて崩れ去ろうとしたとき、最後に手を差し伸べてくれた存在が源二だったのだ。
幼いころから同じ時を重ね、思いは違えどいつも鏡花と共に歩んできた存在に手を差し伸べられたころにより、源二の存在が前の世界の記憶そのものになり、鏡花に残された唯一の希望のように感じられたのだった。
源二にとっては人助けというより、あの場から逃げ出したかった、自分自身を落ち着かせたかったがために、自分の為に行動を起こしていたにすぎなかったがそんな心を知らない鏡花にとっては自分を沼の底から救い出す手に他ならなかったのだった。
源二は夢を見ていた。
家族の顔、家の中、学校の教室。笑いかけてくれる友達が次から次へと写真のように写っては切り替わると、幼馴染といつも絡んでくれる仲間たちが思い浮かぶ。その中に自分はいない。
もう会うこともできないのか。魔物を殺すだけならともかく変な子ではあったが少女を手にかけた自分に、殺したであろうという結果に心のどこかでそれを顧みない、むしろ気にも留めないような自分さえ存在する。
なにか、少しずつ崩れていくような気が、自分が自分じゃなくなって、自分を覆う闇の魔法に深く落ちていくような感覚を覚える。
果たして、こんな狂った自分を誰が求めてくれるのか、必要としてくれるのか。
そんな夢を、思考を巡らせるとゆっくりと瞼を開いた
「あら、お目覚めになられましたか?ゲンジ様」
源二が目を覚ますと、目前に可愛らしい白髪の少女が覗き込んでいた。
「だ、だ、だ、誰!?」
「あら、殺し、狂いあった仲ではないですか。あなたのメアリーですよ。メ・ア・リ」
源二は密着する身体を跳ね除け、身構えるが、芽亜李は生まれたままの姿をしていた。
その官能的な姿に思考がせき止められるがすぐさま気を取り直す
「なんで、お前がここに」
「あら、私のココロを壊しておいて責任を取ってはくれないのですか?」
「責任って...」
「あら、私は申しましたよ?私が死んだあと、殺した者との間に子を設けられないことが唯一の無念...と。ですが、あなたに無力化されてしまった私は死んだも同然。この身をあなた様に捧げることを誰がお止めになれましょう...」
源二は突然の告白に思考が完全に停止する。
「やあ、やっと起きたようだね。ゲンジ君」
「フォールンさん...」
「やあ、おはよう。随分と長いこと寝ていたから芽亜利君は我慢できなくて君の元まで来ちゃったよ」
「なんでここにこの子が...」
「だって今の彼女は君を殺せない。殺そうとしても、先に僕らが殺すからね。いいかなと思って入れたんだけど、悪かったかな。」
「悪いも何も...」
芽亜李はクスクスと笑うと、源二の胸元に撓垂れ掛かると源二は体を強張らせる
「すまないけど、芽亜利君。すこし席を外してもらえるかな。」
芽亜李はどこからともなく赤いワンピースを纏うと、部屋を後にする
「さてと、ゲンジ君。調子はどうだい?」
「問題ないです。痛みも...なにも。」
「そうか。君は芽亜李君を倒した時、何をしたか覚えているか?」
「よく覚えてません...でも、体中が痛くて、怖かったけど...ペトラを守らなくちゃって...仲間を助けなきゃって思って、殺す覚悟を決めました。」
「そうか...君はね。汎用性のある上級魔法を飛ばして、恐らくは闇属性の最上級魔法、未観測禁忌魔法を発動させたんだ。」
「未観測禁忌魔法...」
「そうだよ。使っちゃいけないから禁忌、そして君が行った固有武器の破壊はこの世界で初めて観測された魔法で、当然それにかかる魔法も凄まじい。君は普通の人間に換算して三回は死んでしまうほどの苦痛を味わい、今に至る。
肉体の消失は防げても、精神の消失は防げない。
自分を見失わないように気を付けてね。」
源二は手がカタカタと震えだすなか、フォールンはその様子をフ光沢のあるレンズから源二の両眼に焦点を合わせていた。
もしかしたらさっき見た夢が、記憶が消失してしまうのではないか、源二に残された唯一の希望が消失してしまうのではないかと思われたのだ。
「俺は...どうなっちゃうんですか...記憶が...みんなのことが消えちゃうんでしょうか」
「いや、それはない。理性や記憶、思考、欲求は非常に力が強い。そんな簡単には消失しないよ。
君が失ったのは暴力機関の最後の砦。あらゆるものを殺す。いかなる残酷な出来事も平気になってしまう。というものだ。
でも、気を付けて。何も考えずに殺せるようになったわけじゃない。さっき言った通り、理性や思考は残っている。君は、万物が自分の前に倒れる姿を正確に認識する。そして思考する。だから、自分を見失わないでくれ。次は、まずいことになるからね。」
フォールンはそう言い放つと席を立つ
源二は伝えられたことに絶句していた。
「大丈夫。結果的に君は誰も殺しちゃいない。篠原君も無事...今夜、ツバキ君が君に謝罪したいとは言っていたからまた、体を清めたほうが良いんじゃないかな。それとも、まずは食事かな。」
フォールンは機嫌がよさそうな振る舞いで部屋を後にする。
源二も起き上がり、用意されていた着替えを着ると玄関の前で芽亜利が待っていた。
酒場へ歩き出すと芽亜利はぴったりと歩調を合わせてついてくる
「ついてくるの?」
「ええ。私にはもう何もありませんもの。ゲンジ様の傍が新しい居場所ですわ。」
「そんな割り切れるもんなの?」
「割り切る?」
「人を殺すこと」
「どういう意味でしょうか?私は、私を倒した強い遺伝子に惹かれている。あなたに興味があるだけですわ。」
源二は白髪の少女の回答に唖然としたが、周りの人間がおかしいのか、自分がおかしくなってしまったのか、意味を理解した。
この少女には殺人というしてはならないことへの罪悪感はない。というより罪という言葉など微塵も感じていない。
これは源二が精神を破壊した結果ではない。芽亜李は生まれながらにして死と共に生きてきたのだろう。その結論に至るまでにさほど時間はかからなかった。それは紛れもなく、源二が殺人という禁忌の選択肢を容易に選ぶことができるという証明でもあった。
「そっか。」
「はい。」
酒場へ着くと、いつも顔を合わせていた親父さんが歓迎してくれた。
「おう!ゲンジ!久しぶりだな。ペトラとエレーナは顔見せたのに、お前だけ見せないから心配したぞ。聞いたところ怪我したらしいな。大丈夫か?」
「親父さん。大丈夫だよ、ありがとう。怪我は大したことなくて、ちょっと疲れて寝込んじゃったんだよ」
「向かうところ敵なしのお前でもおてんば娘二人の御守には適わなかったってか!」
「むしろ迷惑をかけたのは、俺の方ですよ。」
「ところで後ろの姉ちゃんは?新しい女か?」
「えっと...」
源二はうしのに立つ少女の説明をどうしようかと悩んでいる反面親父さんは大きく笑っていた。
殺しあった仲とか、芽亜利の二つ名とか、どんなことを生業としていたのかなど、あまりに物騒で非常識すぎて言えなかった。
「将来の配偶者ですわ。」
「「は?」」
「おまえ、エレーナはともかくペトラに殺されるぞ...」
そう言い放った途端、酒場に新たな来訪者が現れる。
「ゲンジ...」
次の瞬間、源二は飛び込んできた赤髪の少女と共に床へ尻もちをつ来つつも飛び込んできた存在を抱え床に落ちる。
「よかった...」
「あらあら、随分大胆ね。」
「もう!うるさい!心配したんだから。」
「おかえりなさい、源二君。」
「ただいまです。エレーナさん。」
「エレーナでいいわ。」
親父さんは笑みを浮かべると、奥へ引っ込む
「残念ですわ。ゲンジ様は私と子を成すの。あなた方の出る幕はなくってよ」
「うるさい!元はと言えばお前が襲ってきたんだろうが!」
「でも生きているではありませんか。」
「よく言うわ!このクソビッチ!」
「まともに気持ちも伝えられない小娘風情が、何をおっしゃっているのかしら。」
「ねえ、お二人?席に座りましょ。邪魔だから。」
芽亜利もペトラも凌駕する笑みを浮かべたエレーナは、大事な話があるのか二人を二階へと連行する
源二も後に続くと、4人掛けのテーブル席へ腰を下ろす
「さてと、ゲンジ君が目を覚ましたことだし今後のことについてなのだけど...」
エレーナはそれだけ言うと、チョンとペトラを肘で小突く
「よかったら、パーティー。組んでくれないかしら。」
ペトラは顔を真っ赤にして俯く。
芽亜利もその姿に水を差すほどの甲斐性なしではないらしく、呆然とする源二の服を軽く引っ張る
「俺でよければ...」
「ほんと!?」
「はい。」
「よかった」
ペトラは満面の笑みを浮かべると、鮮やかな赤髪がふわっと持ち上がる
「ならば私も同行しなければなりませんわね。」
「ちょっと、なんでアナタまで!」
「私はゲンジ様に御身を捧げましたもの。当然です。それに、私の存在は表ではただの小娘のように見えますが、私に戦いを挑む愚か者などおりませんことよ?」
初めてまともな意見を発した気がするが、一理あると思ったのかペトラは悔しそうに席に座ると芽亜利はにこやかな笑みを向けていた。
源二は俺の意見はとは言わなかった。どうせ今頃そんなことを言っても隣にいる芽亜李は今更聞くような性分でないことを短い付き合いながら察すると、しばらく雑談をし、ペトラとエレーナと別れた。
「じゃあ、娼館街にいこうか...」
「あら、随分大胆なお誘いですわね。」
「いや、だから!」
「からかっただけですわ、わかっておりますわ。行きましょう」
源二と芽亜李はツバキのもとへ向かうと、ツバキは妖艶な笑みを浮かべていた。
「これはこれは、ゲンジ様。またこうしてお会いできるとは、誠に嬉しゅうございます。」
ツバキは突然、真剣な眼差しを向けると手をついて深々と礼をした。その礼はすぐ上がることもなく、1秒、2秒と時が過ぎる。
やがて顔を上げると、芽亜利が口を開く。
「私にゲンジ様のことをお教えくださった方はあなただったのですね。ツバキ」
「ええ。ご無沙汰しております。」
ゲンジは何故、芽亜李が自分のところまでやってきたのかは聞かされていたが、それでもこうして張本人たちを交えると緊張が走る。
「さて、ゲンジ様。此度の芽亜利殿との争いは、すべて私目が起こしたものでございます。」
「なぜ、そんなことをしたんでしょうか。」
源二は少し腹が熱くなるのを収めながら問う
「本来、闇の魔法使いは存在してはならないもの。クリス様や他の闇の魔法使いの生き残りではなく、新たな闇の魔法使いの誕生はこの世界には有り余ることでした。
しかし、クリス様はあなたを殺すのではなくお助けになられた。その意図が私には理解できなかったのでございます。」
「その程度で私を使うとは、いい度胸をしておりますわね。ツバキ」
芽亜李はその相貌を輝かせにらみを利かせる
「現にこうしてまたお会いできたではございませんか。芽亜李、光でも闇の魔法使いでもないにも関わらず、その見た目とは裏腹に多くの闇の魔法使いを処断したハーフヴァンパイアの女。あなたお老けになられたのではなくて?」
「私が負けたのは事実ですし、認めざるを得ませんわ。」
「珍しく、潔いのですね。」
「ええ。年長者は敬うものでしょう?真実を嘘と言い張るのは不敬にあたりますもの。」
ツバキは顔を顰める
源二は頼むからやめてくれと胃がキリキリと痛む錯覚を覚える
「それよりゲンジ様、誠に勝手では御座いますが此度のことはなかったことにしていただけませんか?」
「どういうことでしょうか」
「私のところに泊まっていきませんか?」
「は?」
源二は一瞬何を言われたかわからなかったが、やはりこの世界は、源二達の周りの人間はどこかおかしいと改めて感じさせられた。
人間の命の価値があまりに違いすぎる。その感覚が痺れ始めた源二にとってもこれが以上であることだけは認識できた。
「やはり、それでは納まりませぬか?」
「そんなのは間違ってる。ふさわしくない」
「流石です。ゲンジ様、それではこれは貸し一つということにいたしましょう。今後、必ずゲンジ様のお役に立てるよう努力いたしますわ。」
再び深々と礼をすると、源二と芽亜李はツバキのもとを後にした。
「よろしかったのですか?ツバキはああ見えてもなかなかの女なはずですが。」
「どういう意味ですか?」
「なぜ、あの女を抱かなかったのでしょうか。」
「なぜって、命を狙われて人を殺そうとしたのにこんなことで終わりなんて。」
芽亜李は高笑いをする
「ゲンジ様は本当に面白いお方です。そこら辺の有象無象はまず、私に勝つことなどございませんが、それでもこのような高尚なお考えを持たれているとは。」
「高尚だなんて...」
「私達みたいな戦いに身を投じるしか能のないもの達には、他人の命を尊ぶ心など持ち合わせてはおりませんわ。人を殺めることが穢れであるとすれば私の手は、それこそあなた様に触れることさえ恐れ多いほど汚れきっておりますわ...」
源二は一度命を狙われたとはいえ、可憐な少女に何てこと言わせてしまったんだと反省すると、ふと荷台でのことを思い出す
芽亜利の手を取り、両手を握ると少女は不思議そうな顔を浮かべていた。
「これ、エレーナさんに教わったんだけど、元気がでる魔法って...確かに、一度殺しあったから俺もどうしたらいいのかわからないんですけど。芽亜李さん、可愛いんだからそんな穢れてるなんて言わないでよ。」
二人は暗い夜道を並んで歩き出した。
「やあ、ペトラ君、エレーナ君。約束を守ってくれてるみたいで助かったよ」
暗闇の中、帰路に就く二人の少女の背後からフォールンが声をかける
「当然よ。ゲンジは大事なパーティーメンバーだもの。それに、あなたに言われなくても、パーティーを解散するつもりはないわ。」
「そうか、一応くぎを刺しに来たつもりなんだけどその様子じゃ必要ないね。
まあ彼の存在は君にとっても大きな意味を持ってるもんね。光の魔法使い、アンリ・ペトラ」
「何が言いたいのかしら。」
「そのうちわかるよ。」
フォールンは闇へと溶け込むと二人は歩き始めた
「なんかいかにも裏社会って感じよね。私にもああいうことできるかしら」
エレーナは全くおびえる様子もなくにこやかな笑顔を見せる
「私も噂程度にしか聞いてなかったけど、あの人たちはヤバいわよ。普通に生きててああはなれないわ。」
エレーナは再び笑うと、明日も頑張るぞと背伸びをして帰路へ着いた
暗殺編いかがだったでしょうか。個人的にこの回は新たな仲間が増えたというより、運命に一歩引き寄せられた感じがする回でした。




