第96話 進化と警戒――届かない頂
草原に静けさが戻った。
2体のドラゴンの骸が横たわっていた。規模は手下の中型クラスだが、それでも巨体だった。その横に俺たちは座って、能力の確認を始めた。戦闘後の習慣だ。数字を把握しておかないと、次の判断が狂う。
レベルの伸びが大きかった。
全員が大幅に上がっていた。2体同時撃破の経験値は、1体ずつ倒すより効率がいいのかもしれない。それとも、手下とはいえドラゴンという存在が持つ格の違いか。
善行ポイントの増加も確認した。こちらも想定より多かった。
「ドラゴン討伐は効率がいいな」
サークが頷いた。
「強い相手を倒すほど、成長の返りが大きい。これまでの経験と一致します」
エレーナが手帳に何か書き留めていた。数字を記録する癖があるらしい。前世でも几帳面な人だったのだろうか、と思った。
しかし、確認を続けていくうちに、俺は手を止めた。
加護魔法のレベルが、伸びていない。
正確には、伸びようとしているが、何かに引っかかっている感覚があった。経験値は積まれているのに、数字が動かない。
「……上限か」
声に出したのは確認のためだった。
サークも同様だった。炎魔法のレベルが頭打ちになっていた。ニアも、エレーナも、グレイシャも、程度の差はあるが似たような状態だった。
ランク強化が必要だ。それは分かる。
だが、もう1つ気になることがあった。
善行ポイントの増加量が、以前より明らかに多かった。ドラゴンを倒したからという理由だけでは、少し説明がつかないほどの量だった。
何かが違う。
しかし結論は出なかった。俺は考えを一度保留にした。答えが出ない問いに時間をかけるより、今できることをやる。
ランク強化に取りかかった。
俺は58から65へ。サークが70から79へ。ニアが70から80へ。エレーナが65から75へ。グレイシャが73から81へ。善行ポイントをいっぱいまで使ってレベルの上限を上げる。
数字を並べると、確かな成長だと分かる。半年前の自分たちとは比べ物にならない。それでも、俺の中では「まだ足りない」という感覚が消えなかった。
グレイシャのランクが81になった。
エレーナが静かに言った。
「水魔法のランク上限が81になった。これで81レベルまで成長できる」
「これで9レベル使えるのか?」
サークが訊いた。純粋な確認だった。
「無理よ」
グレイシャがあっさり返した。
「ランクが上がったのは、レベルの上限が上がったってこと。今の私のレベルはまだ68。9レベル魔法が使えるようになるのは、ずっと先の話」
俺は頭の中で整理した。
「……つまり、可能性だけか」
「そういうこと」
グレイシャは淡々としていた。焦りがなかった。強い魔法使いというのは、自分の現在地と目標地点の距離を冷静に見られる者なのかもしれない。
タイムストップ。
グレイシャが水の9レベルに到達すれば使える魔法だ。時間を止めて、立て直す。撤退する。再配置する。それができれば、ウインザー相手の戦術が根本から変わる。
サークのリバイバルも同様だ。炎の9レベル。前衛が死んでも即座に完全に復活する。ニアが、エレーナが、恐れずに攻め続けられる。
どちらも、勝利条件になり得る。
だが現状は、どちらも未完成だ。
俺の内心で、結論が出た。
まだウインザーには届かない。
「ウインザーが来る前に、手下を減らす」
俺は言った。
「削り戦を続ける。分散している今が、1番動きやすい」
全員が頷いた。方針は変わらない。できることをやり続ける。それしかない。
南部都市連合の方向へ移動した。
直前まで手下ドラゴンが活動していたという情報があった。ニアの視認で上空を確認しながら進んだ。
おかしかった。
ドラゴンの姿がない。
都市に近づくと、建物の1部が壊れていた。地面に爪痕があった。ブレスで焼けた跡があった。昨日か一昨日の出来事だろうと判断できた。
住民が1人、瓦礫の前に座っていた。俺が声をかけると、ぽつりと言った。
「急に逃げていったんだ。何がなんだか分からなくて」
「いつのことですか」
「昨日の昼頃。突然、方向を変えて飛んでいった」
「……おかしい」
俺は声に出した。
サークが静かに分析した。
「ドラゴン討伐の情報が、ウインザーへ伝達されたかもしれない。私たちが手下を複数仕留めたことに気づいて、戦術を変えた可能性があります」
「分散したまま各個撃破されるより、集まったほうが安全と判断したか」
「ええ」
エレーナが腕を組んだ。
「それか、単純に次の標的に移っただけかもしれないけどね。でも、タイミングが良すぎる」
どちらにしても、状況が変わった。
「分散が終わったかもしれないな」
サークが静かに言った。
「次はまとまって来る可能性がある」
エレーナが続けた。
「面倒なことになったわね」
グレイシャが空を見た。
ニアが俺の隣で、少し低い声を出した。
「わいら、見られとるで」
俺は周囲を見渡した。何も見えない。だがニアの危険感知が反応しているのなら、信頼すべきだ。
「誰かいるのか」
「はっきりはせん。でも、さっきからずっと、何かが近い」
その夜、俺は火を囲みながら考えた。
目潰し戦術は通用していた。2体同時でも倒せた。それは間違いない。
だが、それはドラゴンたちが俺たちの戦い方を知らない間の話だった。
対策される。
向こうが考えて動き始めれば、今の戦術がそのまま使えるとは限らない。翼を休めているところを奇襲できるのは、油断があるからだ。複数で固まって来られれば、ターゲッティングを1点に集中できなくなる。ウインザーが直接現れれば、全てが崩れる。
戦術は完成した。だが、それは第1段階の話だった。
次は、対策された後の戦いになる。
俺は夜空を見上げた。星が出ていた。どこまでも静かな夜だった。その静けさが、妙に落ち着かなかった。
メモ
タカオ:回復・支援の中核
【加護魔法】 ランク65 レベル58
【ポケット】 59+1
【習得魔法】
レベル1:ヒーリング.ブレス.エイド.ディテクトマジック
レベル2:ヒーリングプラス.ストレングス.ウィーク.センスエネミー.マジカルガード
レベル3:リジェネレーション.キュアディジーズ.ディスペルマジック.キャンセレーション.ヘイスト.エレメンタルガード.ウォーターブリーズ
レベル4:キュアポイズン.フィッシュムーブ.センスライ.クリエイトスクロール
レベル5:レイズデッド.トリートメント.リムーブカース.リセット
レベル6:リフレッシュ.グレーターディスペルマジック.アナライズマジック
レベル7:レスキュー・リグロースパーツ・エンチャントウェポン・エンチャントアーマー・クリアランス
【スクロール】
レベル1 エイド×1
レベル2 センスエネミー×1
レベル3 キュアディジーズ×1
レベル4 キュアポイズン×1 センスライ×1
レベル5 リセット×5 レイズデッド×1 リムーブカース×1
レベル6 アナライズマジック×1
【知識系】
各種知識 ランク16
魔物知識 レベル7
植物知識 レベル8
地域知識 レベル12
【水泳】 レベル4
サーク:後衛火力・対ボス対応
【属性魔法(炎)】 ランク79 レベル70
【属性魔法(地)】 ランク25 レベル11
【属性魔法(光)】 ランク30 レベル21
【ポケット】 50+1
【習得魔法】
レベル1:スリープ.ファイアボルト.サンダー.ライト.ディテクトマジック.バークスキン
レベル2:サモンエレメンタルⅠ.ホーリーライト.ホーリーウェポン.フレイムボディー.ストーンサーバント
レベル3:サモンエレメンタルⅡ.ライトニング.マジックファング.シャインフラッシュ.ホーリースフィア.ファイアーボール.ミラージュフレイム.シャインヒール.アースシーイング
レベル4:サモンエレメンタルⅢ.セーブライフ.バーニングストライク.スタンスローター
レベル5:サモンエレメンタルⅣ.ファイアイミュニティー.サプレスエレメンタル.フレアボム.コータリゼイション
レベル6:サモンエレメンタルⅤ.バーンアウト.フェニックスライフ
レベル7:サモンエレメンタルⅥ・フレイムジャベリン・スペルエンハンス
レベル8:サモンエレメンタルⅦ・ターゲッティング
【近接戦闘】 ランク9 レベル7
【鋭敏感覚】 レベル14
【気配感知】 レベル10
【水泳】 レベル4
ニア:遊撃・索敵
【属性魔法(風)】 ランク25 レベル25
【属性魔法(光)】 ランク63 レベル14
【ポケット】 20
【習得魔法】
レベル1:サンダー.ウィンドショット.スリープ.ライト.ディテクトマジック
レベル2:サモンエレメンタルⅠ.スピード.インパルス.ウィンドトーク
レベル3:サモンエレメンタルⅡ.スカイウィング.ガストウィンド.シャインフラッシュ.シャインヒール.マジックファング
レベル4:サモンエレメンタルⅢ.トルネード.ミサイルプロテクション
レベル5:サモンエレメンタルⅣ
【近接戦闘】 ランク70 レベル55
【電撃ブレス】 レベル12
【危険感知】 レベル16
【気配感知】 レベル16
【視認】 レベル18
【水泳】 レベル1
エレーナ 近接ランク75 レベル65
グレイシャ 水ランク81 レベル68 闇レベル40




