第92話 撃破――そして来る本命
まだ間に合う。
空を見上げた瞬間、俺は判断した。エレーナとグレイシャが戦っているドラゴンは8メートル級だ。昨日の戦いで手応えを掴んでいる相手の規模だった。
「ニアに全強化をかける。突っ込め」
「まかせといてな!」
「サーク、傷口にスペルエンハンスのジャベリンを叩き込んでくれ。俺は回復とディスペルに回る」
「了解しました」
言葉にしたのは数秒だった。でも全員が動き出していた。
ニアが空中に突入した。
エレーナがそれを見て、一瞬だけ動きを変えた。連携する気だ。槍を構え直して、ドラゴンの左側に回り込む。ニアが右から入る。
ニアの拳がドラゴンの側面を叩いた。
「……重いわね、その一撃!」
エレーナが感嘆とも驚きとも取れる声で言った。
「図体の差や!」
ニアが返した。
ニアは敵ドラゴンよりも一回り小さい。だが、フルバフの状態では、打撃の重さが規格外だ。体格差が逆に火力に変換されている。
エレーナはすでにこのドラゴンと戦っていた。槍の穂先で何度か傷を入れている。消耗している様子もあるが、動きに淀みがない。
ニアがその傷口を狙って攻撃を重ねた。鱗の硬い部分を避けて、すでに開いた傷を広げていく。
「……そこだ」
サークが静かに言った。
傷口が十分に広がったのを確認して、スペルエンハンスを発動させた。
「フレイムジャベリン!」
炎の槍が傷口に直撃した。
「ギャアアア!!」
ドラゴンが叫んだ。
外から刺さった槍が、中で爆発した。内部から焼ける。鱗で守られた外側からではなく、傷口を通じて内側を破壊する。
「中から焼く」
サークが静かに言った。それがドラゴン対策の本質だった。
ドラゴンが距離を取った。
撤退を選んだ。
「追うわよ!」
エレーナが叫んだ。
「もう魔法がほとんどない!」
グレイシャが返した。
「前の傷が残ってる。あいつはもう完全には回復できない。削り切るチャンスよ」
「なら、もう一発行く」
サークが言った。
「次に近づいた瞬間に撃つ」
グレイシャが少し間を置いた。
「……その魔法、7レベルよね」
評価を確認しているような目だった。
「そうだ」
「……ふうん」
「逃がさんで!」
ニアが加速した。ヘイストの効果でドラゴンより速い。距離が縮まる。
エレーナが斜め上から回り込んだ。槍を構えて、タイミングを合わせている。
ニアが再び傷口を狙った。爪で深く抉る。エレーナの槍が同じ瞬間に別の角度から入った。
「――今だ」
サークが言った。
スペルエンハンスを重ねた状態でフレイムジャベリンを放った。
別の深い傷口に命中した。
内部爆発と外部からの打撃が同時に起きた。
ドラゴンがバランスを崩した。翼が制御を失って、体が傾く。そのまま意識が落ちた。
落下した。
地面に激突する音が、遠くまで響いた。
静寂が来た。
「……やった」
エレーナが息を整えながら言った。槍を下ろして、落下地点を見る。
「ようやく、あいつを倒せた」
因縁のある相手だったらしい。声に、解放感のようなものがあった。
グレイシャがサークを見た。
「……思ってたよりやるじゃない」
さっきまでと、少し目が違った。
「この町を襲っていたのは同じ個体か?」
サークが確認した。
「そうよ。しばらく前から繰り返し来ていたわ。おそらく担当制ね。各ドラゴンが担当の地域を繰り返し攻撃している」
「……そういうことか」
俺は声に出した。
「どうしたんや?」
ニアが俺を見た。
「ハイルセンはウィンディーの担当だった。でも俺たちがウィンディーを倒した。担当がいなくなった」
俺は続けた。
「だからウインザーが直接ハイルセンを潰しに来た。その後、また別の担当に戻った。敵は今、各地域に担当ドラゴンを置いて、ウインザーが抑えになっている」
「……それって」
エレーナが静かに言った。
「次は――」
グレイシャが続けた。
「ウインザーがラフルに来る」
誰も否定しなかった。
ラフルの担当ドラゴンを倒した。次はウインザーが直接来る。同じ流れだ。
「今の戦力では勝てない」
サークが言った。
「分かってるわよ」
グレイシャが即座に返した。でも否定はしなかった。できなかった。
沈黙が来た。
逃げるか。
戦うか。
時間を稼ぐか。
俺は地面を見ていた。答えは、まだなかった。
倒したはずの勝利の先に、逃げられない本命が迫っていた――。




