↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
86/107

第86話 初撃破――眷属竜ウィンディー

 西の空域に出た瞬間、ウィンディーが動いた。

 先手だった。速い。体長12メートルの巨体とは思えない加速で、真っ直ぐに突っ込んでくる。

 ニアが正面から受けた。爪と爪がぶつかって、互いに弾かれた。相打ちの形だが、どちらもダメージは薄い。

 その一瞬の隙に、バルドが横から斬り込んだ。

「当たれ!」

 剣がウィンディーの翼の付け根に入った。

 ウィンディーが少し体を揺らした。

「ふーん、少しはやるのね」

 余裕のある声だった。でも確かに傷が入った。


 ウィンディーが旋回して、再び突入してきた。

 ニアがホバリングしながら迎え撃つ。今度はニアが回避に成功して、ウィンディーが被弾した。バフの差が出ていた。ヘイストとミラージュフレイムの効果で、ニアの動きがウィンディーの予測より速い。

 ウィンディーがターゲットをバルドに変えた。バルドを狙って爪を振るう。バルドが横に跳んで回避した。逆にウィンディーの側面をバルドが叩く。

 今は押している。

 でも、と俺は思った。

 ウィンディーはまだ本気ではない。様子見の段階だ。それでもこちらの攻撃が刺さっているのは、バフの差があるからだ。その差がなくなれば、話は変わる。


 ウィンディーが距離を取った。

 翼を広げて、深く息を吸う仕草をした。

「じゃあこれはどう?」

 風が来た。

 ブレスではない。空間ごと叩き潰すような突風が、一瞬にして全員を包んだ。

 エレメンタルガードが発動した。でも、それでもダメージが通った。サークが体を揺らし、ニアが空中でバランスを崩した。俺も吹き飛ばされそうになって、必死に姿勢を立て直した。

 エレメンタルガードがなければ、今の一撃で何人かは落ちていた。

「トリートメント!」

 俺はサークの背中に手を当てながら叫んだ。搭乗している状態で、ニアにも回復を回す。

 その間にバルドが再接近した。

 ウィンディーがブレスの余韻でわずかに体勢を崩している。その一瞬を突いて、バルドの剣が深く入った。翼の付け根の傷が、さらに広がった。


「これでは終わらない」

 俺は状況を見ながら声に出した。

「バルドの攻撃で傷ができている。鱗は硬いが、傷口は違う。そこを集中攻撃する」

「1点集中ですね」

 サークが即座に動いた。

「ファイアーボール!」

 炎が傷口を狙って飛んだ。直撃ではなかったが、傷を巻き込むように着弾した。ウィンディーが短く声を漏らした。

 バルドが同じ傷口を追撃した。剣が鱗の隙間に入って、さらに深く抉る。

「ッ……」

 ウィンディーが明確に距離を取った。

 ダメージが通っている。傷口を起点にすれば、鱗の防御を迂回できる。


 距離を取ったウィンディーが、魔法を展開し始めた。

 スカイウイング。飛行を安定させる魔法だ。さらに別のバフが積み重なっていく。

 今のうちだ。

「グレーターディスペルマジック!」

 バフが一瞬で消えた。

 ウィンディーが動きを止めた。強化魔法が全て剥がれた状態で、こちらを見ている。

「強化はさせない」

 俺は言った。

「バフを積ませる前に消す。それを続ける」


 バルドがニアと目を合わせた。言葉はなかった。でも2人の動きが、同時に始まった。

 バルドが右に回り込んだ。ニアが左に回り込んだ。

 ウィンディーが両方を追えない位置関係になった瞬間、2人が同時に動いた。

 バルドの剣がウィンディーの右目を狙った。ニアの爪が左目を狙った。

「目が――!」

 両目への同時攻撃。完全な視界喪失だ。

 ウィンディーがバランスを崩した。巨体が傾いて、制御を失っていく。そのまま落下した。

 地面に落ちる音が、遠くまで響いた。


 俺たちも降りた。

 ウィンディーは地上でまだ動いていた。両目が使えないまま、風魔法を乱発して周囲を荒らしている。草が吹き飛び、土が舞い上がる。視界がなくても、力は残っている。

「まだやるんか?」

 ニアが正面に立って言った。

「私は……止まらない……!」

 ウィンディーの声は、さっきとは違った。余裕がない。でも止まらない。眷属になったことで、撤退という選択肢が消えているのかもしれない。

「今だ、抑えろ!」

 ニアが突っ込んだ。

 巨体に組み付いて、両腕で押さえ込む。ウィンディーが暴れるが、ニアは離さない。怪力で地面に押しつける。

「これで――終わりだ!」

 バルドが傷口へ渾身の一撃を入れた。剣が深く沈む。

「……焼き切る」

 サークが静かに言った。

 炎が傷口に叩き込まれた。内部に炎が入った。

「……あ……」

 ウィンディーの力が抜けた。

 暴れていた風が、急に止んだ。

 巨体が、ゆっくりと崩れ落ちた。


 静かになった。

 ウィンディーの息がまだある。かすかに、胸が動いている。

「……強く……なったのね……」

 かすれた声だった。

 ニアが、そのそばで静かに立っていた。

「……そっちが先や」

 それだけ言った。

 ウィンディーの目が、閉じた。


 誰も動かなかった。

 風が少し吹いて、草が揺れた。

 俺は眼前の巨体を見ていた。

 ……これが、ドラゴンか。

 削り落とした。全力で、全員で、ようやく1体を。

 ウインザーは、これより遥かに大きい。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。