第78話 迎撃戦――ユリコ強襲(後編)
「サーク、バルドを頼む」
「了解しました」
コータリゼイションがバルドに届いた。麻痺が解けて、バルドが動き出す。
「ユリコへ行くぞ」
バルドが再び突進した。しかし今度は吟遊詩人が呼び出した風の精霊が壁として立ちはだかった。バルドが一撃で精霊を叩き潰す。それでも足止めは成功した。
その間に、ニアと戦士の決着がついた。
戦士がニアの連打を受けきれず、体勢を崩した。ニアが最後の一撃を入れると、戦士が空中から落下していった。敵の前衛が消えた。
しかし、ユリコはすでに動いていた。
「パワーワードスタン」
バルドが再び止まった。
俺は歯を食いしばった。3回目だ。バルドが前に出るたびに、ユリコがスタンで潰す。この繰り返しを止める方法を見つけないと、前衛が永遠に機能しない。
「ゾマ」
「わかってる」
ゾマが後衛の2人を見た。加護術士と魔力術士。放置すれば回復と支援を続けて、じわじわと削られる。
「クライングミスト」
霧が後衛の2人を包んだ。魔法支援が遮断され、動きが鈍くなる。2人がすぐに霧から離脱しようとするが、行動が明らかに遅れた。実質的に1ターン、無力化できた。
その間、吟遊詩人が風の精霊を再召喚した。ユリコの防御ラインが再び構成される。
「クラウドがこっちに来てるわ」
リアンの声が聞こえた瞬間、俺の横に強い衝撃が走った。
クラウドだ。地中からではなく、正面から突っ込んできた。俺の体に直接、拳が入った。
体が揺れた。視界がぶれる。
「リフレッシュ」
俺は自分に手を当てて唱えた。消耗が1気に戻る。立て直した。でも、時間を稼ぐのが精1杯だ。
「スタンスローター」
リアンが吟遊詩人へ向けて放った。吟遊詩人が崩れ落ちた。精霊への効果はない。でも吟遊詩人本人を止めることに成功した。
4ターン目を終えて、俺は状況を整理した。
バルドが再び麻痺。クラウドが前線に侵入して俺を直接狙っている。後衛は一時的に止めたが、精霊はまだ残っている。吟遊詩人が止まった。
均衡が崩れ始めていた。
「サーク、またバルドを」
「はい」
コータリゼイションが走った。バルドが3度立ち上がる。
「今度こそ行くぞ」
バルドがユリコへ突進した。吟遊詩人が麻痺しているため、精霊の補充がない。残っていた風の精霊にバルドが突っ込んで、一撃で叩き落とした。
ユリコが露出した。
ようやく、直接届く距離に入った。
その瞬間、ユリコが口を開いた。
「ドミネイション」
バルドの動きが止まった。
いや、止まったのではない。ゆっくりと、向きが変わった。
バルドがこちらを向いた。目の色が変わっている。
「バルド、ニアを倒しなさい」
ユリコの声は静かだった。命令というより、確認するような口調だった。
バルドがニアへ向かって動き出した。
「まずい」
ゾマが俺の前に出た。
「任せて」
「ゾマ、強化する」
「ストレングス」
俺はゾマに強化魔法をかけた。ゾマが腕を広げて前に立つ。壁役だ。体格ではゾマがかなり劣るが、それしかない。
クラウドがゾマに集中した。拳と蹴りが連続で入る。ゾマが大きく体を揺らしながらも、動かない。
「リアン、後衛を狙え」
「わかったわ」
リアンがファイアーボールを放った。霧から抜け出してきた魔力術士を直撃した。魔力術士が体勢を崩して、そのまま落下した。
加護術士がトリートメントで自己回復した。しかしその分、他への支援が止まった。
バルドがニアへ向かっている。ゾマが瀕死に近い状態でクラウドを受け続けている。ユリコは無傷。加護術士がまだ生きている。
味方崩壊まで、あと一手だ。
「サーク」
「わかっています」
サークが動いた。
ユリコへ向かって、地を蹴って飛んだ。魔法ではない。近接だ。
サークの牙がユリコの腕に食い込んだ。
ユリコが口を開こうとした。しかし、腕を強く噛まれたまま動かせない。詠唱が乱れた。次の呪文が出てこない。
「今だ、キャンセレーション」
俺はバルドへ向けて解除魔法を飛ばした。
バルドが止まった。
数秒の沈黙の後、バルドが顔を上げた。目の色が戻っている。
「……今のは何だ?」
「説明は後だ。クラウドを頼む」
「ああ」
バルドがクラウドへ向かった。ゾマが後退して、リアンの後ろに下がる。
「ニア、ユリコを頼む」
「もちろんや」
ニアがユリコへ向かって突進した。しかしニアの拳がユリコに触れた瞬間、弾かれた。
「ストーンスキンよ」
ユリコが言った。サークを振り払おうとするが、サークは離さない。ユリコが近接に対応できていない。詠唱もできない。
加護術士がサークへ向かってきた。サークを引き剥がそうとする。でも加護術士とサークでは実力差がある。排除には時間がかかった。
その時間で、クラウドがリアンへ向かった。ゾマが追いかけるが、速度で負けている。クラウドがリアンに強引に突っ込んだ。リアンが吹き飛んだ。
「リアン!」
「まだ動けるわ」
リアンの声は細かったが、確かだった。
加護術士がようやくサークを引き剥がした。しかしその時点でユリコのストーンスキンが切れていた。
「ニア、今だ」
「わかっとるで」
ニアが連続で攻撃した。拳、爪、肘。止まらずに叩き込んだ。ユリコが防御しようとするが、間に合わない。
最後の一撃が入った。
ユリコが落下した。
それで終わりだった。
加護術士がニアへ向かってきた。しかし全員が合流した状態では、数の差が覆らない。すぐに沈黙した。
クラウドはバルドと交戦していたが、周囲が全て片付いた後では選択肢がなかった。最終的に捕縛した。
戦闘が終わった。
俺は周囲を見回した。
ユリコ、死亡。魔力術士、死亡。戦士、死亡。加護術士、死亡。吟遊詩人、死亡。
空中戦だった。地に足のついていない戦いで敗れた者は、全員落ちた。
生存者はクラウドだけだ。
サークが静かに俺の隣に並んだ。
「タカオ様、ご無事ですか」
「何とかな」
俺はゾマを見た。ゾマはリアンの横に座って、ぼんやりと夜空を見上げていた。体のあちこちに傷がある。
「ゾマ、よく耐えた」
「……耐えるしかなかったんだけど」
そう言ってから、ゾマは小さく息を吐いた。
「終わったね」
「終わった」
俺は縛り上げられたクラウドを見た。
聞かなければならないことが、まだある。




